3.未来を見据える力。
「……いまだに、信じられない」
ボクは王都公園の長椅子に腰かけて、ボンヤリと空を見上げていた。
アクシスさんの屋敷を出てから、彼女に告げられた言葉をずっと反芻している。ずっと【鑑定】だと思っていた力が、まさか別のものだったなんて……。
「でも【未来視】だなんて、聞いたことないぞ……?」
そして本当の力の名前を口に出して確認した。
その上で、アクシスさんから聞いた話を思い出す。
◆
「未来、視……それって、いったい?」
「試すようなことをして済まなかった。ただ完全なる不測の事態に陥らなければ、キミの本当の力を確かめることはできなかったのだ」
「え、えぇ? でも、もし見当違いだったら……?」
「死んでいただろうな」
「…………」
しれっと話すアクシスさんに、ボクは思わず呆気に取られる。
もしかしたら、彼女は想像以上にトンデモナイ人物なのかもしれなかった。もっとも、それによって思いもしない事実に至ったわけだけれど。
アクシスさんは、ボクの力は【鑑定】ではなく【未来視】だと言った。
その力は文字通りの意味なのだろう。だけど――。
「でも、そんなの……」
――聞いたことがない。
それに、てっきりボクは自分の力が【鑑定】だと思っていたわけで。それをいきなり、そのような奇特な能力だと告げられても実感が湧かなかった。
「しかし、未来が視えていなければ『鉄板を仕込む』という判断は不可能だ。ミトスくん――あるいはキミは、この案内を聞いた時に何かを視たのではないか?」
「……それは、たしかにそうです」
彼女の指摘にボクは口ごもる。
だってそれは、今まで誰に説明しても信じてもらえなかった話だった。
ボクの【鑑定】は時折に、おかしな景色を見せるということ。てっきり自分は、それも【鑑定】の力の一部であり、自身のそれは少しだけ変なだけなのだと思っていた。
でも、もしその考えが根本から間違っていたとしたら……?
「キミの話はリキッドから頻繁に伝え聞いている。リキッドに私の『白狼』を推薦し、それ以外にも多くの未来を予言してみせたことを」
たしかに、彼女の言う通りではある。
冒険者になった当時、ボクは例によって『白狼』が出世すると視た。正確にいえばアクシスさんを目にした瞬間に、だけれども。そしてリキッドが、彼女のパーティーで成功している姿を視たのだ。
果たして彼は、それを証明するように獅子奮迅の活躍を見せたのである。
でも、それ以外のことは――。
「先日の一件は、残念だったな。さぞ無念だっただろう」
「……ボクは、救えませんでした」
「いいや、キミは悪くない」
「………………」
――必ずしも、聞き入れられたわけではない。
先日のパーティー壊滅も、結局のところ回避はできなかった。悔やんでいないといえば嘘になる。自分にもっと力があれば、と幾度となく思わされてきた。
思い出すだけで、握った拳が震えてくる。
「だが、キミに力があったら変えられたかもしれない」
「………………」
こちらの思考を読んだかのように、アクシスさんは言った。
そして、次に彼女はこう続ける。
「だから、キミは力を得る必要がある」
ボクに対して、手を差し出しながら。
「私と共に来て欲しい。……ミトスくん」――と。
それは、思いもしない誘い。
ボクの冒険者人生における分岐点だった。
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