最終話、夢に見たハッピーエンド

 ウィルゴルディ王国の王都は大きな盛り上がりを見せていた。王都にある聖堂教会にて、盛大な結婚式が行われるのである。

 参列者は、各貴族家当主だけでなく、現国王と王妃、その息子たる王太子まで、早々たる面子であった。


 だが、その盛り上がりも当然である。なぜなら、救国の英雄に贈られる爵位であり、王国の歴史上2人目となる"勇者爵"を叙爵されたヴァレト・エクウェス=フォルティス伯と、侯爵家令嬢でありながら、度重なる戦功により"名誉聖騎士"の称号を得たマテリモーニア・レギア・ルキオニスとの婚姻である。


 2人の英雄の結婚式は、国を挙げて盛大に執り行われることとなったのだ。




 厳かな空気漂う聖堂教会内、勇者爵に下賜された"聖衣"に身を包んだヴァレトが、神父の前で花嫁の入場を待っている。


 やがて聖堂の正面入り口が開き、父であるルキオニス侯爵と共にマテリモーニアが入場する。

 純白のウエディングドレスを纏い、ヴェールで顔を隠したマテリは、ルキオニス侯爵のエスコートで静々と聖堂内を進む。


 ヴァレトの前までやってきたルキオニス侯爵は、マテリの手をヴァレトに預け、妻の待つ参列者席へと着席する。その表情は、既に半泣きである。


 ヴァレトとマテリは腕を組み、壇上に居る神父の前へと並ぶ。



「皆さま」

 神父の声が聖堂に響き渡り、一同が静かに注目する。


「私たちは、この2人を清らかなる婚姻で結びつけるため、ここに集いました」

 静謐な聖堂内に、神父の声が響く。


「これは、我ら未だ、尊き存在と在ったころから続く"証"であります」

 神父は朗らかに、そして朗々と告げる。


「このふたりの結婚に異議のある者は今すぐ申し出なさい、さもなくば永遠に沈黙しなさい」

 そして、声のトーンを落とし、殊更真剣な表情で、神父は参列者一同に問いかけた。



 聖堂はこれまで以上の静寂に包まれる。



 神父はたっぷりと数秒待ち、満足気に頷くと再び口を開く。


「新郎、貴方は──」

「異議ありぃぃぃ!!」

 聖堂の扉がドーン!と開かれ、神父の続く言葉を遮るように、大声で異議が唱えられた。



 開け放たれた扉、そこから差し込む光を背に、1人の少女が立っていた。



「マテリ様! 小生が迎えに上がりました!!」

 言うまでもない、ヒストリア・ヴィケコム、その人である。なお、彼女もマテリ同様、名誉聖騎士に称号を与えられている。


 異議を唱えて乱入したリアは、マテリに向けて手を伸ばしながら、聖堂内を突き進む。なぜか彼女は白いタキシード姿である。

 マテリの目前まで迫ったリア。そしてマテリの答えは……、



「興味深い余興ですが、時と場は選ぶべきですよ、リア」

 静止するリア。そして、参列者の中から苦笑が漏れる。


「れ、冷静に窘められた……」

 リアは真面目に凹んでいる。だが、彼女はただでは起きない。


「くっ! ヴァレト氏! 貴方はマテリ様を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか!? 誓ってしまうのですかぁぁぁぁ!?」

「無論です」

 ヴァレトは間髪入れずに答える。


「ぐぬ! マテリ様ぁ!! 貴方は──」

「誓います!」

「早い! 早いよ! せめて最後まで言わせて!!」

 地団太を踏むリアに、神父が一言。

「それ私のセリフだから。誰か、その子連れてって」

「はい!」

 参列者席からラクティスが勢いよく立ち上がり、素早くリアの背後に回り込んだかと思えば、颯爽と抱き上げる。いわゆる"お姫様抱っこ"である。

「なっ! なにを、やめ──」

「失礼しました!!」

 無駄に綺麗な礼をして、ラクティスはリアを連れ去り、聖堂から駆け足で退場していく。


「いやだぁぁぁぁぁぁ、まいまいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 残響音を響かせながら、リアはラクティスと共に姿を消した。


「おほんっ。えー、2人は、すでに誓いを済ませてしまいました。ので、指輪の交換を」

 2人の前に、リングピローを持ったシスターが近寄る。その上には、指輪が2つ置かれている。


 ヴァレトはリングピローから指輪を取り、マテリの左手を持ち、その細い薬指を指輪へと通す。

 さらに、マテリも同じく指輪を取り、ヴァレトの左薬指に嵌めた。


「それは、誓いのキスを」

 ヴァレトとマテリが向かい合う。俯き加減なマテリ、その顔を隠しているヴェールの先端を持ち、ヴァレトはゆっくりと持ち上げる。


 この日のために磨き上げられ、いつも以上に美しいマテリの顔が露わとなり、ヴァレトは一瞬見惚れた。

 マテリが少し首を傾げ、少し戸惑うような微笑を浮かべたことで、ヴァレトは我に返り、マテリに1歩体を寄せた。彼女は瞳を閉じ……。





 聖堂教会の鐘が盛大に鳴らされる。

 腕を組み、聖堂教会から外に出たヴァレトとマテリに対し、参列者たちが花びらを振りかける。ちなみに、この世界にはコメが無いため、ライスシャワーではなく、フラワーシャワーである。


 教会の前には、2頭の白馬が繋がれた、オープン型の白い馬車が待っていた。これから2人はこれに乗り、王都内をパレードである。


「なんだかさらし者ですね」

「皆、祝福してくれているのです。それに、」

 マテリは笑みを浮かべて続ける。



「私、こういうハッピーエンドを夢見ていたのです」



 終

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悪役令嬢はハッピーエンドの夢をみるか? 婚約破棄と悪役令嬢LOVEと成り上がりとポロリもあるよ! たろいも @dicen

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