第019話 西部の森に到着! また森かー…… ★
私とミサは森に入ると、速攻で弓を持った獣人族の狼男10名に囲まれてしまった。
「人族の女よ、ここがどこかわかっているのか?」
狼男たち10名の中で他の狼男より一回り大きい狼君が弓に矢をつがえたまま聞いてくる。
「お前達は丸腰の女2人にこれだけの数で囲むだけに飽き足らず、矢を向けますか? 野盗か何かでしょうか?」
私は質問に質問を返し、挑発する。
「なんだと!?」
「野盗は貴様ら人族だろう!?」
私の挑発に周りの狼君たちが怒った。
「よせ!! 人族よ、ここから先は我らの領地。何人も通すわけにはいかんし、これ以上進むならば矢を射る」
大きな狼君は周りの狼君たちを止めると、私に矢を向けたまま警告する。
「お前もエルフも見た目でしかものを判断できないのですか? 私は神です」
「知っている。幸福の神、ヒミコであろう」
まあ、女神アテナの啓示を見てるわな。
「そこまでわかって私を人と呼ぶか…………お礼にお前達を犬っころと呼んであげましょうか?」
しかし、犬が木の上にいるって中々シュールだな。
イメージ的に木に登れそうにないのに。
「この女っ!!」
「殺す!」
やっぱり犬っころは怒るらしい。
わんちゃんの方が良かったかな?
でも、こいつら、かわいくない。
「よさんか! 幸福の神、ヒミコよ、失礼した。私の失言を詫びる」
大きな狼君は再び、周りの狼君たちを止めると、謝罪した。
だが、頭は下げず、私に矢を向けたままだ。
「失礼だと思うなら矢を下ろせ。木から降りなさい。誰を見下ろしているのですか……それほどに私が怖いか?」
「申し訳ないが、それは無理だ。私には職務がある」
私が怖いかどうかの問いには答えないか……
怖いんだろうな。
「私は幸福の神、ヒミコである。人々を導き、幸福へといざなう神だ。そんな神に矢を向けることがどれほどまでに不敬であるか、理解できないわけがないだろう? これは明確な敵対行為です。私も私の巫女も何も持たず、ただ話をしに来ただけだというのに」
「幸福の神よ、今は戦時中なのだ。ここを通すわけにはいかん」
忠犬だなー。
こいつでは話にならんな。
「では、お前らの首領に伝えなさい。幸福の神が幸福を説きに来たと」
「すでに伝令は飛ばした」
早いなー。
「では、私達はここで待ちましょう」
私はそう言うと、ソファーを出し、座った。
「ひー様、こんな状況でよく優雅に座れますね。めっちゃ矢を向けられていますけど」
狼君たちはいまだに私に矢を向けている。
私達なんかいつでも射殺せるだろう。
「私は神。私を殺した時が獣人族の最後の時となる。そいつらは賢いからわかっているでしょう」
「ホントですかー?」
ミサはそう言いながら隣に座ってくる。
「前から気になってたけど、あんたって、なんで隣に座るの? 普通、立ってない?」
「別にいいじゃないですか。目の前にソファーがあれば座ります」
「うーん、お前もですけど、リースもなんですよねー。私には尊敬できないオーラでも出てるんでしょうか?」
「リースはちょっと違います……」
でしょうね。
あいつ、近いし、たまに私の手を握ってくるもん。
◆◇◆
「して、人族の動きは?」
俺は屈強な一族の長達に戦況を聞く。
「南のエルフ討伐を本格的に行うという噂は本当のようです。キールからも援軍が向かいました」
斥候に長けている猫族の長が答えた。
「エルフか……幸福の神に降ったというのは?」
「本当のようです。各地にいるエルフ達が庇護を求め、南に向かっている様子」
森の賢者がこうもあっさり幸福の神を信じたか……
やはりあのヒミコは本物の神のようだな。
「首領、これは好機では? 人族の意識が南部に向いている今ならキールも落とせましょう」
「さようです。幸福教団は少数とはいえ、強い。いくら女神教が大軍を出そうとも簡単には落ちますまい」
森での戦いはエルフが圧倒的に有利だろうし、幸福教団には悪魔の武器がある。
いくら女神教とはいえ、苦戦はするだろうな。
下手をすると、女神教が負ける可能性すらある。
「女神教が幸福教団と争い始める今が好機なのはわかっている。だが、キールを落とせるか? 野戦に勝ったとしても次は攻城戦だ。数に劣る我らでは厳しかろう」
俺は血気盛んな意見を言う者達に聞くが、実は大変なのは落とした後であることには気が付いている。
どう考えても維持できない。
攻城戦以上に防衛戦が出来ないのだ。
住民からの反発は絶対にあるし、たとえ、住民を皆殺しにしても、俺達は圧倒的に数で不利なのだ。
だが、これは士気にかかわるため、言えない。
「首領、ここはエルフの援護をすると考えれば? 別にキールを落とす必要はあるまい。こちらが猛攻を仕掛かれば、この辺の町はこれ以上の援軍を送ることはできなくなる。もしくは、奇襲部隊を編成し、南部に向かっている各地の輸送隊に夜襲をかけよう」
それしかないか……
そうやって恩を売っておけば、女神教がこちらに大軍を向けた時に逆に向こうも動いてくれるかもしれない。
「――首領!!」
俺達が作戦会議をしていると、狼族の戦士が急に部屋に入ってきた。
「何事だ! お前は森で警備をしているはずだろう!」
「はい! 警備をしていたところ、森に近づく怪しい馬車を発見しました! そして、そのまま見張っていますと、2人の人族の女が降りてきて、森に入って来ました!」
ん?
人族の女が2人?
「なんだそれ? 戦士か?」
「いえ、武器は所持しておりませんが……」
武器を所持していない?
ますますわからん。
自殺志願者か何かか?
「何者だ?」
「そ、それが……」
狼族の戦士が言いよどむ。
「なんだ? 尋問くらいはしてから報告しろ」
「い、いえ。尋問はいりません。あれは幸福の神であるヒミコです!」
幸福の神……
あの不気味な笑みを浮かべるカルトの神か……
「まことだろうな?」
「我らも女神の啓示を見ていますし、間違いないです。ましてや、あの風貌は……」
まあ、謎の真っ赤な服を着て、金色の髪飾りをしているのは他にはおらんわな。
あの強烈な存在感を放つ神を見間違えるわけがない。
「わかった。して、どう対応した?」
まさか攻撃してないだろうな?
相手はカルトの神と呼ばれる存在なんだから頼むぞ。
「幸福の神は首領に会いたいと言ってきており、現在、森の浅い所で待ってもらっています。なんでも幸福を説くとか……」
エルフの次は俺達か……
まあ、そうだろうな。
いつかは来るとは思っていた。
だが、それは人族の南部侵攻を退けた後だと思っていた。
まさか南部侵攻を知らないわけでもないし…………
「わかった。しばし待ってもらえ。丁重にな。間違っても攻撃をするな。相手は女神アテナすら恐れる異世界の神だぞ」
「はっ!」
狼族の戦士は軽く頭を下げると、部屋を出ていった。
「さて、戦士達よ、聞いたな? 幸福の神が俺達に幸福を説きに来たそうだ」
俺は一族の長たちに意見を求めることにした。
「本物でしょうな…………しかし、早すぎる」
「南部の森は幸福の神なしで戦うということか…………蛮勇か余裕か」
「そんなことはどうでもいい! それよりも幸福を説くというのは我らに降れと言ってきているのだろう! どうする!?」
「どうすると言われてもな…………まさか追い返すか?」
「では、おぬしは幸福教にすがるか?」
「いや、それは何とも…………そもそも幸福教ってなんだ?」
「知らんわ!」
そうなのだ。
俺達は幸福教が何なのかを知らない。
啓示で幸福になることって言っていたが、幸福ってなんだ?
抽象的すぎてわからん。
「首領、何にしても話を聞くしかあるまい。我らに利があるかもわからんし、幸福の神に降るかは話を聞いた後にしよう。それに最悪でも南部の森との協力関係だけでも築きたい」
そうなるか……
「わかった。では、幸福の神に会おう。誰か丁重に迎えてくれ」
「私が参ります。同じ女性が行った方がいいでしょう」
狐族の長が手を挙げる。
「確かに。では、頼む。他の者は各一族に通達せよ。絶対に攻撃をしてはならん! 相手は神と悪魔の集団だ! 絶対に争ってはいけない相手である!」
幸福教団とは絶対に争ってはいけない。
女神教と争っているこの状況でこれ以上の敵を増やすわけにはいかないのだ。
ましてや、今のこの状況では…………
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