第6話 神、天に知ろしめす。すべて世は事も無し。

 凛々しかった。

 シルビア様のセリア嬢に対する態度。

 普段の刺繍をされているとき、そしてお食事をされているときとのギャップ。

 素敵だった。


 私のすべてを捧げてお仕えするにふさわしい方、心の底からそう思った。


「エリス、何を考えているの?」

「いえ、何も。ただただシルビア様が愛しい、と考えておりました」

「考えてるじゃない」


 その後、王国の人事は刷新。


 スチュアート侯爵の後釜には、サファイア侯爵の奥様のご実家であるゼオライト侯爵が座られた。

 アーサー様は、あの後シルビア様に直接謝罪され、その場で愛妾にセリア様を迎えるよう進言された。そして、それに伴い、婚姻の儀を早めに進められるように、とも。


 アーサー様が、セリア様監禁後、何度もお尋ねになられていることは、刑部省経由で報告をもらっていた。

 愛と公務をきちんと分けるとのご発言もあったとのことで、ようやくご自身のお立場を理解いただけるようになったらしい。


 当然だが、愛妾として迎えられるのは、婚姻の後なので、シルビア様のご提案は、セリア様への配慮も含んだものとなっている。



 攻略対象のうち、ジェイムズさまは刑場の露となられました。

 シルビア様は、「推し」という発言をされていましたが、処刑の当日は、お部屋にこもられて、すべての面会をお断りになられていました。

 さすがにいろいろとお考えになられることがあったご様子でした。


 残ったお二人は、それぞれ卒業の後、ご自身の目指す道へ進まれるご様子です。

「政治に関わるのはこりごり」といった発言をされているとのこと。


 軽い気持ちの恋愛ゲームの裏に何があるのか、それをご理解いただけたようです。

 他国のハニトラに対して、ある程度の警戒を持っていただければ、今回のご経験も無駄にはならないのですが。


 私たちの世界はゲームではない。

 私たちにたとえ前世の記憶があろうとも、この世界は、この世界として、厳然と存在している。

 それを軽く扱う者は、世界からのしっぺ返しを受ける……、ただそれだけのことかもしれない。


「エリス、あなた誰に対してもそうなの?」

「何が……でしょうか」

「ベッドの中で、相手を無視して考え事」

「いや、あの……、は、はい。申し訳ありませんでした」

「謝ってほしいんじゃないのよね。こっちを見てほしいだけで……」

「いえ、あの、その」

「それとも、今、こうしてベッドにいるのも、あなたの『お仕事』のうちなのかしら?」

「い、いえ、決してそんなことは……」

「だとしたら、こっちを向いて」


 顔を両手で包み込まれ、強制的に目を合わせられる。


「私のこと、愛してる?」

「は、はい」

「不思議なのよねー、アリシアからは、エリスは攻めだって聞いてたのに」


 ええええ。あいつ、何を言った!


「そういう女の方がよかったですか?」

「それも、ちょっとは憧れるわね。でも今は、ちょっとヘタレなエリスが愛おしくて仕方ないの。今日はそうしていて」


 え。


「刑部省のスパイが、私の手の中で声をあげているのは、とても可愛いわよ」

「……」


「私のこと、守ってね」

「はい。この命ある限り」

「ありがとう。あと、できれば覚えている前世世界のことも教えてね。私の記憶って、あまりたいしたものがなくて。何せゲームで遊んでいる学生でしかないので」

「はい。私でよろしければ」

「エリスは、社会人……、だったの?」

「はい、調査会社の社員でした。しがないサラリーマンでしたよ」

「そうなの、サラリーマンだったの……って、えっ? エリスって元は男の人なの?」


「あ」


「ふーん。女の子ばかり毒牙にかけてたのは、そういうこと?」

「い、いえ、あの……、その……」


「そーんな肝心なこと黙っていたなんて。おしおきが必要なようね」


 シルビア様は、ペロリと舌なめずり。


 え。



 その後の私の運命はさておき。

 この物語はこれにておしまいとなります。



 神、天に知ろしめす。すべて世は事も無し。

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TS転生メイドは、転生悪役令嬢に恋をしたので、全能力を使って断罪を回避することにしました。 阿月 @azk_azk

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