第3話 押し掛け居候
ビルの屋上は少し風が強く肌寒い。
色々と疲れてしまったコウリンが仰向けに倒れている頭上に銀髪美女が膝を曲げて顔を近付けてきた。
「いやぁ、巻き込んじゃってゴメンね、お兄さん」
「もう良いよ。というかお兄さんて、お姉さんの方が年上じゃないの?」
「何となく」
「そうですかい」
メカニカントを利用して見た目を若く保とうとする研究やサロンは確かにある。
男たちからディザスター・ジェーンと呼ばれていた20歳程度の銀髪美女の実年齢は分からない。それでも17歳のコウリンより年下とは考え辛かった。
それよりもコウリンには気に成る事が有った。
膝を曲げて座る銀髪美女のショートパンツから見える肌である。ショートパンツは太股よりも少しだけ広く、近くから覗き込めば隙間からパンツが見えそうなのだ。
「お兄さん、男のチラ見は女のガン見だよ?」
そう言って銀髪美女が冗談めかして隠したのは胸だ。
確かに薄いトップスを押し上げる胸を一瞬だけ見たのは確かだが、それよりも今は足が気に成って仕方がない。男子高校生に綺麗なお姉さんのショートパンツは刺激が強い。
だが銀髪美女はそこまで男子高校生の生態に詳しく無いようだ。
胸を隠す腕を解いたがコウリンから離れはしなかった。
ある意味で完全に下から覗き込む形なのだが、そこでコウリンは気付いた。
「え、穿いてない?」
「ん? あ、どこ見てんの」
思わず呟いたコウリンだが流石にショートパンツの隙間から見えたのは股関節の辺りまでだ。そこに布らしい物が見えなかったので驚いてしまった。
流石に銀髪美女も自分がどこを見られているのか分かりゴミを見る目で距離を取った。
いつまでも寝転がっている訳にもいかないのでコウリンも起き上がる。
「アイツら、直ぐに登って来るんじゃないの?」
「大丈夫。私の足なら他のビルに跳べるし」
「なるほど。いや俺は?」
「ズボンの中覗く人を助けるのはなぁ」
「すみません何も見てませんだから助けてください」
即座に土下座だ。命は大事である。
「ふぅん。じゃあいくつか質問」
「はい何なりと」
「移動する足有る?」
「路地の入口にスクーター有ります」
「家ここから離れてる?」
「スクーターなら1時間くらいは」
「1人?」
「はいそうです」
「じゃ泊めて」
「どうぞどうぞ……は?」
急展開である。男子高校生の独り暮らしに美人お姉さんのお泊りは漫画の話である。
「嫌なら仕方ないかぁ。このまま屋上に置いてってアイツらに処分して貰おうかな」
「是非お使いくださいお嬢様!」
「ありがとー」
言いながら再び銀髪美女はコウリンを抱えて屋上から跳び出した。
「あ、方向教えて」
「あっちだけど、怖い怖い怖い!」
「はいはい向こうね」
いくら美女に密着していようとも、死ぬかもしれない恐怖の方が余程大きいものだ。
ττττ
スクーターを拾って2人乗り(合法)して1時間、コウリンはやっと自分の部屋が有るアパートに到着した。
1階の駐輪場に有るバイク置場にスクーターを置き銀髪美女を連れ立って自室に向かう。
周囲は汚い壁の高層ビルばかりでどの建物も居住用だ。
現在時刻は18時30分過ぎ。
これから仕事のキャバ嬢やホスト、これから商談で長時間残業が確定した目の死んだサラリーマンが表通りを歩き回っている。
ただ、誰も彼も話題にしているのはネオ新宿のアケボシ本社ビル襲撃事件だ。
「やっぱり話題に成ってるね」
「そりゃアレだけの事件だし話題に成らない方がおかしいだろ。帰りもマスコミのドローンが飛び回ってた」
「あっはは。皆大変だ」
話ながらアパートに入る。コウリンの部屋は13階なのでエレベータを操作する。
他に利用者が居なかったので変に話題を選ばなくて済んだ。
「てか、本当に泊まるの?」
「そうよ。あ、エロい事しようとしたら殺すから」
「わぁい脅迫だ」
「お兄さんも命は大事でしょ? なら我慢しないと」
「てかお姉さん、家は? アイツに知られてて帰れないとか?」
「そうなの。ちょっと付き合いが長過ぎてバレちゃった。今頃グチャグチャにされてるんだろうなぁ」
エレベータが13階に着き、廊下を歩いて13-Dに向かう。扉の横にあるパネルにコウリンが手をかざすと鍵が開く音がし扉が横にスライドする。
一般的な単身者用の部屋で備え付けの設備は机と椅子、ベッド、シャワールーム、簡易キッチン、トイレ、冷蔵庫などの家具が有るだけのシンプルな1Kだ。壁に扉が有って収納スペースに成っている。
「おお、意外と綺麗だ」
「え、そう?」
「お世辞だよ」
「酷くない!?」
男子高校生の部屋がピカピカのはずもない。
机の上には高校の授業で使う教材がいくつかと電子部品が置かれている。
ベッドには部屋着らしいTシャツと生地の薄いズボンが放り投げられており、簡易キッチンには洗われていない皿とマグカップが水を被っていた。
「え、自炊?」
「自炊の方が安いんだよ」
「えぇ、男の子でしょ? コンビニとかインスタントとかは?」
「面倒な時くらい?」
「大丈夫? 何か辛い事でも有った? 話聞こうか?」
「男子高校生へのその偏見は何なんだ」
ベッドに置かれた服を適当に収納スペースに放り込みコウリンは椅子に座った。そのまま銀髪美女にベッドに座るように促すと特に抵抗も無く座られる。
冷蔵庫を開ければ少しの食材とペットボトルジュースが有るだけだ。
「ジュースしか無いけど」
「飲めれば何でも良いや。ありがと~」
コウリンが冷蔵庫からジュースを取り出して見せると銀髪美女は素直に受け取った。
蓋を捻り炭酸飲料特有の空気が勢い良く抜ける音に気を良くして銀髪美女がコウリンにジュースをかざした。
「カンパーイ」
「え、あ、カンパーイ」
軽くペットボトルを打ち合わせて炭酸飲料を煽り、2人で勢い良く息を吐く。
「そう言えば自己紹介してなかったね。私はジェーン」
「あ、コウリン・ハヤタだ」
「よろしくコウリンお兄さん。ま、そんなに長居はしないからさ、短い間だろうけどよろしくね」
「はいはい。ありがとうございます、命の恩人殿」
「ふふーん、敬え敬え」
「い、嫌味が通じねえ」
得意気に胸を張るジェーンにコウリンは盛大に溜息を吐いた。
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