第058話 地理がわかんねー……


 キャンピングカーで1泊した私達は朝起きると、朝日が気持ち良い外で顔を洗っていた。


「……………………」

「……………………」


 昨日、一緒に寝たミサとリースは一切、しゃべらないし、お互いの顔を見ない。


「あんたら、何かあった?」


 私はタオルで顔を拭きながら2人に聞く。


「別に…………」

「何でもないです」


 ミサもリースも顔を背けたまま、そっけなく答えた。


 マジで何があったのだろう?


「フユミ、何か知ってる?」


 私はニヤニヤしながらミサとリースを見ていて、何かを知ってそうなフユミに聞く。

 なお、姉のナツカはまだ寝てる。


「一緒に寝てて、起きたら抱き合ってたんですよ。だから気まずいんです。その時の2人の表情がめっちゃ笑えた!」


 ……………………ふふっ。


「おいコラ、東雲姉妹のアホな方!」

「お前、言うなっつったろ!」


 ミサとリースが同時に怒った。

 仲いいね。


「ひー様が聞くからー」

「いや、それでも黙っとけや!」

「…………というか、ひー様、なんで顔を背けているんですか?」


 後ろからリースの声が聞こえる。


「ふっ……ゴホッ! ちょっと喉の調子が悪くてね」


 風邪かな?


「いや、笑ってますよね? 何がそんなに面白いんですか?」

「あんたら、仲良いじゃん。素晴らしいことだと思うわよ…………ふふっ」


 ウケる。


「……………………」

「……………………」


 ミサとリースが閉口し、嫌そうな表情で顔を見合わせた。


「おはー……あれ? ミサとリースは何をしてんの? ちゅーでもすんの?」


 体操服を着たナツカが寝ぐせのままキャンピングカーから出てきた。


 さすがは東雲姉妹のアホな方(その2)……

 空気が読めない…………


「…………さっさと準備して出発しよう」

「…………そうね」


 ミサとリースはお互いの顔を見ずに同意する。


「なあなあ、何かあったん? 私、のけ者は嫌なんだけど……」


 いつまでも寝てるからでしょ。


「ほら、ナツカ、いいから顔を洗いなさい。ご飯にするわよ」


 そろそろ笑うのはやめておこう。

 仲が悪くなりすぎて、派閥を作られたらたまらんし。

 まあ、悲しいかな、ミサにつく人はあんまりいないと思う。




 ◆◇◆




 私達は朝食を食べ、着替え等の準備を終えると、私が出した別の車に乗り込む。

 今回はミサではなく、目的地を知っているリースが運転する。

 そして、前回のリースと東雲姉妹の後部座席でのケンカの反省を踏まえ、広めの車を出した。


 私が助手席に乗り、ミサと東雲姉妹が後部座席に乗っている。


「では、出発しますね。到着は昼過ぎになると思います」


 リースがシートベルトを装着しながら言う。


「了解」

「はい」

「出発だぜー!」

「れっつらごー!」


 東雲姉妹はどんな時でも明るいなー。


 リースが車を発進させると、車が揺られながらも進んでいく。


「昨日のヘリの後だと、遅く感じるわね……」


 私は窓から外を眺めながらボソッとつぶやいた。


「それは仕方がないですよ。これでも馬車や馬よりかは速いんですよ?」

「まあ、車だしねー」

「時間もかかりますし、皆さんは休んでていいですよ」

「あんたは昨日もヘリを操縦してんのに頑張るわね」


 よく働くわ。


「先に言っておきますが、向こうに着いたら私は何も出来ません。ハーフリングは魔法への感知も得意なので、私が行くと警戒されます」

「そうなの?」

「はい。ですので、私は森の外で兵が来ないかを見張っています」


 あー……そっちの人員もいるか。


「わかった。フユミ、あんたもリースと一緒に森の外に残りなさい」


 私は後部座席にいるフユミに声をかける。


「え? あたしも?」

「リースを1人で残しておくわけにいかないでしょ。森にはミサとナツカを連れていくわ」

「なるほど-。わかった!」


 素直だわ。

 フユミもナツカも素直になって、静かにしていれば、モデルとかになれるだろうに。

 いや、別になりたくないか…………


「ナツカ、ハーフリングを撃つんじゃないわよ」

「いや、撃たねーわ」

「森で視界がきかないのよ? 急に出てきても撃つなって言ってんの」


 ビックリして、反射的に撃つかもしれない。


「あー…………うーん、私、ひー様の護衛だからなー……」

「相手をよく見なさいね」

「がんばる」


 がんばれ。


 私達が森に着いた後の予定を決めたり、雑談をしていながら進んでいくと、昼になったため、私が出した菓子パンを車に乗りながら食べる。

 そして、さらに進んでいくと、前方に森が見えてきた。


「あれ?」

「ですね。名前もない小さな森です」


 普通に大きい森に見えるが、エルフや獣人族が住んでいる南部や西部の森よりかは規模が小さいのだろう。


「兵は…………いないわね」


 私は周囲を見渡してみるが、兵どころか旅人もいない。


「この辺には村もないので人族はいません。まあ、だからハーフリングはここに逃げたんですよ」


 臆病らしいからなー……


「兵はどこから来るの?」

「あっちです」


 リースが私が座っている方向を指差す。

 でも、見渡す限りの地平線だ。


「何もないわよ?」

「それぐらい離れているんですよ。でも、そこにある町は女神教発祥の地と言われる聖地です。町の規模も大きいですし、兵力もかなりのものですね」


 ハーフリングはそんな所に住んでるのか……


「ハーフリングはよく今まで生き残れたわね……」

「ハーフリングは獣人族やドワーフのように強いわけではないので女神教にとって危険性があまりないですからね。エルフのように奴隷として需要があるわけでもないですし…………これまでは女神教からしたら眼中になかったんだと思います」


 でも、私が現れたから処分するわけか……

 ハーフリング自体が戦力になるわけでないが、私の信者になって私の力が上がるのを怖れたわけね。


「なんか悪いことをしたわね」


 私が来なければ、平和だったのかもしれない。


「時間の問題だったような気がしますけどね。優先順位が低いってだけで異教徒の亜人であることは間違いないですから」


 それもそうか……

 いつでも潰せるし、獣人族とかの方の対処が優先だわな。


「ちなみに、ハーフリングの信仰は何?」

「すみません。それはわかりません。私も長いこと生きていますし、色んなところを旅しましたが、ハーフリングに会ったことは数える程度です。というか、ハーフリングは見た目が子供なだけなもんで、人族と区別がつかないんです」


 だったら町に隠れ住めば…………ダメか。

 子供ばっかりが集まってたら怪しまれるし、ロクな仕事もないだろう。


「まあ、仕方がないわね。直接会って聞いてみるわ。どちらにせよ、敵対しないなら好きにすればいいし」


 何を信仰しようと別にいい。

 女神教はダメだけどね。


 私とリースが話していると、森の前まで来たため、車が停車する。


「着きましたよ」


 リースがエンジンを切り、シートベルトを外したため、私達は車から降りた。


「ようやく着いたわねー」

「ですねー」


 私とミサは背伸びをしながら腕を伸ばす。


「リース、お疲れ!」

「さんきゅー!」

「いえいえ。ドライブは好きですからね。無免許ですけど」


 そういえば、異世界人のリースは免許を取れないのか……

 いや、日本でも普通に乗ってなかった?

 あれ、無免許なのかよ……


「さて、じゃあ、リースとフユミはここで待機で、私とミサとナツカで森に入るでいいわね?」


 私は最終確認をする。


「ですね。ひー様、転移はいつできますか?」


 リースが聞いてくる。


「あと7日後ね」

「では、帰還はそのくらいですかね?」

「敵がいるからね……7日以内に説得が上手くいけば、バスでさっさと逃げましょう。道中で時間になれば、転移すればいいし。まあ、バスを4、5台も出せばいけるでしょ」


 ハーフリングが何人いるかはわからないが、子供サイズらしいし、詰め込めばいけると思う。


「それまでの間に敵が来た場合はどうしましょう?」

「敵が来た方向とは逆から逃げればいいじゃない」


 あとはバス。

 騎兵よりかは速いでしょ。


「逆は海なんですけど……」


 え?

 海あんの?


 私は町があるという方向とは逆の方向を見てみる。


「見えない……」


 ずっと地平線だ。


「よーく見てください」


 見えねーわ。

 いや、待て……

 リースって、ハーフエルフだから目が良いのかもしれない。


 私はスキルで双眼鏡を取り出して、覗いてみた。


「あー……あれか。確かに海っぽいわね」


 地平線の先が薄っすら青い。

 あれが水平線かな?


「どうしましょう?」

「あんた、船は操縦できる? 大型船」

「操縦したことはないです」


 だよね……

 いくらリースでもそんなことはしたことがないだろう。


「うーん、敵がいないところから脱出しましょう。どうせ、そんな兵力は出してこないだろうしね。あんたらは敵を見つけたら森に入って私達と合流しなさい」

「了解しました。では、ひー様、これをお持ちください」


 リースがそう言って、布でできたお守りを渡してくる。


「何これ? 神である私にお守りを渡されてもね」


 誰の加護をくれるの?


「これはお守りではなく、マジックアイテムです。私はこれを持っている人の居場所がわかるんですよ。これがあれば、ひー様が森のどこにいようと合流できます」


 なるほど。

 森で合流って簡単に言ったけど、普通に考えれば難しいか。

 でも、このストーカーアイテムって結構ヤバくない?


「あんた、このアイテムで私をストーキングしてないでしょうね?」

「いや、そもそも、ひー様には常に護衛や監視をつけてましたよ。ひー様に何かあったらマズいですし」


 だからそういうことを報告しろよ……

 そんなことをしているということを初めて知ったわ。


「言いなさいよ」


 リースって、優秀だけど、肝心の報連相をしないな……


「すみません。当然という認識でしたので……教団が大きくなればなるほど敵も増えますし…………実際、何人かの刺客も捕らえました」


 あー……よく考えたらその辺をまったく意識していなかったな。

 ウチの教団は色んな利権に絡んでるし、いくら平和な日本でも暗殺者や鉄砲玉もいるか。


「なるほどね。そいつらは?」

「当然、処分です。敵対組織もいろんな方法で処分です」


 物騒だが、これは別に良い。

 私の命を狙う愚か者は死ぬべき。


「よろしい。じゃあ、これは私が持っておくわ。何日かかるかはわからないからキャンピングカーを出しておくわね」


 私はリースから受け取ったお守りみたいなマジックアイテムをしまうと、いつものキャンピングカーを出す。


「ひー様、C4もください」


 C4?

 プラスチック爆弾?


「いいけど、何に使うのよ? 言っとくけど、敵と戦ってはダメよ」


 いくらリースとフユミでも2人では軍隊に勝てないだろう。


「いえ、有事の際にはキャンピングカーを爆破します。敵に渡すとマズいので」


 なるほどね。

 この世界の文明レベルで技術流用は難しいだろうが、敵に渡してやる必要もない。


「わかったわ。危ないから扱いには注意しなさいね」


 私は念のため、C4爆弾と遠隔起爆装置を10個くらい出した。


「慣れているので大丈夫です」


 慣れている?

 さすがはテロリスト。

 こら、公安にマークされるわけだわ。


 私は一応、マシンガンも複数出し、リースに渡していく。

 リースはそれらを魔法を使って収納していった。


「いい? 極力、戦闘は避けなさい。まずは私達との合流が先」

「わかってます」

「フユミもいい?」

「はーい!」


 大丈夫かな?

 リースもフユミも好戦的だからなー……

 といっても、残りのミサとナツカも好戦的なんだけどね。


「よし! じゃあ、私達は森に入るから後はお願いね」

「お任せを!」

「おまかせをー」


 まあ、私のかわいい子を信じてあげよう。


「ミサ、ナツカ、行くわよ」

「了解です」

「りょ」


 私はミサとナツカと共に森に入っていく。


 しかし、最近、森ばっかりだな……

 森ガールって名乗ろうかな?

 ファッション的には真逆だけど……

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