第11話 隣村交渉

 宴の翌日。


 俺たちは交易のために西のグイッジ村に向かっていた。


「綺麗な山だなぁ」

「この山には遊牧民族の騎猪角族が住んでいるんですよ」

「あ、私知ってるよ! 2本の角が生えた小柄な人たちでしょ?」


 どうやらグイッジ村のさらに西にある山には騎馬ならぬ騎猪民族が住んでいるようだ。

 角に小柄な体格……


 ––––『小鬼ゴブリン


 異界のナニカが囁いた。

 額に角が生えていて小さい体のすばしっこい種族。小さくて動きが早いだけの雑魚だと称されることもあるが、その特徴を逆にうまく利用する狡猾さが一番の特徴である。この世界の人種の一つだ。


「そのうち会いに行こう」

「あ、なら私も連れていってよ! お友達作りたいんだ!」

「友達作れるといいね……」

「む〜〜! 私だって友達い……るよ! 研究で引きこもってたルヴィとは違ってね!!」

「はいはい。お二人とも、そこまでにしてくださいな。グイッジ村に着きましたよ!」


 やんややんやしているうちに湖を囲むように建てられた住居を囲むように並べられた柵の入り口まで来ていたようだ。


「これは……理想の村じゃないか」


 山のなだらかな傾斜を利用してつくられた農園は一面緑色になっていた。風が運んでくる湖と緑の香り。そして、仄かに香る焼き魚の匂いに思わずくぅと腹を慣らしてしまった。


「ルヴィ……私も気持ちがわかるよ」

「ここはいい村だね」

「でも、私のヒュブナー村はもっとすごいんだから!」


 グイッジ村でこれならヒュブナー村はどうなるんだ……。


 そうだ、ここの元素はどうなっているんだろう。


「<元素視覚>……! すごい」

「え? なになに〜?」


 水に植物に活気に溢れている人々の叫びだったりが混ざり合って元素を呼び込んでいるようだった。


 青も深緑色ももちろん、赤や紫の元素が漂っている。他にも橙色の光球や白い光球が少しだけ漂っているのも確認することができた。


 研究したい。


「おお! もしや、ピオさんですか……? 若くなりましたな! ですが、顔色が悪いですぞ……??」

「ふふ、私は大丈夫ですよ。それより今日の客人はこのお方です」


 腹の出た人の良さそうな男はピオの元に駆け寄り、体をベタベタと触っていた。


「シルヴィオ様、この方はベリザリオ・グイッジさんですよ。ベリザリオさん、この方は私が仕えているヴェルデ村の村長、シルヴィオ・ヴェルデ様です!」

「おお、キミがライモンドの息子か! となると、ライモンドはどうしたんだ?」

「それがですね……」

「いや、大丈夫だ。自分で話すよ」

「失礼いたしました」


 ピオに身をひいてもらい、交渉を始める前にライモンドが死んで俺が村長になったことを伝えた。


「ふむ……失礼した。そうか……あいつは逝ったのか」

「はい。私に村長になるように遺して眠りました」

「頑張ってくれよ、シルヴィオくん。ライモンドは農業をしていなかったから大変だろうけど、こちらとしては最大限手伝うことを約束しよう。なにしろ私もライモンドと共に戦ったからな……」

「父上と共闘したのですが。やはり、今もお強いのでしょうか。見るからに武勇に優れているようですが」

「フハハッ! 世辞が下手なやつだな。まあ、素直なのはいいことだけどな……この腹じゃよくて肉壁だったよ!」

「ハハハ」


 俺は乾いた笑い声を上げた。


 肝が冷えたぜ……。


 コミュニケーション失敗。ろくに会話してこなかったからお世辞を言うなんて難しいよ。

 いや、お世辞を言うんじゃなくて純粋に褒めればよかったのでは……?


 肝に銘じよう。



「……それで、要件は何だい?」 


 巨漢の瞳がぎろりとこちらを覗いてくる。


「ええと、これから友好を深めるために熊の毛皮をプレゼントしにきました。代わりにカブの種を頂ければ嬉しいです」

「友好かね。色々と考えがあるようだが……とにかくありがたく受け取ろう! おい、カブの種をありったけもってこい!」 

「ありがとうございます」

「ハハハハハ! アリス・ヒュブナーちゃんの未来の夫である男にはしっかり援助するからな! どうせヒュブナー氏族の族長になるから今のうちにいろんな人と関わろうとしているんだろ?」

「うっ……」

「夫と嫁……えへへ〜」

「二人とも……俺たちを引っ張るリーダーになるならもっとしっかりしてくれよ〜? ピオ、お前にかかっているんだからな!」

「お任せくださいな! このピオ、シルヴィオ様を素晴らしき為政者にすることを誓いますから!」


 少しずれているが、こちらの意図––友好関係を築いて都市の作成すること––が見抜かれているような気がした。

 いずれ、ヒュブナーとグイッジとメナブレアとテスティーニ、ヴェルデを一つに統合して都市を開発して、さらに豪族同士のいざこざを乗り越えて豪族をまとめる大豪族になって王国を作り上げる。


 或いはそうそうに魔術教育を始められる環境を作り、豪族にして国王を名乗ろうか……?

 要するにめちゃくちゃ強い小規模の豪族領地、所謂都市国家のようなものを作成するということ。

 

 出来ることなら後者を選択したい。


 ただ、ピオとベリザリオさんの言う通りでまだまだ村長としての能力が低いようだ。


「でも、素直なのはいいことですな。純粋で穢れを知らない綺麗な紅瞳は男の俺でも見惚れるほどだぜ」

「ベリザリオ?」


 ベリザリオの怪しい発言に対して、ピオは錆びた鉄剣を抜き取り俺を守るように位置を取った。身の危険を感じる……


 ––––『オークに襲われる純白の少年』


 おい! 異界のナニカよ! 変なこと言うんじゃねぇ! 想像しちまっただろうが!!


「だ〜! 冗談! 冗談だって」

「紅瞳は珍しいから仕方ないですよ……」

「ベリザリオさん、俺は美味しくないですよ」

「おいおい、二人揃って俺を犯罪者とショタコン扱いか!! そりゃねぇぜ!」


 この見た目でそんな発言したらそう思われるだろう。見た感じ好色家ではなさそうだけど。ヒュブナー氏族の支配下に置かれているのに一夫多妻はほぼないからね。


 と、考えている間にやってきた農夫からカブの種を渡される。めちゃくちゃ大きい袋にパンパンに入っている……多いな。ありがたいけど。


「ありがとうございます! また熊を狩れたら渡しに来ますね!」

「おう! 何もなくてもいいから安定したら来いよ! そしたら俺の娘と会わせてやるよ、別嬪だぞ〜?」

「ちょっとベリザリオさん! ルヴィは私ものもなの!」

「おっと、そうだったな! 


 そんな風な他愛もない会話をしていると、そろそろ陽が落ちてきていた。


「では、またいつか!」

「待ってるぜ、坊主! いや、おこちゃま村長!!」


 隣村の方と仲良くなることに成功した。

 次は農業改革だ! 頑張るぞ!!

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おこちゃま村長は魔導帝国を築きたい! 雨宮 @Yotsuya_428

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