第011話 サバトではない
エルフを仲間に加えた私達はキャンピングカーの前でバーベキューをしながら作戦会議をしている。
「この肉、美味いっすわ。やっぱり食用肉は柔らかくていいです」
「ビールも美味しいですね。ひー様、ありがとうございます」
青木と村上が久しぶりのバーベキューに舌鼓を打っている。
「ひー様、エルフは信用できるんですか?」
肉をがっついている勝崎が聞いてきた。
「ミサにも言いましたが、私は神の力で信者を把握できます。エルフは昨日の夜には信者になっていましたよ」
信者の数が急に増えたからちょっとびっくりした。
少しずつ、増えていくのかと思っていたのだが、本当に村単位で信者になっていた。
「では、裏切りはないですね」
「裏切ったところで未来はありませんよ」
そもそも、私がいる限り、幸福教団は永遠であり、裏切者なんかは出るはずがない。
「ひー様、奴隷となったエルフの救出ですが、まずは情報がいります。どこにいるのか、誰が捕まっているのか、この辺の情報がなければ、動けません」
まあ、闇雲にヘリで突撃するわけにはいかないのはわかる。
「その辺は私がやります。お前達はここでエルフの調練と防衛基地を作りなさい」
「エルフの調練はわかりますが、防衛基地ですか?」
「女神アテナは私をここに封印しました。ならば、私がここにいるのも知っています。ましてや、お前達はヘリでここまで来ました。おそらく、近いうちに軍を派遣するでしょう」
「なるほど。あの女神の怒り具合からして、来るでしょうね」
女神アテナだって、バカではない……と思う。
時間が経てば経つほど、不利になるのはわかっているだろう。
気の短い神だし、まず間違いなく、速攻を仕掛けてくる。
「まあ、来ても騎兵が中心でしょうし、マシンガンとヘリがあれば、いくらでも潰せます。森の中でゲリラ戦を仕掛けてもいいです。まず、負けはありません」
「でしょうな。戦車でもいいですし、重機を出してもらって穴を掘るだけで終わります」
落とし穴でも作るのかな?
「まあ、ここの勝ちはどうでも良いのです。この森を南部侵攻の拠点とします」
「森をですか?」
「場所はお前に任せます。森を出た平野でもいいです。その辺はお前の方が詳しいでしょう。要は女神教の軍を引き付けてもらえばよいのです」
「陽動ですか?」
「そうです。私はお前達が注目を集めている間に奴隷の情報を集めつつ、各地で勧誘をします」
エルフは降った。
あとは西の獣人、北のドワーフ、東のハーフリングも降れば、戦争は終わる。
東西南北から攻められれば、どれだけ人数がいようが戦えない。
それでも女神アテナは1人になるまで戦えと命じるだろうが、そうなった時が女神教が終わる時だ。
信仰を失った女神アテナは消滅し、この世界のすべての民が私の子になる。
そして、新たなる力を得た私は地球の民も救うのだ。
神は私だけでいい。
すべての信仰は私だけがもらう。
「お一人ですか?」
「ミサを連れていきます。ここにいても仕方がないでしょう?」
「まあ…………」
「…………皆が私を役立たず扱いする」
話を聞いていたミサがへこんだ。
「お前は私の巫女でしょう。私のそばにいないでどうするのです」
「まあ、そうですけどー」
「しかし、ミサだけでは心配ですね。村上もつけましょうか?」
村上ちゃんがいれば心強いが……
「いえ、ここにも女性がいた方がいいでしょう。奴隷解放にしても女性は必要です。ましてや、村上ちゃんならば安心です」
性犯罪を許さない正義の婦警さんだし。
「青木は…………ちょっとこっちで必要ですね」
青木は土方だし、建設系には詳しいだろう。
ここに残った方がいい。
「大丈夫ですよ。まずは東雲姉妹と合流します。その後、リースを探す予定です」
東雲姉妹は私の護衛役なのだ。
「それならば、まあ…………」
「定期的にお告げを使って連絡します。状況、必要な物をまとめておきなさい。すぐに物資を送ります」
「わかりました。出発はいつ?」
「他の村のエルフに挨拶をしたらですね。一度は顔を見ておかないと」
そして、私という存在を脳裏に刻み込んでおかないといけない。
「わかりました。出発の際はヘリで送りましょう」
「ええ。森の外まででいいですよ。あとは車でも出して、のんびり行きます。あ、それと、エルフの中からスナイパーを何人か作りなさい。そして、冒険者となった生徒を始末させなさい」
「始末ですか? こちらに組み込む気は?」
ん?
「向こうが嫌でしょうよ。私達が学校で何をしたかを忘れたの?」
「俺らを恐怖する者、憎む者はいます。だけど、冒険者になったヤツらはその傾向が薄いです。あれからもう1年になりますし、前を向いてこっちの世界で生きていこうと思った者達です。まあ、多少の欲望も交じってると思いますがね。敵対の意思もないでしょうし、こちらに寝返る者も出てくると思います」
ふむ…………
学校関係者はすべて始末する予定だったが、勝崎は反対のようだ。
「私は脅威になりそうな者は排除と思ったのですが…………」
「ひー様、教師はともかく、相手はまだ子供です。どうとでもなるでしょう。ひー様は信者を把握できますし、組み込んでも裏切りを心配する必要はありません」
うーん、勝崎はなるべく子供を殺したくないんだな。
元とは言え、自衛隊員だもんね。
そうなると、多分、村上ちゃんもかなー……
「ひー様、発言を良いでしょうか?」
村上ちゃんがビールを片手に挙手する。
「どうぞ……」
ほら、来た。
「捕まっているエルフの情報を集めるのにも人手がいります。亜人であるエルフは町での潜入任務には向きませんし、人族の人材がいります。強力なスキルを持つ生徒は諜報に向いているかと……他の生徒とも交流があるでしょうし。始末するのは敵対してくる者達だけで良いと思います」
言いたいことはわかるのだが……
「ふーん…………」
私は立ち上がり、村上ちゃんをじーっと見る。
「な、何でしょうか?」
村上ちゃんが動揺している。
私は続けて、勝崎、青木を見た。
2人は冷静っぽいが、動揺しているのを隠せていない。
こいつら、すでに何人かの生徒達と交流があるな…………
そいつらを殺したくないわけだ。
まったく……
正義感の強い者は困るな。
変なものを拾ってくる。
しかし、仕方がないか……
私の子がここまで言うんだ。
勝崎や村上ちゃんの言うことも一理あるし、ここで否定するのは士気に関わる。
それに何より、幸福を逃してしまう。
「わかりました。幸福教団に入るというならば、認めましょう。その辺はお前達に任せます」
「ありがとうございます。すぐに入信させます」
…………まあ、いいか。
戦力が増えたと思おう。
信者が多いに越したことはないのだから。
それにしても誰だろう?
私の知り合いじゃないだろうな?
女子だと良いなー。
◆◇◆
今後の予定を決め、バーベキューを食べ終えると、勝崎達は作戦会議を始めたので、私とミサはエアコンの効いたキャンピングカーの中で涼んでいる。
「よろしいのですか? 私は学校関係者はすべて始末した方がいいと思うのですが…………そもそも、あれらは生贄でしょう?」
ミサも勝崎達の言動から予想がついているようだ。
「私もそう思うのですが、勝崎や村上ちゃんがあそこまで言うのだから仕方がないでしょう」
「まあ、そうですけど……先輩か後輩か同級生かは知りませんけど、ひー様に従いますかね?」
まあ、従いにくいわな。
ミサや東雲姉妹だって同じ学校だが、こいつらはそもそも教団員だった。
巫女と護衛役だったから私と同じ学校に入ったのだ。
なお、1つ上の先輩である東雲姉妹は留年する予定だったらしい。
ひー様のためにとか言ってたが、赤点だらけのテストを見て、色々と察した。
「信者にならないのなら処分か有効活用でしょうね…………」
「信者が誰かわかるって言ってましたよね? まあ、それならいいか」
スパイも筒抜けなのは便利だ。
「そういえば、エルフが信者になってくれたことで私も強くなりましたよ」
信者の数が私の力なのだ。
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名 前 ヒミコ
レベル -
ジョブ 幸福の絶対神
信者P 94/128
スキル
≪神通力≫
→転移、お告げ、診察new
≪絶対神の天寿≫
----------------------
私は診察を使えるようになったのだ。
能力は信者の状態を確認できる。
うん! 微妙だね!
「強くって?」
「信者の状態を把握できます。お前は今、満腹でしょう」
「いや、そりゃそうですよ。さっきまでバーベキューをしてたんですから…………」
まあね。
「うーん、病気もなさそうですね。少し、疲労が溜まっている程度です」
「まあ、合ってます。昨日はちゃんと眠りましたが、ここんところはずっと歩いてましたからね」
「やっぱ微妙だな…………まあ、まだ生まれたての神だから仕方がないわね。徐々に信者を集めて力を蓄えなければ!」
そうしないと、地球の神には勝てない。
私の能力でいくら兵器を出そうと各国も持っているのだ。
今のままでは絶対に勝てない。
「いつかあの女神アテナみたいに啓示もできるようになるんですかねー?」
ミサが聞いてくる。
「じゃないかな? あれも微妙だけどね。要は強制視聴の生放送番組じゃん」
どっかの国でもやってるでしょうよ。
「ですねー。ふあーあ……眠い」
ミサがあくびをする。
昼まで寝てたのにまだ眠いらしい。
やはり疲れているのだ。
「寝ていいわよ。どうせ2、3日は動かないし……私が添い寝してあげようか?」
昔はよく一緒に寝たなー。
「嫌ですよ。ひー様、押しつけて自慢してくるんですもん」
まーだ、昨日の夜のことを言っている。
ちょっとエアコンが効きすぎてて、肌寒かったから引っ付いただけなのに。
「してませんよ。お前、自分が平坦だからってひがまない」
「ちょっと大きいからって生意気なんですよ!」
あー、やだやだ。
嫉妬は醜いね。
◆◇◆
私達は2日ほどキャンピングカーで過ごすと、3日目には森中にいるエルフが挨拶と感謝を伝えるために集まってきた。
各村の村長から長々とした話を聞き終え、夜になると、酒を出し、宴会を開いてやった。
宴もたけなわになり、皆がある程度、落ち着くと、私とミサはキャンピングカーの上によじ登った。
なお、キャンピングカーによじ登ろうとしているミサを手助けしてくれるつもりだったのだろうが、スカートをはいているミサの下に行った勝崎が村上ちゃんに蹴られてた。
私はキャンピングカーの上に立つと、下にいる大勢のエルフ達を見下ろす。
私の信者ポイントが500を超えたことからここにいるエルフは400人を超えているはずだ。
一気にこれだけの数が私の信者となった。
ご飯をあげただけなのにね。
やはり、米は偉大である。
そして、それ以上に私が偉大なのだ。
「清聴! これからひー様がありがたい言葉を授けてくださるぞ! 心をスポンジにして聞くように!」
巫女であるミサが大声で叫ぶ。
しかし、こいつは何故、叫ぶんだろうか?
ミサは体育会系でもないし、軍人でもない。
巫女のはずだ。
というか、スポンジって、バカか……
そんなもん、エルフがわかるわけないでしょうに。
女神アテナの巫女は物静かで落ち着いていたのになー。
やはり、リースに変えようかな?
リースには兼任してもらえばいい。
そうしたらミサは…………ダメだ。
こいつ、何もできそうにない…………
私は仕方がないなーと思いながら一歩前に出た。
「私はヒミコ。幸福の神、ヒミコ。お前達の人生を幸福に導く者なり。エルフの民よ、お前達は人から見れば悠久の時を生きる種族だ。魔法も得意、耳も目も良い。人族に劣っているところは何一つない。だが、人族はお前達を迫害する。それは何故か? 今、お前達の頭の中には嫉妬や妬みが浮かんだかもしれませんが、それは違います。人は他人に対してそこまで興味を持たない。お前達が優れようが、冷遇されようが、特に何も思わないものなのです。では、何故、迫害されるのか…………それは女神教が害悪だからなのです。女神アテナは自分を崇めることのみを求める悪魔です。隣人の言葉を聞かず、自分の信仰のみに執着する憐れなる偶像なのです。女神教は人族を洗脳し、悪魔にしました。我々はこの憐れなる人族を救済し、捕らわれたエルフの同胞を救うのです。エルフは私の子。私のためだけに存在する子。私の子を救いなさい! 武器を取りなさい! 今こそ、女神教という悪夢からすべての人を目覚めさせるのです!」
私はそう言うと、皆に背を向け、後ろの上空を見上げる。
今は夜であるため、星が見えるものの、空は当然のように暗い。
『青木、準備はいいですね?』
私はお告げのスキルを使い、この場にはいない青木に確認する。
『いつでも!』
『よろしい。20秒後に着火を』
『承知!』
私は確認を終えると、再び、前を向き、エルフ達を見下ろした。
「さあ、私を崇めなさい。祈りを捧げるのです。さすれば、お前達に幸福を与えましょう。私はヒミコ。幸福の絶対神、ヒミコ。お前達が私の子になった祝砲です!」
私は両手を上げ、自分の後方に視線を誘導する。
すると、ヒューという音と共に複数の光の筋が上空に上がっていった。
直後、バーンという音が響き渡り、空を光で明るくした。
とある花火大会で使った花火である。
花火はそのまま連続して打ちあがり、空を彩っていく。
酒をしこたま飲んでいる男エルフは楽しく騒ぎ、女エルフは上空の花火に見惚れていた。
「さあ、私の子よ。私の愛すべき戦士達よ! 騒げ! 喜べ! 感嘆せよ! そして、共に戦うのです! 幸福はすぐそばにあります! 私こそが幸福そのものなのです!」
だから私のために生きろ。
私だけを見て、私のためだけに人生を捧げろ。
それがお前達の生きる道だ。
「勝利は我らの物だ!!」
「神よ!」
「秩序と平和と同胞を取り戻すぞ!」
「主よ! 感謝します!!」
「ヒミコ様ー!」
祈れ、祈れ。
それこそが私の糧であり、お前達の力となるのだ。
「ひー様、かっこいい!」
「素敵です! 愛してます!!」
勝崎と村上ちゃんもエルフと一緒に騒いでいる。
「あの2人も飲んだの?」
私は隣にいるミサに聞く。
「2人共、お酒が好きですので…………」
まあ、いいか…………
毒を入れたわけではないしな…………
しかし、適当なことしか言ってないのに、このまま乱交パーティーでもしそうな盛り上がりだわ……
酒に興奮剤を入れすぎたかな?
「盛り上がっているならいいや」
「カルト教団ですねー」
爆音、光、酒、興奮剤、騒ぎ、偶像、高揚感の連鎖…………
「大丈夫! 皆、やってる!」
多分ね!
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