第027話 勝利報告


 獣人族を降してから10日近くが経過した。

 私はその間、獣人族の集落に滞在し、獣人族の人々の挨拶を聞いている。

 1人1人の話を聞くのはめっちゃ時間がかかるし、大変だったが、大切な信者のためには労を惜しむことはない。


「数が多いですねー……」


 私が頑張っているのに、巫女であるミサが愚痴る。

 こいつは毎日、毎日、愚痴っている。

 巫女としての自覚はないようだ。


「仕方がないでしょう? これだけの数の信者を一気に得られたのを吉と思いましょう」


 実際、1000人以上の信者を一気に得ることが出来た。

 これにより、私の力も上がった。

 新たなるスキルは得ていないが、転移が1ヶ月に1回から15日に1回に短縮されている。


「どうでもいいけど、さっさと引けよ、メガネー」


 ガラの悪いしゃべり方をする黒髪ギャルがミサを急かす。

 東雲姉妹の妹、フユミである。


 もちろん、姉のナツカもいる。

 ナツカは無言でせっせと編み物をしているが、フユミはミサとババ抜きをしている。

 正直、2人でババ抜きをして、何が面白いのかわからない。


 私は獣人族を降すと同時にこの姉妹を呼び寄せ、キャンピングカーに滞在させていた。

 その間、姉妹はトランプをしたりと、遊んでいるだけだが、暇そうにしていたミサを構ってくれるので助かっている。


「わかってますよ。こっちですね」

「いえーい、ハズレー!」

「ムカつく先輩だわ……!」


 仲良くしてね?


「ヒミコ様、本日は以上となります。明日は犬族となります」


 この挨拶を取り仕切っている狐族のヨハンナが本日の仕事の終了を告げてきた。


「犬族は多いんだっけ?」

「はい。一番多い種族となります。犬族を終え、次に多い猫族を終えられたら終了となります」


 先は長いな……

 あと、数日は滞在かな?


「わかったわ。あなたもご苦労様です。今日はもう下がっていいわ」

「はい。お疲れ様でした」


 ヨハンナはそう言うが、一向に出ていこうとしない。

 私はスキルでシュークリームを出し、ヨハンナに渡す。


「ありがとうございます!!」


 キツネはキャッキャッしながらキャンピングカーから出ていった。


「単純なキツネですねー」


 ミサがポツリとつぶやく。


「よく働いてくれるいい子じゃない」


 シュークリーム1つで頑張ってくれるのなら安いものだ。


「さて、勝崎に様子を聞くか……」


 私は獣人族の挨拶もひと段落ついたので、勝崎に連絡を取り、南部の状況を聞くことにした。


「メガネー、それがババだぞー」

「メガネ言うなし。バカの癖に私を騙そうとしても無駄です…………………くっそ」


 フユミが持っていたカードを引いたミサが項垂れた。


「やーい、やーい、ばーか、ばーか!」


 うるさいな……

 姉を見習え。

 しかし、ナツカはホントに静かだな。


 私は少し気になったので、ナツカの方を見てみると、黙々と編み物をしていた。

 だが、ものすごくいびつなものを作っている。


 編み物が趣味なことは知っていたが、ド下手くそだな……

 何を編んでるのかわからん。


 私はもう、こいつらは放っておこうと思い、目を閉じた。


『勝崎、聞こえますか?』


 私はスキルを使って勝崎に声をかける。


『聞こえています。お待ちしていました!』


 テンション高いな……


『どうしました? 今日はあのエルフの子と良いことはしていないんですか?』

『…………ひー様、やめましょうよ。俺がここで何を言っても村上に殴られます』


 でしょうね。


『それで? やけにテンションが高いですが、何かありました?』

『先日、マイルの町から5000の兵が攻めてきましたが、撃退したことを報告いたします』


 ほう……

 思ったより、攻めてくるのが早かったが、見事、撃退したようだ。


『それはよくやりました。こちらの被害は?』

『ゼロです。近づく前に戦車とライフルで潰しましたので……最後は軍用ヘリで片付けました』


 うーん、オーバーキルだなー。

 だが、初戦はこのくらいでいいだろう。

 何事も最初が肝心なのだ。


『よろしい。我が子に被害がないのは喜ばしい』

『エルフの皆も喜んでいます。ここ数日はどんちゃん騒ぎですね』


 勝って兜の緒を締めよとも言うが、まあいい。

 エルフにとっては希望の勝利だ。

 少しくらいは羽目を外すのも大事だろう。


『皆に伝えなさい。この勝利は幸福を願った皆の力だと』

『はっ! それとなんですが、捕虜も獲得しました』


 捕虜…………

 やはり生かしたか……

 面倒な……


『我らに捕虜を生かす余裕はありません。わかりますね?』


 殺せ。


『それが……一部のエルフが助命を乞うています』


 は?

 助命?

 エルフが?


『何故です? エルフはお人好しですか?』


 はっきり言えば、バカ?


『それなんですが、降伏してきた者の大将はエルフの血を引いているらしいのです。その縁もあって、密かに繋がっている領主らしいのです』


 そういえば、エルフと子を成す人族もいると聞いたな……

 うーん、これは簡単に処分はできない。


『その者は何と?』

『元から女神教に思い入れはないそうです。エルフに連なる者として、ぜひ、幸福教団に加わりたいと』

『そいつの名は?』

『アルバン・ヘルターです』


 えーっと、確かに信者リストに名があるね……

 ランベルトといい、こいつといい、寝返るのが早すぎん?


『マルクス・ハッシャーは?』


 私はもう一人、苗字がある名前を見つけたので聞いてみる。


『その者も降った大将です。何でもアルバンとは隣の領地で仲が良いそうで、この度、同時に降伏してきたのです』

『それぞれの兵数は?』

「800と400で計1200です」


 多い。

 どう考えても多い。


『食料は足りていますか?』

『戦利品がありますし、当分は大丈夫かと』


 うーん、人手不足で人材が欲しい時ではあるが、今は大勢の人族はいらない。

 絶対にエルフや獣人族とぶつかる。


『その1200人の兵士はどうしていますか?』

『さすがに森に入れるわけにもいかないので、森の近くに野営させています。兵も大人しくしているですが、どうすればいいのか判断を仰ぎたいのです』


 今は大人しくても、そのうち暴動が起きるかもね。


『うーん…………』


 処分したい……

 だが、私に降った者もいるだろうし、領主であるアルバンとマルクスはいい顔をしないだろう。

 信者の顔を曇らせてはいけないか…………


『ひー様、一度、こちらに戻れませんか? アルバン、マルクスの両名はひー様に釈明をしたいと言っています』


 釈明?

 出兵の言い訳でも考えたか……

 うーん、獣人族のこともあるしな……


『そちらに前野がカルラというメイドと共に獣人族のハーフを連れてきましたか?』

『はい。すでに合流しております。強行軍だったようですし、栄養失調が見られる者が多数いまして、今、前野先生の指示のもと、安静にしております』


 そのこともあるんだよな…………

 転移の日数も短縮したし、一度、戻った方が良さそうね。


『わかりました。数日後に転移を使って、そちらに帰還します』

『はっ! それとこの後、村上に連絡を取っていただけないでしょうか?』

『篠田、藤原、山村、川崎ですね?』

『…………そうです』


 やっぱね。


『本当に降るとは思っていなかったんですけどねー……まあいいです。詳しい話は村上ちゃんに聞きます』

『賢明な判断をお願いします』

『私はいつも賢明です』


 まったく!


『失礼しました』

『お前と青木は住居の建設を急ぎなさい。獣人族の合流も早そうです』

『かしこまりました』

『よろしい。切ります』


 私は勝崎との通話を切った。


「ふぅ…………」


 思わず、息を吐く。


「どうかしました?」


 ババ抜きで負けたっぽいミサが聞いてきた。


「南部で戦いが起きたそうですが、完勝したようです」

「おー、さすがは勝崎!」

「すげーじゃん!」

「私も参加したかったなー」


 3人共、勝利は嬉しいらしく喜んでいる。


「問題もありますがね…………ミサ、篠田さん、藤原さん、山村さん、川崎さんを覚えていますか?」

「えっと、誰?」

「クラスメイトでしょう? 名前ぐらいは憶えておきなさい」

「あー、はいはい。あの子達ね。クラスの端っこにいるイメージです」


 まあ、そんなイメージだ。

 目立つような子達ではない。


「そいつらが幸福教団に入りましたね」

「は? マジです?」

「マジマジ」


 実際、リストにも名前が入っている。

 すぐに村上ちゃんが説得したのだと気付いた。


「どうするんです?」

「どうもこうもないでしょう。私の子ならば捨てるわけにもいきません」

「大丈夫ですかね? 明らかに不穏分子なような……」


 心の底から私を信仰しているわけではないだろう。

 追い詰められ、仕方なくといったところだ。

 情勢が変われば、裏切るかもしれない。


「殺そうか?」


 ナツカが編み物を置き、顔を上げた。


「信者を殺すわけにはいきません。私は幸福の神なのです」

「でもさー、不穏分子だっけ? そういうのは消した方が良くない? あたしらって絶対に恨まれてるじゃん」


 フユミも処分に1票らしい。


「その辺は話してみて判断します。一応、勝崎や村上ちゃん、青木の助命懇願でもあるのです」

「村上ちゃんは真面目だからなー」

「補導されそうになったお前をかばってくれたのは村上ちゃんでしょう? 恩くらい感じなさい」

「はーい」


 とはいえ、話してみて、少しでも私に恨みがありそうな発言をしたのならば、早めに動いた方がいいだろう。


「私は信者を把握できるのですから裏切る前に必ず、事は露呈します。その時に指示を出します」

「氷室にやらせればいいんじゃね?」

「あいつは別仕事です。それよりも、獣人族の挨拶が終わったら一度、転移を使って、南部に帰還します。そのつもりでいるように」

「「はーい!」」

「了解です」


 さて、村上ちゃんに聞いてみるか…………

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