銃神の聖女
一陽吉
銃 対 剣
「さあ、いくよ。ストライク・キッス」
ハンドガンに呟いて、少女は一人、校舎へ入っていった。
平日の午後。
本来であれば高校生たちが授業を受けているはずだが、今は一部の生徒を残して全員、退避しているため異様な静寂があった。
「近接戦闘になるからね……」
一階の廊下をゆっくり歩く少女。
金髪のショートポニーが似合う十六歳の少女は、体型こそ年相応だが、漆黒のワンピースという服装は魔導士とも修道女とも見て取れ、何か秘密の組織に属しているのが想像できた。
その場に不似合いな少女をさらに特異と思わせるのが両手で持つハンドガンであり、構えにあった。
だが、それはすぐに示された。
「うおおおお!」
目の前の曲がり角から声を上げて現れる女子学生。
その右手には典型的な西洋剣が握られ、銃の少女に振り下ろそうとした。
ダン! ダン!
それよりも早く二発の銃弾が女子学生に命中。
被弾した胸部と額に直径十センチほどの聖法円が展開し、女子学生に植え付けられた闘争心が、神の力で浄化された。
「でえええい!」
「うおおおお!」
すると今度は教室から廊下へ、銃の少女を挟むように剣を持った女子学生が現れた。
前方の女子学生はともかく、後方の女子学生はすでに間合いに入っているため、横の斬撃が首に触れる────────────────────寸前、銃の少女は振り向きながらしゃがみ込み、それを避けた。
空をきった斬撃は勢いのまま壁を叩き、その隙に銃の少女は立ち上がりながらみぞおちの辺りでハンドガンを構え、発砲。
そして、そのままわずかに右へ
ダン! ダン!
ダン! ダン!
銃声が鳴り響き、女子学生の右腰と背中、駆け寄る女子学生の腹部と胸部に、聖法円が展開されていった。
女子学生たちは気を失って倒れ、持っていた剣も砂粒のようになって崩れて消えた。
銃の少女は口元付近でハンドガンを構え、銃口が『Z』を描くように
「複写信徒……。完全に無力化……」
問題なしと判断すると、喉元付近にハンドガンを構え直し、索敵を再開しようとした。
だが──。
「ヒッヒッヒッヒ。やるじゃねえか、お嬢ちゃん」
「!?」
不意に発せられた男の声。
銃の少女はそちらへ向き直り、瞬時に銃口を向けた。
すると、五メートルほど離れた階段のそばに三十代くらいの男が立っていた。
髪を肩まで伸ばしてジーンズにTシャツというラフな格好だが、その手には幅が広くて反り返った湾刀が握られ、不気味さが感じられた。
「ターゲット、出現」
心の中で呟く銃の少女。
「それ知ってるぜ。C.A.Rシステムだろう? 三メートル以内での射撃を想定したやつ。俺らを相手にするにはピッタリってわけだ」
動じることなく男は嬉しそうに言った。
「答える義務はない」
姿勢を崩さず、銃の少女は素っ気なく答えた。
「ヒッヒッヒッヒ。俺ら
言い終わるのと同時に跳び出す男。
銃の少女は迷わず引き金をひいた。
ダン! ダン! ダン!
先の女子学生同様、着弾点から聖法円が展開。
しかし、それは盾にした湾刀上のもので男に影響はなかった。
突き進む男は間合いに入り、上段から殺意が込められた刃を振り下ろした────────────────────が、銃の少女はその場で一回転。
斬撃をかわし、ハンドガンを構えたままの肘が男の脇腹を鋭く打ち抜いた。
「ぐっ……」
ダン! ダン! ダン!
すかさず放たれる弾丸だが、男は湾刀で器用に受け止めると、銃の少女から離れた。
「ヒッヒッヒッヒ。なるほど、銃神の聖女か。やっぱすげえな」
感じとった神気から、噂で聞いていた強敵なのだと分かり、下品な笑い声で喜ぶ男。
その興奮で痛みはどうでもよくなっていた。
「だがよ、俺は剣神の使徒だ。いくらでも剣を振れるが、銃を使う聖女さんはいずれ弾切れになる。長引けば不利になるぜ」
「心配無用よ」
視線と銃口を動かさず、左手だけでマガジンを交換する少女。
そのポーチは腰元にあと一つあるだけで、他にはなかった。
「そんじゃ、試してみるか!」
叫ぶように声を上げながら男は再び銃の少女へ跳び込んだ。
ダン! ダン! ダン!
「へ、無駄だ」
ダン! ダン! ダン!
「効かねえよ」
ダン! ダン! ダン!
「これで終わ──」
言いかけて、男は異変に気がついた。
手足のように振っていた湾刀が、ずしりと重くなったのだ。
同時に、その理由も分かった。
剣神の加護で軽くなっていた湾刀が、聖法円による力で削がれ、本来の重量に戻ったのだ。
「っくううう!」
すでに間合いに入っていた男は両手で湾刀を持ち、思いっきり横へ振った。
銃の少女は低い姿勢になって避けると、一歩踏み込んで右手に持ちかえたハンドガンを突き出し、男の腹部へ銃口を押し付けた。
「終わりよ」
ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!
「っはあーっ!」
五重の聖法円が展開され、一気に力を失った男は声にならない声を出して倒れた。
男の手から離れた湾刀は石化し、ゴトンと重い音を出して床に落ちた。
「混沌側、剣神の使徒……、無教化完了」
仰向けになって動かない男とその周辺に対し、銃口を『Z』に描きながら呟く、銃の少女。
今回の戦いに勝利したが、それですべての決着がついたわけではない。
世界を混沌と戦乱に引き込もうとする神々の勢力を相手に、戦い続けなければならないのだ。
真の平和が訪れるその時まで、銃の少女は、秩序と調和を望む神々に仕える、銃神の聖女として引き金をひき続ける。
銃神の聖女 一陽吉 @ninomae_youkich
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