第057話 5人旅in異世界


 私達はヘリに乗り込み、東部にあるハーフリングが隠れ住む森を目指している。

 ヘリは単純に車よりも速いし、空には遮蔽物もないため、予定よりも早く進んでいた。


「どのぐらいでつきそう?」


 私はヘリを操縦しているリースに聞く。


「このままいけば、今日中には着きそうですが、ヘリでは森の近くまでは行けません。敵に見つかるかもしれませんし、ハーフリングがヘリを怖れて、隠れる可能性があります」


 確かに女神教に見つかれば、火を放つ計画を進められるかもしれない。

 ハーフリングにしても、空飛ぶ鉄の塊がやってきたらビビるだろう。


「本当ならハーフリングみたいな相手は使者を立てて、順序よく、事を進めた方がいいんだけどね……」

「こればっかりは仕方がありません。今日はある程度まで行ったら着陸し、休みましょう。そして、明日の朝、車で出発すれば、昼には到着できると思います」


 地理を知らない私はここがどこかは知らないが、すでに昼は過ぎているし、かなりの距離を飛んできていた。

 その間、給油という名のヘリの交換をした。


 私のこの物を出すスキルの地味にすごいところは物を出して、消して、また出せば、出てくる物は新品で燃料も満タンになることだ。

 これにより、一度、降下する必要はあるが、給油もいらないし、すぐに飛び立つことができる。

 そして、これはヘリなどの乗り物に限らず、武器や仮設住宅もである。


 武器も常に新品を出しておけば、メンテナンスもいらない。

 仮設住宅も壊れたり、古くなったら新しいのを出せばいい。


 実に便利な能力である。


 あっちの世界に帰ったらこの能力を使って、経済支配をしてもいいかもしれない。

 逮捕されなければだけど……


「そうしよっか。じゃあ、適当なところで降りて」

「了解しました」


 到着は明日か……

 急ぎたい気持ちもあるが、このまま行ったら夜になってしまう。

 ハーフリングが隠れている森がどんな森かは知らないが、夜に森は危険だろう。

 こればっかりは仕方がない。


「あのさ、ハーフリングってどんなの? ボビットみたいに小さいの?」


 私はハーフリングを見たことがないのでリースに聞いてみる。


「見た目は完全に人族の子供ですね。寿命はエルフほどではないですが、長いです。ただ、100歳を超えても見た目はそのままなので、他種族からしたら何歳かまったくわかりません」


 合法ショタ、合法ロリ種族か……


「そいつらも奴隷とかになってんの?」


 マナキスではハーフリングの奴隷はいなかった。

 フランツからもハーフリングの奴隷のことは報告がない。


「微妙です。そもそも、ハーフリングは臆病なので、捕まえるのは難しいんです。それに捕まえても、力仕事は出来ないでしょうし、こう言ってはなんですが、あまり役には立たないんですよ。だから市場にはほぼ出ないと思います。出ても特殊な金持ちが買うくらいじゃないですか?」


 ロリコンさん、ショタコンさんが買うのか……

 でも、ハーフリングを買える金を持っているヤツは別にハーフリングじゃなくても、どうにかなりそうだわ。

 希少価値があって、絶対に高くなりそうなハーフリングを買うより、安い子供を買えばいい。

 この世界はその辺が緩そうだしね。


「だからエルフみたいな養殖計画はなく、単純に森を燃やして絶滅させようって考えか……」

「多分、そうだと思います」


 しかし、女神教は本当に亜人を人として見てないな……

 やっぱり人権って大事だわ。


 私がリースからハーフリングの情報を聞いたりして話をしていると、空が茜色に変わってきた。


「ひー様、今日はこの辺でよろしいでしょうか?」


 リースはもう降下したいようだ。

 気持ちはわかる。

 夕日が眩しいもん。


「今日はもう休みましょう。適当な場所で降りて」

「はい」


 リースが返事をして、そのまま進んでいくと、ヘリはすぐに降下を始めた。

 降下して、エンジンを止めると、東雲姉妹がいつものように真っ先に降りていく。

 私とミサも東雲姉妹に続いて降りると、ヘリの近くには大きな岩山があった。


「ひー様、あそこの岩山の近くでキャンプをしましょう」


 リースがヘリから降りてきて、近くにある岩山を指差す。


「そうしよっか」


 私は頷き、スキルでヘリを信者ポイントに戻すと、岩山に向かって歩いていった。

 そして、岩山のふもとまで来ると、いつものキャンピングカーと椅子を出す。


「あー、疲れた」

「ホントだよね」


 ヘリの後ろで静かに漫画を読んでいただけの東雲姉妹が真っ先に椅子に座り、休みだした。

 まあ、いつものことである。


 私とミサとリースも椅子に座り、身体を休める。


「リース、運転お疲れ様。何か飲む?」


 私は朝からずっとヘリを操縦していたリースをねぎらう。


「リンゴジュース!」

「オレンジジュース!」


 リースが何かを言う前に何もしていない東雲姉妹が要求してきた。

 残念ながらこれもいつものことである。


 私は無言で2人にジュースを渡し、再び、リースを見た。


「あ、紅茶をお願いします」


 リースがそう言ったので、私はペットボトルの紅茶を出した。

 そして、自分とミサ用のキャラメルマキアートを出し、ミサに渡す。


「よくわかりましたね」


 ミサがそう言いながらキャラメルマキアートを受け取った。


「あんた、それが好きだもんね」

「ひー様もでしょ」


 まあね。

 2人で出かけた時はよくこれを飲んでいた。


「ご飯はどうする? またバーベキュー?」


 皆が思い思いに飲み物を飲んでいるので聞いてみる。


「2日連続ですよね? さすがに今日は別のものを食べましょうよ」


 正直、ミサはそう言うと思った。

 実は昨日の夜もバーベキューだったのだ。


「じゃあ、普通のご飯にしましょうか。リース、何がいい?」


 一番働いたリースに聞いてみる。

 でも多分、東雲姉妹が先に言うんだろうなー……


「「パスタ!」」


 予想通り、東雲姉妹が双子らしく、声を揃えて要求してきた。


「パスタはいいですね。ここのところは食べてませんし」


 リースは東雲姉妹に賛成らしい。


「ミサ、あんたもそれでいい?」


 ミサだけ別のものを食べるという選択肢もある。


「私はカルボナーラでお願いします」


 ミサもパスタでいいらしい。

 じゃあ、今日はキャンプしながらパスタかー。

 ホント、情緒がないわ。


 私達は外で夕日を眺めながらおしゃべりをし、暗くなると、キャンピングカーに入り、パスタを食べ始めた。


「レトルトじゃないパスタが出てきた!」

「普通に店にあるやつが出てきた!」


 東雲姉妹は嬉しそうにパスタを食べている。


「触れたものなら何でも出せるからね。これらは私がお店で食べたことがあるやつ」


 私は教祖なだけあって、お金をいっぱい持っていたから色んなところで食事をしている。

 時には賄賂とかを渡す所っぽい料亭で接待を受けたこともある。


 賄賂?

 もらってないよ。


 逆に渡してやった。


「ひー様についていくと、美味しいものが食べられるから幸せでしたね」


 私の巫女さんは食べてばっかりだったな。

 まあ、主に人と話していたのはリースや他の者だったから私もなんだけどね。


「懐かしいわね。皆が難しい話をしてる横で私とミサはひらすら食べてたわ」


 話していた内容も今なら多少、わかるが、その時の私とミサは中学生だったからイミフだった。


「ですねー。本当ならひー様は威厳を持たせるためにじっとしてて、ひたすら微笑んでいればよかったんですけどね。でも、教団員は誰もひー様にそんなことを言えないから大人達の悪い談合の横で中学生女子がずっとご飯を食べてる異様な光景でしたね」


 今思えば、確かに異様だ。

 あの政治家さんや警察のお偉いさん達はよくそんな教団とに手を組もうと思ったな。

 リースとか、頭の良いヤツらが優秀だったのかね?


「あいつらを買収するのにいくらかかったのかな?」

「さあ? リース、いくらかかった?」


 ミサがリースに尋ねるが、リースはふふっと笑うだけで答えない。


「聞かない方がいいのかな?」

「多分…………」


 リースの表情から教えてくれないオーラを察した。

 多分、めっちゃかかったんだろう。


「うーん…………まあいっか。それよりも寝るのはどうする? このキャンピングカーは4人しか寝れないわよ?」


 私はよく考えたらお金のことは皆に任せているので、そんなことはどうでも良いことに気付き、話題を変える。


「あー……そういえば、そうですね。もう1台、出します?」


 もう1台…………

 3人と2人に別れる感じかな?


「微妙な別れ方になるわね…………1台の方がいいわ。ミサ、一緒に寝る?」


 子供の頃はよく一緒に寝たものだ。

 最近もだけど……


「ひー様は鼻で笑ってくるから嫌です」


 まだ言うか……


「あんたさ、その私を貶めるようなことを言うのをやめてくれない?」

「いや、事実じゃないですか? ドSのイジメっ子」


 私はジャイア〇か!


「いやいや、Sではないわよ。暴力も振るったことないし」


 暴力は嫌い。

 怖い、怖い。


「いや、1年ぶりの再会の時に階段の上でおもっくそ蹴ってきたじゃないですか」


 そんなこともあったね…………


「お詫びにちゅーしてあげる!」

「いらねー……ひー様はリースとでも寝てください」


 えー…………

 私は別にかまわないんだけど、リースが手をもじもじさせてるからなんか嫌。


「ナツカとフユミに寝てもらおっか。こいつら、双子の姉妹でセットだし」


 2人で1人、1人で2人。


「セット言うなし」

「というか、真面目に言うと、あたしら、でかいから無理」


 175センチあるしねー。

 男並みの身長だ。


「仕方がない。リースと寝るか…………」

「仕方がないはひどくないです?」


 リースが悲しそうな顔をする。

 美人が悲しそうな顔をすると、映えるね。


「じゃあ、縛っていい?」


 拘束すれば、何も出来ないだろう。


「え? 本当にS? こ、心の準備が……」


 こういう知識はあるんだね……


「リースはやめた方が良くない?」

「というか、教祖様は1人で寝なよ。普通に考えたらメガネとリースじゃね?」


 どうした、東雲姉妹?

 まともなことを言うなんて、落とした頭のネジを見つけたのか?


「リースか…………何もすんなよ」

「しねーよ、メガネ」


 ミサが嫌そうにリースを見ると、リースが敬語を止めて、ミサを睨む。


 ミサとリースって、教団のナンバー2を争っているから微妙に仲が悪いんだよね……

 だから、私がどっちかと寝ようと思ったんだけどなー。


 まあ、これを機会に仲良くなってもらうか……

 逆効果な気もするけど……

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