第050話 幹部会
私と幸福教団の幹部達(一部除く)は作戦会議を始めた。
「さて、まずは見ての通り、リースが戻ってきました。素晴らしいことですね」
私はまず、リースと合流したことを報告する。
「皆様方、このようなことに巻き込んでしまったことを謝罪します。そして、亡くなった12名に一生、祈りを捧げることを誓います」
リースが立ち上がり、頭を下げた。
「全員、黙祷!」
私が命じると、全員が目を閉じた。
そして、心の中で10秒ほど数える。
「はい、目を開けてよろしい。失った12名のためにも我らは成し遂げねばならない。よろしいですね?」
「「「「はっ!」」」」
私の問いに全員が返事をした。
「よろしい! では、次に青木、基地建設の方はどうです?」
基地や住宅地の建設の責任者は青木なのだ。
「はい。順調です。まずは木材で防壁を築きました。これはエルフや獣人族が協力してくれたため、迅速に作れましたね。住宅はひー様が出してくれた仮設住宅でまかなっています。ただ、人が増えましたし、これからのことも考えますと、不足と思われます」
単純に200名近く増えたし、これからもフランツが奴隷を集めてくれる。
住むところの確保が最優先か……
「よろしい。必要数をまとめなさい。私が出します」
「お願いします」
「これからはどうします?」
「将来的には壁をコンクリートにしたかったのですが、そもそも、敵が壁まで到達することはないと考え、現状はこのままでいきます。それよりも道の整備に重点を置きたいと思います。また、勝崎隊長の要請で滑走路を造ろうと思っています」
滑走路……
「わかりました。勝崎、滑走路が必要ですか?」
滑走路ということは戦闘機だろう。
「戦闘機があれば、遠方であってもすぐに援軍に向かえます。あった方がいいでしょう」
「問題は操縦できるのがお前だけということです」
戦闘機はさすがにリースでも無理だ。
「承知しております。ヘリはともかく、戦闘機の操縦を教えるのは厳しいでしょうし、危険です。ですが、1機あれば十分かと」
まあ、この世界の兵士からしたらヘリや戦車でもどうしようもないのに、戦闘機はやりすぎなくらいだ。
「わかりました。そのあたりはお前に任せます…………青木、進めなさい」
「はっ!」
まあ、戦闘機を見れば、女神教の士気も落ちるだろう。
絶対に勝てない相手ということを教えてやろう。
「次に前野、皆の様子はどうです?」
「問題ありません。栄養失調が見られた獣人族のハーフ達も回復しております。体調を大きく崩した者もいません」
「それは良かったです。お前は引き続き、皆を注視するように」
「はい」
医者がいると心強いね。
「村上ちゃんは…………話したか……青木、自分が幸福教団の幹部であることを忘れないように」
「はい……すんません」
青木がしょぼくれる。
これは相当、村上ちゃんに絞られたな……
「勝崎、エルフや獣人族の鍛錬の状況は?」
「順調です。エルフは耳も目も良く、器用です。武器を始め、車や戦車の操縦もすぐに覚えました。獣人族も耳や目が良いのですが、それ以上に身体能力がすごいです。種族の特性というやつでしょう」
「十分な戦力になりますか?」
「我らは武器を使った遠距離攻撃で掃討できますし、市街戦や建物の中ならば、あいつらが絶対的でしょう」
やはり亜人と呼ばれている者達は優れているな……
「エルフと獣人族の協力関係は?」
「問題ありません。たとえ、種族が異なろうとも共通意識を持っています。彼らは自由を勝ち取るための最後の聖戦と言っています」
まあ、最後だろう。
すべての敵はいなくなるのだから。
「基地建設の時はどうしました? 陽動作戦をしましたか?」
以前、基地建設を気付かれないためにわざと攻めるように指示をしていた。
「その作戦を採用しました。しかし、敵がまったく出てきませんでしたね。マイルの町に潜入している者からの情報でも打って出る気配はなかったとのこと」
戦車に懲りたか?
ヘリに恐怖したか?
いや、たった一度の戦闘で引きはしないだろう。
「マイルの軍は?」
「情報では援軍が来ていませんね」
なるほど……
「マイルを捨てたか…………」
「と言いますと?」
「平原や森での戦闘を嫌がったのでしょう。我らがマイルを獲れば、周囲の町から軍を出して、包囲戦ができます」
「なるほど。数は向こうが上ですからね…………しかし、マイルを捨てるとは……あそこはそこそこ大きい町で人も多いというのに……」
それをやるのが女神アテナだ。
あいつは1億人の信者を持っている。
その中の数万人が死んでもどうせ、人はすぐに増えるのだから誤差なのだろう。
それよりも、敵の処分を優先する。
あいつはそういう神だ。
「どうせ、住民の中に兵士を混ぜて、外から攻めると同時に反乱を扇動するのでしょう。くだらない策です」
「それでも勝てるとは思います」
だろうね。
こっちはいくらでも武器や兵器を出せるのだ。
「マイルを獲る必要はありません。アルバンやマルクスの話を聞いても南部はそこまで女神教に熱心ではなさそうです。情勢が決まれば、自ずと降ります」
「わかりました。戦わないに越したことはありません」
戦わずして勝てるならそれでいい。
私は別に戦いが好きなわけではないのだ。
むしろ、嫌いである。
だから争いのない世界を作るのだ。
「他には何かありましたか?」
「これは外の連中の情報なんですが、人族の中にはここに来ようと考える者もいるようです。対応の指示をもらいたいです」
まあ、そういうこともあるだろう。
この世界は飢饉が起きている。
食べるものがなく、どうしようもなくなって私を頼るのだ。
「今は人族と獣人族やエルフを一緒にする時ではありません。平原のどっかに中継基地として、村を作りなさい」
そこを作れば、大っぴらにアルバンやマルクスが治める町と貿易ができるようになる。
「それを作る人手が……」
「そいつらに作らせればいいでしょ。資材は提供しなさい。私も必要な物は出します」
「やってみます…………」
勝崎は大変だな……
でも、優秀だから仕方がない。
今は頑張ってもらう時なのだ。
「さて、他にはありませんか?」
私は皆を見渡すが、特にはないようだ。
「よろしい。では、こちらの報告です。知っていると思いますが、私達はマナキスに行き、奴隷となっていたエルフ2名と200名近い獣人族の救出に成功しました。その時にマナキスの領主から情報を入手したのです。リース!」
私はリースに振る。
「はい。マナキスの領主が言うには女神教は東部のハーフリングの殲滅を決めたそうです。具体的にはハーフリングが隠れている森を焼くそうですね」
リースが再び、立ち上がり、皆に説明をする。
「森を焼く、か……」
勝崎がポツリとつぶやいた。
「女神アテナはそういう神です。それと、どうやら北のドワーフと秘密裏に停戦を結んでいるそうですね」
「ドワーフはドラゴンに守られているんだっけか?」
「という話ですね。女神教はひー様に取り込まれる前にハーフリングを処分し、そののちに私達かドワーフをやるのでしょう」
「敵さんもえげつないな……」
敵も指揮しているのが神だからね。
特にあの神は信者を自分の糧としか見ていない。
「さて、それを踏まえて、皆は今後の行動をどうするべきと思いますか? 勝崎」
私はまずは勝崎に意見を求める。
「救うべきだと思います。ですが、難しいのも確かです。ここからハーフリングがいる森まで車でも1週間近くかかります。間に合うかどうか……」
遠いな……
「ヘリでは?」
「ヘリならば速いでしょうが、それでも間に合うかは微妙です。何しろ、森を焼くだけならそんなに兵もいりませんし、やろうと思えば、明日にでもできます」
まあ、火をつけるだけだしね。
「ひー様、よろしいでしょうか?」
リースが手を挙げた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。私はハーフリングを見捨てるのもありだと思います。ハーフリングは好奇心が強い種族なのですが、それと同時に非常に臆病です。ひー様が向かわれたとしても、おそらく、隠れて中々、姿を現さないでしょう。その場合、下手をすると、ひー様が森におられる時に火が付きます。それは避けたいです」
「私は神です。肉体は焼けるかもしれませんが、死にませんよ?」
「ひー様、そのようなお考えはおやめください!」
怒られちゃった……
「では、ハーフリングは捨てますか?」
「お待ちください。森を焼くの止めることを考えてはどうでしょうか?」
村上ちゃんが手を挙げて、意見を言う。
「具体的には?」
「敵の目を別の所に向けさせるのです。例えば、こちらから攻めるとか、女神教の本部に潜入し、テロを起こすとかです」
また過激な意見が出たな。
とはいえ、私達が得意な戦法はそれだ。
「ふむ……」
「ひー様、氷室を使っては?」
ミサが初めて発言をした。
なお、氷室の名前を聞いたリースと村上ちゃんが嫌な顔をする。
「なるほど。駒はある…………それでいきますか」
駒とはもちろん、ヨモギちゃんのことである。
「よろしいので? 氷室ですよ?」
リースって、本当に氷室が嫌いだな。
「氷室は信用できますし、有能です」
「えー……」
そんなに嫌がるなよ。
私のパンツを盗んだあんたとたいして変わらんわ。
「この件は氷室と相談して決めます。勝崎、ヘリで東部まで行く準備をしなさい」
「ひー様が行かれますか?」
「他の者が言っても聞きはしないでしょうし、そもそも、会えないと思います。私が行きます。ミサとリースも準備をしておきなさい」
「はい」
「わかりました」
となると、氷室と連絡を取らないとな…………
いや、その前に準備があるな。
私は楽しそうに篠田さん達と笑っているヨモギちゃんを見て、笑みがこぼれた。
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