第036話 いざ、冒険の旅へ!


 買い物に出ていたヴィルヘルミナが帰ってくると、私とミサは客間を借りて、着替え始める。

 私の服は紺と白のドレスであり、全体的に肌を隠すタイプのものだ。


「ウエストがきついわね……」


 私は太ってないし、むしろ身体のラインには自信があるのだが、それでもウエストがきつい。


「ドレスはそういうものらしいですよ。ほら、ヨーロッパでもコルセットとかあるじゃないですか?」


 ミサが教えてくれる。

 ミサはすでに着替え終えており、薄緑と白のドレスだ。

 私と違うのは全体的にゆったりとしたデザインで体のラインが見えないところ。


「私もそっちがいいなー」


 私のドレスはウエストが締まるタイプのものであり、胸部が無駄に強調されて嫌だ。


「嫌味です?」


 ミサが汚いものを見る目で私の胸部を見る。


「いや、マジで。私って、普段は和服だし、こういう締め付けるタイプに慣れてないんだよね」


 和服は楽なんだけどなー。

 夏はめっちゃ暑いけど……


「お似合いですよ。高値で売れそうです」


 人を奴隷市場に出そうとすんな!


「まあいいわ。さっさと奴隷とリースを回収して帰りましょう」

「ですね」


 私はミサにコンタクトレンズを出してやり、ミサがメガネからコンタクトに換えると、客間を出て、皆が待っている玄関のホールに行く。


 ホールでは東雲姉妹、ランベルト、ヴィルヘルミナが待っていた。


「ひー様、似合ってるー」

「メガネはメガネじゃないと、誰かわからんな…………」


 ナツカは私を褒めてくれたが、フユミはミサを見て、目をこすっている。


「よくお似合いだよ」


 ランベルトも褒めてくる。


「ありがとう」

「これが委任状になる。基本的のこれが身分証明にもなるから兵士とかに止められたらこれを出せばいい」


 ランベルトが丸まった書状を渡してきた。


「わかったわ」

「それと馬車を表に止めてある。マナキスはここから馬車で2、3日となるが、気を付けていってくれ。たまにだが、盗賊も出る」


 盗賊ねー……

 私の世界にはいらないな。


「大丈夫よ。そのための東雲姉妹なんだから」

「それが逆に怖いんだがな…………」

「ランベルト、それよりもこの町の情勢はどうですか? 獣人族がいなくなったことは悟られていませんよね?」

「もちろん悟られていない。今はそれどころではないからな。この町もだし、ほとんどの町の領主の関心は南部に向かっている。俺も悟られないように動くつもりだ」


 この町はランベルトに任せておいていいな。

 こいつは優秀だし、真っ黒だから上手くやるだろう。


「よろしい。すべてお前に任せます。ミサ、ナツカ、フユミ、行きましょう」

「わかりました」

「よっしゃ!」

「あたしが御者やるー」


 私達が玄関の扉を開け、外に出ると、目の前に馬車が止まっていた。

 馬車はこれまでの荷物を運ぶタイプのものではなく、人を乗せるタイプのものだ。

 まあ、それ相応の身分という設定なんだから荷台はダメか。

 なんにせよ、こっちの方が快適そうだからこれでいいわ。


 馬車はフユミが運転するようなので、私とミサとナツカは馬車に乗り込み、備え付けの対面式の椅子に座る。


「フユミ、おっけー!」


 私達が座ると、ナツカがフユミに声をかける。


「よっしゃ! 東雲号! 発進!」


 不吉な名前……


 何はともあれ、馬車はフユミの運転で出発した。

 これまでは馬車の中にいて、外がまったく見えなかったのだが、この馬車は外がちゃんと見える。


「何げにキールの街並みを見るのは初めてね……」


 私はポツリとつぶやく。


「ですねー…………しかし、この馬車を見た人達が大慌てで逃げていくのが気になります」


 そうなのだ……

 町の広い道を馬車で進んでいるのだが、馬車を見た住民が皆、逃げ出している。

 いや、正確には馬車ではない。

 御者を見て、逃げ出していた。


「まあ、門であんなやりとりをしていたくらいだし、町でもあんなんなんでしょ」

「だと思います……」


 私とミサはナツカをじーっと見る。


「ちょっと馬車の上から槍とかを振り回しただけですよ」


 思ったより、ひどかった……


「ランベルトに苦情が来るわけだわ……」

「最低な姉妹です。こんなんが私の先輩です……」


 私の先輩でもある……


「ナツカ、フユミもだけど、マナキスで騒動を起こさないでね」

「わかってますってー。ひー様は心配性だなー」


 ホント、大丈夫かな?

 人選、間違えたかも……


 私はちょっと不安になりながらも街並みを見続けていく。

 私がぼーっと町を見ていると、前方に門が見えてきた。


「あそこから出るの?」


 私はこの町に詳しいだろうナツカに聞く。


「ですね。東門になります。さて、そろそろ出番かな?」


 またあれをやんの?


 私が呆れていると、馬車が門の前に止まった。


「あ、あのー、どちらに行かれるのですか?」


 門番がビビりながらも御者のフユミに尋ねている。


「ご主人様に頼まれてマナキスに行くんだよ! いちいち止めんな!」


 フユミが怒鳴った。

 理不尽そのものである。


「マナキスですか……ちなみに、馬車に乗っている方は?」

「姉貴だよ。見てわかるだろ!」

「い、いえ、もう2人の方です。見覚えがないのですが……」

「え? もう2人は……えーっと、あれだよ、あれ! な!?」

「はぁ? あれと言われましても……」

 

 ダメだこりゃ。


「ナツカ、この委任状を門番に見せてきなさい」


 私はナツカに委任状を渡す。

 すると、ナツカは意気揚々と馬車を下りていった。


「おら! これを見ろ! ご主人様の委任状だ!」

「あー…………マナキスまで奴隷の買い物に出掛けるのですね。わかりました! お通り下さい!」


 ん?

 やけにあっさりだな。

 それもどことなく、嬉しそうだ。


「お前、私らが厄介払いされると思ってね?」

「あたしらは売られねーぞ」


 なるほど……

 もしそうなったらこの町も平和になるわ。


「そ、そんなことは思ってないですよ!」


 思ってるな……

 ヴィルヘルミナという上質なメイドを手に入れたランベルトが問題しか起こさない姉妹を処分しようとしていると予想しているな。


「なんかムカつかね?」

「イジメちゃおっか?」


 いいから早く出発してほしいんですけど……


「ナツカ、フユミ、さっさと行きますよ。マナキスまで遠いんですから」


 私は扉を開けて、2人に注意する。

 ナツカは素直に馬車に乗り込んできたが、フユミは兵士を睨みながら御者の荷台に乗った。


「しゅっぱーつ!」


 フユミがそう言うと、馬車が動き出し、門を抜けた。

 門を抜けると、平坦の道が続いており、ゆっくりと進んでいく。


「脱出は成功ね」

「ハァ……ホント、めんどくさい姉妹ですよ」


 私が町を出たことで一息すると、ミサがため息をついた。


「うるさいなー。この方法で無事に通れたんだからいいじゃねーか」


 それはそうなんだけど、少しはご主人様の心労を気にすればいいのに。


「ミサ、ナツカ、ここから先は盗賊も出るらしいので、これを渡しておきます」


 私はスキルを使ってマシンガンを2丁取り出すと、ミサとナツカに渡す。


「あざます!」

「フユミのは?」


 フユミかー……

 あの子、見境なくぶっ放しそうなんだよなー……

 でも、外にいるのはフユミなんだから危ないか……


「フユミ、フユミ」


 私は御者をしているフユミに声をかけた。


「何ですー? コーラの差し入れですかー?」


 さりげに要求してくるな……


「マシンガンを持ってなさい。あと、コーラもあげます」


 私はフユミにもマシンガンを渡し、ついでに要求されていたコーラも渡した。


「ひー様、サンクス!」


 フユミはマシンガンを横に置き、コーラを飲みながら馬車を操る。


「しかし、お前、馬車をよく操れますね」

「あたし、動物が好きなんで! 馬も乗れますよ! ご主人様の家で乗せてもらったし!」


 そこそこ長い付き合いだけど、フユミが動物好きとは知らなかった。


「へー……意外。子犬を蹴りそうなイメージなのに」

「子犬を蹴っているヤツを見つけたら殺しますね」

「獣人族は? 好き?」

「いや、あれはほぼ人間じゃん。コスプレした人間。ヨハンナなんかコスプレ喫茶という名のキャバクラで働いてそうじゃん」


 まあ、そんな感じはする。


「ナツカは?」


 私は姉の方にも聞いてみる。


「私は別に……」

「姉貴はペンギンさんが好きなんだぞ。しょっちゅう、動画を見てた」


 へー……


「あんたって、ちょっとあざといところがあるよね」


 ギャルのくせに……

 ギャップ萌えでも狙ってんの?


「なんで!? 別にペンギンが好きでもよくね!? ってか、嫌いなヤツ、いる?」


 私は好きでもなければ嫌いでもない。


「嫌いな人はあまりいないかもね」

「でしょー」


 まあ、さっきから黙っているミサは動物全般が嫌いだったりする。

 さすがのミサも嬉しそうに語るナツカとフユミを見て、空気を読んだようだ……

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