没文章の供養塔

はな

「魔術師パンダと闇の烙印」編

闇の烙印 第一話(一人称Ver)

ここでは、書いたものの没にした文章を供養したいと思います。

没になった理由も書き記しておきます。


今回は 「魔術師パンダと闇の烙印」編。


本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558889151446


また、この闇の烙印では、第一話を数人の方に下読みしてもらい意見をいただきました。なので、客観的意見もあり参考になる部分があると思います。

下読みしてくださった面々、ありがとうございました。



没の理由

・誰がどこで何をしているのかわかりにくい

・外見描写などがあまりなくイメージがつかみにくい

・三人称一次元視点が良いと判断したため(ただし、一人称の方がオリジナリティがあるという意見もあり)



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「まずは酒場だな」

ご主人パンダ様。もう路銀がありません。無駄な出費はやめてまずは仕事しましょう」


 新しい街へ入ったらまずは酒場。その旅の常識を無視して、俺様の肩で涼しい顔をしている黒鷹こくようのカラスが真面目腐った声を上げた。

 口を開けばそういう常識外れなことばかり言うバカが、十六歳にして他を凌駕する美と才能を持つ天才魔術師の従者とはな。せっかく鳥類一頭のいいからすから名前を取ってやったのに、ここまでバカだったとは想定外だ。


「黙れバカがらす、お前はずっと俺様の肩に乗って楽してるだけだろうが」

からすじゃありません黒鷹です! それに、それはご主人様がいけないんですよ!」

「は?」

「契約の時に、飛ぶ能力を封じるとかわけわかんないこと言うから。普通は! 自由を封じるとか、絶対服従とか、魔法を使えないようにするとか、色々あるでしょう」


 よく回る口だなこのバカ烏め。美と才能有り余る俺様が、お前ごときを絶対服従させたところで面白くもなんともないだろうが! そんなものは魔物にかろうじて勝てたような運のいい凡人がすることだ。

 俺様のこの温情がわからないとはなぁ……つくづく哀れな奴だ。自分が主人に恵まれている事に気がつけないとはなぁ。


「私はいつでもご主人様の寝首を掻くことができるんですからね!」

「ならやってみろよ」

「ぐえッ……ぐぐ、ぐるじ……」


 おっとついカラスの首を鷲掴みにしてしまった。俺様とした事が大人気ないが、バカ烏が煽って来たのが悪いんだからな。

 それにしても目を白黒させるなんて器用な奴だ。


「キュウ……」


 ついに力なくぐらついたカラスの身体を仕方なく前に抱える。オチたか。これくらいで情けない。

 それに、俺様に抱かせるとか従者の分際で生意気だな。と思ってたらもう目を覚ましたようで、赤い目をくりくりさせてぶるぶると首を振ってやがる。けっ、いい気なもんだ。

 ここで俺様の絶妙な手加減に泣いて礼の一つでも言えば可愛げがあるんだがなァ。


「あ〜ひどい目にあった」

「なんだと?」


 ぱっとカラスの身体を離すと、ギャーとか叫びながらカラスが羽ばたく。飛べないくせに。

 なんて冷めた目で見ていたら、なけなしの浮力で飛び上がり肩に乗ろうとしたカラスが足をすべらせた。そのまま、俺様自慢の美しく伸びたウェーブヘアに足の爪をひっかけ——痛ぇだろこのバカ烏が!


「カラス! 離せッ」

「ギャーご主人様ッ! ちょパンダ様暴れないでください絡まるッッッ!」

「暴れてるのはお前だカラス! くそ引っ張るな羽ばたくな羽むしるぞこのバカ烏!」

「烏じゃありません黒鷹ですっ!」

「しつこい!」

「うぎゃあぁ」


 カラスから変な声が聞こえたような気がしたが気のせいだ。とにかく力任せにカラスの胴をつかみ上げ、絡まった髪を足から外す。

 痛ッ、くそ切れただろうが! 俺様の美を損失させるなど、俺様が許しても世界が許さん! それくらいの暴挙だ。


「よし」


 やっと髪を取り終えてカラスを肩の上に戻す。


「ひどいじゃないですかぁ……」

「それはこっちの台詞だ」

「ほんとのこと言っただけなのになぁ〜」

「あ?」


 まだ口が減らないらしいな。


「もう一度わからせた方がいいみたいだな」

「あーッ私が悪かったんですご主人が全て正しいですすぐに過ちを犯す私を許してください〜」


 やっと認めたか。

 強情な奴だが、俺様は心が広いからな。わかれば許してやらないでもない。感謝しろよ。


「とにかく酒場だな。飛べもしないお前を肩に乗せて歩いて来たんだぞ? まずは休憩だろう」

「ダッテパンダサマガゼンゼンシゴトシナイカラ」

「なんか言ったか?」

「いいえぇなにも! そうでしょうとも身体が資本ですからね! 若き天才魔術師のパンダ様に限って疲れたとかそういうことはないでしょうが、休みをきちんと取るのは大切な事です」


 なんだ急によく喋るな。と思ったのも束の間、カラスが耳元であることを囁く。

 その情報があっているのか間違っているのかなんて考えている暇はなさそうだ。

 俺様は聞いた通りに、身体をひねり右側へとステップを踏む。

 なにかか空を切って通り抜けた気配。それが人の拳だと目に入った瞬間、それに続く胴も俺様の横を通り抜けた。そのまま、勢い余って二、三歩走り抜けたところで派手に地面へと突っ込み転がってしまう。

 若いな……十歳くらいの少年というところか。線が細くて身長も小さい。なぜこの俺様に殴りかかって来たのかわからんな。こいつもバカなのか?


「なんだ、こいつは」


 どうせやり合うなら、俺様がいかに天才的な魔術師かを見せてやりたいのに、それすらさせてくれないとはな。これをバカと言わずしてなんと言えば良いんだ。

 街の人間は、そんな俺様達を遠巻きに見ている。はっ、街の連中の方がバカかもしれん。


「バカと言うか……あれは……」


 俺様の肩の上でカラスが声をひそめる。

 バカ烏にバカと言われるのは屈辱だろうな。まぁバカだから仕方ないのか。


「ご主人様、今バカがらすとか思ったでしょう」

「そういうバカな事を言い出すのがバカ烏の証拠だな」

「キイッ、烏じゃありません黒鷹ですッ」

「うるさいバカ烏め!」


 むくりと起き上がるバカの身体。その表情は狂気を含み歪んでいる。そして全身から一種異様な感覚が伝わって来ていた。

 ははぁ、なるほどな。バカとかいう以前の問題か。体内の回路がおかしくなっているようだな。


「くれぐれも! あの人に乱暴とかしないでくださいね!?」

「この俺様に殴りかかって来たのにか?」

「だからですよ! ここで、ご主人様が彼を正気に戻せば、天才魔術師パンダ様の美と才能がこの街にあっという間に広がりますって」


 なるほどわかってるじゃないか。カラスにしてはいい提案だ、褒めてやろう。俺様の美と才能は広く世に知られなければならないだろうからな! はっはっは!

 まぁそういうことなら、俺様があいつを正気に戻してやろう。回路を整えるだけなんて訳もないからな。ありがたく思えよ。

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