第076話 答えは人を呼ぶ声


 ジークにビビっていたエルナ、ニカ、ミルカだったか、次第に慣れてきたのか、私の後ろから出てきた。

 それを見たジークも跪くのをやめ、立ち上がる。


「エルナ様、ワシはエルフの代表を務めていますカールです。よろしくお願いいたします」


 カールがエルナに優しく声をかけた。


「うん、よろしくね。ヒミコから聞いていると思うけど、ボクは平穏の神、エルナ。こっちの子がハーフリングの王であるニカで、この子がボクの巫女であるミルカね」


 エルナもさすがにカールにはビビらないらしい。

 エルナ達は本来なら他種族であるエルフにも警戒するのだろうが、ジークのインパクトが強すぎたせいでカールにはまったく警戒していない。

 怪我の功名ってやつかね?


「自己紹介はもういいでしょう。いつまでも平原にいるわけにもいきませんしね。早速ですが、本題です。今回、女神教の魔の手から約500名のハーフリングを救い、この地に受け入れることにしました。永住するか、一時避難かは今後決めるとして、まずはハーフリングが住む場所です。エルナ、森と平原ではどちらがいいんですか?」


 この子達は森に住んでいたが、よく考えたらハーフリングの生態がよくわからない。


「別にどっちでもいいんだけど、森があった方が隠れられるからいいかな?」

「隠れるんです?」


 女神教の軍がここまで到達できるとは思えないし、大丈夫だとは思うんだけどな。


「別に君達の力を疑っているわけじゃないよ。単純に隠れられるところがあると安心するだけ。それにあの森で生まれ育った子らは森に慣れすぎているし、いきなり平原に住めって言われたら困惑すると思う」


 確かにそうかも……

 生活場所をいきなり変えるのはマズい気がする。


「確かに徐々に慣れた方が良いでしょうね」


 しかし、なんだかペットの飼育みたいだな……


「エルナ様、森には魔物が出ますが、大丈夫でしょうか? そこまで強い魔物は出てきませんが…………」


 カールが心配そうな表情でエルナに確認する。


「あー、まあ、大丈夫だよ。ハーフリングは魔法が使えるし、そこまで強い魔物が出ないなら大丈夫。さすがに柵くらいは作ろうかな……? あとは子供達に注意喚起を促せば大丈夫だと思う」


 ハーフリングに強いイメージはまるでないが、弱い魔物程度なら問題ないようだ。


「エルナ様、我ら獣人族は鼻が利く。もし、子供達が森に迷い込んだら言ってくれ。手助け致す」


 ジークが頼もしいことを言う。


「う、うん……その時は頼むよ……よろしく、お願いします……」


 エルナはビビりすぎ。

 敬語まで使っているし。

 こいつ、本当に神か?


「…………なあ、俺って怖いか?」


 ジークはちょっとへこんだようで隣にいるエックハルトに聞く。


「俺達はもう慣れたが、最初はちょっとな…………まあ、そのうち慣れるだろ。逆に言えば、頼りになるっていうことだし」

「うーん、ウチの連中は舐め腐っているんだがなー……ヨハンナとか」


 あのエロギツネはそうでしょうよ。

 男を財布としか見てなさそう。


「ヨハンナは仕方がないだろ。ああいう女だ。この前、新しい従業員を雇いたいからって森中のエルフの村に勧誘に来てたぞ」


 エックハルトから見ても、ヨハンナはやっぱりそうらしい。

 というか、あのキツネ、何してんだよ……


「そのキツネはあとで私が尋問します。それよりも、エルナ、森の浅い所で良いですか?」


 あとで村上ちゃんを呼んで、ヨハンナに事情を聞こう。

 今はそんなことより、ハーフリングの住むところだ。


「うん、いいよ。ニカもそれでいい?」

「もちろんです」


 ニカが何の迷いもなく頷いた。


「カール、どこか良い場所ある?」


 カールなら長くこの森に住んでいるから詳しいだろう。


「いくらでもありますよ。うーん、西の方が良いかもしれませんね。砦から近すぎず、遠すぎず場所が良いでしょう」

「そんなところですね。あとは適当に森を切り開いていけばいいか。お前達、手伝ってあげ…………あれ? 勝崎は?」


 エルフと獣人族がいるのに人族がいないじゃん。


「勝崎隊長は平原に人族の村を作るって言って、何人かのエルフや獣人族を連れて出てるぞ」


 私が勝崎がこの場にいないことに疑問を持っていると、エックハルトが教えてくれた。


「あー……そんな話もあったわね。ということは青木もいない?」


 むしろ、村を作る場合に大事なのは勝崎より青木だ。


「青木殿もだな。ここにいるのは村上殿くらいだ。まあ、ヨモギもいるが……」


 ヨモギちゃんに土木作業なんか無理だ。

 村上ちゃんもだけど…………


「うーん、どうしよ……?」


 まいったな……

 とりあえずはどっかのエルフの村を借りるか?


「別に青木殿がいなくても問題ないぞ。重機の扱い方は教えて貰っているし、家はヒミコ様が仮設住宅を出してくれればいい。場所や配置なんかハーフリング達に聞けば、なんとかなる」


 こいつら、もうそこまで出来るようになったのか……

 すっげー……


「じゃあ、お願いしようかしら。早急に森を切り開いてスペースを作ってちょうだい」

「了解した…………エルナ様、どのくらいのスペースが必要でしょうか? 指示を頂けると、助かります」


 …………こいつもエルナには敬語だし。

 私の方が威厳はあるんだけどなー。


 はいはい、どうせ動画のせいですよ。

 わかってます。


「じゃあ、皆で見にいこうかな……それにボクらもやるよ。木を切るのは得意だしね」


 エルナが自信満々に胸を張る。


「そうなんです? 木を切るって大変では?」


 チェーンソーはないよ?


「そんなもんは魔法で一発だよ。まあ、ボクは使えないけどね」


 そういえば、魔法なんて便利なものがあったわ。


「これだけの数がいれば、伐開はすぐでしょう。空いている人員を集めますし、今日中には切り開きは終わると思います。あとは重機で整地ですね」

「うん。その辺はお願い」


 エックハルトの言葉にエルナが頷いた。


「承知いたしました。では、長老、案内を頼みます。俺は暇そうなヤツらに声をかけにいってきます」

「わかった」


 おじいちゃん、大丈夫かな?


「俺もそうするかな…………」


 ジークもエックハルトに追従しようとしている。


「ジーク、人は選びなさいね。あんたや狼族はダメ。あと、悪いキツネもダメ」

「キツネって、1人だろ。あいつは土にまみれるような仕事はせんよ。店の準備が忙しいだろうしな。まあ、数の多い犬族か猫族から適当に選ぶ」


 まあ、そいつらならかわいく見えないこともないからいっか。


「じゃあ、お願いね。私は森の村で休んでいるから終わったら声をかけなさい。家を出すから」

「わかった。あ、そういえばだが、青木がヒミコ様の社を作ってたぞ。もう出来てる」


 本当に作ったのか……

 ってか、早っ!


「ふーん、まあ、詳しい話は本人に聞くわ。あいつら、いつ帰ってくるの?」

「いつも夕方には戻ってくるから夕方かな? 戻ってきたらヒミコ様のところに行くように伝えておこうか?」

「できるの?」

「どうせ、門には誰かいるし、伝言を頼めばいい」


 それもそうだわ。


「じゃあ、お願い。それと、シャワーを浴びてから来るように言っといて」


 華のJKに土木仕事を終えた汗臭いおっさんは近づいてはいけないのだ。


「伝えておこう……では、カール殿はハーフリングと共に先に向かってください。エックハルト、行こう」

「そうだな」


 ジークとエックハルトは頷き合うと、装甲車に乗り込み、砦に戻っていった。


「さて、では、エルナ様とハーフリングの皆様、案内しますのでついてきてください」


 ジークとエックハルトが乗った装甲車を見送ったカールはエルナ達に声をかけると、西の方に歩いていった。


「じゃあ、お姉ちゃん、あとでね」

「はいはい。重機は危ないから気を付けなさいね」

「子供じゃないってば……」


 子供だよ。

 ジークにビビっていたあんたは子供そのものだったわ。


 エルナは私に手を振り、皆を引き連れて、カールのあとを追っていく。

 私はエルナ達を見届けると、車を出した。


「さあ、帰りましょう」


 私はいつものように助手席に乗り込む。


「では、私が運転しましょう」


 リースが運転手を立候補し、運転席に乗り込もうとした。


「待ちなさい。リースは旅先でずっと運転だったし、私が運転するわ」


 ミサが助手席に乗り込もうとしていたリースの肩を掴み、待ったをかけた。


「いや、ミサはまだ高校生ですし、車の運転は不慣れでしょう」

「いやいや、私も上手になりましたし」


 なんの譲り合いだろ……?

 いいから早くしてくれないかな?


「ひー様、私ら、ハーフリングのところに行ってくるわ」

「だねー。暇だし」


 東雲姉妹はエルナ達の所に行きたいらしい。


「いいけど、邪魔はしないようにね」


 どうせ、手伝わないだろうし……


「「はーい」」


 ナツカとミサは声を揃えて返事をすると、小走りでエルナ達を追っていった。


「…………じゃあ、リース、運転をおねがいします」

「…………いや、お前がしろよ」

「私、未成年で免許ないから」

「私だって持ってねーよ」


 …………こいつら、東雲姉妹と後部座席に乗りたくないだけか。


「どっちでもいいから早く決めて」


 めんどいな……


「ひー様を待たすわけにはいきません。ここは勝負で決めましょうか」


 ミサがリースに提案する。


「勝負って? 魔法? 視力? 身長?」


 リースの方が微妙に背が高い。

 もちろん、魔法も使えるし、視力も良い。


 自分が絶対に勝てる分野しか提案しない女。


「ハァ……リース……あんた、そんなんだから自己中で言われるんですよ?」


 ミサがため息をついて、リースを非難する。


「おい、誰が自己中だ!」


 あんたよ、あんた。


「もう! ケンカしないでよ! じゃあ、私の出すなぞなぞに答えられた人が後ろね」

「いいでしょう!」

「ミサのくせに私に勝てると思っているんですかー?」


 ホント、リースって性格が微妙だわ。

 こんなに美人なのに……


「チッ! 変態【自主規制】女のくせに……」

「おいコラ!」


 ミサも大概だったわ。


「ケンカしないでってば……じゃあ、問題ね。遠ければ遠いほど大きくなるものってなーんだ?」

「遠ければ遠いほど……?」


 ミサはわかってないようだ。

 よく考えなさい。


「え? 信頼関係?」


 リースは何を言ってんだ?


「何それ?」

「隣国同士って仲が悪いじゃないですか」


 いや、まあ、そうかもだけど……


「なぞなぞじゃないじゃん。それにケースバイケースでしょ」


 近くても仲が良い国もあれば、遠いのに仲が悪い国もあるだろう。


「まあ、そうですね……………………」

「…………………………」


 2人共、黙っちゃったよ……

 あれ? これ余計に時間がかかる気がする……


「難しかったね。この問題はパスして、次にいこうか」


 次は食べられないパンでいいや。


「待ってください! あと少しですから!」

「もう喉元まで出てますから!」


 めっちゃ白熱してるし。

 めんどくせ……

 無難にじゃんけんにすればよかったわ。

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