第3話
クラスの一部の男子からイジメを受けていた私は、小学校5年生の冬に、不登校になった。
正確には、教室に足を踏み入れることができなくなった。
イジメをしていたクラスメートに顔を会わせるのが、嫌でたまらなかった。
教室に入れないことを両親に知られたくないという思いで、朝は普通に登校し、学校に着く直前具合が悪くなったと保健室に駆け込む毎日だった。
さすがにすぐに親には知らされてしまったが。
いささか的はずれなアドバイスをした保健室の先生であったが、決して不誠実なわけではなく、きちんと対応はしてくれたのだと思う。
気が済むまで保健室で休むように言われた私は、逃げ場を得て、登校自体は継続できた。
体調が悪いわけではないので、自習の傍ら自然と保健室で先生の手伝いをするようになった。
「スゴいわ。よく知ってるのね」
本から得た保健の知識を披露すると、先生はニコニコと話を聴いてくれた。
「この子は、とても良い子なんです。勉強も好きだし、保健室のお手伝いや、保健委員じゃないのに、当番の代わりもしてくれて。下級生の面倒みもよくて、本当に助かっているんです」
ある日、保健室を訪れた来客に、そんな風に私を紹介してくれたこともあった。
おそらく前後には、「イジメを受けて心のケアが必要な」というような説明もあったのかもしれないが。
ともかくも、ひたすら肯定的に対応され、最高学年に上がる頃には、私はクラスに復帰した。
クラス替えがない学校だったので、クラスメートはそのままであったが、一度イジメが発覚したこともあって、それ以上被害に会うことはなかった。
イジメをした相手が、どちらかといえばクラスでも煙たがれる悪ガキ男子だったこともあるのかもしれない。
クラスメートは、私を擁護し、見守ってくれた。
三学期のほとんどを保健室で過ごしたため、いくらか成績は下がっていたが、すぐに取り戻した。
一見、穏やかな日々を取り戻したかとように、みえたいた、けれど。
「隙を見せるから、イジメになんて遭うんだ」
保健室登校という、優等生の誉れに陰を射した私の行動を、父は非難した。
「相手は学校でも鼻つまみものの、悪さばかりする男の子達なんですから」
一応母は庇ってくれたが、「でも、最初にちゃんと相談して欲しかったわ」とやんわり釘を刺した。
……伝えたのだ、本当は。
クラスで、嫌がらせをする子が、いる、と。
『お姉ちゃんは、しっかりしてるから、大丈夫でしょう? きちんと言い返しなさいね』
そう、答えたのは、母だった。
いや、きっと父でも、大差ない返答だっただろう。
そして、言い返した結果、さらにイジメはエスカレートしたのだけど。
アドバイス通りにしたのに、思っていた結果が出ないことに、私は慌てた。
何かが、足りない。
私の、努力が、足りない。
言われた通りにしたのに。
何かを、間違えたのだ。
……そう思ったら、失敗したことを伝えることができなかった。
アドバイス通りにしたのに『間違えた』ことを、伝えられなくて。
保健室登校を経て、私は、ひとつの確信を得た。
……役に立つ人間になれば、よいのだ。
……必要な存在に、なれば、いいのだ。
呪縛 清見こうじ @nikoutako
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