第014話 車で行く異世界道中!


 東雲姉妹との連絡を終えた私はミサが運転する車で変わらない風景を眺めている。


「運転は慣れた?」


 私は最初の頃のパニックさが消え、軽快に運転しているミサに聞いてみる。


「慣れましたねー。慣れさえすれば、そんなに難しいものじゃないです。まあ、ご覧の通り、障害物がないからなんですけど」


 見渡す限りの平原です。

 なーんもない。


「ねえ、ずっとこんな感じなの?」

「ここはマイルの大平原です。もうちょっと行ったら街道に出るんですけど、さすがに避けます。ですので、人気のない平原をずっと進んでキールを目指します」


 まあ、車が道を走ってたらパニックだわな。

 しかも、私が移動していることがバレてしまう可能性もある。


「ということは、ずっとこの風景なわけね。暇だわー」

「それは我慢してください。歩くよりかはいいでしょ」


 まあねー。

 ヘリや飛行機で行くわけにもいかないし、我慢するか……


「歌でも歌ってあげようか?」

「なんでひー様のへったぴな歌を聞かないといけないんです?」


 ひどーい。


「お前が運転で疲れているだろうと思って提案してあげたのに、何という言い草ですか」

「めっちゃ妨害ですけど! 普通にうざいですよ!」


 私の癒しの美声をうざいだってさ。

 こいつ、マジで信仰心が低いわー。


「暇だよー。構ってよー」

「ほら、ひー様が暇なんじゃないですか。何か出して暇をつぶすか、他の教団員に連絡でも取ってくださいよ」


 そうするか……

 まだ、連絡を取っていない教団員もいるし、これを機会に皆と連絡を取り、指示を出そう。


「わかりました。皆と連絡を取ります。少し黙りますが、寂しがらないように」

「大丈夫ですよ。途中でわき腹をつついたりしませんので」

「わき腹は絶対にやめてね。変な声が出るから。真面目なお告げ中に教団員が訝しんじゃうじゃないの」

「やりませんって。そんな余裕ないですし」


 まだ運転が怖いのね……

 だからさっきからノリが悪いのか。


 私はミサにもうしばらくは運転に集中させることにし、教団員と連絡を取り始めた。


 この世界に来ている教団員は99名、内12名はすでに幸福の楽園へと旅立ってしまった。

 さらに、ミサ、勝崎、村上ちゃん、青木とは合流し、氷室とリースとは一応、連絡は取れている。

 ここに今から合流する予定の東雲姉妹と前野を加えると、残りの教団員は78名である。


 私は一人一人の教団員にどこにいるか、何をしているのか、無事なのかを確認していく。

 それに加え、各地にいる教団員が集めた情報を聞き、整理していった。


 まず、残りの78名の教団員とは普通に連絡が取れたし、無事であるらしい。

 日雇いの仕事をしている者、援助をしてくれる者に保護を求めた者、冒険者となった者など様々だ。

 教団員は各地に散らばっているのだが、ある程度はチームを組み、まとまって行動しているようだった。

 そして、情報収集と共に教団への勧誘も行っているらしい。


 私はここ数日でエルフ400名近くを信者に加えた。

 だが、実はそれ以外にも徐々に信者が増えていっているのだ。

 私はこれを女神の啓示を見て、私に惚れた者でもいたのかなと思っていたのだが、各地で布教活動をしている教団員の努力の賜物のようだった。

 最初は信じなかった人達も女神の啓示を見て、私が本物の幸福の神であることを理解し、幸福を求める選択をしたものだと思われる。


 私は教団員に南部のエルフの森に行ける者は南部に行くように指示を出した。

 勝崎にも連絡をし、ヘリを使った移動も指示する。

 新たに教団を支持する者にも希望をすれば、南部の森に行く許可も出した。


 この世界で私の幸福を求める者は基本的に飢える者である。

 この数年は飢饉が続いているらしく、エルフ達のように飢える者が多い。

 女神教ではこれを救えない。


 だから私がもらう。

 私の子となり、私を崇めるという最高の幸福を与えるのだ。

 さすれば、飢えることは絶対にない。


「どんな感じですー?」


 ずっと静かだったミサが聞いてくる。


「皆、無事のようです。たくましい子達で私は嬉しい」


 本当にたくましいわ。

 よくこんな異世界で1年も生きられるものである。


「まあ、教団の幹部連中ですからね。こっちにいる教団員はエリートしかいませんよ」


 え?

 …………うん、そうだね。


「ひー様が私を可哀想な目で見てくる」


 だって、あんたにエリートの要素がないじゃん。


「気にしないように。人には必ず良いところが1つや2つあります」

「え? 私って、良いところが1つや2つしかないんです?」

「いっぱいありますよ。お前は昔、傘を忘れた私にそっと差し出してくれたではないですか……」


 優しい子だわ。


「あー……覚えてます。一緒に入ろっていう意味だったのに、奪って一人で帰りましたよね? しかも、あの傘、まだ返してもらってないんですけど」


 この話はやめよう。


「とりあえず、教団員には南部の森への合流する者と引き続き、潜伏任務を継続する者に別けました」

「いや、傘は? 返してくださいよ」

「その話は終わりました。空気を読みなさい。お前はそういうところがありますよ」


 まったく……


「ひー様も強引に誤魔化すところがありますよ。傘は? 何年も前だから絶対に残ってないでしょうが、私の傘は?」


 私の力を舐めるな!


「はい、返します」


 私はスキルで傘を取り出し、渡す。


「冗談なのに本当に出さないでくださいよ。車に乗っているのに傘がいるわけないでしょう。出すならキャラメルマキアートにしてください」


 わがままな子だよ。


「仕方がないですねー」


 私は傘を消し、キャラメルマキアートを2つ出して、1つをミサに渡す。


「はい」

「どうもです…………今、傘を消しました?」

「信者が500人を越えたら新しいスキルを覚えました。絶対神の天授で出したものをポイントに戻すスキルです」


 返還というスキル名だが、これまた微妙……

 当たり前だが、消耗品は戻せないし、物なんて、その辺に捨てればいい。


 環境問題?

 知らね。


「ひー様も少しずつ。強くなっていくんですねー。しかし、信者が500人を超えましたか」

「それでもまだ圧倒的に人材が足りません」

「布教ですかねー。リースに向こうにいる1万の教団員を呼んでもらっては?」

「リースが私を無視している状況ですしね。そもそも、1万人も呼べるんですかね?」


 その辺のことがよくわからない。

 そもそも、生徒や先生達って生贄じゃなかった?

 生きてますけど…………


「わかんないですよねー。私達もこの世界に来て、魔法を調べてはいるんですけど、集団転移の魔法なんて聞いたことないです」

「まあ、あってたまるかだけどね」


 もし、簡単な魔法だったら異世界を頻繁に行き来されることになる。

 神様も管理が大変だわ。


「ですねー。うーん、そろそろ暗くなってきましたねー」

「1日では着かないのか……」


 ひみこ、つかれたー。


「言ってませんでしたっけ? 車でも2、3日かかります」

「遠い…………やっぱり多少のリスクを負ってもヘリだったか……」

「それも私が操縦ですか? さすがにヘリは勘弁です。墜落しますよ」


 確かに……

 私は超すごい神だから死なないが、ミサは死ぬな。


「車移動でやむなしですか……まあ、仕方がありません。そろそろ休みましょう」

「車中泊します?」

「私はともかく、あんたがエコノミー症候群になっちゃうじゃない。キャンピングカーを出すからそっちで寝ましょう」

「はーい」


 ミサは返事をすると、車を停車させる。


「えーっと、Pにすればいいんですかね?」

「そうです」


 ミサはシフトレバーをPにし、鍵を捻って、エンジンを止めた。

 私はそれを確認すると、車を降り、手足を伸ばす。


「うーーん……ずっと座っていると、身体が固まりますねー」

「ですねー。ちょっとはストレッチや運動をした方がいいかもしれません」


 血の巡りを良くするべきだろうな。


「よし、ミサ、走ってきなさい。私は横になってます」


 私はそう言うと、車を消し、キャンピングカーを出した。


「…………私もそっちにします」


 さすがはメガネ。

 運動をしない。


 でも、太るぞ。

 さっきキャラメルマキアートという、カロリーの塊を摂取したというのに……


 私は超すごい神だから太らないけど!

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