第069話 キャンピングカーより豪華な客室


 ヘリに乗り、ハーフリングの国という名の集落を離れた私達は夜の海を渡り、フェリーまでやってきた。

 周囲が暗くてよく見えないが、リースは器用にフェリーの甲板にヘリを着陸させる。


「ひー様、到着です」


 リースがエンジンを切ると、報告してきた。


「先に着いたハーフリング達は?」

「船内の客室で休んでいます。操舵室や管理室には入らないように言ってあります」


 まあ、私らでもわからないものを勝手に弄られたら何が起きるかわからないしね。

 そして、何かあっても私らでは止めようがない。


「ナツカとフユミは?」

「魚が釣れなくて、ふて寝しました。多分、えーっと、個室の客室にいますね」


 リースはマジックアイテムを持っているナツカの居場所がわかるのだ。


「いつものことね。もう遅いし、今日は休みましょう。あんたらも客室とかを好きにしていいわよ。正直、私も船内を把握してないし」


 私はヘリから降りながらエルナ達に言う。


「あのさ、これが船? ボクの城より大きいんだけど……」


 エルナもヘリから降り、周囲を見渡しながら聞いてきた。


「これは大型客船よ。500人も乗せられる船はこれくらいしかなかったの。でも、この船は動かせない。誰も動かし方を知らないからね」

「へー……すごいね」


 エルナは感心しっぱなしだ。


「なあ、ここって本当に海の上なのか?」


 今度はイルが聞いてきた。


「そうよ。ほら、揺れているでしょ」


 船は少しだが、ゆらゆらと揺れている。


「ホントだ……こんな大きいのに沈まないのか?」


 いや、私に聞かれても……

 多分、重量より浮力の方が上なんじゃないの?


「大丈夫だって。ミサ、悪いけど、ハーフリング達に電気とかの使い方を教えてあげてくれる?」


 リースはさすがに休ませてあげた方がいい。

 ヘリで50往復だもん。


「わかりました。では、皆さん、こちらです」


 ミサがエルナ達を連れて、船内に入っていく。

 それと同時にリースがヘリから降りてきたため、私はヘリを消し、ポイントに戻した。


「お疲れ様。大変だったでしょ?」


 私はヘリから降りてきたリースをねぎらう。


「ええ。さすがに50往復はちょっと…………ですが、間に合って良かったです」

「そうね。あんたはお風呂にでも入って、さっさと休みなさい。私もそうする」

「ありがとうございます。では、私達も船内に行きましょうか」


 私とリースは船内に入ると、リースに誘導されて、歩いていく。

 すると、リースがとある客室の前で立ち止まった。


「ここにナツカがいますね。まあ、フユミもでしょう」


 寝てるかな?


『ナツカー』

『…………………………』


 お告げを使って声をかけたのに返事がないところをみると、寝ているようだ。


「寝てるわね。起こすのはやめとこ」

「ですね。東雲姉妹の隣の部屋にしましょう」

「そうね」


 私達は東雲姉妹が寝ている隣の部屋に入ると、部屋の電気つけた。

 部屋は普通のホテルと変わらないが、ベッドが2つしかなかったため、私はスキルを使って、もう1つのベッドを出す。


「リース、あんたが先にお風呂に入りなさい」

「いえ、ひー様がお先にどうぞ」

「あんたは働きすぎ。いいから先に入りなさい」

「すみません。では、お先にいただきます」


 リースは頭を軽く下げると、部屋に備え付けられている浴室に向かった。

 私はその間にお告げのスキルを使って、ミサに部屋の番号を伝える。

 そして、ベッドにダイブした。


「あー、疲れた……」


 今回はたいして動いていないし、敵と戦ったわけではない。

 だが、敵がいつ来るかわからない緊張感で精神的にドッと疲れた。

 でも、何とかなった。

 結果、ハーフリングもエルナも誰も失うことなく、脱出できたのだから100点満点の結果だろう。


「4日後に南部の森に戻ったら次の作戦会議をして…………ドワーフをどうするか、氷室達は上手くやっているのか…………勝崎は真面目にや、って、いる…………」


 眠い……

 でも、お風呂に入ってからじゃないと……

 うーん、まあ、ミサかリースが起こしてくれるだろう…………


 私は急激な睡魔に抗えず、目を閉じた。




 ◆◇◆




「……ーさま、ひー様。起きてください」


 私は耳元でささやく声で目が覚めた。


「あれ? ミサ?」


 目の前にはミサがいる。


「部屋に入ったら鍵もかけずに1人で寝ているからびっくりですよ。敵や不審者はいないでしょうが、鍵くらいはかけてください」


 そうか……

 寝てしまったのか。


「ごめん」

「注意してくださいね。ところで、リースは?」


 リースは…………まだお風呂か。


「お風呂。リースは今日、働きづめだったから先に入らせた。あいつの風呂は長いからもうちょっと待って」


 リースはお風呂が好きなうえ、あんな性格だから私が待っているからって急いでお風呂から上がるような子じゃない。


「まあ、確かにずっとヘリで往復してましたもんね」

「そうそう。だから先に休ませるわ」

「それでいいと思います」


 ミサもベッドに座り、2人で休んでいると、リースがお風呂から上がってきた。


「お先でしたー」


 リースはそう言うと、ベッドにうつ伏せで倒れ込む。

 そして、まったく動かなくなった。


「寝た?」

「リースはそこまで体力のある方ではないですしね」


 よく考えたらリースとフユミに森の外の見張りを任せたのだが、フユミに夜の見張りができるとは思えない。

 だいぶ無理をさせたかも……


「寝かしときましょう。あんたもお風呂に入っていいわよ」

「いや、ひー様がお先にどうぞ」


 普段は図々しいミサが遠慮してくる。


「じゃあ、一緒に入る?」

「狭くて無理ですよ。それに単純に嫌です」

「昔はよく一緒に入ったのに」


 これが大人になるってことかね?


「いや、あんたとお風呂に入った記憶はない。あんた、プールや海に行っても水着にすらならなかったじゃん」


 そういえば、そうだった。

 私は子供の頃、事情があって、肌を見せたくなかったんだ。


「私は発育が良かったからねー…………あ、ごめん」

「イラつくわー。いいから先に入ってくださいよ」

「はいはい」


 私はミサに睨まれながらも浴室に行き、お風呂に入った。

 身体や髪を洗い、湯船に浸かったが、ミサを待たせると悪いので、なるべく早く上がる。

 身体を拭き、いつもの浴衣に着替えると、部屋に戻った。


「おまたー。船でお風呂に入るっていうのも新鮮でいいね」


 微妙に揺れているし、窓から外を見ることもできる。

 夜だから何も見えないけど。


「ですかー。もっと、ゆっくりしても良かったんですよ?」

「それは明日以降にとっておくわ。4日も船の上だし」

「そういえば、そうですね。じゃあ、私も入ってきます」

「いってらー」


 ミサが浴室に向かっていったので、私はいまだにうつ伏せで寝ているリースのもとに行き、寝ている姿勢を直し、掛け布団をかけてあげた。


 しばらくすると、ミサがお風呂から上がってきたので、ジュースで乾杯をする。


「お疲れー」

「お疲れ様です」


 私達は乾杯をすると、ジュースをごくごくと飲みだした。


「ひー様、ハーフリングは大丈夫なんですか? すでにエルナ様という信仰対象がいるんですよね?」

「ハーフリングはエルナに従うから大丈夫よ。エルナも私に逆らう気はないでしょうしね」

「だったらいいんですけど……」


 そもそも、あの種族は争うような種族ではないし、私を忌避しているような感じではない。

 ちょっと怖がられている程度だ。


「それよりも、これでエルフ、獣人族、ハーフリングを手に入れたわ」

「あとはドワーフですね……どうしましょう?」

「ドワーフに関しては現状、私達ができることはないわ。氷室と月城さんに任せる」


 上手くやってるかな?


「あの2人で大丈夫ですかね? 絶対にお互いのことを嫌ってますよ」

「そう?」

「氷室は性犯罪者だし、月城さんって気が強くてうるさいでしょ。氷室は嫌いそう……」


 うーん、まあ、仲が良くなることはないだろうね。

 ちょっと様子を見てこようかな……

 どうせ、この4日間は暇だし。


「生徒会長もいるし、ちょっと不安になってきたわね……」

「私は勧誘の旅に出た篠田さん達の方が不安ですよ」


 それもあったな……

 鈴木がついているとはいえ、大丈夫かな?

 というか、私に降ってくれる生徒って本当にいるのかね?


「うーん、まあ、任せるしかないわ。そちらも様子を見てくるかなー」


 お告げを使ってもいいし、憑依してもいい。


「南部のこともありますし、戻ったらゆっくりしてください」

「それもそうねー……」


 西に東に動きっぱなしだったし、ちょっとゆっくりしようかな……


「です。ひー様、今日はもう遅いですし、寝た方がいいですよ。今後のことは明日、リースを交えて会議をしましょう」

「そうね。眠いし、寝よっか。一緒に寝る?」

「いいです…………ひー様、もしかしなくても、私の事が好きです?」

「もちろん。幼なじみで親友じゃなーい」


 私はそう言って、ミサに抱き着き、ほっぺにちゅ-をする。


「そう思うならちゅーしてこなくていいんで、優しくしてください」


 私はいつも優しいわい!

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