第020話 どこの世界にもちょろいのはいる
私はミサと共にソファーに座り、キャラメルマキアートを飲みながら待っている。
「おっそいですねー。ひー様を待たすとは最低です!」
さっきまで矢を向けられてビビっていたミサだが、狼君の伝令が戻ってくると、狼君たちは矢を下ろしたため、急に強気となったのだ。
これが私の親友です!
「まあ、少しは待ちましょう。アポなしで来た私達が悪いのですから」
「アポってどうするんですか?」
「手紙でも書けばいいでしょ。今から行くよ!って……」
待っててね!
「それ、誰が届けるんです?」
「あんた」
「でしょうね!」
私とミサがこんな感じで仲良く話していると、道の奥から女性が歩いてくるのが見えた。
その女性は頭から耳を生やしており、どこが髪でどこが耳なのかよくわからないが、かわいいと思う。
そして、めっちゃでっかい尻尾が見える。
「キツネかな?」
「尻尾は1本ですね。良かった!」
9本あったらヤバいもんね。
「ごきげんよう」
その女狐……じゃないキツネ女は私達の元に来ると、ニコッと笑い挨拶をしてきた。
かわいいけど、ちょっと悪そうだ。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
私とミサも挨拶を返した。
「何を飲んでいるのですか?」
キツネ女は私の持っているキャラメルマキアートに興味を示した。
「飲む?」
私はスキルを使い、キャラメルマキアートをもう1つ取り出した。
キツネ女は無言でそれを受け取ると、ストローに口をつけ、チューっと飲みだした。
そして、満面の笑みとなり、飲み続ける。
すると、信者のリストの中に知らない名前が登録された。
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信者(新規順)
ヨハンナ
カルラ
ランベルト・バルシュミーデ
・
・
・
----------------------
「…………お前、名はヨハンナですか?」
一応、聞いてみる。
「そうです。よく知ってますね。あ、これ、ありがとうございます。とても美味しいです」
でしょうね。
このキツネ、すごいわ。
まだ何も言っていないのにキャラメルマキアート1杯で落ちやがった。
チョロギツネだわ。
「では、ヨハンナ、私のかわいい子よ。お前達の首領のもとに案内しなさい」
「わかりました。こちらになります」
ヨハンナが歩き始めたので私達は立ち上がり、ソファーを消した。
そして、ヨハンナの後ろを歩いていく。
歩くヨハンナを後ろから見ていると、大きな尻尾がかわいい。
「お前は立派な尻尾をしていますねー」
私は目の前で揺れている尻尾を掴みながら褒める。
「――キャッ! もう! ダメですよぅ……尻尾はデリケートなんですぅ……」
ヨハンナはそう言って、見てくるが、手で払ったりは一切せず、顔を染めているだけだ。
このキツネ、無駄に色っぽいな。
「それはごめんなさい。きれいだったものでね」
「ありがとうございます。ヒミコ様の御召し物も美しいですねー」
まあねー。
でも、私の服は赤いからあんたは着ちゃダメよ。
あんたのあだ名がうどんになる。
「…………あのー、もしかして、このキツネ、すでに信者になってません?」
ミサが耳打ちで聞いてくる。
「ヨハンナ、お前は私のために生き、私のために祈ってくれますよね?」
私はヨハンナに聞く。
「もちろんです。私は幸福を掴みたいと思います」
甘いものという名の幸福だろうな。
「早いですねー……」
ミサがちょっと呆れている。
「キツネというのは賢い生き物なのです。ヨハンナは特に優れた者なのでしょう」
「ありがとうございます。私は狐族の長です。我が一族は100名ちょっといますが、明日には幸福を知ることになるでしょう」
一族の長かい……
一族の長がキャラメルマキアートで即落ちすんなよ。
まあいいか。
「お前には期待しています。あの程度の物はいくらでも出しますので、私のためだけに生き、私のためだけに祈るのです」
「お任せあれ! ヒミコ様こそ、我が神! このヨハンナの名と魂を捧げましょう!」
人類が皆、ヨハンナみたいだったら争いは起きないのにねー。
「ヨハンナ、獣人族のことについて、教えなさい」
「何なりと」
「獣人族はさっきまでいた狼やお前みたいなキツネのように獣の力があるということでよろしいですね?」
「そうなります。私達は世界各地で狐族は狐族、狼族は狼族といったように同族で生きていたのですが、度重なる人族の迫害や奴隷狩りに遭ったため、現在はこの森で固まって生活しています」
元はバラバラだったわけか。
キツネと狼が一緒っていうのも変だしね。
「ヨハンナを見ればわかるわ。あんたは高く売れそう」
見た目もかわいらしいし、色気もある。
ハゲデブの金持ちが好きそう。
「狐族は高いですね。あとはウサギ族も高いです」
「犬や猫は?」
「我らが高い理由は警戒心が高く、数も少ないからですね。犬族や猫族は数が多いのです。そして、警戒心は高いのですが、それ以上に好奇心も強いため、すぐに捕まります。ですので、そこまで高価ではないです」
まあ、イメージ的にはそんな気がする。
でも、こいつの警戒心が高いというのはどうだろう?
「お前達は何を信仰しているのです?」
「ヒミコ様です」
そら、あんただけでしょ!
「元の信仰よ。精霊信仰とかあるでしょ」
「実は獣人族にはそういった信仰はありません。単純に森の恵みに感謝しましょうとか、先祖を大切にしましょうとかです。あとは天気、川などですかね?」
自然崇拝だろうな……
「それはとても大切なことです。たとえ、私を信仰しようとも、その心を捨ててはなりません。それはお前達の中で重要なことであり、必要なことなのです」
「ありがとうございます!」
しかし、女神教はこの程度でも潰すのか……
誰だって、自然を怖れ、感謝するだろうに。
「他の一族は私の幸福を受け取るでしょうか?」
「おそらくは…………我らはこの地で人族と争っているのですが、正直、終着点が見えません。私達はいつまで戦えばよいのでしょうか? 皆はキールの町を落とすことを目標にしていますが、落とせるとは思えないし、落としたところで維持もできません。本当は皆、頭ではわかっていると思います。ですが、そうしないと士気を維持できないのです。永遠と続く戦争なんか考えたくないのです」
ヨハンナの尻尾が落ち込む。
「私はキールの町を見てきましたが、断言します。永遠に争うことはない。このままでは、数年でお前達は負け、滅びるか、完全に人間の奴隷となるでしょうね」
「…………ですか」
今度はヨハンナの耳が落ち込んだ。
「大丈夫。少なくとも、狐族は助かります。私の子が不幸になることはあり得ない。ましてや、奴隷なんかもってのほかです。それは絶対に起きないことなのです。なぜなら、私の敵はすべて消えるのですから」
「おお……ヒミコ様! どうか他の一族もお救いくださいませ」
「そうするために私はこの地に来たのです。覚えておきなさい。信じる者は救われる」
私を信じる者だけ、ね。
「私も皆を説得しようと思います!」
「そうしなさい。天に唾を吐く行為がいかに愚かかを教えるのです」
女神?
あいつは地だ。
いくらでも唾を吐こう!
ぺー。
「かしこまりました!」
うんうん。
こいつはかわいいな。
獣人族が奴隷となって売られていく理由がよくわかるわ。
私達がそのまましばらく歩いていると、木でできた柵に囲まれた集落というか、要塞が見えてきた。
ちゃんと堀も作られているし、櫓まである。
今は橋が普通にかけられているが、上げれるようになっており、夜や非常時には上げるのだろう。
私達はそのまま橋を渡り、集落の中に入ったのだが、誰もいなかった。
「誰もいないわね」
私は集落を見渡すが、家や畑が多く見えるのだが、1人も見当たらない。
「…………人族が来ましたから」
「怖いの?」
「いえ、そのー…………私はいい匂いだと思うのですが、そのー……」
ヨハンナがチラチラとミサを見る。
「あんたが臭いから皆、逃げたんだってさ」
「ひどっ! 言い方を考えてくださいよ! もしかして、狼さん達が頑なに木の上から降りて来なかったのってこれのせいじゃないですよね!?」
狼君たちはヨハンナがやってきても木から降りなかった。
「間違いなく、それでしょ」
「ひー様、消臭剤を出してください!」
「あんたが食べられたくないって言うから香水をあげたのに…………」
わがままな子だよ、まったく……
「あの、獣人族は人族を食べませんよ? 絶対に美味しくないし、単純に嫌ですよ」
ヨハンナが訂正してくる。
「ほらー」
「ますます香水の意味がないじゃないですか…………」
私は落ち込んでいるミサのためにスキルで消臭剤を出した。
「はい、目を閉じて、ジッとしてなさい」
私がそう言うと、ミサがメガネを取り、目を閉じた。
チッ!
メガネに集中攻撃しようと思ったのに!
「いくよー」
私はミサにシューっと消臭剤を吹きかけていく。
「すごい! 匂いが消えていきます」
ヨハンナが驚いたので、私はどんどんと吹きかけていく。
「――ゴホッ…………ゴホッ! ゴホッ!! もうやめ――ゴホッ!!」
ミサがせき込み、暴れだしたので吹きかけるのをやめた。
「どう?」
私はヨハンナに聞いてみる。
「すごいです! 匂いが消えています! 神の力は偉大です!」
偉大であーる!
「あのー、それ――ゴホッ、人に吹きかけていいやつですかね?」
ミサが手で煙を払いながら聞いてきた。
「さあ、準備は整いました! ヨハンナ、首領のもとに案内しなさい!」
「はい! こちらになります!」
私とヨハンナはミサを置いて、歩いていく。
「おい! 待てや、ドSとエロギツネ!」
ドS?
エロギツネなら私の隣にいるが、ドSさんとやらは見当たりませんね…………
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