第11話 昼休みと妹

「柚季〜、お昼行こ〜!」


「は、はい。今行きますね、結城さん」


4月も下旬に入って学校生活にも慣れてきた。相変わらず俺に友達はいないが同居相手かつ従妹の神室柚季には友達ができたらしい。


(俺も学食行くか……)


神室は弁当を作っているが俺は学食。以前に神室が「久遠くんの分も作りますよ」とは言ってくれたが、さすがに神室と同じおかずが詰め込まれてる弁當を持っていくわけにもいかないので斷った。少しだけ寂しそうにはしていたが関係を疑われるより何倍もマシだろう。


学食は人が集まる。とにかく人が集まる。購買で済ませる者や神室のように弁当を持ってくる者もいるが、やはりこうやって学食を頼る人間が1番多い。無論、俺もその內の1人だ。


唐揚げ定食の食券を買って列に並ぶ。ものすごく美味いとか1個1個がやたらでかいとか……まぁ、そういった特別なポイントがあるわけじゃない。ただ揚げ物は家で作るのはとても面倒……と、神室が言っていた。特に片付けが面倒らしい。

まあ、そんな唐揚げがワンコイン500円で食べれるのだから、そういった点は優位性になるのでは、と思う。あとご飯の大盛りが無料。


「いただきます」


適当に空いてる席に座って唐揚げを食べる。うん、良くも悪くも学食クオリティ。特別美味しい訳でもないが十分な味だと思う。何様のつもりなのだろうか。いや、俺のことだが。

周りを見渡すとグループで食べてる者が若干多い気もする。もちろん俺みたいな1人で食べる者もいるが。なんか寂しくなってきたな。泣く。


「邪魔するぞ」


言葉と共に俺の前の席に座る女性。テーブルに置かれたトレーにはオムライスと中々可愛いものが乗っていた。目の前に座った人には少し似合わないなとは思ってしまったが。


「東雲先生」


「ん、相変わらず混むな。試合終了後の駅ほどではないが」


「そういえば……休日はスポーツ観戦してるって言ってましたね。好きなスポーツは?」


「基本的に何でも見るぞ。それに私はスタジアムの雰囲気を楽しんでるからな。1つ選ぶとするなら……まあ、強いて言うならバスケか。ガキの頃はミニバスもやってたしな。懐かしいもんだ」


「イメージ湧きますよ」


「ま、続かなかったけどな。私にスポーツは向いてない」


「めちゃくちゃ動けそうなイメージありますけどね」


「よく言われるな。人のイメージなんてそんなもんだ。事実とは乖離があるんだよ」


期待に添えず悪いな、と言いながらオムライスを食べ進める東雲先生。その後も会話は続くが、その中で俺と神室のことには一切触れない。思えば昨日は随分とあっさり受け入れたようにも思えた。傍から見れば……いや、俺達の視点から考えても異常だと言うのに。


まぁ、それに関しては気にしても仕方ないだろう。ちらりと時計を見ると昼休みは既に半分を過ぎており俺も少し急いで昼飯を食う。午後の授業もあるのだからギリギリは避けた方がいいだろう。


「随分急いで食うな。もう少し落ち著いて食え」


「……東雲先生は随分とのんびり食べますね」


「私は午後に授業予定もないからな。……ま、寝ないようにだけ気をつけろよ。私は寝るが」


「羨ましい」


「私はお前達が羨ましいけどな。後悔するような学生時代を送ったわけではないが……まぁ、学生に戻れるなら戻りたいよ」


はぁ……とため息をつく東雲先生。俺も社会人になれば同じようなことを思うのだろうか……なんて、そんな先の未来を少し暗く考えてしまうのは悪い癖と言えるだろう。


☆☆☆


食後にやってくる眠気に耐え続ける。欠伸を何度も噛み殺しながら何とか意識を保って授業を受けているとチャイムが鳴って本日最後の授業が終わった。

不思議なもので、あれだけ眠かったはずが授業が終わるとその眠気が覚めてしまう。今なら帰ってすぐに寝れると思っていたが、それすらも無くなってしまった。


さて、今日は買い物の予定もないのでそのまま家に帰る。寄り道……なんてする友人は俺にはいないので真っ直ぐに家へ。自分で言ってて悲しくなるな。

世間はゴールデンウィークが近いと盛り上がっているが俺にこれといって用事はない。神室との同居生活もそろそろ1ヶ月になるが2人でどこかに遊びに行くほど俺達は仲良くないだろう。


最近はそれなりにリビングにいる時間も増えたし、それに比例して会話の機会も増えた。それでも尚、完全に打ち解けたとか互いを信頼出来るとか、そうは言えないだろう。

友達の定義は、恋人の定義は……なんて、そんな独り身が言いそうなことばかり考えてはいるが、普通は友人同士で同居生活なんてしないし、かといって俺達は恋人同士ではない。


3年間の生活とは言うが、その3年間が無限のように感じてしまう。楽しいと感じるより苦難の方が多いのが現状だ。ただ、神室が悪いわけじゃない。

誰かに相談できれば……なんて、そんな相手がいたらそもそもこんな苦労はしていないわけで。


「はぁ……本当に……あ?電話?」


普段は鳴らないスマホが珍しく鳴る。しかも、その相手は神室じゃない。むしろ昔から神室よりずっと多く話してきた相手だ。


「……もしもし?」


『あ、お兄ちゃん!?私、週末遊びに行くからよろしくね〜!それだけ!じゃね!』


「は?え?おい!んな急に……!切れてるし……」


あいつ言いたいことだけ言って切りやがった。しかも……週末?確かにそのままゴールデンウィークに突入するが、あまりに急すぎる。


「どういうつもりだよ、鈴奈のやつ……」


急に予定をぶち込んできた妹に対して出た言葉は、たったそれだけだ。

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従妹と同じ屋根の下で暮らすことになりました フジワラ @fujiwaraaaaaaaaaaaa

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