第009話 全然、関係ないけど、タコが好き
「ふむ……相変わらず、ブラックなヤツね……」
私は1年ぶりに氷室と話してみて、こいつは変わらないなーと思った。
教団が悪いことをする時に率先して泥をかぶってくれるのが氷室なのだ。
「さて、次は勝崎ね…………」
私は勝崎にお告げのスキルで連絡を取ろうと思った。
「ひー様ー、終わりましたよー」
勝崎に連絡を取ろうと思い、目を閉じると、キャンピングカーの外からミサの声が聞こえてくる。
「入りなさい」
私が許可を出すと、ミサがキャンピングカーに入ってきた。
「あっつー……ひー様、暑くないんですか? そんな格好をしているのに」
私は真っ赤な和服を着ている。
もちろん長袖だし、生地も厚い。
「私はもはや、そういった概念は超越したのよ」
そう、神だから!
「いや、額にめっちゃ汗をかいて、何を言ってんですか……クーラーつけますねー」
え?
クーラー、あったんか…………
「それより、ミサ、随分と早かったわね」
まだ1時間も経っていない。
「人が少ないんですもん。作り方を教えながら作って終わりです。今、炊いてるところですね」
「布教は?」
「少し考えさせてほしいって言われました。村としての意見を出すそうです」
村として?
…………なるほどね。
「9割9分、入信かな?」
「そうなんです?」
「私は個別での勧誘を求めたのに、村単位ってことは入る以外にないわよ。これで断ってきたら大物すぎるわ」
まあ、米をもらっても、その米がなくなれば、また飢えがくる。
入信という選択肢しかないのだろう。
「まあ、お米を見て、涙を流してましたしねー」
「これが他の村もなのよねー」
「これは一気に勢力を伸ばすチャンスですよ!」
食事を与えるだけで信者が増えるって楽だわー。
「さっき氷室に聞いたんだけど、エルフは強いらしいわね? 良い兵士になるって言ってたわ」
「強いですね。魔法は得意だし、弓も得意です。ただ致命的に数が少ないですからね。人族には勝てません」
「増やせばいいのにね」
富国強兵ってやつ。
「エルフ族は子供ができにくいんですよ。代わりに寿命は私達の10倍はあります」
「それはすごいわね。じゃあ、あの長老はいくつなのかしら?」
「さあ? 500歳は越えているんじゃないですか? 戦国時代ですよ」
そう考えると、すごいな。
信長より年上なんじゃね?
「思ったより、早めに戦力が整いそうね。やはり勝崎に連絡して合流しましょう」
「ですね」
私は目を閉じ、お告げのスキルを使う。
『勝崎、勝崎、私です。ヒミコです。我が呼び声に応えなさい』
『ういっす! 勝崎ヒロフミです! 聞こえてます!』
ふむ、勝崎だな。
『お久しぶりです、勝崎。元気にしてましたか?』
『もちろんです。ひー様もご無事なようで何より。あー、それと神谷の嬢ちゃんも一緒ですか? 女神アテナの啓示を見たんですけど……』
『隣にいます』
『ってことは、迷いの森です?』
『そうです。今はエルフの村で布教活動中になります』
休んでるけどね。
クーラーが涼しいわー。
『あのバカ、マジで迷いの森に行ったのかよ! アホか!』
『勝崎、ミサに何てことを言うのです!』
本当のことを言ってはいけません!
『すみませんがねー……こればっかりは言わせてもらいます。あいつ、ひー様の封印場所を突き詰めた時、皆で戦力を整えてから行こうって決めてたのに1人で突っ込んでいったんですよ。ロクな装備も準備もせずに』
バカだね。
『それについては私の方で説教をしておきました。本人も深く反省しています。許してあげてください』
『ひー様がそうやって甘やかすから…………組織には規律って言うものがですねー…………』
元軍人はそういうところがうるさいな。
『勝崎、ミサのことはどうでもいいです。それよりも状況を知らせなさい。お前は今どこにいますか?』
『あー、迷いの森の最寄りの町ですね。この前までミサもいたところです』
割かし近そうね。
『こちらに来れますか?』
『先程、ひー様が女神アテナと対決してたでしょう? あれのおかげで警備がきつくなりました。門を抜けるのは厳しいです』
めんどくさいな…………
『ヘリをそちらに送ります。それで抜けられませんか?』
『は? ヘリ? 送る? 何ですか、それ?』
『実はね…………』
私は自分のスキルを説明した。
『はー、すごいっすねー。この念話もですが、兵器や食料を出せて、しかも、輸送できるのはでかいですわ』
『でしょ? それで、お前の所にヘリを出すからそれで上空から門を抜け、私の所に迎えに来なさい』
『わかりました。迷いの森のどこです?』
『適当にのろしでも上げてもらいます。明日の昼にまた連絡しますので、準備をしておきなさい』
のろしくらいはさすがにあるだろ。
なかったら凧でも上げるかね?
『わかりました。こちらは村上、青木と合流しています。明日の昼、連絡があり次第、即時、駆けつけます』
おー、村上ちゃんと青木までいるのか!
『よろしい! お前には戦力増強を期待しています…………あ! あと、あんた、奴隷なんかを買ってないでしょうね?』
『そんな金はないっすわ』
金があったら買ったのか?
『エルフの奴隷を見たことは?』
『ないです。エルフは高級品らしくて、所持しているのは貴族や教会のお偉いさんらしいですよ』
詳しいな。
さてはこいつ、買う気だったな。
『この森にいるエルフを教団員に加えた場合はその辺がデリケートになります。発言、行動には十分に注意しなさい』
『エルフか…………』
『お前、マジで下手なことをしたら許しませんよ?』
『しませんって。とりあえず、わかりました。このことは村上と青木にも周知しておきます』
『よろしい。では、明日』
『イェッサー!』
わざとか?
私は腑に落ちなかったが、とりあえず、脳内電話を切る。
「勝崎、村上ちゃん、青木とは明日の昼に合流です。ヘリで来ます」
勝崎との会話を終えた私はミサに内容を伝えた。
「おー、村上ちゃんも合流ですか! 女性の味方!」
村上ちゃんは婦警さんなのだ。
性犯罪は許さないんだぞ!
なので、氷室のことが大嫌い。
青木はガタイの良い土方だ。
真っ黒に日焼けしているが、現場仕事でなく、日焼けサロンらしい。
意味不明。
しかし、勝崎を含め、強い3人が揃ってくれたのは心強い。
「ヘリも来るし、これで森を徒歩で抜けなくてもよくなったわね」
「ですねー。ひー様、お寿司を食べましょう。お祝いは日本のソウルフードである銀座の寿司です」
たっかいソウルフードだなー。
まあ、お金はかかんないけどね。
◆◇◆
「へい、らっしゃい! 何にします?」
「大将! 大トロで!」
「大トロ一丁! はい」
「どうもです…………ん、おいひー! とろけへまふー!」
口にものを入れてしゃべるなっての。
下品な子だわ。
モグモグ……タコ、美味しいな。
私達はお寿司屋さんごっこをしながら夕ご飯を食べている。
寿司は実に美味しい。
だが、ネタ1貫で1ポイントはちょっと贅沢である。
「ウニで!」
「はいはい」
私はミサのためにウニを出す。
モグモグ……アジ、美味しいな。
「アワビ……って、なんで、自分はそんな微妙なチョイスばっかなんです?」
「うるさいわね。好きなんだからいいじゃない。はい、アワビ」
モグモグ……イカも美味しいな。
「ありがとうございます。美味しいですねー。明日はステーキです」
明日の晩御飯が決まった。
「贅沢ねー。それよか、あんた、学校関係者を知らない? 氷室の情報では神殿を出て、旅立った生徒もいるって聞いたけど」
「氷室情報ですかー。わかってましたけど、まだ生きてたんですね…………」
女子は皆、氷室が嫌いだなー。
まあ、しゃーないけど。
「氷室には潜入任務で学校関係者達の内部崩壊を指示したわ。問題は出ていったヤツらよ。強力なスキルを持つ100名余りの敵を放置はできないわ」
「んー、全員を把握しているわけではないですけど、冒険者になって稼いでいるみたいですよ」
「冒険者? 魔物でも倒してるの?」
「まあ、そんな感じです。強力なスキルを持っていますしね」
意外にもちゃんと生き残っているんだな。
「そいつらが我らと女神教の戦争に参加することは?」
「ないでしょう。こっちの世界で稼いでいるし、ほとんどが日本への帰還を諦めた者です。わざわざマシンガンを相手にしたくはないでしょうし、傍観でしょうね」
ほうほう。
つまり、群れていないわけか…………
「各個撃破で潰せそうね。我らの中に暗殺に優れている者は?」
「それこそ氷室では? あとは…………アケミ姉さん?」
アケミって……娼婦でしょ。
ああ、そっちで殺すのね。
「氷室は別任務。それにアケミにそういうことをさせる気はない」
あの子は心がデリケートなんだ。
「うーん、じゃあ、スナイパーライフルで殺すか、毒殺がいいのでは?」
ふむ。
目の良いエルフにスナイパーになってもらい、やらせるか。
冒険者ってことは町の外に出るだろうし、あいつらはスナイパーライフルを出せるとは思っていないから無警戒だろう。
「勝崎達にエルフの指導を任せましょう」
「入信はともかく、兵士になってくれますかね?」
「なるわよ。明日のお楽しみね」
私はヒミコ。幸福の神、ヒミコ。
エルフは奴隷となった仲間を救いたいと思っているでしょう。
だが、力がないからできない。
ならば、私が力を与えましょう。
私は救いを求める者を救う神なのだから。
ふふっ。
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