第046話 さあ、帰ろう!


 私は鉄の塊であるヘリが空を飛ぶという事実に震えている2人を宥めながら、ナツカとフユミを待っていた。

 しばらく待っていると、ナツカがフユミの手を引っ張りながら走ってくる。


 フユミは呆れきった顔をして、引っ張られており、ナツカは鬼の形相だ。

 ナツカとフユミはそのままノンストップでヘリに飛び込んできた。


「リース、大ピンチだ! さっさと行け!」


 必死な顔をしているナツカが操縦席にいるリースに命令する。


「了解! 敵が来るの!?」

「いや、敵はほぼ一掃した! だが、私の膀胱がヤバい!! 早く飛べ!」

「…………はい」


 リースのテンションがめっちゃ下がったのがわかった。


 気持ちはわかる。

 映画とかでよくある危機一髪のシーンかと思ったら、ただトイレに行きたいだけだもん。

 いや、まあ、ナツカは切羽詰まっているんだろうけどね……


 リースは呆れながらもヘリを操縦し始めた。


 ヘリは少しずつ、空に上がっている。

 すると、エルフの2人の震えが大きくなった。

 なお、ナツカも震えている。

 そして、そんなナツカを見て、フユミも震えている。


 なんだ、これ?


 ヘリはある程度の高さまで上昇すると、ゴミ収集場まで進んでいく。


「ほら、見てごらん。ちゃんと飛んでいるから」


 私は怖がっているエルフ2人に外を見せた。


「すごい! 暗くてよくわからないけど、本当に飛んでる!」

「魔法でもここまでの高さは飛べません。鳥になったようです!」


 窓から外を見せると、2人は怖がるのをやめ、興奮しだした。


「姉貴ー、ひー様におむつでも出してもらえよ」

「いやだ!」


 フユミが笑いながらナツカをからかっている。

 でも、私はおむつは触ったことがないから出せない。

 もしかしたら出せるかもしれないが、それは自分が赤ちゃんの時に使っていたであろう赤ちゃん用だろう。


「ナツカ、あとちょっとだから我慢しなさい。漏らしたらあんたのご主人様にチクるわよ」

「やだー」

「ちょーウケる」


 ナツカは苦しんでいるが、フユミは本当に楽しそうだ。

 仲良くしなさいっての。


 なんとなくだが、来た時より速いスピードでヘリが飛んでいくと、ヨモギちゃんや獣人族の皆が待つゴミ収集場に到着した。

 ゴミ収集場に着くと、ヘリはゆっくりと降下し始める。


「リース、何をチンタラやっているんだよ! 早く下ろせ!」


 ナツカがヘリの降下が遅いことに文句を言う。


「無茶を言うな、バカ姉! 降下する時が一番危ないのよ!」


 リースがいつもの敬語しゃべりをやめて、反論した。


 仲良くしてよー……

 実は防災用の携帯トイレを出せることに気付いたことを言えないじゃん……


 私はこうなったら黙っていようと決意し、何も言わずに降下を待つ。

 しばらくすると、ヘリが地面につき、完全に停止した。

 すると、ナツカがいち早く扉を開けて、出ていった。


「おい、フランツ! トイレはどこだ!?」


 私もヘリから降りると、フランツの胸倉を掴んで怒鳴っているナツカが見えた。


「あ、あっちにありますけど……」

「ナイスだ!!」


 ナツカはフランツが指差した方向に走っていった。


「なんだ、あれ……?」


 フランツが首を傾げながらも掴まれていた襟を正す。


「ずっとトイレを我慢してたのよ……」


 私はフランツのもとに行き、呆れながらも説明した。


「おー! ヒミコ様! 無事に戻られましたな!」

「当たり前でしょ」

「では、エルフは?」


 私はフランツに聞かれたのでヘリの方を指差す。

 私が指を差すと、タイミングよく、ヘリからミサと共にユリアとテレーゼが降りてきた。

 すると、周囲の獣人族が歓声を上げる。


「何?」


 私は獣人族の反応がよくわからなかったので、フランツに聞く。


「エルフがここにいるということは領主に勝ったということです。幸福教団の強さが本物であることを理解し、希望が出てきたのでしょう」


 あー、そういうことか。

 こいつらは半信半疑だったわけね……

 まあ、ヘリやマシンガンがあるといっても、女子5人だし、完全に信じ切ることは難しかったのだろう。


「フランツ、私達はナツカがトイレから戻ってきたら南部に帰還します。お前は引き続き、獣人族とエルフの奴隷を集めなさい」

「わかっております。随時、報告させていただきます。しかし、今後はどうやって南部に送りましょうか?」


 その問題があるな……

 転移は貴重だし、15日間の充電期間が邪魔だ。

 私の力が強くなれば、充電期間もなくなるのだろうが……


「とりあえずはお前のところで管理してください。ランベルトに輸送を頼むか、私の転移を使って、迎えにきます。資金が必要ならば、その都度、言いなさい」

「かしこまりました。ちなみにですが、領主はどうなりました?」

「私に不敬を働いたので処分です。ああいうのは私の世界にいりません」

「さようですか……なるほど」


 フランツが何かを考え出す。


「安心なさい。たとえ、次の領主が誰になろうと、お前は王になるのです」

「それは約束して頂けるのですかな?」

「お前がこれまで通り、働いたら自然とそうなります。私はお前に期待しているのです。私の期待を裏切らないように」

「ははっ!」


 こいつもランベルトも王になって、勝手に国を治めればいい。

 私はそんなことはどうでもいいのだ。

 大事なことはこいつらの国の国教を幸福教とすること。

 そして、人々の文化や生活に私という存在を組み込むことである。


 食事をする時でも、何かに感謝をする時でも、何も考えずに自然と私を敬えばいい。

 ただ生活しているだけで私に祈りを捧げればいい。


「あー、危なかったわー」


 私とフランツが話していると、ナツカが戻ってきた。


「ギリセーフ?」


 一応、聞いておこう。


「アウトなわけないじゃん。いやー、メイド服じゃなくてよかったわー」


 ジャージは脱ぎやすいしね。


「さて、いつまでもここにいるわけにはいきません。もしかしたら兵士がやって来るかもしれませんからね」


 さすがに夜だし、領主の屋敷から距離があるため、簡単には来られないだろうが、さっさと逃げた方がいいだろう。


「ですな。では、ヒミコ様、私はお先に失礼します」


 フランツがそう言って、頭を下げる。

 フランツはこの町に残るわけだし、さっさと行った方がいい。


「そうしなさい。後のことは任せました」

「ははっ! 皆様方のご多幸を願っております」


 幸福の神に何を言ってんだ?


「面白いギャグね。笑えるわ」


 私がそう言うと、フランツは笑いながら上機嫌で自分の家に帰っていった。

 私とナツカはフランツを見送ると、ヘリまで戻る。


 私はヘリに向かって手を掲げると、ヘリを消した。

 そして、振り向き、獣人族たちを見る。

 もちろん、獣人族たちも私を見ていた。

 獣人族たちだけでなく、ミサもリースも東雲姉妹もエルフの2人もヨモギちゃんも皆が私に注目している。


 私はチラッとミサを見た。


「清聴! これからひー様から大切なお話がある! 心して聞くように!」


 さすがに私の巫女だけあって、こういう仕事はできる。


「お前達、待たせましたね。見ての通り、無事、エルフの救出に成功しました。お前達もこんな町にいつまでもいたくはないでしょう。ということで、南部の森に帰還します…………はい!」


 私はそう言って、転移を使った。

 すると、一瞬にして、景色が汚いゴミ収集場から平原へと変わった。


 南部の平原も今はまだ夜であり、暗いはずである。

 だが、転移した先は異様に明るかった。


 それもそのはず、私達の視線の先には大きな砦で完成されていたのだ。


 砦は木材で作られた壁の前に堀があり、簡単には攻め落とせそうにない。

 壁の上は見張り台となっており、巨大なライトがあちこちに設置されているため、平原がかなり明るい。

 これでは夜であろうと侵入は難しいだろう。


「しかし、眩しいわね……」


 ヒミコの目が痛いじゃないか……


「ライトがこちらに向けられていますからね。さっさと、中に入りましょう」


 リースがそう言うと、吊り橋が下り、中から装甲車が出てきて、こちらにやってくる。


「迎えかな?」

「向こうは私達を視認できますからねー」


 まあ、200人近くが急に現れたらすぐにわかるか……


 私達が装甲車がこちらに来るのを待っていると、装甲車が私の前に止まった。

 そして、中からエルフの男が降りてきた。

 エックハルトである。


「これはヒミコ様、お戻りになられましたか!」


 エックハルトが挨拶をしてくる。


「お前、いつの間に運転をできるようになったんです?」


 エルフが車を運転するのはめっちゃシュールだ。


「勝崎隊長に教わりました。最初は怖かったですが、慣れれば簡単ですね」


 ミサも同じようなことを言っていたが、大丈夫かね?


「まあいいです。それよりも中に入ります。それと獣人族の族長たちを呼びなさい。見ての通り、奴隷となった獣人族を開放しました」

「わかりました。車にお乗りください。しかし、一度にこれほどの人数を救うとはさすがですね」


 まあね!

 買っただけだけど……


「あと、エルフも2名、救出しましたよ」

「なんだと!?」


 そんなにビックリするなよ。

 元からエルフを救出しに行くって言ってたじゃん。


「ユリア、テレーゼ、こっちに来なさい」


 私が2人に命令すると、ユリアとテレーゼが私達にもとに来る。


「おー! 確かに同胞だ! ヒミコ様、感謝します!」


 ユリアとテレーゼを見たエックハルトが跪き、感謝してきた。


「そういうのは後にしなさい。まずはこの者達を中に入れ、休ませるのです」

「はっ! 獣人族の方々! これからそれぞれの族長殿をお呼びいたしますので、砦の中にお入りください!」


 エックハルトが獣人族たちに呼びかけると、獣人族たちは顔を見合わせながらゆっくりと砦の入口に向かっていった。


「エックハルト、その装甲車にはユリアとテレーゼ、そして、ヨモギを乗せなさい。ヨモギは村上ちゃんの所へ送ってください。私達は勝手に行きます」


 私はそう言って、スキルで車を出した。


「わかりました。私も村長たちに報告してきます」

「そうしなさい。私達はお前の村のいつものところでキャンピングカーを出し、休んでいます。話がついたら呼びなさい。あ、それと明日の夕方くらいに勝崎に来るように言ってください」

「かしこまりました。今夜はごゆるりとお休みください」

「はい、おやすみなさい」


 私はそう言って、助手席に乗り込んだ。


「ミサ、運転しなさい」


 私は助手席からミサに指示する。


「え? 私です? リースの方が上手ですよ」

「リースは道がわからないでしょ」

「まあ、そうですけど……」

「あたしが運転しようか?」


 ミサが不安そうにしていると、フユミが立候補する。


「「却下」」


 私とミサは声を揃えた。

 フユミも運転できるのだが、なんか怖いのだ。


 ミサはフユミに運転させるわけにはいかないと思ったのか、渋々、運転席に乗り込むと、リースと東雲姉妹が後ろに乗り込む。


「リース、もうちょっとあっちに行けよ」

「リース、あたしにその顔を近づけるな。なんかへこむだろ」

「うるさいな、このバカ姉妹……というか、なんで私が真ん中なのよ! お前ら、デカいから圧死するわ!」


 仲良くしてよー……

 もうちょっと広い車を出せばよかった。


「ミサ、レッツゴーです」

「はい。出発します」


 私達は後部座席で喧嘩をしている3人を無視し、砦に入った。

 砦の中は道が整備されており、入口近くには戦車やヘリが並んで置いてある。


 さらに進んでいくと、仮設住宅が並び、夜だというのに電気もついて明るかった。

 もっと言えば、夜だというのにその辺の道端で酒を飲む獣人族たちもいたくらいだ。

 あと、その獣人族に交じって青木がいたような気がするが、気のせいだろう。


 私達はその住宅区を抜け、森に入った。

 そして、私達が最初に来た村に着くと、いつもの場所にキャンピングカーを出し、中に入る。


「今、何時くらいですかねー?」


 キャンピングカーに入り、一休みしていると、ミサが聞いてくる。


「11時は過ぎてるんじゃない? 今日はもうシャワーを浴びて寝よっか」

「ですねー」

「さんせー」

「ねよー、ねよー」

「今後のことは明日にして、今日は休みましょう」


 全員が賛成したため、私達は簡単にシャワーを浴びて、就寝することにした。


 おやすみー!

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