第047話 獣人族の報告を聞く


 エルフを救出し、獣人族達と共に南部の森に戻ってきた私達はエルフの村で休んだ。


 その翌日、私達は朝からお疲れ会という名のバーベキューをしている。

 すると、獣人族の各部族の長がそれぞれ、奴隷となっていた仲間を引き連れて、挨拶にやってきた。


 話の内容は奴隷となっていた同族を救ってくれたことへの感謝と救出した奴隷がそのまま幸福教に入信したことの報告である。

 まあ、信者リストを見ればわかるのだが、一応、それぞれから挨拶を受けた。

 おかげで、ミサや東雲姉妹がバクバクと肉を食べているのに、私はまったく食べれていない。


 リースはそんなミサや東雲姉妹に苦言を呈しつつ、私に付き合っているのだが、たまに口がもごもごしているのが見える。

 私の目を盗んで食べているようだ。


 残念ながらリースはこういうヤツである。

 口では偉そうなことを言うが、自分も隠れてやっている……

 ダメな女だわ。

 さすがは皆から自己中のリースと呼ばれることだけはある。


 私が笑顔を絶やさずに新たな信者となった獣人族からの挨拶をあらかた受け終えた時にはすでに昼を過ぎていた。


「疲れたー……」


 すべてを終えた私は椅子に座り、一息つく。


「お疲れさまでした。一度、食事にされた方がいいでしょう」


 リースが休憩を勧めてきた。


「まーだ、報告が残っているのよ……」


 私が愚痴ると、獣人族の首領であるライオンのジークと狐族の長であるヨハンナがやってきた。

 なお、ヨハンナは1人ほど奴隷となっていた狐族の子がいたため、さっき感謝と挨拶を受けている。

 その時は後ろで他の部族が順番を待っていため、肝心の報告は後回しにしたのだ。


「お疲れのところすまんな」


 ジークが椅子に座っている私を見下ろしてくる。


 うーん、私の子じゃなかったらマジで怖いわ。

 さすがは百獣の王。


「別にいいわよ。どれも大事なことだもの」

「お疲れさまですぅ」


 ヨハンナも労いの言葉をくれた。


「あ、ライオンだ!」

「あ、エロギツネだ!」


 ご飯を食べ終え、キャンピングカーで釣竿を探していた東雲姉妹が釣竿を持って、キャンピングカーから出てくる。


「エロくないですよー」


 エロいよ。

 ドエロギツネじゃん。

 そういえば、奴隷となっていたキツネ族の子もどことなく色気があった。

 そういう種族かもしれない。

 だから高いのかも……


「ナツカ、フユミ、あんたらはさっさと釣りに行ってきなさい」


 正直、邪魔しそうだし……


「そうするー」

「晩御飯は魚の丸焼きだ!」


 東雲姉妹は森の奥に走っていった。


 川魚って大丈夫かね?

 まあ、いいか…………どうせ、釣れないし。


「ミサ、あの2人を2人だけにすると怖いのでお前も行ってきなさい」

「ですね。じゃあ、私も釣りに行ってきます」


 ミサもまた、キャンピングカーに入り、釣竿を取ってくると、東雲姉妹を追っていった。


「ジーク、ヨハンナ、あんたらも食べる? お酒も出せるけど?」


 バーベキュー用の肉はまだ残っているのだ。

 一度にセット物を出した方がポイントを抑えられるからね。


「いただこう」

「私、甘いお酒がいいですー」


 私は2人に椅子とお酒を出してやり、バーベキューの肉を食べだす。

 2人は椅子に座りながら非常に幸せそうな顔をしながらお酒で肉を流し込んでいる。


「いやー! 美味い! 肉もだが、酒も美味いわ!」


 ジークがテンションを上げ、楽しんでいた。


「ホントですよねー。楽園はここにあったんです!」


 私の隣に座っているヨハンナもジークに同意する。


「キャラメルマキアートで落ちた女だもんね。皆に黙って、裏でコソコソと甘いものをおねだりしてくる悪いキツネだもんね」


 私がそう言うと、ヨハンナが私の唇に人差し指をつけた。

 やってることが完全にキャバ嬢の動作である。


 ジークもリースもそんなキャバ狐を呆れたような目で見た。


「別に良いではないですか! 私の幸福はそれなのです!」


 皆の視線に気付いたヨハンナが拗ねたようなリアクションでプイっとする。

 だから、動作がいちいちあざとい…………


「まあ、あんたが幸せならそれでいいわ。それよか、私が留守の間の報告を聞かせて」


 私はヨハンナを放っておき、ジークに報告を求める。


「我らは勝崎殿の指示のもと、基地建設を手伝っておった。ヒミコ様もご覧になられただろうが、基地の建設は順調に進んでいる。詳しいことは勝崎殿から聞くといい。仕事中は特にトラブルはないと思う」

「ん? 仕事中は?」


 何故、限定する。


「あー、まあ、たいした話ではないのだが、仕事終わりの娯楽のために酒場を作ったんだ。ほら、異種族交流的な…………それは非常に上手くいったのだが…………酒の場はな……」


 要は酔っ払い共のケンカね……

 どうでもいいわ。


「くだらない……あ! 昨日、夜遅くまで道端で飲んでいたアホ共がいたわね。ああいうのはやめなさい。他のお酒を飲まない人に迷惑よ」


 青木もいたと思うけど……


「村上殿が自警団を作り、取り締まると言っていたな……」


 さすがは村上ちゃん。

 立派な婦警さんだわ。


「楽しむのは良いことだけど、他人への迷惑は考えなさい。お酒を飲まない人から見たら害でしかないからね」


 当たり前だが、私は飲まない。


「控えるように言っているのだがな……」

「えー、嫌で…………ですよね!」


 ジークとヨハンナが同時に答えたと思ったらヨハンナが途中で意見を替えた。


「お前も騒いでいる1人のようですね」


 私はヨハンナをじーっと見る。


「私は騒いでいませんよ! 騒いでいるのは私を取り合うバカ共です!」


 こいつが煽ってんのか……


「ジーク、ちなみに聞きますが、その酒場を経営しているのは誰ですか? まさか、どっかのエロギツネじゃないでしょうね?」


 その酒場って、もしかして、女の人が横に座ってくれる酒場じゃないよね?

 マジでキャバ狐じゃないよね?


「…………いや、俺は反対したのだ。だが、ヨハンナが自分がやるって言うから」

「おいコラ! なに、人を売ってんだ!? 首領だって、良いよって言ったじゃないですか!?」

「俺ではない。勝崎殿だ」

「いやいや、横でうんうんって頷いてたでしょ!」


 もういい……

 その場の光景が目に浮かぶ……


「くっだらない……好きにしなさい。リース、後で村上ちゃんを呼んで。どっかの酒場を見張るように言うから」

「わかりました」


 リースが真顔で頷いた。


「ウチの店は健全です!」

「だったらいいでしょ」

「え!? まあ、はい……」


 自信ないんかい……


「他に問題は? エルフとはどう?」


 私は悩みだしたヨハンナを放っておき、ジークと話を続ける。


「エルフともうまくやっておる。今は武器の扱い方や車の運転の仕方を教わっているな。しかし、エルフは器用だわ。よくもまあ、あんな距離で当てられるものだ」


 そういえば、勝崎がちょっと自信を失くしてたな。

 スナイパーライフルを教えたらすぐに抜かれたって。


「そういう種族性でしょうね。気長にやりなさい。まあ、問題なく、仲良くやっているのならば良かったわ。新しい子達はどうするの?」

「本人たちの希望を聞いて、仕事を回すと思う。砦はある程度は完成したが、まだやることは多い」


 まだ、人手が足りないか……


「ハーフの子達は?」

「あれらか……普通と言えば、普通だが、我らを怖がっている節があるな……」


 やっぱりかー……


「ひー様、それは時間が解決する問題です。外から何かを言わない方がいいです」


 同じハーフのリースが進言してくる。


「そうね。ジーク、難しいかもだけど、普通に接してあげて。ちょっと複雑なことだから」


 単純なハーフの子じゃなくて、奴隷の子達だからなー……

 まずは慣れさせるところからだろう。


「了解した。まあ、あやつらは見た目が人族と変わらないから物資の補充で役に立っておる。誰も文句は言わんだろ」


 私は物を出せるが、それも限界がある。

 だから、ハーフの子達が町に行って物資を買いに行っているらしい。


「よろしい。全員と仲良くしろとは言わない。でも、争いは避けるように」

「わかっている。さっさと女神教を潰して、平和に生きたいものだ」


 そのために皆が頑張っているのだ。


「マナキスの奴隷商は私に降りました。これからは獣人族の奴隷を見つけたら買い漁るように言ってあります。これからも獣人族は増えるかもしれませんが、気を付けてください」

「奴隷商すら降ったか…………さすがだ」

「ジーク、お前は獣人族の首領です。どうやって選ばれたかは知りませんが、私はお前を獣人族の長と認めます。だからうまくまとめなさい。この地にお前達の敵はいません。それを皆に説くように」

「はっ! 感謝します!」


 こいつは強そうだし、皆をまとめる力もある。

 それに引き換え、このエロギツネは……

 まだ、悩んでいるし……


「ヨハンナ、節度のある店にしなさい」

「どこまでならいいんですか? 1軒では足りてないので、これからも建てる予定なんですが……」


 どこまでって……

 何の店を作る気?

 それ、ホントに酒場?


「ジーク、お前はもう行っていいわ。それと村上ちゃんを呼んで。こいつに風紀っていうものを教えるから」

「了解した。あと。ご馳走になった」


 ジークは最後に残っていた酒を一気飲みし、仕事に戻っていった。

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