第048話 再会
「おさわりくらいは? いや、性的じゃないですよ? 足を撫でるくらいです」
「却下」
「隣に座るのは良いですよね? 勝崎隊長がグッドって言ってました」
「あのボケ!」
今、ヨハンナと村上ちゃんが夜のお店のボーダーラインを決めている。
「村上ちゃん、あんまり締め付けても爆発しそうだから緩めで良いわよ。やりすぎないように不定期で調査を入れなさい」
この話し合いがずっと続いているため、さすがにめんどくなってきた。
「そうします」
村上ちゃんも埒が明かないと思ったのだろう。
「ヨハンナ、新しい店を立てる時は必ず、村上ちゃんに報告しなさい」
「はーい、わかりましたー」
ったく……
「ヨハンナ、あの子もお店で雇うの?」
あの子とは奴隷として売られそうになっていたキツネ族の子である。
「本人に聞いてみます。でも、当分はそういう仕事は避けようかと思っています。奴隷のトラウマがあるかもしれませんし」
そこはちゃんとわかっていたか……
まあ、一応、ヨハンナもキツネ族の長だもんね。
「ならばいいです。ヨハンナ、お前も戻っていいですよ。夜の店の準備もあるでしょう?」
「はーい。ヒミコ様も一度いらしてください」
「20歳になったらね」
ヨハンナも残っていたお酒を一気飲みし、仕事に戻っていった。
「ふぅ……」
村上ちゃんが息を吐き、背もたれに背中を預ける。
「お疲れね……」
「男共は騒いで楽しいのでしょうけど、問題が多いです」
「自警団を作るんだって?」
「ですね。今はまだ人が少ないから大丈夫ですが、人が増えれば問題は起きます。起きる前に取り締まる準備をしておかないと!」
その辺はよくわからないから村上ちゃんに任せるかー……
「わかりました。まずは青木をどうにかしなさい。あいつ、昨日の夜、獣人族と道端で飲んでたわよ」
「…………情報提供をありがとうございます。すぐに取り締まります」
村上ちゃんの目が怖い……
「ほどほどにね」
「はい…………ひー様、ありがとうございます」
村上ちゃんがそう言って、一心不乱にバーベキューの肉を食べているヨモギちゃんを見た。
実は村上ちゃんがここに来た際に一緒に連れてきたのだ。
ヨモギちゃんは昨日までとは変わって、綺麗になっており、私がスキルで出した学校の制服を着ている。
そんなヨモギちゃんはこの場に来るなり、バーベキューセットをガン見したため、食べるように勧めたのだ。
それ以降、こちらの話は耳の入っていないかのように一心不乱に食べている。
「お礼を言われることではないわね。役に立ちそうだったから買ったのよ」
「生徒会長さんの妹さんですか……」
「そうね。生徒会長が所属するグループはこちらに敵対するでしょうから」
氷室の報告では絶対に私の下につく感じではないらしい。
「ですか……残念です」
「おや? お前なら助命懇願でもするかと思ったのですが?」
正義の警察官だし。
「いえ、大前提として、すべてはひー様に優先されます。ひー様に逆らう者は処分します」
ふーん……
「まあ、お前はやらなくていいです。他に積極的に動く人間がいますしね」
私はチラッとリースを見る。
「生きていても仕方がない者は処分で良いでしょう。不快なだけです」
積極的に動く人間の筆頭が真顔で頷く。
「リース、確かにひー様に逆らう愚か者は処分すべきですが、相手はまだ子供です。懐柔の余地はあるんですよ」
「懐柔? 笑わせる……私が見た人間はほぼクズでしたよ。中にはひー様を侮辱するものもいました」
そら、あんたが奴隷市場がある町にいたからでしょ。
そういう生徒を狙ってたんだからそうなるわ。
「リース、生徒から何か情報を掴んでませんか?」
村上ちゃんがリースに聞く。
「村上、お前は子供を守りたいんだと思う。それは良いことだと思うわ。でも、高校生は子供じゃない。この世界では十分に大人よ。それに男の考えることは大人も子供も一緒」
「……………………」
村上ちゃんが俯いて、へこんだ。
「何か知ってるの?」
私は言葉の意味がわからないのでリースに聞く。
「ひー様、私は魔法で人の記憶や考えを抜き取ることができます。生徒どもを殺す前に記憶を見てきましたが、ロクなものじゃなかったです。中にはまあ、男だし、しょうがないなと私でも思う範疇のヤツもいました。ですが、中にはクラスメイトを襲い、殺したヤツもいました。この世界には警察もいません。タカが外れるってやつでしょう」
異世界に来て、はっちゃけたか……
「村上ちゃん、知ってた?」
「はい…………そういう話を女生徒から聞いたことがあります。篠田さん達が私を頼ったのもそれが原因です。彼女らは直接、襲われたわけではありませんが、他の冒険者となった女生徒から話を聞いて、怖くなったそうです」
だから、警察官の村上ちゃんを頼ったのか……
自分達をこんな目に遭わせた幸福教団の人間を頼るなんて変だなと思ったが、勝崎は自衛隊員、村上ちゃんは婦警さん…………日本人は肩書を信用するからな。
「村上ちゃん、篠田さん達は使えそうですか?」
「え? はい、よく働いてくれます」
「そいつらに武器を使えるように指南しなさい」
「そ、それは…………」
村上ちゃんは嫌そうだ。
「何も戦えるようにしろと言っているわけではありません。最低限、自分の身を守れるようにするのです。そして、彼女達を外に出し、勧誘の旅をさせなさい。護衛をつけても構いません」
「それは…………よろしいので?」
「信者が増えるに越したことはありません。私に降るなら許します。最悪、彼女らの友人だけでもいいです。後のことはお前に任せますし、本人たちの意志に任せます」
しゃーない。
村上ちゃんは女性のそういうのに敏感なんだ。
「降りますかね? というか、その篠田さん達とやらに説得できますかね?」
リースが水を差してくる。
「降らないなら結構。それもまた、その者が選択した道です。篠田さん達は…………」
どうだろう?
口が達者のようには見えない。
だが、人を騙すような人には見えないし、そっちで攻めるしかないかな。
「話してみます」
村上ちゃんの目は決意に満ちている。
「それには及びません。すでに呼びました」
さっき、お告げを使って呼んだ。
「ヨモギ」
私はバーベキューの網でトウモロコシを育てているヨモギを呼ぶ。
「はい、何でしょう?」
「お前、篠田さん達を知っていますか? 2年の篠田さん、藤原さん、山村さん、川崎さんです」
「知ってます。吹奏楽部の先輩です」
え?
吹奏楽部?
知らなかった。
「マジですか?」
私は思わず、聞き返す。
「マジです。もっと言えば、中学からの先輩です」
へー。
口ぶり的に結構、仲が良さそうだな。
「今から来ますけど、会います?」
「会います! あ、お肉がもうない……」
全部食べたか……
かなりあったんだけどなー。
……あのライオンがめっちゃ食べたからだな。
「出しますよ。はい」
私はスキルを使って追加の肉と野菜を出した。
「ありがとうございます!」
ヨモギちゃんは感謝の言葉を言うと、肉や野菜を焼きだした。
明らかに量が多いところを見ると、先輩達の分だろう。
『篠田さん』
私はちょっと気になったので、スキルで篠田さんを呼ぶ。
『はい、なんでしょう? もうすぐ着きますよ?』
『いえ、そのことではなく…………お前達、昼食は食べましたか?』
『いえ、まだですけど……』
よかった……
ヨモギちゃんのショックを受けた顔を見ずに済みそうだ。
『昼食はこちらで食べなさい。絶対に拒否してはいけませんよ。お前の後輩が泣きますから』
『後輩?』
ん?
まだ、ヨモギがいることが伝わっていないのか。
『いえ、来ればわかります』
『あ、村が見えてきたんで、もう着きます』
篠田さんがそう言ったので、村の入口を見ると、車が村の入口付近に止まったのが見えた。
どうやら車で送ってもらったようだ。
「来ましたよ」
私がそう言うと、肉や野菜を焼いていたヨモギちゃんが顔を上げる。
そして、車の中から4人が降りると、駆け出してしまった。
身体能力強化のスキルを持つヨモギちゃんはものすごいスピードで4人のもとに走っていくと、4人に抱きついた。
篠田さん達も驚いたようで頭を撫でながら喜んでいる。
そのまま5人はその場でしゃべりだした。
「…………村上ちゃん、あの5人をここに呼びなさい。焦げるわよ?」
焼いている肉や野菜を忘れるなよ。
「ですね」
村上ちゃんは涙を流しながら感動の再会を果たしている5人のもとに歩いていった。
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