第24話 七つの術式
その後、半月ほどで私たちは七不思議全部の術式を手に入れた。シルヴィが一つずつ七不思議を仕入れてきて、放課後その場所に行くと毎回ジュアン先生がいて術式をくれるという流れは七つ目まで変わらず続いた。
七不思議にジュアン先生以外の先生はついぞ関わってこなかったので、きっとこの術式のばら撒きとも言える非常識な行動はジュアン先生単独によるものらしい。
それが分かると同時に、毎回一つずつ七不思議を教えてくれるシルヴィの不自然さも先生から噂を直接聞いているからなのだろうと何となく皆分かっていた。
「術式を七つ全部貰いおえたわけだけど……みんないくつ使えるようになった?」
「俺は五個──かな」
シルヴィの問いにパスカル殿下が答える。自分が後に殿下はシルヴィや私はどうなのかと目線で訊いてくる。
「あたしは四つね。カノンは?」
「一応全部使えるようにはなったよ。まだ失敗が多いのもあるけど」
「さすがカノンね」
殿下は何も言わないけど、悔しさが表情に出ている。まあ私は休日や帰った後も塔の魔術師用の練習場を使える分、習得が速いのは当然といえば当然なんだけど──さすがにそれを言うわけにはいかない。
「やっぱすげーよ、カノンは。使えてない二つのうち片方はもう少しで出来るようになりそうなんだけど最初に貰った術式、あれ難しくないか?」
「分かる。あたしもあれだけは出来る気がしないもん」
「たしかにいきなり三つの制御は難しいからね。一個ずつ増やしていくのがおすすめ」
私の発言にキョトンとする殿下。ただアドバイスをしただけのつもりだったけど……もしかしてアドバイスは指図みたいだから王族的にNGだった……?
「一個ずつ増やすって、一個と三個は分かるけど俺たち二個の術式知らないじゃん」
「あっ……」
何気なく言ってしまったけど生成した土くれ二個を制御する術式は教科書には載っていない。一つ飛ばした三個のものは先生が教えてくれたけども。
術式の理論が分かっていることを殿下に知られるのはまずい。理論まで知っているのは研究機関に属する者だけだということをシルヴィは知らなかったけど殿下は知っているかもしれない。
「なーんだ、カノンは二個の術式を自分で持ってたから三個もすぐ出来るようになったのか」
「……そう。ちょっと大変だったけど慣れてたから」
心配が杞憂に終わりホッとする。焦って気付かなかったけど、この状況では殿下の解釈の方が自然だ。これ以上突っ込まれるのは避けたいので話題を制御の術式から逸らす。
「そういえば貰った術式って全部系統が違ったよね」
「ああ、七つの術式全部使えるようになれば他の魔術ももっと上達する気がする。どれも教科書にある何かの魔術を難しくしたものだから」
「たしかにね。あたしも昨日教科書の魔術を改めて使ったら、いろんなことに気を遣わないといけないことに気付いたの。この部分は正確に制御した方がいいとか、ここは丁寧に術式を組むと威力が上がるとか」
「先生はやっぱり勉強になるから私たちにこの術式を渡したんだろうね」
そう言いつつ、私は四人はまだ気付いてないのだと考える。七つの術式はただ魔術を使うことに対してのレベルアップだけを意図したものではない──術式の改変に対してのレベルアップも意図されているのだ。
加速、減速、球に近い形状、壁のような形状、 手前に動かすか、向こうに飛ばすか、空中に生成するか、地面を盛り上げる形で生成を行うか──あらゆる要素が詰め込まれていて、正確に術式を把握することさえできればこの七つの継ぎ接ぎだけである程度の術式は作れてしまうようになっている。
つまりこの術式を作った人間は私と同じ研究機関の研究者だ。ジュアン先生自身が研究者なのかそれとも彼に術式を託した誰かが研究者なのかは分からないけど、これは単なる「担任の課外授業」の域を超えている。
何者かが私たちに術式を渡すことで関与していることは、警戒はした方がいいかもしれないとは思う。でも術式自体に危険な部分はないのは全員分の術式を見て確認済みだし、今のところはシルヴィの言う通り利用させてもらうのがいいかもしれない。
ただの善意で術式を配っているとしたら、パスカル殿下に取り入るため? でも先生はシルヴィに噂を流していた。最初に殿下が加わらなければシルヴィは私と二人で七不思議を調査しようとしていた。
なら標的は私──でも私の正体を相手が知っているなら、私がすぐに使えるようになってしまうような術式を配る意味が分からない。
術式についてあれこれ考えても分からないけど、今後シルヴィに説明するときにもらった術式を読み解いたことにすればいいのは楽で助かるからまあいいや。
カノンと土の塔 一ノ瀬一 @enasni_w
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