第056話 将来設計は大事!


 月城さんを仲間にし、生徒会長を篭絡したという中身の濃い1日を終え、早めに就寝した私達は翌日、朝早くから森を出て、平原までやってきていた。


 平原に着くと、戦闘用ではない普通のヘリを出し、準備をする。

 この場には東部の森に一緒に行くリース、ミサ、東雲姉妹、そして、見送りに来た勝崎がいる。


 リースはヘリの操縦席に座り、何やらチェックをしている。

 ミサはそんなリースに話しかけていた。

 東雲姉妹はメイド服のままヘリに乗り込み、漫画を読んでいる。


 私はまだヘリには乗り込んでおらず、外で勝崎と話していた。


「勝崎、あんた、リースに殴られたんだって?」


 私は勝崎に聞いてみる。


「ですねー。よくも同胞に手を出したなーって言ってました。あいつ、エルフなんすっか?」


 …………あいつ、バカ?

 あんだけ皆には黙っててほしいって言ってたのに何を口走ってるんだろう?


「それに触れてはダメよ。リースが必死に隠していることだから」

「…………まあ、深くは聞かないっすわ」

「でも、急に殴るのはどうかと思うわね」


 狂犬かな?


「いや、いつものことですよ。あいつって自己中じゃないですか? 普段からあんなんです。まあ、めっちゃ力が弱いんで痛くもないし、皆、ああいうヤツだってわかってますよ。グラビアの雑誌を読んでるだけでキレるヤツですもん」


 子供かな?

 いや、性欲がないって言ってたし、そもそも、そういう耐性がないんだ。


「ちょっと色々と教えていくわ」

「別にあのままでもいいと思いますけどね。村上とリースは風紀委員って認識ですし」


 その場合、氷室が不良か……

 悪すぎだけど。


「まあ、常識くらいは教えるわ。よく考えたらあいつって異世界人だから私達と常識に微妙なズレがある気がする」

「あー、それはあるかもですね」


 勝崎も思い当たる節があるらしい。


「ひーさまー! 準備完了しましたのでいつでも飛べます!」


 私と勝崎が話していると、リースがヘリの中から私を呼ぶ。


「じゃあ、行ってくるわ」

「はい。お気をつけて。氷室なら上手くやるでしょうが、それで完全に止められるかは未知数です。もしもの時はご自分の命を優先してください」

「わかっているわよ。あんたらも気をつけなさい。攻めてはこないでしょうが、人族が私に降り始めるということはその分、潜入も容易ってことだからね」


 間違いなく、やってくるだろう。

 特に私達の武器を調べるために。


「了解しました。降ってきた者の名前のリストを作ればよろしいのですね?」

「そうです。それと私の信者リストを見比べて、不穏分子を捕らえます。それで逆に利用もできますしね」

「ですね」

「それと、お前はあのエルフちゃんとどうなりたいかを考えておきなさい」


 エルフは寿命が長い。

 もっと言えば、日本に帰る時にどうするかも決めておかねばならない。

 日本にエルフはいないのだから。


 これは勝崎だけの問題ではなく、他の者もだ。

 日本に帰る時になったら本当に帰るかを決めなければならない。


 大半は帰るだろう。

 篠田さんや月城さんなんかは絶対にそうだ。

 だが、帰らない選択をする者もいる。


 東雲姉妹はこっちに残るだろう。

 あいつらにはご主人様がいるからだ。


 まあ、今日、明日に決めることではない。

 だが、女神アテナとの争いは何年も続かない。

 あんな無能な雑魚神は1年も経たずに潰してやる。

 そうしたら今度はあっちの世界だ。


「…………ちなみにですが、あっちの世界に連れて帰るというのはありですかね?」


 勝崎が聞いてくる。

 そこまでの決意と責任は持っているようだ。


「好きになさい。でも、本人に確認しなさいね。こっちに戻れないわけではないけど、そう頻繁には帰れないし」

「え? 戻れるんですか?」

「そら、そうでしょ。私らはこっちに来てるし。少なくとも、あんたが先に死ぬんだからその時になったらあの子をこっちの世界に帰さないといけないかもだしね」


 子供とかあるし、その辺はわからないけどね。


「…………考えてみます」

「そうしなさい。他の者にも言っておいてね。私はお前達が幸せならどんな選択をしようと構わない」

「わかりました」

「はい、じゃあね。行ってくるわ」


 私は手を挙げながら、そう言い、ヘリに乗り込んだ。


「何を話してたんです?」


 私がヘリに乗り込み、ミサの隣に座ると、ミサが聞いてくる。


「将来のことです。リース、オッケーです」


 私はリースに離陸の許可を出した。


「了解! では、飛びますよ!」


 リースが答えると、ヘリが上昇を始める。


「将来?」


 ミサがまた聞いてきた。


「ほら、勝崎って、あのエルフの子と良い感じじゃない? この世界を獲って、日本に帰る時にどうするかを決めておけっていう話をしたの」

「なるほど……勝崎は残るんですかね?」

「さあ? 連れて帰るかもね」

「親御さんはびっくりでしょうね」


 そらね。

 めっちゃ美人だし、人族じゃないし。


「ミサはどうする?」

「ひー様の傍にいますよ」


 まあ、こいつはそうか。

 リースもだろうね。


「ナツカ、フユミ、あんたらは残るでいい?」


 一応、確認しておこう。


「え? 帰る」

「こっちの飯、マズいしね」


 あれれ?


「ご主人様は?」


 お前達の大好きなご主人様を置いていく気?


「ご主人様も行くんじゃね?」

「そうそう」


 東雲姉妹が顔を見合わせて頷いた。


「あいつ、王様にする予定なんだけど……」


 本人も乗り気だったし。


「ご主人様はあっちの世界に興味津々でしたよ。な?」

「うん。あっちの世界の発展具合を教えたし、色々、聞かれた」


 あいつ、日本までついて来る気?

 こういうケースもあるのか……


「王様の地位より、発展した世界かー……」


 まあ、そういう考えもあるかもしれない。


「いや、あっちの世界で王になる気だと思う」

「だから手柄を立てようとしているんだと思う」


 私の想像を超える強欲さだった……


「その場合、あんたらは王妃様?」

「いや、なんでだし」

「あたしら、メイド様だし」


 わからない。

 この姉妹の感情もメイド様の意味もわからない。


「ふ-ん、まあ、考えておくか……」


 ランベルトが優秀なことは確かだし、功績も大きい。

 別に王にしてやってもいい。


「ひー様、他にもひー様を慕い、ついてくる者がいるかもしれません。ほら、エロ狐とか……その場合のことを考えていた方が良いかと」


 ミサが忠告してくる。


「あー、ヨハンナはそうかも…………私を慕うというより、甘いものを食べにいきたいって感じだろうけどね」


 他にもいるかもしれない。


「エルフはまだ誤魔化せる気もしますが、獣人族は問題になるのでは?」

「確かに……」


 コスプレで誤魔化すかね?


「早めの統一を考えた方が良さそうね」


 世界を統一さえしてしまえば、私が絶対になる。

 その時になったら別に獣人族がいても、こういう種族もいるんだよって、私が言えば、それで済む。


 とはいえ、あっちの世界はこっちの世界より大きいし、人口も文明レベルもダンチだ。

 短期決戦は難しいなー……

 こっちの世界でどれだけ私の力を上げられるかが鍵かな?


「リース、あっちの世界の状況は?」


 私はこっそりあっちの世界に帰還しているリースに聞いてみる。


「パニックですねー。何しろ学校全体の神隠しですしね。マスコミ連中が連日、面白おかしく報道しているようです。あと、幸福教団の本部に家宅捜索が入っています。今、帰ったらマズいですね」


 まあ、そうなるよね。


「他の子達は?」

「もちろん、事情聴取されています。ですが、支部の連中は何も知りませんし、ただの教団員ですので逮捕はないでしょう。一応、他の教団員にはあの計画の前にすべて包み隠さず言うように通達してあります」


 悪いのは本部にいる幹部共だけか……


「接触はしましたか?」

「いえ、まだ危険ですし、しておりません。私は戸籍もないですし、大丈夫だとは思うんですけど、覚えている人間がいるかもしれませんからね」


 絶対にいるよ。

 こんな人間離れした美貌を持つ銀髪女を忘れるわけがない。


「まだ接触は控えなさい。落ち着いたら文書か何かで私が生きていることといずれ帰還することを伝えて」

「わかりました」


 今後、残っている教団員は叩かれているだろうなー……

 私のかわいい子に何かをしたら絶対に許さないからな!


「リース、あっちに帰ったん? 言えよ。おみやげを頼むのに」

「マリ〇に飽きたから別のゲームを買ってきてほしかったわー」


 リースが帰還できることを聞いていない東雲姉妹が文句を言う。


「いや、お前ら、この数日、どこにいたのよ? いっつもどっかに遊びに行ってたでしょ」


 リースが反論した。

 リースは基本、丁寧な敬語しゃべりだが、東雲姉妹にはタメ口になる。


「暇だもん」

「なー?」


 自由人だなー。

 こいつらにも仕事を与えた方がいいのかな?

 いや、無理か……


「ハァ…………今度、買ってくるわよ」


 リースが呆れたようにため息をつく。


「指定するからな。お前、絶対に変なもんを買ってきそう」

「わかる。ゲームって言ってんのに子供用のおもちゃを買ってきそう」


 私もそれはちょっとわかるな……


「ハァ…………めんどくさい姉妹」


 リースが下を向いて、再び、ため息をついた。


 いや、前を向け、操縦士。

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