第035話 ランベルトと再会


 私達はヴィルヘルミナが乗ってきた馬車に乗り、キールの町にやってきた。

 とはいえ、町に入る門で引っかかってしまっていた。


「中身は何だ?」


 馬車の外から門番らしき男の声が聞こえている。


「ご主人様から中は見てはならないって言われてるんですぅ……」


 馬車の外でヴィルヘルミナがめっちゃ甘い声を出しているのが聞こえた。


「今は領主様よりすべての馬車の中身をチェックするように言われている。それはバルシュミーデ殿の馬車だろうが例外ではない。悪いが見せてもらうぞ」

「や、やめてぇ……見ないでぇー」


 このしゃべり方、ちょっとイラつくな……


「使えないメイドだわ」

「姉貴、私らが手本っていうのを見せてやろうぜ」


 東雲姉妹はそう言って立ち上がると、馬車の入口付近まで行く。

 そして、扉を開けると、フユミだけが降りていった。


「おうおう! お前ら! 何、ご主人様の馬車を覗こうとしてんだ! 殺すぞ!」


 フユミのチンピラボイスが聞こえる。

 また、このパターンなのね……


「あ、帰ってたんですか…………」


 門番のものすごい残念そうな声が聞こえてきた。


「あーん? 帰ってたらマズいのか? 何か文句でもあんのか?」

「い、いえ、そんなことはないです…………」

「ケッ! お前の顔は覚えたからな!」


 どうせ、すぐに忘れるくせに。

 多分、門番もそう思ってそう。


「あ、あの、馬車の中を確認したいのですが……」


 お! 粘るな!


「お前、殺すぞ! 今、馬車の中では姉貴が着替え中だ」

「覗いたら殺すかんな!」


 馬車の中にいるナツカも便乗する。


「でしたら、待ちますので……」

「姉貴ー! ナイフをくれ! 皆殺しにしてやるぜ!」

「お姉ちゃんが着替えるのを待ってろ。2人で何人狩れるか勝負しようぜ!」


 もう、これ、キチガ〇だろ……


「わ、わかりましたから! やめてください! おい! 早く行ってくれ!」

「は、はい! すみません! すみません!」


 焦った門番の声と必死に謝るヴィルヘルミナの声が聞こえると、馬車が動き出す。


 馬車の外に出ていたフユミを置いて……


「こらー! ヴィルヘルミナ! あたしを置いていくなー! ちょっとかわいい顔をしてるからって調子に乗んじゃねーぞ!」

「あ、すみません」


 ヴィルヘルミナが素で謝った。




 ◆◇◆




 色々あったが、無事に門を通過した馬車は前にも来たランベルトの屋敷に到着した。


「おー! 久しぶりの我が家だ!」

「なついね」


 馬車から降りると、東雲姉妹が屋敷を感慨深く見上げる。


「ミサ、なんとなくわかってたんだけど、こいつら、お前のものは俺のものって思ってない?」


 私はミサに耳打ちをした。


「だと思いますよ。ひー様と一緒」


 あ、地雷を踏んだ。


「さ、さて、ヴィルヘルミナ、ランベルトのもとに案内してください」


 私はミサの顔を見ないようにし、ヴィルヘルミナに案内を頼む。


「はい、こちらになります」


 ヴィルヘルミナは玄関の扉を開け、中に入っていった。

 私達もそれに続き、中に入ると、玄関のホールでランベルトが出迎えてくれる。


「よく来てくれた。東雲姉妹も来ると聞いて心配だったのだ」


 ランベルトが首を横に振りながら愚痴ってきた。


「ご主人様、ひどくね?」

「あたしのおかげで門を突破したんだぞ」


 東雲姉妹が親指を下に向け、ブーイングをする。


「つまり、またあれをしたのか…………苦情が大変なんだがな……」


 まあ、そうだろうね。

 ランベルトの監督不行き届きだ。

 でも、ランベルトの苦労や気持ちもわかる。

 だって、私もよく苦情をもらうもん……


「頑張りなさい。あと少ししたら誰もお前に文句を言わなくなる。お前は王様になるのだから」

「ふむ! その通り! この町は余のものだ!」


 単純な男……


「よっ! 陛下!」

「東雲王国、ばんざーい!」


 バカな姉妹……


「その国名だけはないな…………まあ、いい。立ち話もなんだし、奥で話そう。こちらだ」


 ランベルトがそう言って、奥の部屋に勧めてくれたので、私達は部屋に入る。

 部屋は以前に来た部屋と同じであり、食堂らしく、白い布がかかった長いテーブルが置いてあった。


 私達は各自適当に座ると、私が出した飲み物を飲んでいく。


「まずは南部での戦の勝利、おめでとう。私としても非常に喜ばしい」


 ランベルトは先の戦いの結果の祝辞を述べた。


「まあ、負けるはずのない戦いでしたが、勝崎はよくやりました。最初の戦いで一方的に勝利したのは大きいです」

「実際、この町でも動揺が走っている。これまで女神教の軍が負けることはほぼなかったからな。ましてや、少数相手にコテンパンでは不安はすごいだろう」


 ランベルトは嬉しそうに語っている。


「この後の動きをどう見ますか?」

「我らが大きくなる前に大軍を持って動くのがいいが、どうかな? 中央の権力者共は権力争いに夢中だし、今頃、今回の敗戦の責を押し付け合っていることだろうよ」


 腐ってんなー……

 好都合だけどさ。


「当分は動きはないと?」

「いや、小競り合い程度か、からめ手で来ると思う。避難民に見せかけた埋伏の計だな」


 偽りの投降をしてくるわけか……


「それは防げます」

「うむ。あとは女神アテナ次第だろう。こればっかりは読めん」


 まあ、人じゃないしね。


「よろしい。勝崎に伝えておきます。お前はどんどんと功をあげていきますね」

「わはは! 王だから!」


 そんなに王様になりたいのかねー。


「そんなお前に聞きます。ヴィルヘルミナはどうしたんですか? 幸福教団がエルフの奴隷解放を謳っているのを知っているでしょう?」

「ああ、それな。カルラが南部に行ってしまったんで新しいメイドを雇おうと思ったんだ。そうなると、口の堅い奴隷が良いと思って探してんだよ。そしたらエルフの奴隷を見つけた。ひー様がおっしゃる通り、我らはエルフの奴隷解放を謳っている。だから買った方がいいなと思って、買ったんだよ。エルフだったから非常に高かったがね」


 合法的な奴隷解放か……

 金持ちにしかできない方法だ。


「では、ヴィルヘルミナを奴隷扱いしていないと?」

「そうだな。やってほしいのは屋敷の管理だ。給金だって払うし、仕事さえしてくれれば好きにすればいい。まあ、奴隷の首輪はさすがに外せんがね。これを着けずに外に出るとすぐに捕まるからな。それも嫌ならカルラを返してくれ。だったらヴィルヘルミナを南部に連れていっていいぞ」


 マジでメイドが欲しいだけっぽいな。


「ここにメイドが2人いるけど?」

「いらん。逆に仕事が増えるわ」


 でしょうねー……


「ヴィルヘルミナ、お前はどうしたいですか? 南部に行ってもいいし、ここで働いてもいいです」


 本人の意思に任せよう。


「南部のエルフに知り合いもいませんし、ここで働こうかと思います。ご主人様はよくしてくれますし」


 本人がそう言っているならそうするか……


「わかりました。では、そのようにしなさい。ランベルト、今後もエルフの奴隷を見つけたら買いなさい。金の延べ棒をいっぱいあげますから」

「了解した。知り合いの伝手で探してみる」


 悪い知り合いだろうね。


「それと、マナキスでエルフの奴隷を見たという者がいたのですが、何か知っていますか?」

「マナキスは奴隷市場があるからな……そこで見たのかもしれん。だが、まだいるかな? エルフはすぐに売れるぞ」


 高いが、その分、需要もあるか……

 ランベルトみたいな金持ち貴族は買えるだろうし。


「ヴィルヘルミナ、お前は何か知りませんか?」

「申し訳ございません。私はマナキスに行ったことがありませんので」


 そっか……

 まあ、行ってみて探してみるか。


「ちなみにですが、エルフっていくらくらいします? 私の金の延べ棒で買えますかね?」


 再び、ランベルトに聞く。


「あれを出すのはやめた方がいい。トラブルの元だろう…………よし、俺の委任状を出そう」

「委任状?」


 何それ?


「ひー様達は俺に雇われた代理人ということにする。要は奴隷を買ってこいというおつかいだ。金は後でこちらに請求が来るようにしておく。金の延べ棒をくれたらいくらでも買っていいぞ」


 それは良い考えかもしれない。

 そうすれば、堂々と町に潜入できる。


「しかし、女子4人は怪しまれませんかね?」

「処女の奴隷を買う場合はたまにこういうこともする。男に頼むと価値を落とすかもしれんからな」


 嫌なことを聞いちゃった……

 処女は高いんだ……


「わかりました。では、そうしましょう」

「買うのはエルフだけか?」

「私に心から従う者は買います。それ以外はいりませんね」


 私が欲しいのは奴隷でもなければ、労働力でもない。

 欲しいのは信者だ。


「了解した。買った者はここに連れ帰ってもいいし、ひー様の転移で南部に連れていってもいい」

「状況次第ですね。また連絡します」

「わかった。では、準備をしよう。委任状と………服もだな……ヴィルヘルミナ、適当に見繕ってきてくれ。俺は女の服はわからん」


 ランベルトは私の格好を見て悩むと、ヴィルヘルミナに指示を出す。


「かしこまりました。しかし、服だけで大丈夫でしょうか? ヒミコ様と神谷様の顔は世界中の人が見ていますけど……」


 女神アテナの啓示に割り込んだからねー。


「大丈夫だと思うぞ。普通は顔よりもその服装や髪飾りに目がいく」


 まあ、こっちの世界に和服はないし、真っ赤だしねー。

 実際、あっちの世界でも高校の制服姿の私とではだいぶイメージが変わるって聞いたことがある。


「ミサ、お前はメガネを取りなさい」

「見えなくなるんですけど」

「コンタクトを出してあげるわよ。あんたの家にあったやつを触ったことがあるし」


 正確に言うと、イタズラ心で隠したことがある、だけど。


「なるほど。神谷はメガネを取れば、問題ないだろうな。あとは…………」


 ランベルトは納得したようにミサを見た後、愛しの東雲姉妹を見る。


「なんだよ?」

「あたしらはこのままでいいでしょ」


 何故、そこまでメイドにこだわるんだろう?

 こんなのがメイド喫茶にいたら数日でつぶれるレベルでひどいメイドなのに……


「ハァ……まあ好きにすればいい」


 え?

 マジでこいつら、メイド服のままなん?

 目立ちすぎ…………いや、どっちみち、こいつらは目立つか。


「ヴィルヘルミナ、適当なドレスを買ってきてください。ナツカとフユミがメイド服ならば、それ相応の身分ということにします」


 本当は冒険者スタイルが良かったんだが、仕方がない。

 思った以上に東雲姉妹がメイド服を気に入っているみたいだし。


「かしこまりました。では、すぐに買ってまいります」


 ヴィルヘルミナが一礼し、部屋を出ていった。


「ランベルト、正直に言いなさい」


 私はヴィルヘルミナが出ていったのを確認すると、ランベルトを見る。


「なんだ?」

「ヴィルヘルミナを抱きましたね?」


 正直に吐け。


「いや、抱いてないが? さっきも言ったが、あれに期待するのは雑務だ。私は炊事や洗濯、掃除なんかをやったことがないのでな」


 えー……あんなにかわいくて、美人なのに。


「カルラが好みですか?」


 カルラだってかわいい。


「別にそういうことではない」

「じゃあ、やっぱり、ナツカとフユミ?」

「ない。やっぱりという言葉が非常に不快だが……」


 ………………………………。


「ランベルト、お前、少年が好きなんですね…………」

「こいつ、何を言ってるんだ?」


 隠すんじゃないよ!


「だってさー、普通、男なら手を出さない?」

「俺はそんなことよりもやるべきことがあるんだ。女を抱くのは後でもできる」


 なるほど。

 カルラも東雲姉妹もヴィルヘルミナも後の楽しみにとっているわけね。

 上級者ですわ。

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