第078話 まだ高校生だもん……仕方がないよ


 前回のあらすじ。


 ヨハンナは悪くてエロいキツネ。

 以上!


「ところで、ヨモギは何をしているの?」


 というか、なんでいるの?

 私が呼んだのは村上ちゃんとヨハンナだけだ。

 いや、別にいつでも好きに来ていいんだけども。


「あ、私は今、村上さんのお手伝いをしているんです」

「自警団に入ったの?」

「そういうわけではないんですが、他にやることもなくて…………」


 まだ、高校生だし、別に無理に仕事をしなくてもいいのに。


「ひー様、これも報告なんですが、篠田さん達が鈴木と共にここを離れました」


 あー……例の冒険者となった生徒達を勧誘する旅かー。

 結局、護衛役を鈴木にしたんだな。


「5人旅?」

「ですね。篠田さん達をマイルの町まで送り、その後は篠田さん達主導で生徒達を勧誘していくそうです」

「難しいとは思うけど、頑張ってもらいましょう。あとで連絡を取ってみるわ」

「そうしてください。そういうわけでヨモギちゃんは1人なんですよ」


 ヨモギちゃんも一緒に行くという案もあるが、ヨモギちゃんは生徒会長の件があるので、外に出すわけにはいかない。


「そら、確かに暇だわ。ヨモギ、自警団で良い? 今、西の方でハーフリングが街づくりをしているからその手伝いでもいいけど……」

「あのー、ハーフリングって、本当に子供みたいな見た目なんです?」


 ヨモギが目を輝かせながら聞いてくる。


「子供、子供。みーんな、小学生ね。神様や王様まで小学生。だからめっちゃ背伸びしたおままごとに見える」

「へー。小学校みたいですね」

「まさしく遠足よ、あれは」


 たまに手を繋いでいる夫婦らしき子もいるが、仲が良いんだねって微笑ましく見える。

 夜は知らんけど。


「そっちに行こうかな……」

「ヨモギは子供が好きなんです?」

「まあ、嫌いではないですけどね。私って小さいじゃないですか? ハーフリングと一緒ならチビと思われないかなって」


 クソどうでもいいな。


「背が低くてもかわいいと思うけど……」

「うーん、でも、背の高い女性に憧れます。姉が170センチあることも影響してるのかな?」


 ヨモギは150センチくらいだろう。


「コンプレックス的な?」

「ですかねー? 姉妹でこんなに違うのが嫌だったのかも?」


 本人もよくわかってなさそうだな。

 コンプレックスというより、単純な憧れかもしれない。


「東雲姉妹みたいなのがいいの?」


 あいつらは175センチある巨大姉妹だ。


「あー、そうですね。前から思っていましたけど、東雲姉妹ってかっこいいですよね!」


 …………全然、同意できない。

 まあ、細身だし、スラッとしているからモデルに見えなくもないが、致命的に態度と口と性格と頭が悪い。


「ナツカとフユミにファンがいるとは…………」

「1年生は多いんじゃないですかね?」


 まぢ?


「意外だわー。じゃあ、ハーフリング達の手伝いをする? 東雲姉妹もそっちにいるし」


 あいつらは手伝うどころか邪魔しかしていないだろうけどね。


「そうします。西ってどっちですかね?」


 西……

 そういえば、わかんない。


「私が連れていきましょう。大体わかると思います」


 村上ちゃんが連れていってくれるらしい。

 この森にいるのも長いし、地理とかもわかるのだろう。


「おねがい。ヨハンナも仕事に戻っていいわよ。くれぐれも節度とルールと倫理と常識を守ってね」

「わかってますよー。信用ないなー」


 その上目遣いが信用できないんだよね。

 男を騙す気にしか見えないもん。


 村上ちゃんとヨハンナ、ヨモギちゃんは席を立つと、それぞれの仕事をしにキャンピングカーから出ていった。


「どうやら獣人族もエルフも落ち着いてきたようですし、上手くいっているようですね」


 村上ちゃん達が出ていくと、リースが安心したかのように頷く。


「そうね。余裕もあるみたいだし、ここはあいつらに任せておけば問題ないでしょ。ハーフリング達もエルナがついているから大丈夫。問題は新しくできた人族の村ね」


 飢饉による飢餓が主な理由だろうが、様々な思惑で各地から南部に来たはずだ。

 同じ人族同士とはいえ、住んでいた所も違うだろうから揉める可能性が高い。

 それに避難民に紛れて女神教のスパイも潜入しているだろう。


 さて、どうするか……


「夕方になれば、勝崎が帰ってくるでしょうし、報告を待ちましょう」

「現状はそれしかないわね。じゃあ、夕方まで待機。あんた達は好きにしていいわよ」


 私はミサとリースに自由時間を与えることにした。


「といってもやることないですんで本でも読んでます」

「私もそうします。ミサ、終わったらそっちを貸して」

「はいはい」


 あんたら、仲いいじゃん。

 いつもそうしていればいいのに。


「じゃあ、静かに読書しててね」


 絶対にケンカするなよー?


「ひー様はどうするんです?」


 ミサが聞いてくる。


「篠田さんに連絡を取ってみるわ。進捗状況の確認と慰め」

「進捗状況はわかりますが、慰めですか?」

「勧誘なんてうまくいくわけないじゃん。誰が素直に幸福教に入信するのよ。向こうからしたらケンカを売っているようなもんよ?」


 誰のせいで異世界に転移し、苦労してると思ってんだ。

 テロリストの味方になるなんて裏切り者だろ。

 カルト教団は嫌だ。


 理由はいっぱいあるが、喜んで降るヤツなんていない。

 進んで降ってくるのは保身に走ったか、騙そうとしているヤツだろう。

 下手すると、篠田さん達を攻撃するかもしれない。


「そこまでわかっていて、行かせたんですか?」

「あの子達の心の中には罪悪感がある。他の苦労している皆を裏切り、テロリストに降って贅沢な暮らしをしているっていう罪悪感。あの子達のためにもそんなもんは早めに消すべきなのよ。篠田さん達の説得が上手くいけばそれでいい。ダメでもベストは尽くしたし、あとは個人の判断って割り切れるでしょ」


 私にとって重要なのは信者を幸福に導くこと。

 もはや、篠田さんも藤原さんも山村さんも川崎さんも私の大事な子である。

 罪悪感や後悔を持っていると、幸福になることに対し、二の足を踏むことになる。


「なるほどー。確かにあの4人は気にしてそうですね」


 同じクラスだったからわかるが、あの4人は大人しいし、あまり自分を出すタイプではない。

 そういう性格の子は色々と溜めてしまう傾向にあるから注意が必要なのだ。


「月城さんやヨモギちゃんは大丈夫なんだけどね。あの2人はもう私しか見えていない」


 月城さんとは脳内会話だけで顔を合わせてないけど。


「ヨモギちゃんはわかります。獣人族じゃないですけど、振っている尻尾が見えますし……でも、月城さんもです? ちょっと想像がつかないんですけど……」


 月城さんは明るくて気の強い生徒だったからなー。

 クラスの中心の1人であり、物事をはっきり言うタイプの女子だ。

 一言で言えば、陽キャ。

 そういう意味では篠田さん達は陰キャ。


「月城さんは心が折れちゃったみたいね。多分、足を舐めろって言ったら舐めると思う」

「…………やめてくださいね。そんな光景は見たくないです」

「そんな命令しないし、させないわよ。私だって嫌だわ」


 私にそんな趣味はない。


「しかし、あの月城さんがねー…………ちょっと会ってみたくなりました」

「ほとんど変わってないように見えると思うわよ。実際、氷室に対しては辛辣だしね」

「まあ、氷室は……皆、そうでしょ」


 ……あいつ、ホント、女子から嫌われているわ。

 氷室! 私がついているからね!


「月城さんは私という後ろ盾がいないともうダメね。心が保てないでしょう。まあ、将来的に彼氏とか旦那ができたらまた違うんでしょうけど」


 結城君のことがあるから異性関係はちょっと時間がかかるかもしれない。

 でも、月城さんならそのうちできると思う。

 そういう人に支えてもらうのがベストだろう。


「へー……まあ、そういう人を救うのが宗教ですし、良いんじゃないです?」


 人の弱みに付け込むとも言う。


「月城さんは平穏に生活してもらうところからね」


 他人を殺せとか傷つけろという命令はしないで、気楽に生きてもらおう。


「それでいいと思います」

「じゃあ、ちょっと篠田さん達に連絡を取ってみるかな」


 元気にしてるかなー?

 よーし、落ち込んでるかもしれないから明るく声をかけてあげよう!

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