第075話 帰ってきたよ!


 ミサがお風呂から上がり、帰還の準備を終えた私達は隣の部屋の東雲姉妹にも声をかけ、一緒に前日、宴会を行った大部屋にやってきた。

 大部屋には、まだ昼前なのだが、すでに多くのハーフリングが集まっていた。


「ちょっと早いですが、昼食にしましょうか。昼食後に帰ります」


 南部に帰ったらハーフリングと他種族の話し合いとかがあるし、忙しくなる。

 今のうちに食べておいた方がいいだろう。


「何にします?」


 隣にいるミサが聞いてくる。


「面倒だからハンバーガーでいいでしょ」


 ハーフリングは食が細いから1個で十分だし。


「私、テリヤキのやーつ!」

「あたしも!」


 やはり真っ先に手を挙げるのは東雲姉妹である。


「はいはい。ミサ、リース、人数分を出すから配ってちょうだい」


 私はナツカとフユミにテリヤキのハンバーガーを渡すと、ミサとリースに普通のハンバーガーを渡す。


 なお、東雲姉妹は皆を待とうともせずに食べだした。

 さすがである。


「わかりました」

「了解です。みなさーん、昼ごはんにしますので並んでくださーい!」


 ミサが叫ぶと、エルナがトコトコと私の所にやってきた。


「ボクもあれがいい」


 私の所にやってきたエルナは東雲姉妹が食べているテリヤキのハンバーガーを指差す。


「お前、あれが何か知らないでしょ」


 普通のハンバーガーも美味しいよ?


「絶対にあっちの方が美味しい」


 目ざとい神だわ。


「はい、どうぞ」


 私が呆れながらもテリヤキのハンバーガーを渡すと、エルナはその場で食べ始めた。


「お前もですか…………皆を待とうとは思わないんです?」

「別に皆並んでいただきますをしなくてもいいでしょ。ほら、皆ももらったそばから食べてる」


 エルナにそう言われて、ハーフリング達を見ると、確かに皆、ハンバーガーをもらうとすぐに包みを開け、食べている。


「私は皆で食べた方がいいと思うんですけどねー」


 結束と信頼関係が強くなる。


「しょうがないよ。この前まで飢えていたんだし」


 それもそうか……

 もらったらさっさと食べたいよね。


 私はエルナの言葉に納得し、ミサとリースがハンバーガーを配っているところを見守ることにした。

 そのまま2人がハンバーガーを配っていると、ハーフリング達が続々と部屋に入ってきて、列に並んでいく。

 そして、全員が集まり、ハンバーガーを受け取ると、私とミサとリースも座って、ハンバーガーを食べることにした。


 久しぶりに食べたハンバーガーは美味しかったし、こっそりと出したセットのポテトも美味しかった。


 私がハンバーガーとポテトを食べ終え、皆を見ると、すでに全員の食事が終えていたので、その場で立ち上がる。


「さて、皆さん、食事を終えたようなので、これから私達の拠点がある南部の森に転移することにします。南部は幸福教を主体とする平和な地域です。エルナから聞いているとは思いますが、南部の森には人族、エルフ、獣人族が住んでいます。皆、良い子たちなのですが、他種族といきなり協力して一緒に暮らせと言っても難しいでしょう。ですからどこかの一画で暮らし、まずは生活に慣れてもらいます。まあ、安心してください。あなた方を害する女神教は近いうちに消えます。その後をどうするかはエルナやニカと相談して決めてください。これから向かう場所はとりあえずの疎開先と思ってもらっても構いません」


 ビビりなハーフリングにいきなり協力して仕事をしろとは言えない。

 まずは慣れてもらったからだわ。


「あの、ヒミコ様、少しよろしいでしょうか?」


 王様のニカが手を挙げながら立ち上がった。


「何でしょう?」

「女神教はそんなに早く滅びるのですか?」


 なんだそんなことか……

 エルナは説明していないのかな?

 いや、ニカは皆に聞かせるためにわざと聞いてきているのだろう。


「お前達を苦しめる女神教はすぐに消え去ります。人々を苦しめるあんな邪教はこの世にあって良いものではありません。ですからあんな悪魔は私が消し去ります。私はこの世界を救世しに来たのです。女神アテナさえいなくなれば、人族も目を覚ますでしょう」

「信じてもよろしいのでしょうか?」


 こういうのをやるのなら事前に言っておいてほしいな。

 そしたら台本を…………いや、台本はもういいや。

 ヨモギちゃんの時に失敗しているし。


「お前達が信じるのは私を信じているエルナです。エルナについていきなさい。エルナはお前達を必ず良い方向に導いてくれるでしょう」


 言ってる意味わかるね?

 これはエルナに言っているんだぞ!

 黙ってお姉ちゃんに従えよ!


「ニカ、大丈夫だよ。少なくとも、幸福教はまともだし、教えだって、幸福を目指すっていう普通なことだよ。皆で誰にも迫害されない本当の国を作ろ!」


 少なくとも……


 こいつ、幸福教はまともだけど、私はまともじゃないって言いたそうだな。

 …………まあいいか。


「わかりました。エルナ様がそう言うのならば、従います」


 ニカがエルナに向かって頭を下げると、他のハーフリング達も頭を下げた。


「いいですね? では、転移を使って、飛びます。3、2、1……はい!」


 私はカウントダウンをし、手をパンっと叩くと、視界が窓から海が見える大部屋から地平線が見える平原に一瞬にして変わった。

 急に視界が変わったため、ハーフリング達がざわざわと騒ぎ始める。


「静かに! これが転移の力です。すでにここは南部の森の近くです。あそこに砦があるでしょう? あれが拠点になります」


 私はすぐ近くにある砦を指差しながら説明する。

 転移した先は以前、マナキスで救出した奴隷達と共に帰還した場所であり、砦から私達が確認できる。

 だから、すぐに迎えが来るだろう。


 と思っていたら本当に砦から装甲車が3台ほど出てきて、こちらに向かってきた。


「エルナ、ニカ、ミルカ、来なさい。これからのことを話すために獣人族の長とエルフの村の村長が来ました」


 事前にジークとカールにはお告げで事情を伝え、来るように伝えてあるのだ。


 車はきれいに列を組んで進んできており、スピードも緩やかである。

 車の運転も本当に上手くなったようだ。


「君らが乗っていた物とはまた違うね」


 エルナ達が私の所までやってくると、エルナが装甲車を見ながら聞いてくる。


「あれは防御に優れる車ですね。戦争用と思っても構いません。まあ、あれを使うことは滅多にないですけどね」


 日本にいた時も数台は所持していたが、使ったことなんてない。

 というか、なんであんなもんを買ったんだろう?


 私が首を傾げていると、装甲車3台が私の前に止まった。

 そして、一番前の装甲車からエックハルトが降りてくる。


「おかえりなさいませ。ハーフリングの救出作戦が成功したようで何よりです」


 エックハルトが私の前に跪き、挨拶と共に作戦成功を喜んでいる。


「ええ。1人も欠けることなく救えて満足です…………しかし、エックハルト、以前もあんたが出迎えに来たけど、あんたがその係なの?」


 こいつ、実は私のことが好きなのかな?


「いや、砦の門の責任者が俺というだけだ」


 エックハルトは敬語をやめ、スッと立ち上がった。


「なるほど。目の良いエルフに任せたわけか」

「そういうわけだ。それで? 長老とジーク殿が来ているが、どうする?」


 どこかの落ち着くところで話した方がいいとは思うが…………


「この場で話すわ。エルナや王であるニカがいなくなれば、ハーフリング達が不安になると思うし」


 エルナはハーフリングから信頼されており、心の拠り所だ。

 初めて来た地だし、ハーフリング達をエルナやニカから離さない方がいい。


「了解した…………しかし、長老はともかく、ジーク殿は大丈夫か?」


 でかいし、怖いし、ライオンだもんなー。


「大丈夫よ。威風があって、かっこいいじゃない。それにあいつは紳士だし」


 優しい力持ち。

 ナイスガイだね。


「そんな人にあんな動画を撮らせたのか?」


 うっさい!


「あれは私も反省しています。もうやりません」

「是非、そうしてくれ」


 地味にエックハルトも根に持ってんな……

 エックハルトの奥さんとお子さんに動画を見せるというイタズラを思いついていたのだが、やらなくて正解だったようだ。


「その件はごめんなさいね。とにかく、ジークとカールを呼んでちょうだい」

「承知した」


 エックハルトは頷くと、後ろの2台の装甲車に声をかけていく。

 すると、前から2番目の装甲車からエルフの村の代表であるカールが降りてきた。

 そして、最後に一番後ろの装甲車から獣人族の長であるジークが降りてくると、エルナとニカとミルカが口を開けたまま、ジークを見る。


 エックハルトとカール、そして、ジークが私の前にやってきたのだが、エルナ達はジークを見上げたまま、固まっていた。


「ジーク、威圧しない」


 私はエルナ達を見下ろしているジークに苦言を呈する。


「してないが……」


 あんたはいるだけで威圧するんだよ。


「エルナは神よ。礼を尽くしなさい」

「そういえば、そう聞いていたな…………」


 ジークは私の言葉に納得したようで、その場で跪いた。


 跪いてもエルナよりでかいな……


「ハーフリングの神であるエルナ様がこの地に来られたことを歓迎いたします」


 うんうん。

 さすがは獣人族をまとめているだけのことはある。

 でも、私に対してはそんな風に接してくれたことがないな……


「う、うん。よろしく……」


 エルナは小声でそう言うと、私の後ろに隠れ、頭だけを出した。

 その後ろにニカとミルカも隠れる。


「エルナ、あんたは威厳を持ちなさい」


 というか、あんたら、何してんねん。

 汽車ポッポか!

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