第4話
「お嬢、どうします?早く動かないと奴らに見つかってしまいますよ」
腹ばいになり、草の間から望遠鏡を覗き込みながらグエンが聞いてきた。
『どうしよう~。まさか、こんな大きな部隊に遭遇するなんて~』
「お嬢様、私が囮になりましょうか」
木の影で頭を抱えていたら、ロレッタがとんでもないことを言いだした。
『ダメダメ、そんなの』
「・・・何かを探しているみたいです」
大きく手を振って反対していると、グエンが実況してきた。
『何かって?』
「んー、お嬢、望遠鏡に魔力かけて下さい」
『オッケー』
グエンが覗く望遠鏡に手を触れて、自分の魔力を注ぎ込んで望遠鏡の感度を上げた。
「あぁ、見えました。木の根に人影があります。1人ですね。恐らく、その人物を探しているのでしょう」
『って、敵集団の中に?』
グエンの横に腹ばいになり、先の光景を見ようと目を細めた。
「はい、少し離れていますが、見つかるのは時間の問題でしょう、っと、こちらもこれ以上はヤバいです。魔導士がいます」
「どうしますか、アイナお嬢様」
ロレッタが顔を近づけて、聞いてきた。
『どうって、見ちゃったら助けなきゃいけないんじゃない?』
両サイドの2人が微妙な顔をして私を見た。
『ナニよ、2人して』
「いえ・・・、じゃ、助けるってことで」
グエンがため息交じりに答えたけれど、ロレッタは不満顔のままだ。
「お嬢様の安全が第一です」
『うん、ありがと ロレッタ。でも、もし、その人がアシニクスの人だったら、助けなきゃだし、多勢に無勢じゃぁ、あんまりに気の毒だし』
「グズグズしてられないですよ。魔導士がモノ探しの術を発動した」
心配するロレッタの説得にかかったが、今は、そんな時間はないみたいだ。
『とにかく、助ける。私は布石に魔力を注ぐから。グエンは救出するタイミング作って。ロレッタは、その隙にあの人の救出』
指示を出している間、遠く離れても声が途切れないように2人の耳につけている魔石のカフに触れて、魔力を注ぎ込み、パワーアップさせた。
「じゃ、俺は山頂の布石に飛んで、雪崩を起こします」
「私は、もう少し近づいて様子をみます」
『うん、ロレッタ気をつけてね』
ロレッタの手を握った。
「大丈夫ですよ。お嬢様の方こそ、兵に見つからないように」
『うん』
笑顔で答えたロレッタが部隊の集まっている方向へ走り出した。
同時に、グエンと一緒に布石まで移動する。雪の中から顔を出す石、一見普通の石に見えるけれど、魔石なのだ。
それに触れて魔力を注ぐと白い光を発しだした。その上にグエンが飛び乗ると、サッと姿が消えた。
そのまま、魔石に魔力を注ぎ続ける。
だんだんと感覚が研ぎ澄まされ、ルビナス山に無数に点在する布石(魔石)を通じて山全体の全貌が感じられる。
魔導士が使う魔法陣に感知されないよう、力を微妙に操作しながら状況を観察する。
「アイナ様、対象が動きました。追います」
ロレッタの声が頭に響く。
『うん、雪に触れないようにね。魔導士の術があるから』
「了解です」
耳カフから届くロレッタとの応答の後、今度はグエンに声をかける。
『グエン、準備はいい?東、太陽の上がっている方向で、お願い』
「はい、ちょっと予想よりデカいの行きますよ。気をつけて下さい」
届く声には、少し焦りを感じる。
『うん。ロレッタも聞こえた?』
「了解です」
「じゃ、行きますよ」
布石から感じる感覚から、大きな雪の塊が山頂から転がり、流れていくのが分かる。
暫くすると、地鳴りが聞こえてきた。
「どうですか?」
魔力を注ぐ布石の上にグエンの姿が現れ、地表に降り立った。
『うん、いい感じだけど。ちょっと規模が大きい。ロレッタの援護に行って』
「了解」
言うが早いかバッと飛び上がったかと思うと、グエンは木の幹、石の上を飛び移りながら走って行った。
『あの魔導士、力が強い。陣の力が弱まらない。これじゃ、援護できないよ~』
こちらの存在を知られてしまう訳にはいかない。だから、ヘタに干渉できない。
『あぁ、2人とも、気をつけて』
祈るような思いで、曇る空を見上げた。
雪崩の効果は絶大で、あっという間に陣の力は消えた。
かなり混乱しているようで、統率されていた兵士達の動きもバラバラだ。
「お嬢。ロレッタと無事合流。対象も確保した」
グエンの声が頭に響いてきた。
『わかった。近くの布石から飛んで欲しいとこだけど、相手の魔導士、ちょっと侮れないのよね。だから、そのまま、こっちに移動してくれる?術は消えてるから』
「 「了解」 」
2人の元気な声に、ホッと息を吐いた。
程なくして、グエンにおぶられて男性が運ばれてきた。
随分と殴られたようで、顔は赤く腫れていた。
けれど、髪は灰色で、肌も浅黒い、オフィキス人の容姿だった。
どうやら、同胞同士での揉め事だったようだ。
『なんか、今更だけど、助けちゃいけなかったような・・・』
「ですね」
グエンの答えに同意するように、ロレッタも頷いた。
『ごめんねー、二人とも。とりあえず、こんな状態でほっとけないし、連れて帰ろう』
ドッと疲れがきた感じ。
脱力する気持ちを切り替えて、布石に魔力を注いだ。
グエン、ロレッタも布石に手を置いた。
すると周りに広がっていた雪景色が一変、そこは広く丸い大きな講堂になった。
すり鉢状に上にあがる階段があり、上ると四方に大きな扉がある。
「はぁ、やっと戻ってきた。そんじゃ、こいつ、医務室に連れて」
「あっ!」
扉に向かって歩き出したグエンの言葉を、ロレッタの驚きの声が遮った。
『ナニ、どうし、エッ?誰??どうなってんの』
ロレッタが見る目線の先には、グレンの背中におぶられた男性。
でも、その容姿は先程みた容姿とは異なっていた。
白い肌に黒い髪。
性別は違うけれど、ロレッタの容姿に似通っていた。
「・・・・忌まわしき、血族」
男性を睥睨して、ロレッタがポツリと呟いた。
カールの苦悩な日々 青空 吹 @sorafuku
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