第059話 私の仕事は皆に微笑むことだったはず!


 私とミサとナツカの3人は森に入ると、周囲を警戒しながらハーフリングを探す。


「いませんねー……」

「だなー……」


 ミサとナツカがテンションを低いままつぶやく。


「まだ始まったばかりですよ? 頑張って探しなさい」


 まだ2時間しか経ってない。


「ひー様がいつの間にか教祖モードになってるし」

「その微笑みさー、やめたら? 怖いよ? 目がまったく笑ってないし」


 威厳!

 もうハーフリングと接触するかもしれないし、第一印象が大事だから。


「私のことはいいから探しなさい! 敵がいつ来るかわからないんですよ? もし、ハーフリングを見つける前に敵が来たらさすがに撤退です」


 ハーフリングには悪いし、かわいそうだと思うが、優先順位的にはまだ信者になっていない者達より、ミサやリース、東雲姉妹が大事だ。


「はーい……」

「と言ってもさー、向こうは隠れてるわけでしょ? 無理じゃね?」


 うーん、獣人族は向こうから接触してきたしなー。

 確かに隠れられると厳しいかも……


「ミサ、穏便に私の来訪を叫びなさい」


 向こうから接触してくるかもしれない。


「穏便に叫ぶんですか? うーん、やってます…………ハーフリング共! 聞けっ! 偉大なる絶対神であらせられるひー様がお前達を救いに来たぞ! 出向くのが礼儀であろう!!」


 うん、こいつを信じた私がバカだった。


「お前、穏便という言葉を知っていますか?」

「だって、叫ぶ時ってこれですもん……」


 ミサには無理か……

 ナツカは…………もっと無理だな。


「仕方がありません。地道に探しましょう。多分、奥でしょう」


 隠れてるわけだし、浅い所にはいないだろう。

 多分、どこかに住まいか集落みたいなところがあると思う。


 私達はその後もハーフリングを探し続けるが、気配すら見つけられず、時間だけが過ぎ去り、夕方となってしまった。

 森の中は日が沈み始めると、すぐに暗くなるため、私達は少し早いが、キャンピングカーで休むことにした。


 そして、翌日、朝早くから再び、ハーフリングを捜索する。


「いないですねー…………あ、鹿だ!」

「よし、撃とう!」


 ミサが鹿を見つけると、ナツカが銃を向ける。


「よしなさい、動物好きのくせに……」


 ナツカは相当、ストレスが溜まってるっぽいな……


「冗談ですよー……鹿肉って美味しくなさそうだし」

「そもそも、誰が捌くんです?」


 ミサがナツカに聞く。


「お前。料理できるだろ」

「絶対に嫌ですよ! 魚以外、捌いたことないし!」


 誰だってそうでしょ。

 どこの世界に鹿を捌いたことがあるJKがいるのよ?


「お前達はもうハーフリング探しに飽きましたか?」


 今日はもうほぼ雑談をしながら探している。

 向こうにこっちの存在を教えているようなものである。


「飽きてはいないですけど……」

「見つかる気がしない。そもそも、こんなに簡単に見つかるんだったら女神教も苦労してないでしょー」


 まあ、そうなんだけど、少しはやる気を出してほしいものだ。


「こういうのが得意な子を連れてくればよかったですね」


 誰だろ?


「氷室ですか?」


 ホントだ……

 でも、あいつは他の仕事がある。


「以前にも同じ様な会話をしましたね。氷室を中央に置いたのは失敗だったか……」


 便利な男だし、色んな事ができる人材は貴重だ。


「まあ、そうかもですけど、強力なスキルを持つ生徒や先生が危険であることは間違いではないですし、氷室を潜入させたままにしておいたのは正解だったと思います。むしろ、教団員に氷室みたいな特殊戦闘員が少ないことに問題がありましたかね?」

「といっても、信者の大半は普通の日本人ですからね」


 多少の訓練や銃器の扱い方は学んでいるが、特殊なことはできない。


「ウチらって、基本は戦わずに賄賂とかでやってましたから……さっさと氷室に生徒達を始末させて、エルフとか獣人族を鍛えさせてはどうでしょう?」

「うーん、そうした方が良さそうですね」


 ミサにしてはいいアイデアだわ。


「どうでもいいけど、あの鹿って、なんで逃げないんだろ?」


 ナツカがじーっと鹿を見ながら聞いてくる。

 確かに鹿はこっちを見ているが、逃げるそぶりを見せない。


「そういえば、そうですね。鹿なんかは人が来たら普通は逃げるでしょうに」


 そもそも、こんだけペチャクチャしゃべっているのに遭遇するとは思えない。


「ここ異世界ですし、生態が違うのかも……鹿に見えて、実は肉食獣だったりして」


 ミサがそう言うと、ナツカが銃を構えた。


「よしなさいって」


 私はナツカを止める。


「どうします? スルーします?」


 ミサが聞いてきたので、鹿をじーっと見た。


 どう見ても鹿ね……

 私達の方を見ているし、気付いていないということもない。


 うーん……………………ん?


「ナツカ、鹿の足が変ではないですか?」


 鹿の右後ろ足が動いていない気がする。


「あ、何かに引っかかってる!」


 ナツカが何かに気付き、鹿に近づく。

 鹿はそんなナツカから逃げようと暴れるが、やはり右後ろ足が動かないので逃げられない。


「あ! 罠だ!」


 鹿に近づいたナツカが叫んだ。


「罠?」

「トラバサミ的なやつ!」


 怖っ!

 この森はそんなものがあるのか……

 私達がかかったら危ないじゃん。


「待てよ……ナツカ、こっちに戻ってきなさい」

「はーい」


 ナツカがトコトコと戻ってくる。


「ナツカ、間違いなく、トラバサミだった? 人が作ったもの?」


 私は戻ってきたナツカに罠の詳細を尋ねた。


「ですね。足に食い込んでて痛そうでした」


 聞くだけで痛そう……


「なるほど…………」

「どうかしました?」


 ナツカが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「獲物を獲るためにハーフリングが仕掛けたんでしょう。でしたら必ず、戻ってきます」

「おー! なるほど! 戻ってきたところを捕まえる訳ですね!」

「そういうことです。ナツカ、ミサ、落とし穴を作りなさい」


 私はスコップを2つほど出して、ミサとナツカに渡した。


「え? めんど……」

「落とし穴? 本当に捕まえるんですか?」


 2人は嫌そうだ。


「ハーフリングと接触しても逃げるだけでしょ。そして、逃げられたら私達では追えません。ならば、一度、拘束しましょう」

「はぁ……? それはまあ、わかるんですけど、落とし穴を掘るのをスコップでやるんですか?」

「きつくない?」


 わがままな子達だよ……


「じゃあ、これでやりなさい」


 私はそう言いながらミニバックホウを出す。


「最初からそれを出してくださいよー」

「ホント、ホント」


 2人が文句を言いながらスコップを返してきた。


「誰も使えないからスコップを出したのよ。スコップなら確実なの」

「あ、そういえば、これはどうやって使うんです?」

「私が青木から聞きながら指示を出すわ…………ミサは……やめとくか…………ナツカ、乗りなさい」

「はーい」


 ミサは車の運転を見る限り、あまり器用ではないだろうし、ここはナツカだろう。

 まあ、ナツカもあまり器用ではない方だけど。


「乗りましたー」


 ナツカが操縦席に乗ると、報告してくる。


「すごい違和感ですね……」

「メイド服だもんね」


 メイド服を着た金髪ギャルがバックホウに乗ってるのはミスマッチが過ぎる。


「ひー様が乗れって言ったんだろー」


 私達の反応を見たナツカが文句を言ってきた。


「ごめん、ごめん。えーっと、まずは少し前に出なさい。レバーを前にして」

「レバー? どれ?」

「え?」


 私は首を傾げるナツカのもとに行き、運転席にある操作レバーを見た。

 レバーがいっぱいあった……


「えーっと、青木が言うにはこれらしい」


 私は青木とスキルを使った脳内会話をしつつ、ナツカに指示を出す。


「あのー……我らの神であり、教祖であるひー様にこれを言うのもなんなんですが、ひー様がやった方が良くないですか? 正直、この伝言ゲームって、めっちゃ手間ですし、手間取っていると、ハーフリングが戻ってくるかもしれないですよ?」


 ナツカが困ったような顔でめっちゃ正論を言ってきた。


「私に働けと?」

「今はそんなことを言っている時ではなくないですか?」


 敵がいつ来るかもわからない状況で、早くハーフリングを見つけたい。

 うん、ホント、正論だわ。


「…………降りなさい。私がやるわ」

「すみません」


 ナツカが申し訳なさそうに大人しくバックホウの運転席から降りたので、私が乗り込む。


 えーっと……これだったな。


「ナツカさんのメイド服もでしたけど、ひー様の真っ赤な和服も違和感がすごい」

「ヘルメットじゃなくて、金の髪飾りだしな」


 うるさいな……


 私は使ったこともない機械を使って、やったこともない落とし穴作りを始めた。


 ところで、そこの2人はどうして俯きながら肘でお互いの横腹をつつきあっているのかな?

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