普通とはなにか

#365日ショートショート 265

　普通って、なんだろう。

　大学に進学して、そこそこの会社に就職して、結婚適齢期に結婚し、子を儲け、家を持つ。仕事に邁進し、あるいは専業主婦になり、慎ましい老後を過ごす。孫と笑い、趣味を嗜み、親族に囲まれて逝く。それが普通、なのだろうか。

　普通とは。「ごくありふれたものであること」「それがあたりまえであること」。果たして先のモデルは、それに該当するのだろうか。このご時世、大学卒業と同時に就職することは、ごくありふれているのか。結婚適齢期に結婚することは、あたりまえなのか。

　物知り顔で、分かったふうに、言う人がいるだろう。「この不景気で “普通” なんて無理だ」。「多様性の社会なのだから、ステレオタイプな “普通” を押し付けないで」。知ったことではない。そんな耳障りの良い言葉に惑わされてはいけない。

　普通か否か、それはどうでもいいことなのだ。周囲など関係ない。他者の評価など関係ない。

　もし、貴方が。あるいは貴女が。大学に進学して、そこそこの会社に就職して、結婚適齢期に結婚し、子を儲け、家を持ち、仕事に邁進し、あるいは専業主婦になり、慎ましい老後を過ごし、孫と笑い、趣味を嗜み、親族に囲まれて逝きたければ。そのような順序で命を終えたければ。

　ただ、それに向けて励めば良い。必要な工夫を凝らせばい良い。近づける知恵を絞れば良い。憂いても税金は減らない。嘆いてもパートナーは降ってこない。責めても出世はしない。物知り顔で調子のいいフレーズを並べる人物は、あなたの人生を何も助けはしない。

　そのモデルは一般的に普通と呼ばれるのか。あるいは今は呼ばれないのか。そんなことは関係がない。誰に刷り込まれていようと、前時代的だろうと、旧態依然だろうと、イマドキの価値観だろうと、なんだって構わない。

　もし。宇宙で窒息して死ぬことを、あなたが、ありふれていてあたりまえだと信じるならば。それが今日から普通になる。

　あなたはどんなふうに生きて、そして死にたいか。目の前にはそれだけしかない。普通は、あなたの前にしかない。