第1章

1.『白狼』の参謀【アドバイザー】








「改めて、これからよろしく頼むよ。――ミトスくん」

「は、はい……!!」



 アクシスさんの部屋に通されたボクは、二人きりの空間に震え上がっていた。先日の一件以来の対面になるのだが、何度見ても彼女の美しさには息を呑む。

 しかも今日は以前のような難しい表情ではなく、極めて穏やかなそれだった。

 こうしていると、アクシスさんが『最強の冒険者』と呼ばれていることを忘れてしまう。



「さて、本題はここからだ」



 それでもやはり、さすがは『白狼』の長というところか。

 一気に真剣な声色と表情になると、彼女はボクにこう提案した。



「今後のキミの待遇だが……」



 だけど、それを聞いたボクは――。



「ミトスくんにはこの『白狼』のサブリーダー、参謀【アドバイザー】となってもらいたい」

「へ……?」




 しばし呆気に取られてしまう。

 そして、




「え、ええええええええええええええええええええええええ!?」




 思わず絶叫して、ひっくり返ってしまうのだった。









「――と、いうわけで。今日からこのパーティーの参謀として、新たに加入することとなったミトス・アルビオくんだ。みな、承知の程をよろしく頼む」

「ミ、ミトス……です」



 かくして、ボクは突然にして王都最大パーティーのナンバー2となったのだった。現在は大勢の冒険者たちの前に立って、自己紹介の最中である。

 しかし、どうにも歓迎されている空気ではなかった。

 というより、むしろ――。



「本当に大丈夫なのか……?」

「リーダーは何を考えて?」

「というか、アイツって噂の弱小冒険者だろ?」

「あら、意外と可愛い顔してるわねぇ……」



 ――ほとんどが怪訝な、値踏みをするような声。

 一部奇異の目もあったが、大多数はアクシスさんの判断を疑問視するものだった。ボクもそれは仕方ないと思うし、完全にそちら側の意見である。

 しかし今さら断るわけにもいかず、だとすれば腹を括るしかなかった。



「それでは各自、次のクエストに向けて準備をするように」



 そんなこんなで。

 こちらが青ざめている間に、集会は終わりを迎えた。

 冒険者たちが散り散りになっていくのを見送っていると、声をかけてきたのは言うまでもなくあの青年――リキッドは、やんちゃなその顔に満面の笑みを浮かべて言う。



「おう! もっと背筋伸ばせよ、サブリーダー!!」

「む、無茶を言わないでよ……」



 対してボクは肩を落としていた。

 これだけで、寿命が大きく縮んだようにさえ思える。

 賛同者の数があまりに少なく、四面楚歌、という言葉が見事に当てはまった。もっとも、切り込み隊長として地位を築いているリキッドの存在は、救いではあるけど。

 そして、そう考えていると案の定な声が聞こえてきた。



「けっ……弱小が、どうやってリーダーに取り入ったのかねぇ?」



 見ればそこにいたのは、身の丈二メイルはある偉丈夫。

 顔に深い傷を持つ強面の彼は、ボクを睨んでそう言うと立ち去った。



「やっぱり、最初から認めてもらえるわけない、よね」



 その後姿を見送りながら。

 ボクがまた軽く肩を落とすと、今度は後方から――。





「あら、それなら見返すほどの功績を立てればいいじゃないの」





 なにやら、しなだれかかるような男性の声が聞こえてきた。

 少し驚きつつ振り返ると、そこにいたのは――。



「お、グリエルじゃないか」

「もう、リキッドちゃん! アタシのことはエルちゃん、って呼んでって、いつも言っているでしょう!?」



 ある種の衝撃を抱かざるを得ない人物。

 アイメイクをばっちり決めて、こちらにウインクする大柄でスキンヘッドの男性。彼は何度も頷いてから、ボクに手を差し出して名乗るのだった。





「よろしくね、ミトスちゃん。アタシの名前はエル・パサーよ」――と。





 

――

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『暗殺者の条件』

https://kakuyomu.jp/works/16817330648891361395

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