第074話 お酒は控えよう!
朝、起きると、隣にはエルナが寝ていた。
「…………意味不明」
なんで?
昨日の夜、何をしたっけな……?
「…………おはよう、お姉ちゃん」
私が隣で寝ているエルナを見ていると、エルナの目が開き、挨拶をしてきた。
「おはよう。あんた、なんで私のベッドで寝てるの?」
「記憶がないのね…………君がお姉ちゃんが一緒に寝てあげるって言ったんだよ。あと、ずっと妹が欲しかったって言ってた」
お姉ちゃんと呼べとは思っていたが、妹が欲しかったというのは記憶にない。
そもそも、兄弟姉妹を欲しいと思ったことはないような気がする。
「変なことをしてないでしょうね?」
「お持ち帰りしてきた人に言われたくないね。ボクはすぐに寝たよ。飲めないって言うのに無視するしさ」
愚痴の多い神だな。
「まあいいや。さて、起きるか」
私は起き上がり、ベッドから降りた。
そして、窓から海を覗く。
「まーた、無視するし」
「ほら、エルナ、海がきれいですよ」
「もう飽きるくらいには見たよ」
私も飽きた。
イルカやクジラでも出てきたら面白いのだが、何も出てこない。
「ミサとリースは?」
この部屋には私とエルナしかいないし、ベッドも空だ。
「ミサは釣りに行ったよ。あの双子が眠そうなミサを強引に連れていった。リースはお風呂」
なるほど。
想像がつく。
「まあ、いいです。それよりも食事にしましょう」
私はテーブルにつくと、パンとオレンジジュースを出す。
すると、オレンジジュースを見たエルナもベッドを降りて、席についた。
「この飲み物、美味しいよねー」
エルナは子供のようにコップを両手で持ち、ジュースを飲んでいる。
「美味しいなら良かったです。お前、自分の部屋に戻らなくてもいいんです?」
今さらだが、ハーフリングの神を部屋に連れ込んで良かったんだろうか?
「あー……それね。実を言うとさ、お姉ちゃんにこの部屋に連れ込まれたけど、そこまで抵抗をしていないんだよね」
「なんでです?」
まさか、そっちの気が?
「いやね、ボクは巫女であるミルカとイルと同じ部屋なんだけど、居づらくて……なんか良い雰囲気だし」
あ、私が子供を作れって言ったからだ。
「それは空気を読んで正解でしょうね。神だろうが、邪魔は良くないです」
「だよね。あそこの夫婦は子供がいないし、良い機会だよ」
「なんで子供がいないんです? エルフみたいに性欲が薄いから?」
そういう感じには見えなかったけどな。
「いや、飢饉の時に子供は作れないでしょ。子供を飢えさせるわけにもいかないし」
あー、確かに。
「それもそうですね。食事は私が責任を持って用意するのでイルと仲良くして、元気なイルカを産んでほしいですね」
「ミルカはその名前をめっちゃ嫌がってたよ」
でしょうね。
私でも嫌だわ。
「真面目に考えますか…………」
「男の子か女の子かで話が変わってくるでしょ。というか、まだできてないのに気が早いよ」
「ミルカは作る気満々でしたけどね。それに昨日、仕込んでるんでしょ」
エルナがいないうちによろしくやってるんじゃないかな?
「仕込むって…………君、まだ酔ってる?」
「酔ってないです。真面目な話ですよ。ミルカはお前の巫女でしょう?」
「まあね。ボクの姿をしていた初代巫女は生涯独り身だったけど、他の巫女は結婚して、子供を産むことも多かった。やっぱり嬉しいもんだよ」
ハーフリングが子供を産むと嬉しいとは言っていたが、それが巫女であれば、さらに嬉しいのだろう。
「完全に保護者目線ですねー」
「実際、そんなようなもんだよ。基本的には見守るだけだけどね」
まあ、エルナはできることが少ないし、その場にいるだけで良いのだろう。
「昨日の宴会はどうでした? ハーフリング達も盛り上がっているようでしたけど」
「皆も楽しそうだったよ。船を嫌がる人はまだいるけど、ご飯も飲み物も美味しいし、布団やお風呂が快適だよ」
「やっぱ船は嫌ですか……」
「それは仕方がないね。こんなでっかい船が海に浮かんでいるのが信じられないし、船酔いがきつかった子も多いもん」
海は慣れていないと、怖いしね。
泳げないのならなおさらだろう。
「では、南部に行きますか……」
「もう行けるの?」
「ですね。いつでも行けます。船生活も飽きてきたし、森でキャンプしようかなー」
朝起きたら転移が使えるようになっていた。
海は変わり映えがしないし、髪がべたつくのが嫌から森に帰りたい。。
「じゃあ、ご飯を食べたら皆に準備をするように言ってくるよ。皆も陸地の方がいいだろうしね」
「転移をしたら砦がある平原に飛びます。そこからエルフと獣人族の長と話し合いをしますので代表者を選んでおいてください。まあ、ミルカかニカでしょうけど」
巫女か王様だろうね。
「そうだね。その2人かな?」
「お前達が住む場所等はその時に決めます。ちゃんと説明しておいてくださいね。エルフはともかく、獣人族は怖い見た目をしている子もいますから」
ジーク!
お前だよ!
「わかった。周知しておくよ。まあ、獣人族は基本的に温厚だし、大丈夫でしょ」
確かに温厚だ。
でも、ジークはライオンだよ?
私でも急に声をかけられるとビックリすることがある。
「じゃあ、転移は昼にしますのでお願いします。私はミサたちに声をかけに行きます」
私はパンを食べ終え、ジュースを飲み干すと、立ち上がった。
「了解。じゃあ、ボクも行くよ」
エルナもパンを食べ終えたようで立ち上がる。
私達は部屋を出ると、その場で別れた。
私はそのまま歩いていき、甲板に出る。
すると、ちょうどフユミが魚を釣り上げているのが見えた。
「釣れてるねー」
私は魚を釣って、はしゃいでいるフユミに声をかける。
「あ、ひー様、おはー! 見て、見て! 魚!」
うん、魚だね。
見ればわかるよ。
「エサをつけてないのによく釣れるわね」
この世界の魚はバカなのかな?
「ふっふっふ……天才フユミちゃんはパンを丸めてエサにするという画期的な方法をひらめいたのです!」
天才フユミちゃんはすごいね。
「なるほどね。それで釣れるようになったわけか…………でも、食べないんでしょ?」
「この魚は不味いですけど、美味しいのもいるんですよ」
よく見ると、フユミ達の足元には七輪やしょうゆが置いてある。
釣った魚を食べていたのか…………
「あんたらさ、魚が毒を持っているとかを考えないの? 日本にもフグとかいるじゃん」
前に釣って美味しくなかった魚はリースに毒があるかを確認したのだが、こいつらは絶対にしていないと思う。
「大丈夫! 最悪はリースの魔法でどうにかなる!」
「ですね。真っ先にナツカさんが食べていたので大丈夫です」
「え…………?」
フユミとミサの言葉を聞いたナツカが呆けながら2人をガン見する。
ナツカを毒味役にしてたのか……
そして、ナツカは気付いていなかったと……
ひどい妹と後輩だわ。
「…………まあいいわ。昼になったら南部の森に帰るから釣りもほどほどにして、準備をしなさいね」
「はーい。じゃあ、もう釣りはやめとくか」
「ですね」
フユミとミサが片付けを始める。
「ねえ、待って。お姉ちゃんで確認したの? 先輩に毒見させたんか?」
「おい、メガネ、この魚、食べるか?」
「美味しくないからいいです。海に逃がしてください」
ナツカがフユミとミサに訴えるが、2人は華麗にスルーだ。
「聞けや!」
「姉貴も片付けようぜ。風呂に入ってから帰りたいし」
「ナツカさん、七輪をしまってください」
フユミとミサはあくまでもナツカを無視するようだ。
「聞けよ…………」
…………私は憐れなナツカを手伝うことにした。
釣りの片付けが終わった後、ナツカとフユミが自室に戻ったため、私とミサも部屋に戻る。
部屋に戻ると、リースがお風呂から上がっており、椅子に座って優雅にくつろいでいた。
ミサが空いたお風呂に向かったため、私はリースの対面に座る。
「あんた、この3日間、お風呂尽くしだったわね」
「海を見ながらなんて最高じゃないですか。ひー様達は海を見慣れているでしょうけど、私は海を見ることなんて滅多になかったですからね」
日本は島国だから海なんて珍しくもない。
リースは半分エルフだから基本的には森暮らしだったんだろう。
「何かいた?」
「グレートイッカクジュウを見ましたね。レアです」
知らねー……
でも、かっこよさそうではある。
「へー……ナツカ達が魚を釣って食べてたけど、毒とかは大丈夫?」
「大丈夫だと思いますよ。見た目が毒々しいのは危ないですけど」
いくらバカ3人でもさすがにそれは避けるか。
「まあ、楽しそうだったし、別にいっか。それよりも、昼に南部に帰還することになったわ」
「ですか。私はもう少し、ゆっくりでもいいんですが、ハーフリングは海が苦手のようですし、早い方がいいでしょうね」
「あんた、船酔いは?」
リースだって、船に慣れているわけではない。
「しませんね。そういう体質ですかね? それとも電車や車で慣れているからかもしれません」
そういえば、車を運転しだすと、車酔いしなくなるって聞いたことがあるな。
それかも……
「なるほどねー」
「ですです。ところで、南部に帰るのは良いのですが、この船はどうするんです?」
…………そういえば、消せない。
消したら皆、海に落ちちゃうじゃん。
「うーん、幽霊船になってもらうわ」
「豪華な幽霊船ですねー」
ホントね。
オーバーテクノロジーの幽霊船ですわ。
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