第037話 平和が一番!


 私達は馬車に乗り、マナキスの町を目指している。

 ちょっと遠いが、おしゃべりをしたり、お茶をしながら優雅に進んでいっていた。


 夜になると、街道を逸れ、キャンピングカーと共にバーベキューセットを出してキャンプをした。

 JK4人による異世界キャンプだ。

 さぞ、見栄えが良いと思う。

 もっとも、3人ほど、マシンガンを背負っていたけどね……


 翌日も私達はフユミの運転のもと、マナキスへと向かっていく。

 この日も天気が良く、絶好の馬車移動日和だった。


 私達が前日と同様にお茶とおしゃべりをしながら進んでいたのだが、馬車が急に止まった。


「フユミ、どうしたの?」


 私はフユミがトイレでも行きたくなったのかなと思い、聞いてみる。


「あれ」


 フユミが指差した前方を見ると、道に木が倒れていた。


「ふーん、倒木ねー……」


 確かに道のそばには森があるため、倒木があっても不思議ではない。

 だが……


 私は倒れている木の根元をじーっと見る。


「人の手で切られたものね。足止め……盗賊かな? ナツカ」

「よっしゃ! 私の出番だぜ!」


 ナツカがマシンガンを持って、意気揚々と馬車を出ると、荷台にいたフユミも馬車を下りた。


「おらー! 出てこいや! 誰の馬車を止めたと思ってんだ!!」

「神の天罰を見せてやんよ!!」


 元気な姉妹だねー。


「あんたは行かないの?」


 私は馬車から降りようとしないミサに聞く。


「東雲姉妹で十分でしょう。私が行っても役に立ちませんし……」


 まあ、ミサは銃を扱えるけど、運動神経がそこまでいいわけではないしね。


「じゃあ、私達は見学していましょう」

「ですね」


 私とミサは馬車の中から東雲姉妹を見守ることにした。


「はよ、出てこんかい! ハチの巣にしてやるぞ!」

「デストローイ!」


 馬車の外ではナツカとフユミがマシンガンを構え、威嚇しながら周囲を警戒している。

 だが、一向に盗賊はおろか、魔物や動物すら出てこない。


「ひー様の勘違いですかね?」


 一向に誰も出てこないので、不審に思ったであろうミサが聞いてきた。


「うーん……あの倒木は間違いなく、人の手によるものよ。切って、どっかに行った可能性もあるけど…………」


 それをする意味はない。

 トイレかなんかでちょっと外している可能性も低い……


「東雲姉妹を警戒してるとか?」

「まあ、東雲姉妹というよりもマシンガンじゃない? だって、東雲姉妹、メイド服よ? 警戒する要素がない」


 物騒なことは叫んでるけど……


「姉貴、全然、出てこねーぞ!」

「あの森が怪しい!」

「よっしゃ! 乱射したるわー!! あははー!!」


 フユミが狂ったように笑い、森に向けてマシンガンを乱射した。

 別に弾はいくらでも出せるからいいんだけど、無駄撃ちはやめてほしい。


 フユミはそのままマシンガンを乱射していたが、反応がまったくないため、撃つのをやめる。


「……本当に何もいないんじゃね?」


 フユミが真顔で馬車の中にいる私を見てきた。


「ひー様が間違えるはずないだろ!」


 私を疑ってきたフユミをナツカが怒る。

 とはいえ、私だって間違えることは普通にある。


「うーん……ひー様―! 手榴弾をくれ! 森ごとぶっとばしてやる!!」


 森で手榴弾なんか使うな!

 木に当たって跳ね返ったらどうすんのよ!

 危なすぎるでしょ!


「――ま、待ってくれ! 降参する!!」


 森の中から男の声が聞こえてきた。


「ミサ、フユミを止めなさい。あいつ、降伏してきた者にも撃ちそうです」

「罠の可能性は?」

「する意味がありません。まあ、変な動きを見せたら殺してもかまいません」


 私の行く道を塞いだだけでも十分な重罪だ。


「わかりました」


 ミサは頷き、馬車を降りると、東雲姉妹に近づく。


「ん? メガネ、どうした?」

「危ないから馬車に乗ってろよ」


 東雲姉妹がマシンガンを森に向かって構えたまま、ミサを諫める。


「ひー様の命令です。銃を下ろしなさい」


 ミサがやる気満々の2人を逆に諫めた。


「えー!」

「私の大活躍が……」


 2人は不満そうではあったが、私の命令なので素直に銃を下す。


「さて、出てきなさい。言っておきますが、不穏な動きをしたら殺します」


 ミサが森に向かって警告する。


「だったらその悪魔の武器を持っているメイドを下げてくれ。恐ろしくて出られん」


 盗賊風情が何を言ってんだ?


「ひー様、殺しても?」

「構いません。私の前に姿を現すことができない者はきっと女神教の信者でしょう」

「――わ、わかった! すぐに出る!」


 男の懇願する声が聞こえると、森の中がガサガサと音を立てた。

 すると、10人以上の小汚い格好をした男たちがこちらにやってくる。


『ミサ、1人で十分です。私の所に連れてきなさい』


 私はお告げのスキルを使って、ミサに命令した。


『了解です!』


 何人もぞろぞろ来られてもめんどいわ。

 しかも、ばっちいし。


「止まりなさい! 代表者は誰ですか?」


 ミサが銃を向け、こちらにやってこようとしている男達を止める。


「俺だ」


 答えた男はさっきまでしゃべっていた男だ。

 服もボロボロだし、ヒゲ面だし、非常に汚らしい。


「お前だけこちらに来なさい。ひー様がお会いになられる」

「わかった」


 男はミサに連れられて馬車の前に来た。


「跪きなさい。ひー様の御前だ」


 ミサがそう言うと、男の姿が見えなくなる。


 いや、私は馬車に乗っているんだから跪かれたら見えないじゃん……

 仕方がないなー……


 私は腰を上げ、扉を開けると、馬車から降りた。

 目の前にはさっきの薄汚い盗賊が跪いているのが見える。


「お前、何故、私の馬車を止めるのです? 非常に不愉快です」


 ヒミコ、怒っちゃうぞ!


「申し訳ありません! 幸福教団の方とは知らず、止めてしまったのです」

「私達が幸福教団ではなかったのならどうする気だったのです?」

「そ、それは……」


 言い淀んだ時点でアウトだわ。


「お前達は何者です?」

「俺達はすぐ近くにある村の人間です。重税で食べものがなく、こうして盗賊をしています」


 重税ねぇ……

 こいつらを救ったら信者になるだろうが、一度、盗賊に落ちた人間を信用できるだろうか……

 まあいい。


「女神教に救いを求めるといい。女神アテナはこの世界に苦しむ人はいないと言っていたし、きっと救ってくれるだろう」


 絶対に無理だろうけど。


「俺達がそんなことを言っても、女神教はお構いなく年貢を取り立ててくる…………もはや盗賊に落ちるしかなかった」


 かわいそうだねー。


「では、私が食料を授けましょう。その代わりに今後一切、幸福教団を狙わないことです」

「食料を分けてくださると?」

「ええ、これを…………」


 私はスキルを使って米30キロの袋を出す。


「こ、これは?」

「米という穀物ですね。水で炊くと食べられます。美味しいです」

「おー! 感謝します!」


 男は土下座でもせんばかりに地に頭をつけて感謝してきた。


「わかったのならさっさと倒木を動かしなさい。私達は先に進まねばなりません」

「はい! すぐに!」


 男は返事をすると、立ち上がり、米を持って森に戻っていく。

 男が米を持って、他の男達に説明すると、歓声が沸いた。

 そして、すぐに男達が木を端に動かす。


「行きますよ」


 私がそう言って、馬車に乗り込むと、ミサとナツカも馬車に乗ってきた。

 そして、フユミが荷台に乗ると、馬車が動き出す。


 男達は私に感謝の言葉を送りながら見送っていた。


「いいんですか?」


 馬車が進み、男達の姿も見えなくなると、ミサが聞いてくる。


「何がです?」

「いや、米を渡していましたが、30キロではすぐに尽きるのでは? エルフの時のように信者にしないんですか?」

「お前、あれらを信用できるのですか? 盗賊ですよ?」

「ひー様の威光の前に改心しますよ」


 するかねー?


「もし、私達がマシンガンを持っていなかったらどうなっていたかわかりますか? 金品を奪われた後、私達はあの薄汚い男達に死ぬまで犯されるんですよ? 道を倒木で塞ぎ、馬車が止まったところを襲う…………どう考えても常習犯です。そんなヤツらをエルフや篠田さん達がいる南部に連れていくわけにはいきません」


 たとえ、改心して、真面目に働くとしても、また飢饉などのピンチになったらすぐに盗賊に戻るだろう。

 一度やった者はもう一度やる。

 いくら人手不足だろうが、そんな不穏分子はいらない。


「では、殺してしまえば良かったのでは?」

「米をあげたし、これからは幸福教団ではなく、女神教を襲うでしょう。たいした効果はありませんが、いい陽動になります。信者ポイントを1ポイント消費するだけでいいのですから十分でしょう」


 まあ、そのうち、女神教の騎士が討伐にくると思うけどね。

 常習ならすでに動いているかもしれない。


「なるほどー」


 私は別に信者が何をしようと構わない。

 女を犯そうが、強盗をしようが、人を殺そうが、それが必要な行為なら私は干渉しない。

 元より、幸福教団にそういったものを規制する教えや規則は一切ないのだから。

 ただ、同じ幸福教の信者にそれらの暴力を行うのは許されない。


 幸福を求め、幸福になることが幸福教の唯一にて、絶対の教えなのだから。


 これを妨げそうな者はいらない。

 あの氷室ですら、幸福教の信者に何かをすることはない。



 私達は盗賊と別れた後も優雅に馬車の旅を続け、夜になると、バーベキューで楽しんだ。

 そして、翌日の昼にはマナキスの町に到着したのだった。

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