第004話 教団員の状況


 私はミサを連れて森に戻ってきた。

 そして、そのままソファーに座る。


「敵は思ったより小物だったわね」


 私はあの女神と話した感想を漏らした。


「ひー様の前ではすべてが小物でしょう。これで我ら幸福教団と女神教団の宗教戦争が始まります」


 前にやったんじゃなかったっけ?

 触れない方がいいか……


「まあ、何にせよ、他の子達との合流が先ね。ミサ、知ってる?」

「居場所がわかるのは数名ですね。東雲姉妹と前野、後は勝崎です」


 東雲姉妹は私と同じ学校の3年生女子だ。

 前野は医者。

 勝崎は元自衛隊員である。


「その中では東雲姉妹ね」

「あのギャル姉妹ですか? 私は好きじゃないんですけど」


 あんたはメガネだもんね。


「私の護衛を務めていたのはあの2人よ。早急に連絡を取りなさい。もちろん、前野と勝崎もよ」

「わかりました」


 いや、待て。

 お告げでいけるか…………


「待ちなさい。そもそも、ここはどこなのですか?」

「ここは迷いの森と呼ばれる南部にあるでっかい森です」


 迷いの森……

 名前からして人が来そうにないところだ。

 私を封印するには打ってつけってことかな……?


「ところで、リースは?」

「あの女は行方不明です。私らの中では裏切者扱いで、各自が捜索中です」


 リースが裏切者?


「何故、リースが裏切者なのですか?」

「あいつは確かにひー様を神にしました。ですが、異世界転移は聞いていない。ひー様は転移する時のあいつを見ましたか?」


 高笑いしてたな……

 キャラじゃないからびっくりした。


「女神がどうちゃらこうちゃら言ってなかった?」

「はい。あの口ぶりからあの女は転移のことを知っていました。しかし、私達に言わず、黙っていたのです。これは明確な裏切りです」


 …………こいつら、すげーな。

 学校を占拠することを私に言ってないことをめっちゃ棚に上げてる…………


「まあ、いいでしょう。どちらにせよ、リースには話を聞く必要があります。教団員の他の情報は?」

「あ、氷室が裏切りました。まあ、あいつはどうでもいいです。元々、信用してないので」


 氷室……

 体育教師を処分した男だ。

 元々は海外で傭兵だかなんだかをしていたらしい謎の男である。

 軽薄でクズなので、皆から嫌われている。

 あの時だって女生徒を襲おうとしていたらしく、そういうことが大嫌いなリースとぶつかっていたようだ。


「氷室が裏切りですか?」

「はい。こっちの世界に転移してすぐに裏切りました。現在は学校関係者達がいる神殿にいる思われます」

「なるほど……」


 私はステータスを操作する。

 ステータスには信者の情報を見ることが出来るのだ。

 私は87名の信者を信仰心が厚い順にソートした。




----------------------

 信者(信仰心の厚い順)

 リース・ルフェーブル

 東雲ナツカ

 山野アケミ

 鈴木ケイタ

 勝崎ヒロフミ

 木村レイナ

 東雲フユミ

 氷室ジロウ

   ・

   ・

   ・

 神谷ミサ

 杉田ソウジロウ

----------------------




 リースが一番か…………

 やはり、リースの裏切りは考えにくい。

 それに意外と氷室も高いな……

 東雲姉妹は双子のくせに差がある……

 他は順当かな……?


 しかし、幼稚園から一緒であり、巫女にまでしてやったミサの信仰心が異常に低いな……

 ブービーじゃん。

 しかも、ドベの杉田って、数ヶ月前に教団に入ったばっかりの50歳オーバーの子だ。

 杉田の信仰心が他の者より低いのは仕方がないが……


 いや! このソート機能はもう使わない方がいい気がする。

 私の信者に優劣はないのだ。


 どちらにせよ、リースも氷室も私を捨てたわけではなさそうだ。

 後で連絡を取ってみよう。


「まずは森を出ることにします」


 私は今後の方針を決めた。


「そうですね! 私もひー様を見つけるために、ここをさまよい、2日も飲まず食わずで死にそうなんです」


 そこまで命をかけられるのにブービーか……

 もしかしたらミサの場合は付き合いが長すぎるせいかもしれない。

 だから信仰対象の神である私の横に平気で座れるのだろう。


「ミネラルウォーターとお茶とコーラとビールは何が好き?」


 私は教祖しゃべりをやめ、普段のしゃべり方に戻した。


「コーラが懐かしいです…………」


 この子達は1年もこの世界で暮らしているんだもんなー。

 しかも、日陰者。


「ん。あげる」


 私はスキルの≪絶対神の天寿≫を使い、ペットボトルのコーラを出し、ミサに渡す。


「え? ひー様って、銃だけじゃなくて、コーラも出せるんです?」

「私が日本にいた時に触れた物ならなんでも出せるわよ」


 ソファーも出したじゃん。


「マジですか?」

「マジね」

「それ、勝ったも同然じゃないですか! 銃だって、食糧だって、水だって、戦車も戦闘機もヘリも出せますじゃん!!」


 出せますじゃん?

 興奮しすぎて日本語がおかしい。


「まあ、そうね。だからこそ勝ち方を考えないと」

「勝ち方ですか?」

「バカなあんたはどうせ女神教の信者1億人を皆殺しにして、女神アテナを消滅させようと思ってるでしょ」

「違うんですか?」


 野蛮だわー。


「向こうもあんたらにそれをやって、1年で12人しか殺せなかったのよ? 本気で潜られたら無理よ。それよりも、その1億人の信者をそのまんまもらいましょう」

「なるほど! あんなクソみたいな教団よりも、我らがひー様の幸福教団の方が良いに決まってますもんね!」

「そういうことよ。信仰を失えば、神は終わる。世界を滅ぼすよりもずっと楽よ」


 この世界の宗教が1つしかないのもいい。

 今までロクな敵と戦ったことがない宗教なんか、穴だらけだ。

 地球でキリスト、ブッタ、アラーと戦おうとしても厳しいが、あの女神なら余裕だろう。


「さすがです、ひー様! あ、コーラもらいます」


 ミサはコーラを開け、ゴクゴクと飲みだした。


「めっちゃ美味いです…………ひー様、おにぎりを出してください」

「おにぎりでいいの?」


 他にもあるだろ。


「ジャパニーズはおにぎーり、でーす」


 なんでカタコト英語?


「はい」


 私は適当なコンビニのおにぎりを3つ出した。


「いただきます」


 ミサは封を開けて、おにぎりを食べだす。


 しかし、銃でも1ポイント、コーラでも1ポイント、おにぎり1つでも1ポイントか…………

 まあ、いいけど……って、泣いてるし!


 私が隣に座っておにぎりを食べているミサを見ると、ミサは涙を流しながらおにぎりを頬張っていた。


「コーラと合わなかった? お茶を出そうか?」

「いえ、おにぎひがおいひくへ」

「飲み込んでからしゃべりなさい」

「………………この1年、地獄でした……ひー様も武器も失った私はロクに働き口もなく、乞食のような生活で生きてきたのです」


 えー……

 マジ?


「他の子もなの?」

「…………それはいいじゃないですか」


 ミサがそっと目を逸らした。


 他の子は普通に働いてたんだね。

 お前は無能だから働けなかったんだね。

 他の教団員にたかってたんだね…………


「身体でも売りなさいよ」


 その貧相な身体を好む男だっているでしょ。


「嫌ですよ。あー……でも、アケミ姉さんは高級娼婦になってましたよ。ほら、あの人って、そういう女優さんじゃないですか?」


 山野アケミか……

 セクシーな動画に出てる人である。

 左腕にいっつも包帯を巻いている子。

 そして、そういうエッチなのが嫌いなあのリースですら、左腕を見て、文句や苦言を言わなくなった子だ。


「まあ、あの子は適任かもね」

「実際、教会関係者や貴族のお偉いさんから情報を仕入れてくれるからめっちゃ便利ですよ………………ご飯も恵んでくれたし」


 アケミにたかってたんだね…………

 哀れな女だわ。

 でも、皆、ミサが無能なことは知っているし、まだ高校生だからしゃーないと思ったんだろうな。


「よし! 大体わかったわ! 皆と合流しましょう! 行くわよ!」

「まだ食べてるんですけど……」

「歩きながら食べなさい。私は野宿は嫌よ」


 今は昼くらいかもしれないが、森の場合は暗くなるのが早い。

 さっさと出ないと、森の中で1泊になってしまう。


「あ、いや、すみません。ここはだいぶ奥なので泊まりは必須です」


 ……………………。


「一応、聞くわ。あんた、ヘリを飛ばせる?」

「すみません…………」


 まあ、無能とは言わない。

 こいつは私と同い年だから17歳なのだ。

 ヘリを飛ばせるわけがない。


「まあいいわ。夜はキャンピングカーで寝ましょう。獣もそれでオーケーでしょ!」

「ひー様、最高!!」


 封印を解いてくれたのはありがたいが、リースか勝崎が良かったな。

 氷室でもいい。

 そうしたらヘリを飛ばせるのに…………

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