闇の烙印 第1〜2話(私の人間性仕事しろVer.)

没の理由


・下品(想定読者の年齢を15〜16歳と設定していたので、ターゲット層と内容が合わない)

・圧倒的強者のパンダが、下衆とはいえ弱い者を叩きのめすのはいかがなものか

・モブのウェイトレスは要らないと判断。ここまでに主要キャラが登場し切っていないのはテンポが悪い。

・あと下品(大事なことなので2回言いました!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 下卑た男の嗤いがテーブルを囲んで五つ。その嗤い声の中心で、ウェーブヘアの美少年が腕組みしながら椅子に腰かけている。

 新しく訪れた街で相棒の黒鷹こくよう・カラスとともに食堂へ入ったのが昼過ぎ。そこで下衆な理由で声をかけて来たのが奴らの運の尽きだった。


「ん? キレーなネーチャンかと思ったらお前小僧か」

「髪も長ぇし細っこいし紛らわしいナリしやがってよぉ」

「ははっ、その顔なら俺ぁ小僧でもイケるぜ、いい声で鳴せてやってもいいヒヒッ」


 どの街にもいるのだろう、この手の輩にはもう慣れている。美少年はうっすら笑みを浮かべながら男達を見上げた。

 仏の顔も一度だけ——いや二度まで、だったか? まあどちらにしてもこの男たちにはもう挽回のチャンスはない。


「しかもペット連れときた。黒い鷹なんて珍しいなァ高く売れそうだ」


 文字通り舌舐めずりをしながら、テーブルの上に居たカラスに手を伸ばした男の手を邪険に払いのける。


「なんだァ、ペットはかわいいでしゅかねぇ〜」

「こいつは俺様のものなんだ。クズに手を出されるのは腹が立つ」

「へえ、強がりじゃん。組み敷きたいねェ」


 男達は口々に下品な言葉を投げかけてくる。

 つくづく哀れでならない。己が誰に声をかけているのかを知らないなんて。

 周りの客や食堂の従業員たちは息を詰めてこちらを見つめている。


(俺様の美は皆の目を惹きつけてやまないらしい。美は罪だとはよく言ったものだな)


 美しく生まれついたのは自分のせいではないため、わずらわしいと思うことも多い。だが、それ以上に、退屈しなくて済むところはいい。

 綺麗にウェーブした髪をかき上げる。その姿すら絵になることを彼はよく熟知していた。

 エールを一口飲み下し、立ち上がる。


「俺様はまだ十六歳だぞ。五人で囲むなんて大人気ないと思わねぇのか?」

「ひゅう! いいねェそそるねェ」

「そういう趣味? ハハッ、まとめて相手してやろうか?」


 こらえきれずに笑みがこぼれる。


「いい思いさせてやるよ小僧」

「は? カン違いするなよ下衆が」


 伸びてきた複数の手が腕や肩、髪を捕える。しかし、その手は突然見えないなにかに弾かれ、わけもわからず男達が悲鳴を上げて手を離す。

 テーブルの上に目を向けると、カラスが男達を見つめている。普段黒いその瞳は今は赤くなっていた。魔法を使った証拠だ。


「この餓鬼なにしやがった!」

「なにもしてない。まだな」


 カラスが甘いのはいつものこと。その分、自分が世界のためにも悪党を叩きのめしてやらなければ。

 視界の端に、食堂のウェイトレス嬢の姿が映る。かなり心配そうにしているが、その心配は杞憂に終わるだろう。


「ま、まさかパンダ様っ!?」

「その名前を人前で呼ぶなと言っただろうがバカがらすが!」

からすじゃありません黒鷹です! た・か!」

「鷹が喋っ、た……使役獣か!?」


 カラスが言葉を発したことに男達の顔色が一瞬変わる。しかし、すぐに顔をにやつかせた。


「パンダだと? カワイイ発音の名前だねェ〜その使役獣もどうせカワイイもんなんだろ?」

「あん?」

「パンダか、良い名前だよパンダちゃん。俺達と遊んでキュウキュウ鳴きな」


 パンダと呼ばれた美少年の瞳がはっきりと苛立ちをあらわした。

 この名前でどれだけ笑われて来たことか。そう思うと、パンダと名付けた父親への怒りがわきあがってくる。その怒りをぶつけられる先は、今のところ目の前の男達だけだ。


「俺様を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる」

「俺様だってよハハハ傑作だなァ。こう見えても俺はこの街では腕の立つ魔法使いでね」

「だからなんだ」


 相手は五人、こちらは一人と一羽。ためらう理由などない。


「じゃあどっちが速いか試そうじゃねぇか。魔法陣の方が圧倒的に速いが、ハンデとして俺様は詠唱してやる。魔法で俺様を組み敷いてみろよ出来るならな‼︎」


 胸の前に拳を上げるまでの間に、身体中に魔素が充満する。


「我が右腕に集いし風魚よ疾風はしれ————」


 まるで歌うように紡がれた呪文に乗せて、順に開いた回路を高速で流れた魔素が手のひらに集中していく。空間が歪み、その力で風もないのにパンダの長い髪が空中に舞い上がった。

 その頃になって、ようやく男達の頭が状況に追いついたらしい。


「おいッまさかこの小僧————!」

「ご主人様ッやめ———」

「るかッ‼︎ 烈風撃‼︎」


 カラスに叫び返し、手のひらに集めた風の力を一気に解放する!

 瞬間、膨張した光が青い輝きを放ち五人に吹きつけた。


「逃げ——ぎゃあッ‼︎」


 悲鳴が聞こえたがそれは一瞬のことで、すぐに爆風に呑み込まれて消える。そして一拍遅れて、奴らが壁や床に叩きつけられた音がきっかり五つ、辺りに響いた。

 食堂の天井から吊り下げられたランプがぐらぐらと揺れ、それでおしまいだった。男達は起き上がらない。


「す、すごい……」


 客の一人が自分の足元に目を落としてつぶやく。そこには、失神した男。

 他の客や従業員たちも、呆然と辺りを見回している。

 それもそのはず、パンダの使った魔術はあの五人以外には当たっていないのだ。パンダの魔術がコントロールされていて、威力も自由自在だという証拠だ。範囲魔術として周り全部を吹き飛ばすのは魔素を注ぎ込めば簡単に出来るだろう。魔術の真に難しいところは、そのコントロールにある。

 しかもパンダが唱えた呪文は自分専用に編み出した短縮詠唱だ。ここまで魔術を使いこなせる者はめったにいない。


「はっはっは。俺様にちょっかいなんかかけるからだ、バーカ」

「大人気ないのはどっちなんだか……」


 カラスがぶつぶつ言っているのを無視して、パンダは優雅に席に着く。

 その頃になって、誰かが呼んだのか自警団らしき屈強な男達が食堂に駆け込んで来た。従業員たちに確認を取り、いまだに失神している下衆男達を引きずり出していく。

 それを横目にパンダは酒を喉へと流し込む。


「美味い酒だ」

「それはご主人様だけでしょう。あんなに派手に喧嘩して」

「売られたものは買わねば失礼だろう」

「だからって魔術で応戦するなんて————」

「でも、格好良かったわ、あなた」


 カラスの言葉を遮ってやって来たのは、先ほど心配そうな目線をパンダに送っていたウェイトレス嬢だった。


「あいつら、ああやって五人がかりで脅して悪さをするタチの悪い奴らなのよ。わたしたちも困ってたの」


 そう言いながら、彼女はパンダの目の前にエールのジョッキをどんと置いた。


「これはわたしの奢りよ。はい、あなたもどうぞ」


 彼女はそう言ってにっこりすると、カラスの前にも小さなコップ入りの酒を置いた。

 それにカラスが感激したように目をきらきらさせている。


「いいのか?」

「もちろんよ。あいつらを懲らしめてくれたお礼。ああいう奴らがいると、こっちも商売上がったりなのよね」


 そう言って肩をすくめた彼女に納得する。同時に、この食堂の大恩人になるだろうことに気分が良くなった。

 これでこの街での魔術師としての評判も上がるだろう。


「それにしても、あんなに精巧な魔術は初めて見たわ。もしかして名の知れた魔術師なの?」

「もちろんですよ! ご主人様は、なにを隠そうあの宮廷魔術師サンタ様のご子息なんですから、えっへん」

「え、本当!? 救国の英雄サンタ様の!?」

「おいお前喋りすぎだッ」


むんずとカラスの首根っこを力任せにつかみ絞めるが時すでに遅し。ウェイトレスの瞳はすごいものを見たかのようにキラキラ輝いてしまっている。


「ギャーなんでですかっご主人様の美と才能は世界に広められるべきでしょう! ぐるじい!」

「あのクソ忌々しい親父サンタの話なんかどうでも良かっただろうバカが!」

「だって知名度ナンバーワンじゃないですか。息子のためにその七光りを貸してくれたって良いはずですッ」

「そんなものは俺様にはいらん!」


救国の英雄。サンタを表すのにこれほど腹の立つ言葉はない。宮廷魔術師として絶大な力を持ち、先の大戦で数々の戦果を上げたことは認めてもいい。だが。

思い出しただけで胸がざわつく。


「サンタ様のご子息って言ったら賢者の才って聞いてるわ!」

「ざけんな俺様は魔術師だッ」


お前は宮廷魔術師としては力不足だな。そんな冷たい声が脳裏に蘇り苛立つ。女だからって適当な事を言うと容赦しない。

そう、あの女も気に食わない女だった。


「そ、そう言ってたわね、ごめんなさい。それで、あなたは使役獣なの?」

「ええ。カラスと言います」

「鷹みたいだけど、カラスちゃんって名前なのね。かわいい」

「ありがとうございます」


カラスはと言えば満更でもない顔をして酒を飲んでいる。


「いい気なものだな、飛べないくせに」

「それはご主人様がいけないんですよ。契約の時に、飛ぶ能力を封じるとかわけわかんないこと言うから」

「は?」

「普通は! 自由を封じるとか、絶対服従とか、魔法を使えないようにするとか、色々あるでしょう」

「そそそれはあれだ、美と才能有り余る俺様がお前ごときを絶対服従させたところで、面白くもなんともないからだ!」


あと幼かったから思いつかなかっただけだ、というのはぐっと飲み込んでおく。幼かったとはいえ、使役獣を下すには魔獣と戦って勝利し契約する以外に方法はない。それだけパンダは天才的だったのだ。

つまり、絶対服従など魔獣にかろうじて勝てたような運のいい凡人がすることだとパンダは結論付け、溜飲を下げる。


「私はいつでもご主人様の寝首を掻くことができるんですからね!」

「ならやってみろよ」

「ぐえッ……ぐぐ、ぐるじ……」


思わずカラスの首を鷲掴みにしてしまったパンダに、まあまあとウェイトレス嬢がなだめてくる。それに免じて手を離してやると、げっそりした様子でカラスが首を振った。


「ふふ、仲が良いのはわかったわ。ゆっくりして行ってね」


ウェイトレス嬢はそう言ってにっこりすると、ひらひらと手を振りながら仕事へと戻って行った。

それを見送ってから、カラスが口を開く。


「ところで商売上がったりで思い出したんですが主人様」

「な、なんだ」


嫌な予感がして、パンダはふいとカラスから目をそらす。


「路銀がもうありません。仕事をしましょう」

「仕事だと? この俺様が? 嫌だね」

「もー、わがまま言わないで下さいよ。なんだかんだ言ってお金を踏み倒すとか出来ないくせにー」

「はぁ? 俺様を誰だと思ってるんだそんなの朝飯前に決まっているだろう」


フォークに肉をぶっ刺しながらパンダが断言すると、カラスが目を細めながらへぇじゃあこれからそうしましょうよと肯定してくる。


「あとあと面倒なことになるからしししないだけなんだからなッ」

「はいはい、じゃあ働きましょうね」

「う……」


パンダに服従するような契約にしなかったのが今更ながら悔やまれるがあとの祭りだ。カラスがこんなに小煩いとは考えもしなかった。

幼くして魔獣を下した才能がいけなかったのだろう。天才とは辛いものだ。

そんなことを考えながら肉を次々に頬張り、あらかた食べ終わると残りを皿ごとカラスの方へと押しやる。


「ありがとうございます」

「俺様の温情に感謝しろよ」

「もちろんいつもしてますよ! 美味しい食事を取れるのも暖かい宿で眠れるのもご主人様が仕事してくださるおかげですから! うまいうまいモグモグ」

「わかっていれば良いんだわかっていれば」


こんな小煩い相棒でも、さっきの男達よりは何倍もましだろう。


「仕事で活躍して、この街にもご主人様の美と才能を広めなくてはいけませんからね!」


* * *


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る