第012話 シートベルトはしましょう! ヒミコとの約束だよ?


 エルフを仲間に加えた私は歓迎会を兼ねてパーティー(意味深)を開いてあげた。

 皆、喜んでくれたし、感動のあまり、私への信仰も強くなったと思う。

 しかし、翌朝は皆、二日酔いで死んでいた。


 ちょっと興奮剤を入れすぎたようで、男も女も飲みすぎたみたいだ……

 ヒミコ、はんせーい。


 酒を飲んでいない私とミサは普通に起き、勝崎を探した。

 そして、家の中で若い女エルフと寝ている勝崎を蹴り起こし、ヘリで森の外まで送ってもらう。


「お前、何を早々と手を出してるんですか?」

「勝崎を信用した私がバカでしたね。所詮は勝崎も氷室と同じ男でした」


 朝っぱらから最悪な光景を見た私とミサはヘリを運転している勝崎を責める。


「ひー様、酒に何か入れたでしょう? 昨日は何かヤバかったです」

「依存性のあるものは入れてませんので安心なさい」


 幸せの粉は色々な種類があるのだ。


「絶対にその薬のせいですよ。それに誘ってきたのは向こうです」

「女のせいにするのは最低ですよ。責任って知ってますか?」

「そっすね……エルフを初めて見て感動したんですよー。それでつい……いやー、エルフは美形ぞろいって聞いてましたが、すごかったですね」

「お前、未成年であるJK2人に何を語っているか、理解していますか?」


 ここに村上ちゃんがいなくて良かったね。


「そっすね……」

「お前が何をしようと止めはしませんが、そのエルフも私の子であることを忘れないように」

「わかってます」


 まったく……

 氷室が言うように軍人は性欲オバケだったな。

 正義の村上ちゃんを森に残したのは正解だったようだ。


「というか、勝崎、あんた、酒気帯び運転じゃない?」


 ダメじゃね?


「ヘリにもあるんですかね?」


 ミサが聞いてくるが、当然、知らない。

 でも、普通に考えたらあるでしょうよ。


「このくらいなら大丈夫ですよー。まあ、墜落はしないんで安心してください」


 ホントかねー?


「昨日までだったら信用できたのにねー」

「ホントですよ。サイテー男です」

「勘弁してくださいよー。着きましたんで、降りますよー」


 私とミサが勝崎を責めていると、ヘリが降下を始めた。

 どうやら森の外に着いたようだ。


 ヘリはそのまま降下していき、地面につくと、ミサが扉を開け、降りていった。


「勝崎、後は任せましたよ」

「お任せを! ひー様もお気を付けて!」


 私は勝崎の言葉を聞きながらヘリから降り、扉を閉めると、ヘリが上昇を始める。

 そして、私とミサは飛んでいくヘリを見送った。


 私は初めて森の外を見るが、森を出ると平原が続いているようだ。

 私はこの平原を見て、確かに異世界だと思った。


「ヘリはいいですねー。あっという間に森の外です」

「ですねー。これからどうするんです?」


 ミサが聞いてくる。


「まずは東雲姉妹との合流です。お前、東雲姉妹と前野の居場所を知っていると言ってましたね?」

「はい。キールの町ですね」

「キール?」

「ほら、巫女がいた町です。転移したじゃないですかー」


 あー……あそこの町に東雲姉妹と前野がいるのか。


「巫女がいた町ということは女神教の総本山ですかね?」

「いえ、女神教の総本山は大陸中央にあります。氷室や学校関係者がいる神殿ですね。キールは大陸西部の町です。巫女は各地を巡礼しているんですよ」


 巡礼かー。

 啓示で世界中の人に見せられるのにそんなんをするんか……

 まあ、全国ライブツアーみたいなもんかな?


「東雲姉妹と前野はそこで何をしてるんですか?」

「その町は西にいる獣人族との争いにおける前線なんですよ。東雲姉妹と前野はそこで情報収集してますね。東雲姉妹はメイドをしてます。前野は闇医者ですね」


 前野は医者だったから闇医者をしているのはわかる。

 でも、東雲姉妹がメイド?

 あの子達、態度の悪いヤンキー姉妹なのに……

 似合わねー。


「メイドって、大丈夫なんです?」

「そこのご主人様は教会でそこそこ地位のある男なんですが、賄賂に応じる話のわかる男です。東雲姉妹はメイドという体を取ってるだけで、ゴロゴロしてますよ」


 働いてないわけね……


「お前もそこでメイドをすれば良かったのに……」


 そしたら他の教団員にたからなくて済む。


「私はひー様の捜索がありますから」


 まあ、見つけてくれて、起こしてくれたか……


「わかりました。では、そのキールに行きましょう」


 私はそう言うと、絶対神の天授のスキルを使って車を出す。

 出したのは荒道でも動かせるオフロードタイプの車だ。


 私は車を出すと、助手席に乗り込んだ。

 しかし、ミサは車に乗らず、助手席の私を見ている。


「何をしてるんですか? 早く乗りなさい」


 私はいつまでも車に乗り込もうとしないミサを急かす。


「あのー……私が運転するんですか?」

「当たり前でしょう。私に運転させる気ですか?」


 教祖様だよ?


「私、運転したことないんですけど」

「私もないです。大丈夫! ここは異世界なので、無免許運転を取り締まる法律はありません」


 公道を走る訳ではないし、村上ちゃんも許してくれるだろう。

 そもそも、公道どころか道もないけどね。


「運転の仕方がわかりません」

「いいから乗りなさい。私が指示します」

「えー……」


 ミサは嫌々ながらも運転席に乗り込む。


「まずは鍵を捻ってエンジンをかけなさい」


 私はミサが運転席に乗り込んだので指示を出していく。


「はーい。こうですかー?」


 ミサが鍵を捻ると車から音と振動が出てくる。


「そうです。右のペダルがアクセル、左がブレーキです」

「何となくわかります」

「よろしい。では、ブレーキを踏みながらこれをDにしなさい。ちなみに、使わないと思いますが、このRがバックです」


 こんな平原でバックすることはないだろう。


「へー。ひー様、詳しいですね? 車好きでしたっけ?」

「勝崎に聞きました」


 実はさっきからお告げのスキルで勝崎に聞いているのだ。


「なるほどー。本当に便利ですねー」


 ミサがそう言いながらシフトレバーを引き、Dにする。


「ですね。では、行きましょう」

「はい! しゅっぱーつ!」


 ミサがそう言った瞬間、車が悲鳴に似た音を上げると、車が急発進し、私の体にものすごい衝撃がきた。


「バカ! もう少し、ゆっくり踏みなさい!」

「知りませんよー! 先に言ってください! あわわ! 速い、速い!」


 ミサがパニックになる。


「落ち着きなさい! アクセルから足を外せばいいでしょ!」

「なるほど!」


 ミサが納得した瞬間、私の体が前方に飛んでいく。

 そして、頭をフロントガラスに打ち付けてしまった。

 シートベルトをつけていなかったのだ。


「…………ひ、ひー様? だ、大丈夫ですか?」


 ミサはシートベルトをしていたので大丈夫だったようだ。


 私は姿勢を正し、頭をさすると、ミサを睨む。


「あんたね……私はアクセルから足をどけろって言ったのよ? なんでブレーキを踏むの?」


 ミサは急発進して、急ブレーキを踏みやがったのだ。

 ジェットコースターでもこんなに危険ではない。


「運転したことないって言ったじゃないですか!? っていうか、シートベルトくらいしてくださいよ!」


 うるさいな。

 運転したことないなら慎重にいくもんでしょ!

 まったく……


「アクセルもブレーキもゆっくり踏みなさい。ハンドルもよ!」


 私はそう言いながらシートベルトを装着する。


「ちょっと練習します」

「そうしなさい」


 ミサは練習することにしたらしく、トロトロと車が進み出した。


「他に車が走ってるわけじゃないし、多少のスピードは出してもいいわよ」

「話しかけないで!」


 ダメだ……余裕がゼロだわ。


 私は話しかけず、見守ることにした。


 ミサはしばらくトロトロと走ったり、止まったり、ハンドルをきってグルグル回ったりしながら運転の練習をしている。


 私は暇なので、東雲姉妹に連絡を取ることにした。


 さて、どっちに連絡を取るかな……

 姉か妹か……

 姉の方でいいか。


『ナツカ、ナツカ。私です。ヒミコです。聞こえますか?』

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