第067話 ヘリにハーフリングが詰め込まれる姿は奴隷船にしか見えない……
ヘリから見た前方には森が広がっているが、その先には青い海が見えてきた。
海の先には水平線しか見えず、大陸はおろか、島も見えない。
「あの先には何があるの?」
この世界出身のリースに聞いてみる。
「言い伝えではそのまま進んでいくと、落ちるらしいです。天動説ってやつですね」
「そうなの?」
「いえ、多分、地球と同じだと思います」
そのぐらいの文明レベルってことか……
まあ、ぶっちゃけ、天動説だろうが、地動説だろうがどっちでもいいけどね。
興味ないし。
「思ったより、海まで早かったし、ある程度は陸から離れたところまで飛んでくれる?」
問題ないと思うが、敵にハーフリングが海に逃れたと気付かれないに越したことはない。
「了解です」
ヘリはそのまま進んでいくと、陸地を抜けた。
そして、陸地からある程度、離れると、ヘリの扉を開ける。
「よいしょっと!」
「危ないよー」
「落ちるなよー」
東雲姉妹がそう言って、私を支えてくれる。
「ありがと。さて、いきますよー。いでよ、フェリー!」
私は海に向けて手を出し、スキルを使った。
すると、海に巨大な白い船が現れ、大きな波を立てる。
「すげー! 船だ!」
「東雲丸だ!」
さりげに名前を付けるんじゃないよ。
まあ、絶対に沈没しそうにない名前だけど。
あと、多分、海賊船だな。
「リース、甲板に降りて」
「了解です!」
動いている船の上に降下するのは難しいと思うけど、頑張って!
リースはヘリをフェリーに近づけると、器用に降下していく。
そして、甲板に着陸すると、エンジンが止まった。
「船だー!」
「海だー!」
ナツカとフユミは我先にとヘリを降りていく。
私も2人に続き、ヘリを降り、甲板に出た。
甲板に出ると、潮の香りがする風を感じ、気持ちがいい。
「この広さなら500人は余裕でしょうね」
リースもヘリから降りたらしく、後ろから声をかけてきた。
「そうね。この距離なら時間も大丈夫だろうし、夜にヘリを飛ばしても敵がいない方向だから気付かれないわ」
「ですね。早速、ハーフリング達を運びましょう。行動の早い人はすでに準備を終えているでしょうし」
「よし! ナツカ、ちょっと来て」
私は甲板から海を眺めているナツカを呼ぶ。
なお、ナツカを呼んだのにフユミも一緒にやってきた。
「なんです?」
「あんた、これを持ってなさい」
私は前にリースからもらったお守りっぽいマジックアイテムを渡す。
「持ってればいいんですか?」
「うん。あんたらはこれを持って、この船で待機してなさい」
これがあれば、船が流されようと、夜になって、辺りが暗くなろうともリースが船の場所を見つけることが出来る。
「了解です」
「あたしら、待機? 釣り竿、出してー」
フユミが釣竿を要求してくる。
「あんた、釣りが好きね……はい、これ」
私は要求通り、釣竿をナツカの分も併せて出し、2人に渡した。
「おっしゃ! クジラを釣るぜ!」
「お姉ちゃんはシャチにしよ!」
クジラもシャチもこの世界にいるのかな?
というか、そんなもん釣れるわけないじゃん。
まあ、本人たちが楽しいならいいか。
私は東雲姉妹にこの船を任せると、リースと共に再度、ヘリに乗り込む。
「戻りましょう」
「はい!」
リースは元気よく返事をすると、操縦席で色々と操作し、エンジンをかけた。
ヘリは上昇を始めると、来た道を引き返していく。
私達の視線の先には森が見えるが、煙などは見えない。
「やはり火計はやめたようね」
「ですね。あの兵は領主の独断専行と見ていいです。おそらく、今日は様子見程度で本格的なハーフリング狩りは明日にすると思われます」
私もそう思う。
敵からしたら森を囲んだ時点でハーフリングに逃げ道はない。
あとはゆっくりと狩ればいい。
「何往復もして大変でしょうが、今日中にハーフリングを船まで運びましょう」
「大丈夫です。やりましょう」
リースはエルナとニカのやりとりを見て、へこんでいたし、やる気に満ちているようだ。
私達はそのまま進んでいき、集落に戻っていった。
◆◇◆
集落に戻り、ヘリを降下させると、広場にはミサが数十人のハーフリング達を並ばせていた。
ハーフリング達は各々、最小限の荷物を持ち、不安そうに並んでいる。
その中にいたエルナは私がヘリから降りると、小走りで近づいてきた。
「ねえねえ、そういえば、何も聞いてないんだけど、これからどうするの? 皆に聞かれても答えられないんだけど」
エルナが私を見上げながら聞いてくる。
だが、その顔に不安の色はない。
ちゃんと言いつけを守っているようだ。
「船を用意しました。船で待機し、私が転移を使えるようになる4日後に南部の森に行きます」
「転移? 君、この人数を飛ばせるの?」
「私の転移に人数制限はありません」
転移は回数制限はあるが、人数制限はない。
その気になれば、1万人でも転移できる。
「ふーん、すごいね。でも、船って大丈夫? こんなに人数がいるんだけど」
「大丈夫です」
「言っておくけど、皆、泳げないよ?」
「大丈夫、私もです」
私は泳げない。
そもそも、海やプールに行っても泳いだことはない。
小学校の頃も諸事情があって、プールには入れなかった。
「これで行くんだよね? なんで飛べるのかな……魔法じゃないんだろ?」
エルナがヘリを見る。
ハーフリング達もヘリに注目していた。
「私の世界にある乗り物ですよ。飛べる理由は知りません。私は専門家ではないので」
「…………落ちない?」
「落ちませんよ。落ちるとしたらリースの操作ミスでしょうが、リースは優秀なので大丈夫です」
スキルで出せば新品のヘリが出るし、メンテンナンスがいらない。
整備不良での墜落はないだろう。
「ふーん、わかった。ちょっと皆に説明してくるよ」
「急いでくださいね。一度に運べるのは10人ちょっとです。つまり、50往復もするんですからね」
「わかった!」
エルナはハーフリング達のところに戻り、何やら説明を始めた。
ハーフリング達はエルナの言うことを特に文句もなく聞いている。
そして、エルナが指示を出すと、1人ずつ、ヘリに乗り込んでいった。
私はハーフリング達が10人ほど乗り込むと、ドアを閉め、リースに船に向かうように指示をする。
私もエルナも待っているハーフリング達も飛び上がるヘリを見上げた。
「すごいなー……ボクも飛べるけど、あんなに高くは飛べないよ」
そういえば、エルナはスキルで飛べるのか……
「私も飛べますかねー?」
「さあ? 逆にボクは転移ができないからね」
神によって、微妙に使えるスキルが異なるのかな?
私の天授もアテナのスキルを授与する力もユニークスキル的なやつだろうけど、転移や啓示なんかの神通力は共通だと思ってた。
後でエルナと持っているスキルを見比べてみるか……
「お前は先に行かなくて良かったんですか?」
「ボクは最後。本当はミルカかニカを最初に送って、先導してもらいたかったんだけど、あそこは家族がいるから時間がかかっている。さっき行った子達やこの場にいる子達は独身なんだよ。だから準備も早い」
まあ、独り身は早いだろうね。
家族がいれば、その分、時間がかかるのはわかる。
「まあ、東雲姉妹は釣りしてるだろうし、トラブルはないでしょう。まさか船から海に落ちるバカはいないでしょうし」
「絶対にいないよ。泳げないうえに臆病なんだから近づきもしない。実際、海が近いのに魚を獲ることもしなかったからね」
そういえば、海が近いのに飢饉っていうのも変な話だ。
雨が少なく、作物が減れば、その分、動物も減るだろうが、海の生物にはあまり関係がない。
魚を獲れば良かったのだが、海が怖くて、それすらしなかったと……
「お前達は本当によく今まで生きてこれましたね」
「臆病だからこそ生き残ったんだよ。見ればわかると思うけど、小さいからそんなに食べなくてもいいしね。逆に勇猛な種族の方が滅んだよ。この世界にはリザードマンとか鬼族とかいたんだけどね。そういう強い種族は真っ先に人族に滅ぼされた」
他にも亜人っていたのか……
確かにリザードマンも鬼族も名前からして強そうではある。
「ハーフリングやエルフ、獣人族、ドワーフは生き残ったんですね……」
「ハーフリング、エルフ、獣人族は森で生きられるからね。ドワーフもドラゴンを利用しているらしいし。そうやって隠れた種族が生き残り、隠れることが出来ずに戦いを選択した種族は滅んだ。リザードマンも鬼族も人族よりかははるかに強かったんだけどね…………でも、やっぱり数には勝てない。ましてや、女神アテナから加護をもらえばあっという間さ」
リザードマンも鬼族も強いから勝てると思ったのかね?
数の暴力って怖いな……
やはり長期戦は不利だな。
準備ができたら短期決戦で女神教の本部を叩こう。
「お前以外にも神はいましたか?」
「いたよ、みーんな、滅んだ。アテナは容赦しないからね」
信者の数が圧倒的すぎて勝負にすらなかったんだろうね……
「私の邪魔になりそうな者は女神アテナがすでに消してくれましたか……では、あとはその女神アテナを潰せば、この世界は私の物ですね」
「…………この話を聞いての感想がそれかー……発想が悪そのものだよ」
「別に私を悪と糾弾し、敵対しても構いませんよ?」
「おねーちゃーん」
エルナが私に抱きついてきた。
「争うことができないのなら大人しく、自分の子供たちと適当に遊んでなさい」
ハーフリングに戦力の期待をしてはいけない。
私の信者が増えただけでも良しとしよう。
「うん! そうする!」
「あと、ずっと聞きたかったんですが、この国は何て言うんですか?」
ちびっこランド?
「フライハイトだよ。誰も呼ばないけどね」
無駄にかっこいいな、おい……
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