第063話 うるせーガキだな……


 私はキャンピングカーの中で1人で目を閉じ、森の外で周囲を見張っているリースと連絡を取っていた。


『じゃあ、そっちに動きはないわけね?』

『ですね。ただ、フユミがうるさいです』


 そらね。


『逆にフユミが静かだったら怖いわよ』


 病気にでもなったんじゃないかと不安になってしまう。


『そうなんですけどね。それよりもそちらは割かし早く接触できましたね』

『まあね。でも、向こうは渋ってるっぽい』

『それは仕方がないですよ。国まで作ったのにそれを簡単に捨てるのは難しいです』


 やっぱりそうだよね。

 ましてや、私の情報が正しいかどうかもわからない。


『思ったよりハーフリングの数が多いし、信者になってくれたら嬉しいんだけど、無理をするつもりはないわ。この集落は空が開けているし、ヘリも十分に飛ばせると思う』

『わかりました。有事の際は脱出も考えておきましょう』

『よろしくね。フユミにもそう伝えてもらえる?』

『了解です。では』


 私は連絡を終えたので、スキルを切り、目を開ける。

 そして、いまだに誰も戻ってこないのでキャンピングカーを降りた。


 キャンピングカーの外では焚火を使って、ご飯を炊いているミサとそれを見ているナツカとミルカがいた。


「どう?」


 私は皆のところに近づき、ミサに声をかける。


「焚火で炊飯は難しいんですけど、エルフの皆さんと研究しましたんで大丈夫です」


 ミサはすごいなー。


「ご飯だけでいいですか? おかずは?」


 今度はミルカに声をかける。


「大丈夫だと思います。仲間が鹿を回収に行きましたんで」


 やっぱりあの鹿は食べるのか……


「お前達は肉食なんですね。エルフは肉食をあまり好まないんですが……」


 エルフは米が好きらしく、米ばっかり食べている。

 たまに魚を食べるくらいだ。


 逆に獣人族は肉ばっかり食べている。

 某キツネは甘いものばっかりだけど……


「ハーフリングが食べるものは人族と同じです。バランスよく食べるんです」


 バランスよく食べないと大きくなれないもんね!


「なんで私の頭を撫でるんです?」


 だって、子供にしか見えないんだもん。


 皆でミサがご飯を炊いているところを見ていると、ご飯が炊けた。

 ミサが炊けたご飯をお茶碗によそい、ミルカに渡したので、私は木のスプーンを渡し、ご飯の上に鮭フレークをかけてあげる。


「食べていいですよ」


 私が許可を出すと、ミルカが慎重にご飯を食べだした。


「あ、美味しい!」


 食べたことのない食べ物に警戒していたミルカだったが、一口食べた後は勢いよく、食べだした。

 お茶碗にあったご飯はどんどんとミルカの口の中に入っていき、すぐにお茶碗が空になる。


「すごく美味しかったです!」


 ミルカは溢れんばかりの笑顔だ。


「米の炊き方はわかりましたね? この炊き方を皆に教えてきなさい」


 私は大量の米を出すと、ミルカの頭を撫でた。


「あ、ありがとうございます! よいしょっと!」


 ミルカはお礼を言うと、30キロもある米袋を1人で担いだ。


「すごいですね…………自分より重そうなのに」


 小学生低学年にしか見えない子供が30キロの米袋を担いでいるのはすごい光景だ。


「これくらいは余裕ですよ」


 ミルカはそう言って、米袋を担いで集落へ戻っていった。


 私達はそんなミルカを見送ると、キャンピングカーの中に入る。


「私達もご飯にしましょうよー」

「私もお腹が空いたー」


 確かにいい時間かもしれない。


「そうですね。では、心の狭い私がスパゲッティを出してあげるので、鼻で食べてください」


 誰がジャイア〇じゃい!


「うわっ……根に持ってる……小っちゃ」

「言ったのはメガネです。私は言ってません」

「おいコラ、アホメイド!」




 ◆◇◆




 ハーフリングの王様に状況を説明してから2日が経った。

 いまだに返事は来ていない。


「大丈夫ですかねー?」


 ミサが漫画を読みながら聞いてくる。


「今のところは大丈夫じゃない? 氷室の工作も上手くいったみたいだし」


 氷室は中央の教会や兵の詰所で爆弾テロをしたらしい。

 そして、月城さんや生徒会長と上手く口裏を合わせたため、氷室は捕まっていない。

 現在、女神教の兵は中央で犯人を捜索していると氷室から報告があった。


「こういうのをやらせると右に出るものはいませんねー。このままひー様が転移を使えるようになるまでに兵が来なければ万々歳です」

「まあねー」


 私が転移を使えるようになるまで後3日だ。


「まあ、どちらにせよ、早いに越したことはないですよね」

「だねー」


 しかし、遅いわ。

 慎重なのはわかるが、状況を理解できていないんだろうな。


 私がまだかなーと思っていると、ノックの音が車内に響く。


「ナツカ、出てー」

「はーい」


 ナツカはドアのところまで行き、ドアを開けた。


「こんにちは」


 この声はミルカだ。


「あー、今日の分ねー」


 私は立ち上がると、キャンピングカーを出て、米袋を出し、地面に置いた。


「ありがとうございます!」


 米袋を見たミルカがお礼を言ってくる。


「別にいいですよ。米の評判はどうです?」

「皆、美味しいって言ってます。それとヒミコ様に感謝しています」

「それは良かったです。皆の幸福は私の幸福でもありますので、嬉しいです」


 はよ、信者になりな。


 ミルカが米を担ぎ上げると、集落からイルがこちらにやってくるのが見えた。


「ミルカ、旦那が手助けに来ましたよ」


 私はイルを指差しながらミルカに教える。


「あ、ホントだ…………でも、あれは私の手助けではないです。ヒミコ様の迎えでしょう」


 結論が出たのか……

 さて、どんな結論を出したのやら。


 私達がイルを見ていると、イルが手を挙げながらこちらにやってきた。


「今日ももらったのか?」


 イルが米袋を担いでいるミルカに聞く。


「ええ。私はこれを皆に渡しにいってくるわ」

「頼む」


 イルが頷くと、ミルカは集落の方に歩いていった。


「手伝わないんですか? 奥さんでしょう?」


 私はミルカを見送りながらイルに聞く。


「手伝う? ああ……ハーフリングは見た目がこんなんだが、実は力が強いんだ。あのくらいなら子供でも楽に持てるよ」


 子供でも持てる……

 子供しかいないくせに……

 なんか頭が混乱しそう……


「まあいいわ。それよりも何の用?」


 用件はわかっているが、一応、聞いてみた。


「ああ、陛下がお会いしたいそうだ。先日の城まで来てくれ」

「いいですよ」


 私は頷くと、ミサとナツカを連れて、イルと共に集落に向かって歩いていく。


「結構、時間がかかりましたね」

「難しい問題だからな……」


 本当は難しくないんだけどね。

 ハーフリングが生き残る道はもう1つしかないのだ。


 私達は歩いて集落まで来ると、そのまま奥にある城に向かっていった。


 集落内を私が歩いていると、以前に来た時よりも多くのハーフリング達が私を見てくる。

 ハーフリング達は以前に来た時よりも私への警戒心が下がったようだ。

 中には私に向かって頭を下げてきている者もいる。

 多分、お米のお礼だろう。


 私はそんなハーフリング達になるべく優しく微笑んであげているのだが、私が微笑むと皆、固まってしまい、すぐに逃げていった。


「やっぱりかわいくない……」

「あんたは怖いんだよ……」


 怖いんだってさ。

 こんなにも優しいのに……

 あ、でも、ハーフリングから見たらでかいか……


 私が仕方がないかーと思っていると、先日も来た城という名の屋敷に到着した。

 私は屋敷の前に来ると、屋敷を見上げる。


「どうかしたか?」


 屋敷を見上げ続ける私にイルが声をかけてくる。


「いえ…………行きましょうか」


 私はイルの問いを濁し、屋敷に入ることにした。


 屋敷に入り、通路を抜けて、先日の部屋の前まで来ると、イルを見る。

 イルが頷いたため、扉を開けて中に入った。


 部屋の中は先日と同じように真ん中に王様がいて、部屋の両サイドに20人くらいの子供がいる。


「お待たせしました、ヒミコ様」


 王様が私に向かって頭を下げた。


「いえいえ。それで? どうすることにしたんです?」

「はい…………ヒミコ様、我らと同盟を結びませんか?」


 この期に及んで同盟って……

 ハァ……

 ホントにこいつは……


 私は内心呆れながらも天井を見上げた。


「話になりませんね」

「し、しかし…………」

「お前では話になりませんから黙っていなさい」


 私は天井を見上げたまま、王様を叱責する。


「え……?」


 王様がつぶやくと同時に私が見ている天井を見上げた。

 他の者も同様に見上げる。


「いつまで私を見下ろしているつもりです? このヒミコを敵に回す気ですか?」


 私は天井に向かって問いかけるが、誰も何も答えない。


「…………わかりました。私に逆らう者はこの世にはいりません。女神教の軍が来る前にこの森を消しましょう」


 火炎放射器でいいかな?

 それとも勝崎に爆撃を命じようか?


「――や、やめろ、邪神!! 何をする気だ!?」


 私が見ている天井に1人の少女が現れ、宙に浮いたまま、私に向かって怒鳴ってきた。

 その少女は小柄であり、茶髪の子でお人形さんみたいにかわいらしい。

 そして、髪に花飾りをつけている。


「邪神? この幸福の絶対神である私に何を言うのです」

「黙れ! それは自分で書き換えたものだろう! カルト教団から生まれた神が邪神じゃないわけない!」


 おや?

 バレてる。

 女神アテナはあっさり信じたのに。


「随分と無礼ですね」

「無礼なのはお前だ! ボクの信者を奪いにきたくせに!」


 まさかのボクっ娘……


「ふふっ」

「何が可笑しい!?」


「いえいえ。どうでもいいからさっさと降りてきなさい。いつまでもお姉さんを見下ろすもんじゃないですよ?」

「誰がお姉さんだ! この前生まれたばかりのくせに! ボクは1000年以上も生きているんだぞ!」


 女神アテナといい、こいつといい、誇れるものが年数しかないのかな?


「あのー、ひー様、もしかしなくても、このボクっ娘って、神様です?」


 後ろにいたミサがおずおずと聞いてくる。


「ぼ、ボクっ娘……!?」


 ボクっ娘神がショックを受けているがその通りでしょ。


「ハーフリングの神ですよ。1000年以上も生きて、これだけの信者しか集められなかった可哀想な神です」


 1000年で1000人以下。

 今まで何をしてたんだ?


「か、可哀想っ!? いや、お前だって、たいして変わらないだろ!」

「私はあっちに1万人の信者がいますよ? 彼らの祈りで生まれたのが私です」

「え!? い、1万!? ………………いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………」


 ボクっ娘神は指で数を数え終えると、スルスルと降りてきた。


「…………えへ」


 ボクっ娘神は後頭部に左手を置き、笑ってくる。


「ふふっ、ふふふ」


 相手が笑ったので私も微笑み返した。


「ど、どうめー…………しよ? ね? 一緒にあのババアを倒そう、よ」


 まだ言うか……

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