第073話 私の方がお姉さんだと思う
フェリーに乗り、敵から逃れて3日が経った。
その間、私は揺れる船室でゴロゴロとしていた。
ミサと東雲姉妹は魚を釣って喜んでいる。
釣った魚は初日に焼いて食べたのだが、あまり美味しくなかったので、その後はキャッチアンドリリースしていた。
ハーフリング達は薬を飲んだことで船酔いも収まり、次第に船にも慣れてきたらしく、船内を探検したり、甲板に出てきたりもしている。
そんな感じで各自が時間をつぶし、船で過ごす最後の夜になると、今日の夜は皆で宴会をすることにした。
本当は甲板でバーベキューをしようと思ったのだが、風が強かったのとハーフリング達が海に近い甲板を嫌がったので、船内の大部屋でご飯を食べることになった。
ハーフリング達は最初はおずおずと怖がっていたのだが、ご飯を食べ始めると、緊張も解け、楽しそうにしている。
というか、お酒を出してあげて、飲み始めたらワイワイ騒ぎ出した。
「お前達もお酒を飲むんですね……」
私は隣に座っているエルナに聞いてみる。
「滅多に飲めないけど、普通に飲むよ。ボクは飲まないけどね」
エルナはオレンジジュースを美味しそうに飲んでいた。
「缶酎ハイを片手に騒いでいる子供たち…………良くないですねー」
「子供じゃないってば……」
何度も同じことを言う私に対し、エルナが呆れている。
「頭ではわかっているんですけどね。どうしても違和感があるんです」
「早めに慣れなよ。というか、君達は飲まないの?」
「逆に私達は未成年なんです。私がいた国は20歳を超えないとお酒を飲むことができません。まあ、ミサも東雲姉妹も飲めないだけですけど」
あの3人は弱いため、お酒を飲めない。
すぐに眠くなってしまうらしい。
「あのエルフの子は? さすがに成人してるでしょ」
エルナが向こうで東雲姉妹に絡まれ、嫌そうな顔をしているリースを見た。
「あの子は禁酒しているらしいです。詳しくは聞いていませんが、酒癖が非常に悪く、教団の飲みの場で暴れたみたいですね」
私はその飲み会の場にはいなかったが、居酒屋を出禁になったらしく、一部の幹部から苦情が来た。
あの子は基本的には良い子なのだが、根っこが自己中なので、そういうことを稀にして、苦情が私のところに届く。
「ふーん、あんなにきれいな顔をしているのにね…………まあ、酒癖の悪い人はどの種族にもいるもんだ」
「その辺は変わりませんね。しかし、お前、よくリースがエルフってわかりましたね?」
リースはエルフ譲りの綺麗な顔をしているが、見た目は完全に人族だ。
「ボクは神だし、1000年も生きていれば、大体わかるよ。あの子は人族の血も強いけど、ベースはエルフだね。他種族のハーフでもよく見るよ」
「南部にも獣人族のハーフがいるんですが、皆、見た目は人族でしたね。能力は獣人族の血が強かったですが……」
カルラはどう見ても人族だった。
だが、実際に動きを見せてもらったことがあるのだが、動きが忍者みたいだったのを覚えている。
あと、嗅覚も聴覚も優れていた。
「基本的には人族とのハーフはそうなるね。他の組み合わせは知らない」
エルフと獣人族だったらどうなるんだろうね?
「ちなみにですが、ハーフリングと人族のハーフっています?」
「…………それは禁忌だよ。別にボクが禁止しているわけではないけど、誰もやらない」
エルナが真顔になった。
「禁忌ですか…………やっぱり人族が怖いからですか?」
「いや、単純にサイズがね……人族の女性とハーフリングの男性ならまだしも、その逆は難しい。行為自体もだけど、出産がね…………赤ちゃんとはいえ、人族のサイズで生まれてくるんだよ?」
小学生低学年が子供を産むようなものか……
確かに母体への負担が大きいし、この世界の医療レベルでは助からないかもしれない。
「確かに無理でしょうね。やめた方がいいです」
他の種族にも通達するか……
私の子にロリコンさんがいるかはわからないが、見た目にこだわらず、意気投合して仲良くなるということもありえる。
そうなったら非常に危険だ。
女は妊娠すると、母性本能が働くし、何が何でも産もうと思うかもしれない。
「ハーフを否定するわけじゃないけど、ボクは普通に同じ種族で一緒になるのが良いと思うんだけどね。あの子の両親も別れが辛かっただろうし」
エルフやハーフリングは寿命が長い。
どうしても早い段階で別れが来てしまう。
リースの両親もそうだったのだろう。
「男女のことは難しいですから……ウチの教団員でもエルフと良い仲になった子がいます」
勝崎のことだ。
今は勝崎だけだが、今後、どうなるかはわからない。
皆、大きなトラブルもなく、協力して仕事をしているし、恋や愛が芽生えることもあるだろう。
幸福を謳う私がそれを否定するわけにはいかない。
「先に天国に行く方はまだいいよ。残された方がきつい……」
エルナも愛や恋ではないだろうが、多くの人と別れてきたのだろう。
そして、それは私も同じことになる。
私は神になったため、死なない。
つまり、長寿のリースはともかく、ミサや東雲姉妹と別れる時が来る。
「なんだかへこんできました……」
神になるということはこういうこともあるのか……
「気にしても仕方がないんだけどね。そういうもんだもん。別れもあるけど、出会いもある。自分の子達が子供を産んだ時は嬉しいものだよ」
おばあちゃんかな?
「そんなもんですかねー」
「そうだよ…………ごめんね、こんな話をして。まあ、お酒でも飲んで忘れなよ。今の君が考えることじゃない」
お酒か……
「私、飲んだことがないですね」
「そうなの? 神だってお酒くらい飲んでもいいでしょ。いい機会だし、飲んでみたら?」
「御神酒上がらぬ神はないともいうし、飲んでみるか……」
私はスキルで缶酎ハイを取り出した。
「いっちゃえ、いっちゃえ。何かあったらお姉さんが介護してあげる」
私は缶のプルタブを開け、お酒を飲んでみる。
「うーん、甘くておいしいとは思いますが、変な味がしますね」
「お酒だしね」
私はそのまま飲んでいくが、特に変化があるようには思えない。
「弱くはないっぽいな。少なくとも、すぐに眠くなるような感じではないわね」
「うんうん。まあ、適当に飲みなよ」
「そうするわ。というか、あんた、さっきお姉さんって言った? 子供のくせに」
小学校低学年にお姉さんぶられて笑いそうになったわ。
「いや、ボクの方が年上だから……1000年以上も生きてるから」
「ババアじゃん。ロリババアじゃん」
「それはひどい。神に年齢はないよ」
「じゃあ、見た目ね。私がお姉ちゃん。ほら、お姉ちゃんって言ってごらん」
「…………君、早々と酔ってない?」
酔ってないわ。
私は普通。
さっきと何ら変わりない。
「いいから言ってごらん」
「口調が変わってるし……うさんくさい敬語じゃなくなってるし……お姉ちゃん、やっぱりお酒はやめたら?」
やっぱりお姉ちゃん呼びの方がしっくりくるな。
「あんたは妙に大人ぶる時があるけど、そっちの方がいいわね。これからはお姉ちゃんと呼ぶように!」
「人の話を聞いてないし…………嫌だし」
エルナが嫌そうな顔しているが、かわいいだけだ。
「あん? あんた、私に逆らう気? 幸福になりたいんじゃないの?」
「なんでお姉ちゃん呼びでボクが幸福になるのさ…………今、お酒を勧めたことを絶賛、後悔中だよ。不幸だよ」
「人は反省してもいいですが、後悔をしてはいけません。過去にとらわれてはいけないのです。前を見るのです。さあ、あんたも飲め」
私はスキルでお酒を出し、エルナに渡す。
「何を言っているのかチンプンカンプンだよ。飲まないって言ったじゃん」
「お前、私に酒を勧めて、自分は飲まないんですか? 私の酒を飲めないとはいい度胸だ!」
これは罪だ。
許されない行為だ。
「こいつ、絡み酒かよ…………めんどくせ」
「あんたがかまってちゃんなんでしょ」
「どこが!?」
「わかったわよ。じゃあ、お酒を飲んだらちゅーしてあげる」
「ホントに何を言っているのかチンプンカンプンだよ。そういうのは男にしなよ」
男ー?
「私は昔、父親に犯されそうなったことがあるので、男は無理でーす。だからあんたにしてあげる。さあ、飲め」
「…………軽い口調でめっちゃ重い話をされた…………の、飲むよぅ……でも、ちゅーはしなくていいからね」
エルナは私が渡したお酒に口をつけた。
「美味しいね。オレンジジュースもだったけど、君達がいた世界のものは本当に美味しいよ」
「おー! 本当に飲んだんだ。じゃあ、約束のちゅー」
私はエルナを抱き上げ、ほっぺにちゅーする。
「いらないってばー! うわっ! マジでしてきたし!」
「はい、かんぱーい!」
「…………リアクションすら無視かい」
私とエルナはその後も楽しく、笑いながらお酒を飲んだ。
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