3.未来を見据える力。








「……いまだに、信じられない」




 ボクは王都公園の長椅子に腰かけて、ボンヤリと空を見上げていた。

 アクシスさんの屋敷を出てから、彼女に告げられた言葉をずっと反芻している。ずっと【鑑定】だと思っていた力が、まさか別のものだったなんて……。



「でも【未来視】だなんて、聞いたことないぞ……?」



 そして本当の力の名前を口に出して確認した。

 その上で、アクシスさんから聞いた話を思い出す。









「未来、視……それって、いったい?」

「試すようなことをして済まなかった。ただ完全なる不測の事態に陥らなければ、キミの本当の力を確かめることはできなかったのだ」

「え、えぇ? でも、もし見当違いだったら……?」

「死んでいただろうな」

「…………」




 しれっと話すアクシスさんに、ボクは思わず呆気に取られる。

 もしかしたら、彼女は想像以上にトンデモナイ人物なのかもしれなかった。もっとも、それによって思いもしない事実に至ったわけだけれど。

 アクシスさんは、ボクの力は【鑑定】ではなく【未来視】だと言った。

 その力は文字通りの意味なのだろう。だけど――。



「でも、そんなの……」



 ――聞いたことがない。

 それに、てっきりボクは自分の力が【鑑定】だと思っていたわけで。それをいきなり、そのような奇特な能力だと告げられても実感が湧かなかった。



「しかし、未来が視えていなければ『鉄板を仕込む』という判断は不可能だ。ミトスくん――あるいはキミは、この案内を聞いた時に何かを視たのではないか?」

「……それは、たしかにそうです」



 彼女の指摘にボクは口ごもる。

 だってそれは、今まで誰に説明しても信じてもらえなかった話だった。

 ボクの【鑑定】は時折に、おかしな景色を見せるということ。てっきり自分は、それも【鑑定】の力の一部であり、自身のそれは少しだけ変なだけなのだと思っていた。

 でも、もしその考えが根本から間違っていたとしたら……?



「キミの話はリキッドから頻繁に伝え聞いている。リキッドに私の『白狼』を推薦し、それ以外にも多くの未来を予言してみせたことを」



 たしかに、彼女の言う通りではある。

 冒険者になった当時、ボクは例によって『白狼』が出世すると視た。正確にいえばアクシスさんを目にした瞬間に、だけれども。そしてリキッドが、彼女のパーティーで成功している姿を視たのだ。

 果たして彼は、それを証明するように獅子奮迅の活躍を見せたのである。

 でも、それ以外のことは――。



「先日の一件は、残念だったな。さぞ無念だっただろう」

「……ボクは、救えませんでした」

「いいや、キミは悪くない」

「………………」



 ――必ずしも、聞き入れられたわけではない。

 先日のパーティー壊滅も、結局のところ回避はできなかった。悔やんでいないといえば嘘になる。自分にもっと力があれば、と幾度となく思わされてきた。

 思い出すだけで、握った拳が震えてくる。



「だが、キミに力があったら変えられたかもしれない」

「………………」



 こちらの思考を読んだかのように、アクシスさんは言った。

 そして、次に彼女はこう続ける。




「だから、キミは力を得る必要がある」




 ボクに対して、手を差し出しながら。





「私と共に来て欲しい。……ミトスくん」――と。





 それは、思いもしない誘い。

 ボクの冒険者人生における分岐点だった。




 

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