第077話 イメージで人を語るのは良くないが、こいつはそのまんま
なぞなぞ勝負はミサが勝った。
第1問を両者ともに答えられなかったで、第2問の『パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?』にミサが正解したからだ。
正直、この問題はフェアではなかった。
日本人なら誰でも答えを『フライパン』と知っていると思うが、異世界人のリースは知らなかったのだ。
正解したミサもこんな問題ではあまり嬉しくなさそうだったが、『床に落ちたパン』と答えたリースはごねた。
しまいにはフライパンも食べようと思ったら食べられるとか言い出した。
小学生ですわ。
「飲むと怒られる飲み物は?」
「お酒」
「そら、あんたのことでしょ。コーラよ、コーラ」
「コーラ? なんでです? 美味しいじゃないですか? あ、太るからか!」
「怒る時にこらーって言うでしょ。あんたもさっき、おいコラって言ってた」
「あー…………ぐっ! 次です!」
リースって、頭の良い子なんだけど、柔軟性がないな。
魔法ばっかり勉強してたからだろうね。
「次って言ってもなー。もうかなり出したし」
私達はリースが運転する車でエルフの森の帰還した後、いつものキャンピングカーで休んでいたのだが、リースはまだなぞなぞに納得できないようで、他の問題も出せとせがんできたのだ。
「あと1問だけでいいですから」
そういうことを言うヤツは絶対に1問では終わらないと思う。
「ミサー、他に定番のやつで何かあったっけ?」
「どうですかねー? えーっと…………」
ミサが思い出すように考え込む。
「あ、ミサはいいです。ムカつくんで」
「なんでよ?」
眼鏡越しに見えるミサの目が座った。
「絶対にバカにしてきますもん。お前にバカにされるとものすごい腹が立つ」
この言葉からリースが普段からミサをバカにしているのがよくわかるな。
「私も今、ものすごい腹立ったわ!」
ミサもリースの言葉の意味を理解したようで怒りだした。
「もうやめてよー。本当は抱き合って寝るくらいに仲が良いくせにー」
「……………………」
「……………………」
ミサとリースは閉口し、目をそっと逸らした。
よし!
静かになったぞ!
「そのまま静かにしてなさい。これから村上ちゃんとヨハンナが来るんだから」
「あー、例のスカウトの件です?」
ミサが聞いてくる。
「それよ、それ。あいつ、自分の所の種族だけじゃなくて、エルフまで従業員に加えようとしているわけでしょ。完全に怪しいじゃん」
「まあ、確かに怪しいですね」
「だから事情聴取ね。あんたらは本でも読んでなさい」
私がそう言うと、ミサとリースがそれぞれ本を読みだしたので、私はゲームをしながら村上ちゃんとヨハンナを待つことにした。
「やっぱりすぐ死ぬなー……私って、ゲームが下手だな……ん?」
私が一面もクリアできずにいると、ノックの音が車内に響く。
「ひーさまー? 村上です!」
「ヨハンナもいまーす」
「え? あ、ヨモギもいます……」
あれ?
ヨモギちゃんもいる。
「どうぞー」
私が許可を出すと、村上ちゃんとヨハンナとヨモギちゃんが入ってきた。
「失礼します!」
「こんにちはー」
「お邪魔します」
3人がそれぞれ挨拶をしてきた。
「よく来たわね。まあ、そこに座りなさい」
私が3人に対面に座るように指示を出すと、テーブルにお茶を出す。
3人は私達の対面に座ると、お茶を飲み、一息した。
「ひー様、此度のハーフリング救出作戦の成功、おめでとうございます」
村上ちゃんがお茶をテーブルに置き、今回の作戦成功を祝いながら頭を下げる。
「ありがと。氷室の作戦は上手くいったようだけど、町の領主が独断で攻めてきたんだよね。内心、ちょっと焦ったわー」
「さすがにひー様達だけで軍を相手にするのはキツいですしね」
「そうそう。それで海に逃げて、さっき転移で帰ってきた。ハーフリング達は森の西の方の浅い所に住むらしいから気をかけてあげて」
村上ちゃんに言っておけば大丈夫だろう。
「了解しました。自警団の方も順調ですし、巡回コースに入れましょう」
「順調なんだ……人は集まった?」
「まあ、基地建設も落ち着きましたので空いている人はそこそこいますからね。種族に偏りが出ないようにしています」
その辺はデリケートで難しいだろうが、村上ちゃんなら大丈夫か。
「そう。じゃあ、任せるわ…………で? その風紀を乱すエロギツネは何をしてんの?」
私は村上ちゃんに向かって笑顔で頷いたあと、笑みを消し、美味しそうに抹茶ラテを飲んでいるエロギツネを見た。
「私は何もしてませんよー。お店の2号店を出すから従業員を集めていただけです」
ヨハンナは私の目をまっすぐ見て、無罪を訴える。
「エックハルトから聞いたけど、エルフの村に行って、女子を勧誘してたんだって?」
「別によくないですか? 獣人族にこだわらず、仕事の場を与えようと思っただけです。暇そうでしたし、こういうのは種族にとらわれず、皆で協力するものなのです」
一見、良いことを言っているようにも見えるが、中身はキャバクラでしょ。
「村上ちゃん、こいつ、変な店にしてないでしょうね?」
娼館はやめーや。
「そこまではしていませんね。キャバクラです」
やっぱキャバクラか……
「2号店はガールズバーですよ!」
どっちも一緒だろ……
「何が違うのよ……」
「隣に座ってお話しするか、カウンター越しに話すかです! 村上さんがこれならいいよって」
いや、どっちも一緒に聞こえるのは私だけ?
「村上ちゃん、何が違うの? 結局は女の子と一緒にお酒を飲むんでしょ?」
「細かいことを言えば、かなり違います。とはいえ、一緒に見えますよね。規模が大きくなると、エスカレートしそうなんで、ヨハンナさんが直接運営するお店はキャバクラシステムを許しましたが、その他はガールズバーです」
管理の問題か……
店が増えていくと、ヨハンナの手が行き届かなくなり、各店の店長が暴走したりする。
「まあ、私はその辺をよく知らないから村上ちゃんに任せるわ。それで? 従業員をエルフにした理由はお客さんがいっぱい来そうだから?」
私は再度、ヨハンナを詰問する。
「だって、獣人族ばっかりじゃ飽きられますよ。人族は数が少なくて、雇えそうな人はいませんし、消去法でエルフです」
まあ、取り締まる側の村上ちゃんは論外として、ヨモギちゃんや篠田さん達は年齢でアウトだ。
「ヨハンナ、本当のことを言いなさい」
「エルフって美人ばっかりですよね。こら、儲かりますわ。お客さんも美人と飲めてハッピー、エルフの子もお仕事があってハッピー、私もハッピー。これぞ幸福教です!」
…………微妙に否定できないことを言ってくるな。
「集まったの?」
「何人かは興味を示してきました。暇だからって言う子や面白そうって言う子とか動機はそれぞれです」
エルフの子達もそんなに否定的ではないわけか……
「リース、なんか意見ある?」
私はこういうのにうるさそうなリースに意見を求める。
「うーん、要は皆でお酒を飲むんでしょ? 楽しそうでいいんじゃないですか? 私は飲めませんけど…………」
あっ……こいつ、キャバクラを知らないんだ……
だからさっきから黙っていたのか……
めんどくさいから説明しなくていいや。
「あんた、お酒が好きなの?」
「好きですよ」
「じゃあ、別に禁酒しなくてもいいじゃん。程度を守ればいいでしょ」
要は深酒をやめればいい。
「ひー様、リースは一度飲んだら止まりません。そして、ぐだぐだになると、居酒屋のお皿やジョッキを投げてきます。教団員幹部会議でリースの禁酒を決定したのです」
村上ちゃんが悲しそうに首を横に振った。
「あんた、バカ?」
「記憶にございません……すみません」
こいつ、めっちゃ酒癖悪いな。
そら、会議も開かれるし、禁酒にもなるわ。
「この人、出禁ですぅ」
話を聞いていたヨハンナはリースに出禁を言い渡した。
これにより、リースは一度も行ったことがない店を出禁になってしまった。
「ヨハンナ、他に迷惑そうな客はいる? 青木とか……」
この前、道で飲んでいるのを見たし、あいつは怪しそう。
獣人族の子達と盛り上がっているようだったし、良いことではあるのだろうが、他の住人には迷惑だ。
「青木さんですか? よく部下の方を連れてきますけど、別に普通ですよ。給金を全部使ってんじゃないかと不安ですけどね」
青木はごつくて真っ黒だけど、面倒見はいいからな。
「ふーん、じゃあいいや。ところで給金って、何? お金あんの?」
「砦が完成した時点で皆で話し合って給金制にしたんです」
「へー。お金なんてどこにあったのよ?」
「色んな町とこっそり貿易はしていますし。アルバン様やマルクス様が金とか銀を流してくれていますからそれをマイルの町で売って、お金を得てます」
そういや、あいつらがいたか……
ちゃんと貢献してるんだな。
町の領主なだけあって、そういうこともできるんだ。
「なるほどね。お金の管理は誰がしてるの?」
「私です」
……………………え?
「あんた? 悪ギツネのあんた? 絶対に横領してんじゃん」
どう見てもそう。
絶対にそう。
断言できる。
「ひどいですぅ……ちゃんとやってますぅ」
そのウソ泣きやめろ。
男には通じるかもだけど、同性には効かないどころかうざいだけだ。
「ひー様、最初は皆も心配したんですが、ヨハンナさんがお金に詳しいことは確かですし、私が監査を入れることで納得しました」
村上ちゃんに監視させることにしたのか。
まあ、無難なチョイスだな。
「こいつ、賄賂を贈ってきたでしょ」
「拒否しましたんで大丈夫です」
ホントに贈ろうとしたんかい!
「ヨーハーンーナー」
「お仕事お疲れ様の気持ちを贈ろうとしただけですぅ」
こいつ、平気で賄賂とか悪いことをするな。
…………人のことを言える教団ではないけども!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます