第015話 合流


 私とミサは翌日以降もひたすら荒野を車で走り、進んでいった。

 そして、3日目になると、徐々に木や草花が見え始めてきた。


「そろそろですねー。この辺から人が増え始めます」


 ミサがスピードを緩め始める。


「ここからは歩きですか?」


 嫌だよ?


「まずなんですが、私とひー様は表を歩けません。世界中の人が私達を知っているんですよ? ましてや、ひー様なんて、そんな目立つ格好じゃないですか」


 赤い和服に金の髪飾りは目立つか……

 というか、ミサの制服も目立つな。


「キールの町にはもう近いんですか?」

「車で1時間ですね」


 時速60キロとすれば、60キロか……

 嫌だ……そんな距離を歩きたくない……


「東雲姉妹と連絡を取ります。ちょっと相談してみるわ」

「はーい」


 私は目を閉じる。


『ナツカ、ナツカ』


 私はお告げのスキルで東雲姉妹の姉の方を呼ぶ。

 妹の方は話が脱線しそうなのだ。

 姉も大概だが、ナツカはフユミにお姉ちゃんぶるので、まだマシである。


『んー……お姉ちゃんはもう食べられないよぅ……』


 こいつ、寝てんな。

 昼間だというのに……


『お姉ちゃん、あたしのことが好き?』


 私は寝ぼけているナツカにフユミのしゃべり方で聞いてみる。


『……好きだよー。でも、お姉ちゃんをプリンと呼ばないで……』

『お姉ちゃん、ここはトイレだよー』

『…………いや、おねしょはしねーから』


 あ、起きた。


『おはよう、ナツカ』

『おはよーでーす。何してんの?』

『ナツカが寝ぼけてたからちょっとからかってた』

『だろうね。何か用? お姉ちゃん、眠いんだけど』


 まだ、寝ぼけてんな、こいつ。


『私はあんたの妹じゃないわよ』

『あー、さいでした。昨日、夜遅かったんですよー』

『ご主人様が寝かせてくれませんでしたか? 一晩中、お仕置きされてましたか?』

『ひー様、完全に誤解してますよー。そんなじゃないですってー。というか、あいつ、おっさんだから一晩中は無理でしょー』


 知らねーわ。


『お前達のパパ活はどうでもいいです。フユミは?』

『隣のベッドで寝てまーす。昨日は遅くまで作戦会議だったんですよ』


 作戦?

 この姉妹が?

 もしかして、ギャグかな?


『作戦会議って何ですか?』

『ひー様が来るってんで、ご主人様が今後のことを詰めたほうがいいって言うもんでねー…………前野先生となんか話してました』

『あんたらは?』

『オセロしながらお茶くみでーす。メイドなんで』


 私の知っているメイドはオセロをしながらお茶を淹れないんだけどな。


『まあいいわ。ということは、あんたのご主人様はこちらに寝返ったということでいい?』

『でーす。ご主人様、速攻で入信しましたよ。ひー様、ばんざーいって言ってます』


 信用できねー……

 さすがはナツカやフユミのご主人様だわ。

 ひどい。


『ご主人様の名前は?』

『え? 名前……?』


 こいつもひどいな……

 ご主人様の名前を覚えてないんかい。


『もういいです』

『あ、待って! 思い出すから! えーっと、えーっと、かっこいい名前だったような…………ら、ら、ランなんちゃら』


 ラン?

 ふむ、ランがつく名前の信者を探せばいいのかな?

 えーっと、こいつかな?

 苗字あるし。


『ランベルト・バルシュミーデ?』

『あ、それ、それ。明日には忘れているそれです』


 …………まあ、日本人には覚えにくい名前かもしれない。


『ご主人様の名前くらい覚えておきなさいよ』

『はーい。ランベルト、ランベルト…………でも、呼ぶ機会ねーな……』


 まあいい……

 とりあえず、東雲姉妹のご主人様であるランベルトは本当に寝返ったようだ。

 実に良い子である。

 私はものの道理がわかる賢い子は好きだね。


『ランベルトに伝えなさい。私とミサはキールの町のすぐ近くまで来ている。しかし、私達は顔が割れているのでこれ以上は厳しい。どうにかしなさい』

『変装したらいいんじゃね?』

『歩きたくないし』

『貧弱だなー。馬車でも出してもらうかー。じゃあ、ご主人様に言ってきますけど、どこにいんの?』


 ここどこ?


「ミサ、ここはどこですか? 迎えを寄こさせますが、場所がわかりません」

「もうちょっと行ったら谷を渡る橋がありますねー」


 橋ねー。

 大丈夫か?

 落ちないだろうな?


『谷を渡る橋があるそうです』

『あー、はいはい。あそこね。じゃあ、ちょっと言ってくるわ』

『待ってます』


 私は通話を切った。


「迎えが来ますので橋の近くまで行きましょう」

「はい」


 ミサが再びアクセルを踏み、加速していく。

 そして、ある程度まで近づくと、車を降り、コソコソと橋まで向かった。


 私とミサは橋の近くにある森でこっそり橋を見張っている。


「着替えを持って来れば良かったですねー。そしたら堂々と待っていれたのに」

「この世界は弱そうな女子2人があそこで待っていても平気なくらいには平和なのですか?」

「あー、ダメですね。ひー様が剝かれちゃいます」


 やっぱり治安は悪いのか……

 危ない、危ない。

 まあ、そうなる前にミサがマシンガンを乱射するのだろうが、さすがに目立ってしまうし、無駄に危険を招くことはない。

 隠れて待つのが正解だろう。


 私達がずっと待っていると、結構な人が通っていく。

 馬車に乗っている商人らしき人、鎧を着て、剣や槍を持っている冒険者らしき人など様々だ。

 さすがに兵士らしき小隊を見た時は慌てて隠れたが、見つかってはいない。


 しばらく通行人を観察していると、馬車がやってきた。


「あのー……御者がメイド服を着ている気がするんですけどー。しかも、知り合いのでか女に似てるんですけどー……」


 ミサが小声でささやいてくる。


 私の目にもメイド服を着た長い黒髪の長身女が馬車に乗っているのが見えている。

 その馬車は橋に近づくと、止まった。


 どう見てもフユミである。


「あいつ、メイド服を着たまま来たんか……」


 メイドが御者をしているのはすげー違和感がある。


「ご主人様とやらの趣味ですかねー?」


 良い趣味してんな。


「まあ、迎えが来たんでしょ? 行くわよ」


 私はミサを連れて森を出ると、さっさと馬車に向かう。

 すると、フユミが私達を発見したようで、手を振ってくる。


「ひーさまー!! お迎えだよー!」


 フユミは大きな声で叫び、手をブンブン振っている。


「あの子に隠密行動は向かないようです」

「ですね」


 私とミサは小走りで馬車に近づいた。


「フユミ、久しぶりですね」


 馬車まで来ると、フユミに声をかける。


「ですです! ひー様は相変わらず、変な格好だね。めっちゃ浮いてる!」


 メイド服に言われちゃったよ。


「放っておきなさい。お前はなんでメイド服なんですか?」

「これしか服がないんです」


 …………やはり、こいつらのご主人様はメイド好きか。


「まあいいです。ナツカは?」

「馬車の中です。乗って、乗って。町まで行くから。詳しい話はおねえ……姉貴に聞いて」


 素直にお姉ちゃんって呼べばいいのに。

 思春期かね?


 私とミサは馬車に乗り込むと、馬車の中にはナツカがいた。

 もちろん、ナツカもメイド服を着ている。

 ナツカはメイド服で片膝を立てて座っているため、非常に行儀の悪いメイドさんである。

 しかも、金髪だし。


「ひー様、おひさー!」


 双子ギャルメイドという新ジャンルの長身女が挨拶をしてきた。


「久しぶりですねー。元気そうで何より」

「元気ですねー。あ、ミサもおひさ」


 ナツカは思い出したかのようにミサにも挨拶をする。


「いや、1ヶ月前に会ったじゃないですか」

「そういや、そうだね」

「2人だけなんですか? 前野先生は?」

「先生はお留守番」


 治安がそんなに良くないのに女子2人で来たのか……

 まあ、この姉妹は強いから返り討ちすればいいと思ったんだろうな。

 実際、私の護衛役を務めているくらいだから強い。


「ナツカ、このままこの馬車で町に入るんですか?」


 大丈夫か?


「ですねー。この馬車はご主人様の馬車ですんで、門でも中身は見られません」

「あんたのご主人様は権力者?」


 教会のお偉いさんとは聞いている。


「貴族なうえに教会の司祭らしいです。詳しくはわかんないだけど、権力者じゃないかな? 私らが町を歩いていても誰も絡んでこないし」


 結構な力は持ってそうだな。

 この姉妹はいい信者を釣ってきたわ。


「よろしい。では、このまま進みましょう」

「はーい。フユミー! しゅっぱーつ!」


 ナツカが大きな声でフユミに指示を出す。


「あいあいさー!」


 外からフユミの声が聞こえてくると、馬車が動き出した。


 この前、転移した町かー。

 ちょっと懐かしいな。

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