内藤新宿の駿馬塚 🏇

内藤新宿の駿馬塚 🏇

　秋が深まり、新宿御苑の紅葉も始まったころ、外苑西通りから御苑側に一本入った細い路地沿いの住宅街を散歩していた若いカップルが一本の古びた社標を見つけた。

　――⛩️　多武峯内藤（とおのみねないとう）神社。

　🟡あら、こんなところに神社がある、無人社みたいだけど入ってみましょうよ。

　🟢うん、そうだね、意外とドラマティックな物語が秘められていたりして……。

　歴史好きなふたりの勘はみごとに当たったようで、祭神を藤原鎌足公とする社には曰くありげな白馬の木像をおさめた駿馬舎と駿馬塚(新宿区登録有形文化財)がある。

　区教育委員会による案内板によれば「新宿御苑一帯を治めた内藤清成の駿馬を祀る神社」で、家康の寵臣の愛馬に寄せる深い想いが込められていることが読み取れる。

　🟡そういえば、小田原征伐のあと、秀吉は宿敵・家康を関東へ移封したのよね。

　🟢並々ならぬ強敵と見て従来の支配地を奪い、代わりに未開の関東八州へ……。

　🟡三河出身の家康と「三河以来」を誇る旧臣団の口惜しさが推察されるわよね。

　🟢そんな自嘲めいた気分も手伝って、臣下に戯れ事を命じたのかも知れないな。

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　鉄砲隊を率いて江戸入りの先陣を務め、国府路（甲州街道）と鎌倉街道の交差付近に陣を敷いた内藤清成に家康は「馬で一気にまわれるだけの土地をやろう」と約束。

　清成は大いに張りきり、気に入りの駿馬を駆って南は千駄ヶ谷、北は大久保、西は代々木、東は四谷まで休まず走りまわった結果、疲労困憊した馬は斃れてしまった。

🟢その遺骸を大樫の下に埋めたのが始まりで、のちに駿馬塚を建てたんだろうね。

🟡一方、約束どおり内藤清成は２０万余坪もの広大な屋敷地を拝領したんだよね。

🟢なんだか勇壮にして切ない、切なくて勇壮な……複雑な感懐に駆られる話だね。

🟡歴史の大波に呑みこまれた一頭の忠実な駿馬の魂魄が、ここに眠っているのね。

🟢こうしているいまも、この地球上では残酷で悲しい出来事が頻々と起きている。

🟡世界各地の人や動植物の安全と幸せを、この駿馬の碑に祈りましょうよ。合掌。

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　🟢ところで、このさびしい駿馬塚を見ていたら、ある俳句をふと思い出したよ。

　🟡なになに、どんな句？　こんなときに気になるわ～、ねえねえ、早く教えて。

　　――新宿は　はるかなる墓碑　鳥渡る　🦅　　　　　　福永耕二

🟢作者は巨大なビル群を詠みたかったんだろうけど、俳句の鑑賞は自由だからね。

🟡その巨大なビル群の一画に、ひっそりと忘れ去られた駿馬塚……切ないよね～。

🟢それに、どうだろう、忠実に疾走したその馬には想い人というか想い馬がいて、主人を乗せたまま息絶えた恋人を偲んで涙を流した……こんな想像を加えてみたら。

🟡あら、なんてすてき！！　あなたのそういう感性って、どこから出て来るの？！　わたしには考えもつかないドラマね、そっと覗いてみたいくらいよ、その頭のなか。

🟢ふふふふ、惚れ直したりした？

🟡うん、まあ……ううん、本当よ。

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　やれやれ、秋だというのにお熱いことですよね～。(｡･ω･｡)ﾉ♡

　内藤家の家紋「下り藤」も照れの藤、なあんちゃってね。（笑）