ジレーネに告げば

 陽も入り込めぬ、リンゴの木の双手そうしゅに隠れて、

カビとホコリのマイムを草原にてただ覗く。


この踊躍ようやくのなか、女は剣奴けんどの顔をして、木の杖を突きながら、

針葉敷かれた石畳に歩く。

彼女はすすぶれたファンネルの口色をしたハット、

鳥も食わぬ熟れたりんごのしわある外套がいとう

泥土でいどを羽織った黒ブーツに身を包む。


「ちょいと止まれよ、放浪者。

差し当たり、日のよわいは若いと言条いいじょう、ヘリオスは牧場まきばで車輪を回す。

双手はセレネ、エッベルヴァイに身を鎮めようぞ」


女はこのラブレースを見遣みやって、

一頻ひとしきりの顧慮を男に見せた。


「蓋し、暖炉に飛ぶ火の粉は、

玻璃はりの花輪を成してやまず。

されどこれは、ネメアの谷底に比肩ひけんする。


私は濁流、火の粉は冷めて懊悩おうのうに固まる。

輓馬ばんばの主は私を憎み、近寄ろうともせず。」


女が向き直り、川の静寂しじまに烈々と邁進まいしんする。

草原、ニュンペの踊り子は雲集うんしゅうし、

濁流だくりゅうの音に併せてマイムに狂う。


時に、私は聾唖ろうあの能で、

つぶさに轟々たる奔流のリズムも取れないのであった。

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