第12話 新しい仕事
倉庫街から離れた翌日、コウリンとジェーンは家でダラダラしていた。
「へいへーい、お兄さんてばよく警察の包囲を突破できたね?」
「超疲れたけどね! 切り札使っちゃったし!」
正しくは、ジェーンがベッドでダラダラしていた。
コウリンはベッドに背を預けてパイルバンカーを整備する為にスリットの煤を取ったり火薬を補充したりしている。
「でも何でそんな危ない物を仕込んでるの?」
「ん~、まあ護身用? 両親居ないからね、いざって時の切り札は必要かなって」
「でも未成年にパイルバンカーなんて、よく手術してくれる技師が居たね」
「ミョウジョウに関わってるお前が言うか」
正直に言えばコウリンは運が良かったと思っている。山間部で鉱山が近い地域でもない都市部でパイルバンカーなど普通の技師なら大人相手でも躊躇うメカニカント手術だ。それを未成年の両足と成ると倫理観を持っていない技師と言える。
「そっか、親、居ないんだ」
「珍しくも無いだろ。ジェーンだって、その様子じゃ」
「いや~、実は分からなくて」
「おん?」
「1歳か2歳か、まあ正しい年齢は分からないんだけど人身売買だよ。親に売られたのか誘拐だったのかも分かんない」
「マジか。でも12歳て」
「多分12歳って事。最初から全身メカニカントだった訳じゃないしね」
「それもそっか」
「ミズハに拾われて良かったよ。闇オークションで買われなかったら今頃は、子供向け変態AVか心温まるスナッフフィルムで主演女優賞だったかも」
軽く言うジェーンに軽く受け止めるコウリンだが今はそういう時代だ。アイコンでネットに潜ればジェーンの言う作品など小学生でも見つけられる。規制する法律は有るが取り締まる力が弱ければ抑止力には成らないし、抑止力が弱いと分かれば数も増える。
ジェーンが悲劇の被害者としての扱いを求めないならコウリンも今まで通りの付き合い方を変える気は無い。
「見たい?」
「いやいや、グロ系とかロリ系は苦手」
「お姉さんドS系は?」
「ちょっと好き。て何を言わせるんだ!」
「答えると思わなかったし」
ジェーンをロリというかお姉さんと言うかは悩むところだ。体は大人、頭脳は子供のジャンル分けをコウリンは知らない。
パイルバンカーのメンテナンスを終えてスリットを閉じメンテナンスに使った工具を道具箱に仕舞い閉じる。慣れた作業だが火薬を使う為に少し緊張していたので大きく息を吐いた。
そのタイミングでジェーンがコウリンの首に絡み付く。頬擦りしているようであり、少し力加減を間違えれば首を折れる姿勢でもある。
「無防備」
「ちょちょちょ」
「冗談冗談。でも昨日みたいなラッキーはいつまで続くかな?」
静かな言葉だが実感の籠った忠告だ。どこか諦めた口調でもある。
「昨日は結局、何の情報も得られなかった。素直にミズハに頼った方が良い。でもでも、私もお兄さんも警察にマークされたかもしれない」
「……ヤバイじゃん!」
「考えが甘いよぉ。さぁてお兄さんが安全なのはいつまでかな? 明日? 明後日? 今日の夜にはお陀仏だったりして?」
少しずつジェーンが腕に込める力を強くする。だが腕は首ではなく胸に降ろされコウリンに強く体を擦り付けた。
「な、何だよ?」
「えへへ、前に話したお仕事覚えてる?」
「仕事? あ、家政婦?」
「そうそう」
「まさか、ミョウジョウの保護下に入れって事か?」
「ふふーん、計画通り」
「くっそ、12歳に嵌められた」
「首を突っ込む先を間違えたねぇ」
とうとうジェーンはコウリンの頭を撫で始めた。これでは大型ペットの扱いだ。
「オレ、家主なんだけど?」
「お兄さんを守ってるのは私だけどねぇ。どうする? ミズハに雇われる?」
「ミョウジョウ家なら回りくどい事せずに強制できるんじゃないか?」
「決定権を持ってるのはお兄さんだよ」
「選択肢1個で決定権て」
唇を突き出して不満を表すコウリンだが本当は分かっている。
決定権が有るだけでもマシだ。
単純にコウリンは一般的な偏見からヤマタノオロチに関わる事に拒否感を持っている。それくらいにヤマタノオロチというのはイメージが良くない。
「これは警告だよ。お兄さんの命は私が握ってる。ね? 私の物に成らない?」
「忘れてたよ。俺は最初からジェーンに命を預けてた」
「ふっふーん」
「アケボシの事件は流石に偶然だよね?」
「そりゃそうだよ。私、本当はあの場でテロリストたちを皆殺しにする予定だったんだよ?」
思わずコウリンは体を震わせた。
ジェーンの装備や性能なら実行可能だっただろう。昨日の動きを見れば確信できる。
「住む世界が違うって事かぁ」
「うふふ。ビビっちゃた?」
「……どうしたいんだ?」
「何が?」
「何でそんな話し方をするんだよ?」
「どういう意味?」
「ミョウジョウの保護下に入れって言う割に、オレに拒絶して欲しいみたいだ」
コウリンの指摘にジェーンは動けなくなった。
胸に垂らされたジェーンの手を取り、コウリンは握った。掴んだ。
「オレの事、裏家業から離したいのか? 自分が居ると、オレが裏家業に首突っ込んじゃうって?」
「……」
「図星で黙るの子供っぽい」
「子供だもん」
「子供の面倒を見るのは年上の役目かな」
「……カッコつけても死ぬ時は死ぬんだよ」
「だからミズハさんに頼ろうって事だよな。大丈夫、人に頼る事をカッコ悪いなんて言うプライドは無いよ」
再びジェーンは緩く腕に力を込めた。
「お願い言う通りにして。飼い殺しにするつもりなんて無いの。ただ、お願い」
「うん。もう1回ミズハさんの所に行かないとなぁ。あ、でも報酬は良いのか」
ジェーンを安心させる為に強く手を握る。
自分の手など簡単に握り潰せる剛腕を小さく感じてしまう。
「どうしたかったんだろ?」
「自分が?」
「うん。お兄さんに裏家業来て欲しくないのはその通りなの。でも私の近くに居て欲しいのもホントなの」
「オレってば愛されてるぅ」
「そうだよ。だから無茶しないで。家政婦に成れば安全でしょ?」
「大丈夫か? 心からそう思ってるんじゃないんだろ? オレみたない一般人でも知ってるぞ。連盟同士はいつだって食い合ってる。ミョウジョウの苗字を持ってる人間がいつ他の企業に攻撃されるかなんて分かりゃしない」
空いた手でジェーンの頭を撫で頬に摺り寄せた。
軽く頬にキスをし、思い出したようにベッドに置かれた情報端末に視線を向けた。
「早く連絡しないとヤバイよな?」
「そだね。えっと、ミズハの連絡先を、おお?」
話題のミズハから先に連絡が来た。
画面をタップし通話に出ればビデオ通話だ。
『やあクソガキ、アタシの大事なジェーンに手を出したんだ。覚悟はできてるわよね?』
「ねえ、オレ本当に家政婦に成って安全かな?」
「ど、どうかなぁ?」
青筋を浮かべたミズハを見て2人は思わず苦笑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます