第006話 エルフの集落


 エックハルトに案内されていた私達は開けたところにある集落を発見した。

 集落は木材でできた柵がある程度であり、見る限り、防御面は非常に心許ない。


「あれ?」


 私は集落を指差し、エックハルトに聞く。


「そうだ。今は見張りすらいないな…………」


 お腹が空いて、見張りもできないのか。


 私達はそのまま歩いていき、入口までやってきた。


「ホントに見張りがいないし…………魔物に襲われたらヤバいじゃん」

「本来なら魔物程度には遅れは取らないんだがな……今はそれどころじゃない」


 多分、エルフは強いんだろう。

 だから、柵もショボいんだ。

 でも今は…………魔物に襲われたら全滅かな?


「エックハルト、お前はここの代表に話を通してきなさい。人族のミサと見た目人族の私が村に入れば混乱します」

「そうだな。すまんが、ちょっと待っていてくれ。長老に話を通してくる」


 エックハルトは私達にそう言い、村に入っていった。


「本当にエルフを仲間に引き入れるのですか?」


 エックハルトが村の奥にあるそこそこ大きな家に入り、姿が見えなくなると、ミサが聞いてくる。


「信者は多い方が良いでしょう。私は国や人種の違いを気にしませんから」


 誰であろうと、信者は信者だ。


「あいつらを利用する気は?」

「女エルフを捕えて、客でも取らせますか? 幸せの粉で忠実な奴隷を作れますよ?」


 そうすれば、資金に困ることはない。


「そこまでは言いませんけど…………」

「冗談です。リースがキレるし、私も不快です」


 幸せの粉は用法用量を守って使いましょう。

 ヒミコとの約束だよ!


「もし、他の人族を吸収した時に亜人と争いになる可能性もあります」


 ミサの言いたいことはわかる。

 この世界ではすでに人族と亜人との間に大きな確執があるのだ。

 たとえ、女神教を捨て、幸福教団に入ったとしても、その確執は消えることはないだろう。


「お互いを隔離させましょう。別に共存する必要はありません。エルフはエルフのコミュニティを作り、人族は人族のコミュニティで生きていけばいい。ただ、教団員を奴隷にすることは禁止にします。幸福教団は幸福を求める教え…………奴隷になど、なってはなりません」

「わかりました。教団員が奴隷を持っていた場合は?」

「その奴隷が幸福教に入信するなら即時、解放させなさい」

「入信しないなら?」

「私の知ったことではありません」


 女神教なのが悪い。

 私を信じる者は救われるが、女神アテナを信じる者は救われない。


「かしこまりました。その考えを徹底させます」


 私の子達は奴隷を買っていないだろうか?

 うーん……男の子だと、買ってるヤツもいるかもしれない。

 氷室とか……


「勝崎は奴隷を持っていないでしょうね?」


 東雲姉妹は持っていないだろうが、勝崎は怪しい。

 筋肉モリモリで性欲が強そうだし。(偏見)


「あの人、元自衛官ですよ?」

「覚えておきなさい。軍人ほど野蛮な人はいないし、性欲も異常なのです」

「…………それ、誰に聞いたんです?」

「氷室」


 昔、得意げに話していた。

 下手をすると、男だろうが食べちゃうらしい。

 ひえー。


「あいつ、今度会ったら殺す! ひー様、そんなもんは人それぞれです。勝崎は真面目だし、誠実な男ですよ。少なくとも、氷室よりは100倍まともです」


 まあ、そうかもしれない。

 それにあいつは奥さんがいたはずだ。

 画面から出てこないって言ってたけど。


「教団員に聞き取り調査をしてみようかしら? あ、戻ってきた」


 私とミサが話していると、エックハルトがおじいちゃんエルフと若くて強そうな男エルフ2人を引きつれて戻ってくる。

 すると、ミサが私の前に立ち、銃を構えた。


「ミサ、相手は武器を持っていません」

「エルフは魔法が得意なんですよ」


 武器はいらないわけか。


「そんな相手を挑発しないで。私はともかく、あんたは死ぬよ?」

「私はひー様のためなら…………いえ、失礼しました」


 ミサが銃を下ろす。


「私が話します。お前は下がっていなさい」

「はい」


 ミサが大人しく私の後ろに下がっていった。

 エルフ達はミサが銃を構えたので立ち止まっていたが、ミサが下がると、再び、私のもとに歩き出す。

 そして、私の前に来ると、4人共、跪いた。


「私はこの村の村長を務めていますカールです。幸福の神、ヒミコ様とお見受けします」


 おじいちゃんエルフが跪き、顔を伏せたまま聞いてくる。


「いかにも。私はヒミコ。幸福の神、ヒミコ。幸福教団の教祖にして、絶対神なり」

「ははーっ! このようなところに降臨されたのは大変に名誉なこと。また、飢えた我々に食料を分けていただけると聞きました。まことでしょうか?」


 ふむふむ。

 神への畏敬も礼儀を知っているようだな。


「まことです。先程、エックハルトにも与えました。パンが嫌なら別の物を出しましょう」


 米でも出すかね?

 自分らで炊け。

 そっちの方がポイントも少なくていい気がする。


「ありがとうございます…………ただ、我々には返す物がありません」

「返す物? 私は幸福の神である。返礼はいらない。お供え物もいらない。もちろん、生贄もいらない。私は救われぬ者を救う神なり。ただそれだけであり、幸福を求める者に幸福を与えるだけです」

「…………幸福教団に入る必要はないと?」


 そこが気になるのね。


「宗教は強制するものでも見返りに入るものでもありません。ただ、勧誘の許可はもらいます。我が教団の規則は幸せを求めることのみで、他宗教との掛け持ちでも構わないのです。私は別にお前達の精霊信仰なり、地霊信仰を否定しません」


 幸福教団は元から寛容な宗教団体なのだ。

 ただし、否定してくる者は絶対に許さない。


「わかりました」

「あと、それとは別に1日ほど場所を借ります。私はともかく、私の巫女を休ませたい」


 これから食料を分け、勧誘するとなると、今日はもう動けないだろう。

 キャンピングカーを出すとしても、外よりかは村の中の方がいい。


「それはもちろんです。部屋を用意しましょう」

「それは結構です…………あそこの一画を借りてもいいですか?」


 私は村の中の何もない空きスペースを指差した。


「あそこですか? それはもちろん構いませんが……」


 私は許可を得られたので空きスペースまで歩き、手を掲げる。

 すると、キャンピングカーが一瞬にして、現れた。


「なっ!」

「何だそれは!?」


 後ろから若いエルフの驚きの声が聞こえてくる。


「これが神の力です…………ミサ」

「はい!」


 ミサが私のもとにやってきた。

 私はミサが傍に来ると、30キロもある米袋と塩を出す。


「お前、料理が得意でしたね?」


 小学校の時の家庭実習でドヤ顔をしていたのを覚えている。

 私?

 ミサにお前は触んなって怒られた。


「まさか……私が炊くんですか?」

「炊き方を教えてきなさい。そして、それをおにぎりでもおかゆでもいいので、作って配りなさい。あ、勧誘を忘れてはいけませんよ」


 勧誘も得意でしょ?

 巫女だし。


「…………ひー様は?」

「私はお告げのスキルを使って、他の教団員と話してみます。それに武器を与えないといけません」


 ミサに与えたようにマシンガンがないと不安だ。


「なるほど……確かに」

「では、後は任せましたよ。絶対に争ってはなりません…………カール」


 私は後ろでキャンピングカーを見て、呆けている村長さんを呼ぶ。


「は、はい!」

「後のことはミサに任せますが、ミサは人族です。争いがないようにしてください。私は幸福教団の子供達への攻撃を絶対に許しません。それを脳裏に刻み込んでおくように」


 そして、この言葉の意味を理解するように!


「ははっ! 絶対にそのようなことがないように致します!」


 カールはおじいちゃんのくせに大丈夫かと心配になるくらいに腰を曲げ、頭を下げてくる。


「では、そのように。ミサ、終わったら呼びなさい」

「はい…………晩御飯は銀座の寿司でお願いします」

「良いでしょう」


 士気くらいは上げてやろう。


 私は後のことをミサに任せると、キャンピングカーの中に入る。


「ふむ。やはり儀式で色んな物に触った甲斐があったな」


 私は教祖であったため、新しい武器や物がくると、まず、最初に確認をしていた。

 そのおかげでキャンピングカーも出せるのだ。

 何故、教団にキャンピングカーというと、もちろん、教団の交流会のためである。

 けっして、この中に色んな物を隠しているわけではない。


「さて、お告げで連絡を取ってみるか…………」


 私はキャンピングカーの中にあるベッドにもなるであろうソファーに腰かけた。


「まずは…………やはり、リースか」


 リースには色々と聞きたいことがあるし、今後の活動を考えても、やはり、教団にはリースが必要だ。


 私は目を閉じ、お告げの力を使う。


『リース、リース、聞こえますか? 私です。ヒミコです』

『……………………』


 繋がっているはずだが、応答がない。


 寝ているのか?


『リース、聞こえませんか? 今こそ、幸福教団の復活の時なのです。お前がいなくては始まりません』

『……………………』


 もしかして、無視してる?


『リース、お前は私を無視するのですか?』

『…………ひー様、申し訳ございません』


 ようやくリースの声が聞こえてきた。


『何がですか?』

『……………………』


 また無視だ。


『リース……リース!』

『……………………』


 ダメだこりゃ……

 理由はわからないが、話をしたくないらしい。


『リース、私にはお前が必要です。今、話をしたくないのなら構いませんが、落ち着いたら話しなさい。お前にマシンガンを送ります。どこで何をしているのか知りませんが、自衛のために持っているように。では、切ります』


 私はお告げという名の電話を切った。


「とりあえず、リースは無事そうね」


 ただ、なんだ、あれ?

 無視してきたし……

 まあ、こうなったらリースは後回しにするしかないだろう。


「さて、次は…………氷室ね」


 氷室の優先度は高い。

 当人の能力が高いし、ゲリラ戦では勝崎よりも役に立つだろう。

 そして何より、あの子は今、学校関係者達と同じ神殿とやらにいるらしい。

 間違いなく、情報を持っているだろうな。


 私はお告げを使い、氷室に脳内電話をかけることにした。


『氷室、氷室。私です。ヒミコです。応答しなさい』


 あんたは無視するんじゃないぞー。

 2人連続で無視されたら泣きそうになるわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る