4.視えた未来、少年の決意。








 ――パーティー加入の打診を受けて、数日が経過した。



「どうしたら良いんだろう……?」



 しかしボクは、いまだに申し出への返答を決めかねている。

 理由は単純なところで、ボク自身に戦闘能力が皆無だからだった。仮に【未来視】の力があったとしても、それを活かす働きができるかは疑問が多い。

 自分に自信がない。

 それは生まれてから今まで、どんな仕事をやっても駄目だったから。自分には取り柄と呼べるだけのものがあると思えない。

 要するに自己肯定感がものすごく低い、ってことだ。



「うーん、やっぱり……断ろうかな」



 ボクがいても迷惑にしかならない。

 あるいは、たいした違いにはならないと思った。

 だとするなら、あのように大きなパーティーに入る必要はないだろう。自分の力が【未来視】だと分かったのだ。もしかしたら、他に使い道があるかもしれない。

 今までやみくもに働いてきたけど、もっと効率的に動けるかもしれなかった。



「――よ! ここにいたのか、ミトス」

「あぁ、リキッド。どうしたの?」



 そこまで考えた時だ。

 腐れ縁と呼ぶに相応しい友人冒険者が、声をかけてきたのは。

 王都の中心に流れる川の近くに、こちらと同じく腰かけた青年は言った。



「お前、まだ迷っているんだってな?」

「あー……うん、そうだね」



 もっとも、いま提供される話題なんて決まり切っていたのだけども。

 ボクの決断を聞きにきたのだろう。リキッドはこちらの顔を見て、何度か大きく頷くのだった。そして、



「どうせ、自分は誰の力にもなれない、とか考えているんだろう?」



 ものの見事に、こちらの考えを言い当ててみせる。

 ボクは声もなく苦笑いするしかなく、そんなこちらに彼はため息をついた。



「お前ってホント、自信のない奴だよな」

「仕方ないだろ? ボクは今まで、何をやっても駄目だったんだ」



 呆れるリキッドにそう答える。

 すると、ボクの言葉を聞いた青年はさらに肩を竦めるのだ。



「……バーカ。お前のお陰で、俺がどれだけ救われたと思ってるんだ?」

「え……?」



 そして、思いもしないことを言う。

 こちらが首を傾げると、リキッドは小さく微笑みながら続けた。



「お前のアドバイスで、俺は『白狼』を選ぶことができた。そのおかげで収入もいくらか安定したし、病気がちな妹の薬代だって稼げているんだよ」――と。



 それは、初めて聞く話だった。

 そもそもとして、彼に病気がちな妹がいるなんて知らない。それに加えて、よもやそこまでの感謝をされているとは思ってもいなかった。

 ボクが呆けていると、彼はさらに続けて語る。



「妹――アミナは、ミトスに感謝してる。お前は自分が考えているよりも、ずっと大きなことをできる器なんだよ」

「そんな、買い被り過ぎだよ」

「バカ。どこが買い被りだ、っての」



 謙遜すると、横腹を軽く小突かれた。

 その上でリキッドは、一つ息をついてから言う。



「俺は待ってるからな。お前と一緒に戦える日を」

「リキッド……」




 そう言って、青年は立ち上がって背を向ける。

 軽くこちらを振り返り、小さく笑った。



 ――その、瞬間だ。





「え……?」





 ある光景が視えたのは。









 ――リキッドはダンジョンの下層で一人、血塗れで膝をついていた。

 他に仲間はいない。どうやら退却の際、彼がしんがりを務めたようだった。



『くっそ……!』



 そんな彼の前に、判然としない魔物の影が迫ってくる。

 容赦などあるはずがない。


 その魔物は青年へと、無慈悲な一撃を――。




『――アミ、ナ……』




 リキッドが最期に口にしたのは、最愛の妹の名前。

 そうして事切れる青年の姿を視たボクは――。










 ――翌日、ボクはアクシスさんの屋敷の前にいた。



「……もし、ボクにできることがあるなら」




 覚悟を決める。

 目を閉じれば目蓋の裏に、リキッドの最期が浮かんできた。あんな終わり方なんて、させるわけにはいかない。だから、ボクは――。




「あんな未来、変えてみせる……!」




 分不相応だと。

 身の丈に合っていないと分かっていても。

 ボクは、王都最大パーティーの門を叩いたのだった。




 

――

カクヨムオンリーでも書いてます。

コンテスト見据えて頑張ってみますので、こちらも応援してやってください。


『暗殺者の条件』

https://kakuyomu.jp/works/16817330648891361395

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