第034話 再び、キールへ
私がキールの町に出発すると決めてから3日が経った。
その間に獣人族の人達も続々とこの南部の森にやってきている。
私はヨハンナと共にエルフ族の村長達にやってくる獣人族を紹介していった。
長年を生きてきたさすがのエルフも首領のジークを見た時は驚いていた。
だって、ライオンだもん。
普通に怖いよ。
私は色々とありながらも、なんとか皆の顔合わせをしていき、獣人族を森の外の平原へと案内した。
あとは勝崎達が上手くやるだろう。
私はすべての獣人族が合流したことを確認すると、キールの町に向かうことにする。
まずは転移で獣人族の集落に戻り、そこからランベルトと合流だろう。
私はお告げのスキルを使い、ランベルトに迎えを寄こすように連絡した。
「あのー、ひー様の転移で直接、マナキスに行けばいいんじゃないですか?」
ランベルトに伝え、目を開けると、ミサが聞いてくる。
「転移はどこでも行けるわけじゃないの。イメージが大事なんだけど、マナキスなんて行ったこともないし、まったく知らないから無理ね」
「でも、以前はキールに飛べましたよね? ほら、女神教の啓示の時」
ミサが言っているのは私が復活してすぐに女神アテナに挨拶に行った時のことだろう。
「あれは啓示で見えてたじゃん。あれなら行ける」
「へー。じゃあ、啓示が来たら行けるんですね。最近はまったく来ませんけど……」
あれから女神教の啓示は完全になくなった。
多分、私が転移でやってきて、余計なことを言われるのを怖れているのだろう。
私の転移は制限があるのだが、それを女神アテナは知らないと思う。
もし、知っていたら私が転移を使えないうちに啓示を使って、幸福教団を誹謗中傷すればいいのだから。
「啓示は便利ですが、私が便乗するのを嫌がっているのでしょうね」
「あー……確かにあのババアでは、ひー様に口喧嘩では勝てないでしょうし、いいように利用されるだけですもんね」
「そういうことです。では、獣人族の集落に行きましょうか。ナツカもフユミもいいですか?」
私は東雲姉妹にも確認する。
「おっけー」
「おけまるー」
東雲姉妹はメイド服でマシンガンを構える。
「シュールねー…………まあ、いいわ。では、行きます」
私は転移を使い、獣人族の集落に移動した。
獣人族の集落は当たり前だが、誰もいないため、ちょっと不気味だ。
「人がいない村って怖いですね……」
ミサがちょっとビビっている。
まあ、気持ちはわかる。
こういう本来なら人がいて、騒がしい場所が静かだと、より薄気味悪くなるのものだ。
「別に気になんないけどなー。なあ、姉貴!」
「え? う、うん。だよな!」
はい、お姉ちゃんは怖がりー!
「姉貴、ビビってる?」
フユミが姉を見て、ニヤニヤと笑いだした。
「ビビってねーし! むしろビビっているのはあんたでしょ! よし! お姉ちゃんが手を繋いであげよう!」
ナツカがフユミの手を取る。
「いや、いらんけど…………」
「フユミは天邪鬼だから! さあ、ひー様、森を出ようぜ。早くご主人様に会いたいわー」
そんな心にもないことを言ってまで、嫌なんかな?
まあいいか。
「森の外に迎えを寄こしてくれるようだからそこまで行くわよ」
「はーい」
私達は仲良く手を繋いでいるナツカとフユミの先導で集落をさっさと出ると、森の中の道を進んで行く。
集落を出ても東雲姉妹は手を繋いだまま歩いており、姉妹仲が良くて微笑ましいと思う反面、この姉妹は身長が175センチの長身なため、かわいくはない。
「迎えって誰かなー?」
フユミが手を繋いでいるナツカに聞く。
「そういえば、カルラも私達もいないからご主人様1人じゃん。ご主人様が来るのかな? というか、私らがいなくて、生活、どうしてんだろ?」
いや、お前達姉妹は戦力にならないじゃん。
メイドの仕事をしてたのはカルラだけでしょ。
「行ってみればわかるでしょ」
私はそう言って、東雲姉妹を促し、森を進んでいく。
そのまま進んでいくと、前に狼君達に囲まれた場所に出てきた。
なお、挨拶の際には狼君達にその時のことをめっちゃ謝られた。
「まだ来てないみたいね……」
私は先にある平原を覗くが、馬車も人もいない。
「待ちますかー。ひー様、ソファー」
ミサが命令してくる。
こいつ、どんどんと図々しくなっていくな……
でも、借りパクの件があるから逆らえない。
だって、よくよく思い出してみたら他にもいっぱい借りパクしてるんだもん。
私がソファーを出し、座ると、隣にミサが座った。
なお、東雲姉妹は何故か近くにある木に登ろうとしている。
「…………何してんの?」
私は一応、聞いてみる。
「木の上からなら遠くが見えるかなって」
「お姉ちゃんはメイド服のままはやめた方がいいと思うな」
……バカ姉妹だ。
煙じゃない方だったか……
私はもう放っておくことにし、迎えの到着を待つ。
しばらく待っていると、平原に見覚えのある馬車が見えてきた。
「おっ! ウチの馬車じゃん!」
「ホントだ!」
木に登るのを諦めた東雲姉妹も気付いたようだ。
「メイドが乗っていますねー」
ミサが言うように確かに御者はメイドだ。
そのメイドは金髪に見える。
「金髪メイド…………誰かさんみたいなパチモンじゃなくて本物かな?」
「ひー様、ひどーい。パチモンはひどーい」
パチモンが文句を言ってくる。
「あのー、ひー様? 耳がとがっているような気がするんですけど…………すげー美人に見えるんですけど…………あのメイド、エルフでは?」
私はミサに言われて、金髪メイドをよく見てみる。
ミサが言うように耳が尖っているし、どう見てもエルフだ。
「あいつ、エルフの奴隷を買ったな…………」
ランベルトは屋敷を管理するメイドがいなくなったので新しいメイド奴隷を買ったのだろう。
「ご主人様は面食いだなー」
「ああいう美形メイドばっかり集めるよね。さすごしゅ」
自分で言うな、バカ姉妹。
私達は平原まで出ると、そのまま馬車の到着を待つ。
そのまま待っていると、馬車が私達の前に止まった。
私は改めて御者をしているメイドを見る。
…………確かにエルフだわ。
それに首輪をつけているところを見ると、奴隷だろう。
私が奴隷エルフを観察していると、エルフは荷台から下り、私の前までやってきた。
そして、跪く。
「お初にお目にかかります、ヒミコ様、我が主、ランベルトの命でお迎えに参上しました」
やっぱ奴隷だな。
「ご苦労。お前は私を幸福の神と知っていますか?」
「もちろんでございます。啓示を見ていましたし、ランベルトより事情を聞いています。南のエルフを救い、奴隷解放を謳っていると……」
「そこまでわかっているのにランベルトはお前を奴隷としたのですか?」
「えっと……その辺りはランベルトに聞いた方がよろしいでしょう。少なくとも、私は奴隷のような扱いは受けておりません。主に雑務をしています」
ふーむ……
やっぱりカルラの穴を埋めた感じかな?
「まあいいでしょう。お前は私の子ですか?」
「ヒミコ様にお許しいただけるなら祈りを受け取っていただきたいです」
「お前の名は?」
「ヴィルヘルミナと申します」
また言いづらい名前だな……
でも、確かに信者リストには名前がある。
「ヴィルヘルミナ、愛しい我が子よ、お前は必ずや幸福になるでしょう」
「ありがとうございます!」
ヴィルヘルミナが地面に這いつくばる。
「立ちなさい。服が汚れるでしょう?」
私がそう言うと、ヴィルヘルミナが立ち上がった。
「ありがとうございます。早速ですが、馬車にお乗り下さい。ランベルトがお待ちです」
「はいはーい」
私達は言われた通り、馬車に乗り込む。
「では、出発いたします」
ヴィルヘルミナがそう言うと、馬車が動き出した。
「ナツカさんとフユミさんの立場が危うくなりましたね」
ミサが嬉しそうに言う。
「なんで?」
「メガネ、かち割んぞ」
ヤンキー姉妹がミサに噛みついた。
「だって、どう見てもヴィルヘルミナの方がいいですもん」
まあ、そう思わないでもない。
私もヴィルヘルミナの方が素直でかわいいと思うし。
「ミサはわかってないなー。男は素直な女よりも多少、気の強い方を好むんだぞ」
「そうそう! ご主人様はあたしらにお小遣いをくれるくらいには好んでるんだぞ」
多少の意味を知らないバカ姉。
パパ活でマウントを取ろうとするバカ妹。
「あんたらさ、ご主人様のことが好きなん? 付き合う気?」
双子で奪い合うのは勘弁よ。
「いや、まったく」
「おっさんじゃん」
ランベルトはまだ29歳だから…………いや、おっさんだったわ。
29歳がJKを相手にするのはヤバいね。
「じゃあ、どうでもいいじゃん」
「メイドとしてのプライドがね……」
「あたしらのアイデンティティだから。双子メイド姉妹で売ってるんだ」
難しい言葉を知ってるね。
だったら働け! というランベルトの言葉が聞こえてきそうだわ。
「…………ぶっちゃけて聞いていい? 抱かれた?」
ちょっと気になる。
「いや……カルラもなさそうだし、ご主人様はどうしてんだろ?」
「あたしはソッチ系と疑っている」
ひっで。
ランベルトはきっと誠実な男なんだよ。
あ、でも、貴族とかってショタ好きのイメージがあるな…………
ひえー。
「ちょっと確認しないといけませんね…………」
別に好きにすればいいが、他の信者のこともあるし、注意しないと!
「かわいそうなランベルト…………ひー様って、昔からそういうところがありますよね…………」
ミサが呆れた感じで言ってくる。
「そういうところってどういうところよ?」
「氷室のくだらない言葉を素直に信じるところです」
氷室?
もしかして、軍人は性欲おばけってやつかな?
でも、それ、合ってたじゃん。
勝崎は速攻でエルフとヤッてたじゃん。
「ミサはまだ子供ですねー」
「あんたにだけは言われたくないわ」
何故?
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