第051話 茶番劇


 一日中、バーベキューをして楽しんだ翌日、私は寝泊まりをしているキャンピングカーの近くに仮設住宅を出した。

 そして、その仮設住宅にミサとリースと一緒に入る。


「そういえば、ひー様はなんでキャンピングカーで寝泊まりしているんですか? 仮設住宅の方が良くないです?」


 仮設住宅に入り、何もない室内を見渡しているミサが聞いてきた。


「キャンピングカーが好きなだけです。私は別にどこでも寝れますし」


 味気ない仮設住宅よりかはキャンピングカーの方がワクワク感があって良い。


「そんなもんですかねー?」

「あんたも付き合わなくてもいいわよ」


 ミサは私に付き合って、一緒にキャンピングカーで寝泊まりしているが、別に一緒の所に住む必要はない。


「うーん、どっかにひー様の屋敷を建設させましょうかね?」

「それはいい考えです。ひー様の社がいります」


 ミサの意見にリースも同意したが、社って言い方は嫌だな……

 確かに神だけど、まつらないでほしい。


「好きになさい。絶対に賽銭箱を置いてはダメですよ」

「置きませんよ」


 ならいいや。


 私達が仮設住宅の中でそのままおしゃべりをしていると、ノックの音が部屋中に響く。


「入りなさい」


 私が許可を出すと、扉が開き、大きい男達が部屋に入ってきた。

 ジーク、青木、勝崎、エックハルトである。


「ひー様、何用でしょうか?」


 勝崎が代表して聞いてくる。


「少し、やってほしいことがありましてね。まあ、待ちなさい。もう1人来ますから」


 私が4人に待つように言うと、再び、ノックの音が部屋中に響いた。


「入りなさい」


 私が入ってくるように言うと、扉が開き、今度は小柄な少女がやってきた。

 ヨモギちゃんである。

 ヨモギちゃんはすでにいるメンツを見渡しながら私のところにやってくる。


「お呼びでしょうか?」

「ええ。わざわざごめんなさいね。ここまで遠かったでしょう?」

「いえ、エルフの方が車で送ってくれました」

「それはよかった…………さて、皆が揃ったので早速、始めましょう」


 私は手をパンと叩き、皆に告げる。


「あのー、このメンツで何をするんです? まったく想像がつかないんですけど……」


 またもや、勝崎が聞いてきた。


「まあまあ、少し待ってない。ヨモギ、こっちに来なさい」


 私は手招きをして、もっと近づくように言う。

 すると、ヨモギは私の目の前までやってきた。


「ヨモギ、お前にこれからちょっとひどいことをします。大丈夫ですか?」

「大丈夫です。私はひー様にすべてを捧げました。ひー様のためなら何でもします」


 この子は素直で本当にかわいいわ。


「よろしい。後でご褒美にお寿司でも出してあげますからね」

「パンケーキが食べたいです」


 そういや、昨日、海産物を食べたもんね。


「じゃあ、それで」


 私はご褒美を決めると、スキルで荒縄を出す。


「ちょっと後ろを向いて、腕を後ろに回しなさい」

「えっと…………こうですか?」


 私が指示を出すと、ヨモギちゃんが言う通りに私に背を向け、腕を背中に回した。


「はい、そうです。ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね。後でリースが回復魔法とやらで治してくれますから」

「はい」


 私はヨモギちゃんが頷いたので、ヨモギちゃんを荒縄で縛っていく。

 まずは手を縛り、次に腕ごと、胴体を縛った。

 しかも、胸の上下に縄を通し、胸を強調するように縛る。

 もっとも、あまり大きくないから微妙だけど……


「痛くないですか?」

「大丈夫です」


 よかった。


「俺らは何を見せられているんだ?」

「さあ?」

「なんか嫌な予感がしてきたな…………」

「俺も……」


 男共が気まずそうに立っている。


「さて、ヨモギ、その場で横になりなさい」

「横? こうです?」


 ヨモギがその場で横たわった。


「そうそう。それで目を閉じなさい」

「はい」


 うん、縛られた少女が気絶している絵になったな!

 でも、もうちょっとアクセントを入れるか……


「ヨモギ、動いちゃダメよ」

「はい」

「ちょっとごめんね」


 私は横たわっているヨモギの制服のスカートを少しめくった。

 もちろん、大事なところは見えていないが、非常に良い感じになった。


「さて、お前達」


 私が男4人に目を向けると、男4人はビクッとなる。


「な、なんです?」


 勝崎が微妙に焦っているのがわかった。


「ヨモギを囲むように立ちなさい」

「マジですか? めっちゃ最悪な絵面じゃないです?」

「何のためにお前達を呼んだと思っているのです。私達の中でも強そうで悪そうなのを呼んだのですよ?」


 ライオンのジーク、軍人の勝崎、黒マッチョの青木、背の高いエックハルト。


「ジークの旦那はわかるし、青木もわかるんだけど、俺とエックハルトは場違いでは?」

「俺もそう思う」


 勝崎とエックハルトが嫌そうに言う。

 辞退したいのだろう。


「いいから立ちなさい! いつまでヨモギにこんな格好をさせておくのです!」


 私が一喝すると、4人は納得していなさそうな顔でヨモギを囲む。


「うわー……最悪だわ」

「こんな少女を囲むのは気分が悪いな」

「マジで嫌っすわ」

「こんな姿を妻や子供に見せたくないな…………」


 4人はマジで嫌そうだ。


「うるさいです! ミサ」

「はい」


 私が指示を出すと、ミサがカメラを構える。


「撮るんすか!? 嫌っすよ!」


 青木が文句を言ってきた。


「撮らないでどうするんです? ただ、ヨモギがお前達に囲まれただけではありませんか…………うーん、でも、まだ弱いな……青木、上のシャツを脱ぎなさい」

「はい?」

「お前の自慢の黒光りボディーを見せつけなさい」


 この日のために日サロに通っていたんでしょ!


「嫌でーす」

「いいから脱ぐ!」

「マジかよ…………この人、たまにSになるのが難点なんだよな」

「おだまり!」


 誰がSじゃい!


「はーい…………」


 青木が渋々、シャツを脱いでいく。


「…………最っ低」


 リースが青木を見て、ボソッとつぶやいた。


「なんで俺を睨むんだよ! 俺だって、やりたかないわ!」

「黙れ」


 リースが汚物を見るような目で青木を見ている。


「すげー納得いかないんだけど!」

「はいはい、いいから撮るわよ。あんたら、悪い顔をしなさい」

「悪い顔って?」

「真顔でいいわよ。それで十分に悪いから」


 私がそう指示を出すと、4人は嫌そうな顔をした。


「その表情はダメ。真顔よ、真顔」


 私がそう言うと、4人共、真顔になる。


「よし! ミサ」

「はーい」


 ミサがパシャッと写真を撮った。


「これでどうです?」


 ミサが撮った写真を見せてくる。


「いいわね。本当に最悪な絵面で完璧よ」

「ホントにひどいですよね」

「クズ共が」


 写真を見たリースが軽蔑しきった目で4人を見た。


「あいつ、ムカつく」

「「「わかる」」」


 青木がリースを指差すと、他の男3人が頷く。


「はいはい、ケンカしない。ヨモギ、もう目を開けていいわよ」

「はい」


 私はヨモギが目を開けたのでヨモギに近づき、上半身を起こした。


「大丈夫?」

「大丈夫です」

「あんた、泣ける?」

「演技でですか? ちょっと無理ですね」


 まあ、難しいか。


「涙は目薬を使えばいいか…………後は椅子がいるわね。ヨモギ、1回ほどくわよ」

「はい」


 私はヨモギの縄をほどいていく。


「あのー、ひー様、もう終わりじゃないんです?」


 勝崎が嫌そうな顔で聞いてくる。


「まだ写真を撮っただけじゃない。これからが本番よ」

「本番?」

「動画」

「絶対に嫌です!」


 逆らってばっかりだな。

 一番嫌な思いをしているヨモギはこんなに素直なのに……


「いいから準備をしなさい。ミサ」

「はーい」


 私がヨモギちゃんの縄をほどきながらミサに指示を出すと、ミサが男4人に台本を渡していく。


「台本!?」

「えーっと…………マジでこれをやるのか?」

「俺、獣人族の首領なんだけどな……」

「ヨゴレ仕事だな……」


 文句ばっかり……


 私はヨモギの縄をほどくと、椅子を出した。


「ヨモギ、座りなさい」

「はい」


 ヨモギが椅子に座ると、ミサがヨモギにも台本を渡す。


「えーっと…………これをやるんですか? 私、演技に自信がないんですけど……」

「マジでこいつらに乱暴にされると思い込みなさい。あとはまあ、雰囲気で良いです」

「はぁ? まあ、やってみます」


 ヨモギは本当に素直でかわいい。

 それなのに男共ときたら……


「では、また縛りますね?」

「はい」


 私は再び、ヨモギちゃんを荒縄で縛り始める。

 今度は椅子の背もたれごと縛る感じだ。


「さて、誇りある戦士であるお前達も嫌でしょうが、これは必要なことなのです。覚えましたか?」


 私はヨモギちゃんを椅子に縛り終えると、必死に台本を読んでいる4人に聞く。


「ちょっと待ってくださいね……」

「別に一語一句覚えなくてもいいです。そうすると、大根になってしまいます。ある程度の雰囲気で良いのです」

「わ、わかりました」


 よーし! 準備は出来たぞ!

 後は私か…………


 私は部屋の隅に行くと、スキルで金屏風と座布団を出す。

 そして、金屏風をバックに座布団に座った。


「ミサ、準備はいい?」

「問題ありません」

「あ、ひー様、扇子を持たれては? そっちの方が悪そうです」


 リースが提案してきた。


 なるほど!

 確かに悪女っぽい!


「さすがは悪女。そうします」

「いや、私は悪女ではないんですけど…………」


 悪女だよ。

 絶対に悪女だよ。


 私は納得いっていないリースを無視し、扇子を出すと、ちょっと広げて、口元を隠す。


「ほほほ。妾がヒミコぞ」

「ひー様、ちょっと違います…………」


 あ、やっぱり?

 普通にやるか…………

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