第1章
1.『白狼』の参謀【アドバイザー】
「改めて、これからよろしく頼むよ。――ミトスくん」
「は、はい……!!」
アクシスさんの部屋に通されたボクは、二人きりの空間に震え上がっていた。先日の一件以来の対面になるのだが、何度見ても彼女の美しさには息を呑む。
しかも今日は以前のような難しい表情ではなく、極めて穏やかなそれだった。
こうしていると、アクシスさんが『最強の冒険者』と呼ばれていることを忘れてしまう。
「さて、本題はここからだ」
それでもやはり、さすがは『白狼』の長というところか。
一気に真剣な声色と表情になると、彼女はボクにこう提案した。
「今後のキミの待遇だが……」
だけど、それを聞いたボクは――。
「ミトスくんにはこの『白狼』のサブリーダー、参謀【アドバイザー】となってもらいたい」
「へ……?」
しばし呆気に取られてしまう。
そして、
「え、ええええええええええええええええええええええええ!?」
思わず絶叫して、ひっくり返ってしまうのだった。
◆
「――と、いうわけで。今日からこのパーティーの参謀として、新たに加入することとなったミトス・アルビオくんだ。みな、承知の程をよろしく頼む」
「ミ、ミトス……です」
かくして、ボクは突然にして王都最大パーティーのナンバー2となったのだった。現在は大勢の冒険者たちの前に立って、自己紹介の最中である。
しかし、どうにも歓迎されている空気ではなかった。
というより、むしろ――。
「本当に大丈夫なのか……?」
「リーダーは何を考えて?」
「というか、アイツって噂の弱小冒険者だろ?」
「あら、意外と可愛い顔してるわねぇ……」
――ほとんどが怪訝な、値踏みをするような声。
一部奇異の目もあったが、大多数はアクシスさんの判断を疑問視するものだった。ボクもそれは仕方ないと思うし、完全にそちら側の意見である。
しかし今さら断るわけにもいかず、だとすれば腹を括るしかなかった。
「それでは各自、次のクエストに向けて準備をするように」
そんなこんなで。
こちらが青ざめている間に、集会は終わりを迎えた。
冒険者たちが散り散りになっていくのを見送っていると、声をかけてきたのは言うまでもなくあの青年――リキッドは、やんちゃなその顔に満面の笑みを浮かべて言う。
「おう! もっと背筋伸ばせよ、サブリーダー!!」
「む、無茶を言わないでよ……」
対してボクは肩を落としていた。
これだけで、寿命が大きく縮んだようにさえ思える。
賛同者の数があまりに少なく、四面楚歌、という言葉が見事に当てはまった。もっとも、切り込み隊長として地位を築いているリキッドの存在は、救いではあるけど。
そして、そう考えていると案の定な声が聞こえてきた。
「けっ……弱小が、どうやってリーダーに取り入ったのかねぇ?」
見ればそこにいたのは、身の丈二メイルはある偉丈夫。
顔に深い傷を持つ強面の彼は、ボクを睨んでそう言うと立ち去った。
「やっぱり、最初から認めてもらえるわけない、よね」
その後姿を見送りながら。
ボクがまた軽く肩を落とすと、今度は後方から――。
「あら、それなら見返すほどの功績を立てればいいじゃないの」
なにやら、しなだれかかるような男性の声が聞こえてきた。
少し驚きつつ振り返ると、そこにいたのは――。
「お、グリエルじゃないか」
「もう、リキッドちゃん! アタシのことはエルちゃん、って呼んでって、いつも言っているでしょう!?」
ある種の衝撃を抱かざるを得ない人物。
アイメイクをばっちり決めて、こちらにウインクする大柄でスキンヘッドの男性。彼は何度も頷いてから、ボクに手を差し出して名乗るのだった。
「よろしくね、ミトスちゃん。アタシの名前はエル・パサーよ」――と。
――
カクヨムオンリーでも書いてます。
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『暗殺者の条件』
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